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第一部 神殺しの陰謀 第二章 氷の国の王

禁忌の伝承

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 なまはげは私たちの話を真摯に聞いてくれていた。氷の大地だ…常に同じような景色が続き客人を何とかもてなそうとしてくれていることがよくわかる。

 「これから会う王様とはどんな人物なんだ?」
 「それは王様からいうなと言われているんです…。でも、このお面は王様に似せて作られているので見た目はこんな感じですね。」
 
 そういわれて良くなまはげの面を確認したところ、角は3本あり、私たちが秋田の行事で見ている鬼の面より凶悪な顔になっている気がした。

 「となると日本の伝承に残る鬼に近い姿ということなのか?」
 「鬼…そうですね…。しかし、王はもっと強大な力の持ち主で…鬼だけでは収まりきらないですね。」

 王様は我々が日本昔話などでよく出てくる鬼のような形相をしているのであろうことがわかった。そして、その鬼というくくりではくくれないほどの強大な力を有していることも。
 
 「あ、皆様みてください。右方向にあるのが常世の伝承にも残っている有名なコキュートス…、八寒地獄です!あそこにいる従業員たちは私並みに強いですよ。」

 なまはげは手に持った何かを読み上げて必死で説明してくれている。これもおもてなしの一部なのであろうが…、説明の練度の問題もあり…あまり内容が頭に入ってこない。

 「八寒地獄ということは、ここは地獄なのか?」
 「はは、そうなりますね。まぁ、地獄と言われる場所もここ以外にいろんな場所にありますので、この氷の国が地獄というわけはないですがね。」

 ここは寒さをつかさどる地獄があるようだ、ほかにも一番有名なあの獄炎の地獄は別の場所にあるということであった。
 
 「もし可能ならコキュートス、八寒地獄を見学させてもらいたいんだが…。」
 「王に聞いてみるとよいですよ。あの方々の客人ならいつでも入れてくれるでしょう。」
 「あぁ、ありがとう。相談してみることにするよ。」

 興味は尽きない、見るものすべてが興味を引く。そして、知りたいとそう思ってしまう。
 ここに来た当初はなんとさびれた氷の大地なんだと思っていたが、その認識はこの移動で180度変化した。

 氷や霜でできた草花は透明感が漂い美しい、そしてその透明性は上空に広がるオーロラの光をより際立たせるかのように濡れ髪のように光り輝いている。

 城に近づくにつれ生物の姿もちらほらとうかがえるようになっている。やはりこちらの気候に合わせたように毛量の多い動物が多いように見受けられた。

原型としては羊なのであろうが、それが死後こちらの世界で適用できるように独自のアストラル体を構成したと推測する。その他動物もそうだ、同じような環境適用を行っている。
 
しかし、人は常世の姿とまったくかわらない、アストラル体で作られたであろう服を着込み何かの作業をしている。
 
 「その王都には服屋はあるのか?」
 「ありますよ。幽世も常世もそんなに変わらないですよ。」
 「服屋があるんですか!でも、お金がないですね…。」

 千暁は服屋があるということにかなり関心を示したが、こちらの世界の通貨をもっていないことに今更気づき肩を落とした。

 いままで、こちらの世界の論理的な部分には全く興味を示さなかったが、やはり女性といったところか。

 「こちらではアストラル体が対価になりますね。例えば、食べ物に含まれるアストラル体の量と服のアストラル体の量がつり合えば手に入れることができる、そんな物々交換をイメージしてもらえればと思います。。」
 「ならこの体から切り取ったアストラル体で購入できるってことですね。」
 「それは幽世における禁忌です!」
 がらにもなくなまはげが怒ったことに驚き、凍馬がいななき足を止めた。
 
 アストラル体…、自分の体を売って何かを買うということはこの世界では禁忌であるということだ…。現世でいうなれば臓器売買のようなイメージであろうか。

 「禁忌になったそれなりの背景はあるんだよな?」
 「そうです。私もこの世界にいなかった時に禁忌となったので…。ある王一族が様々な生きたままのアストラル体を吸収し、よからぬことをたくらんだと…。そして、王たちがその一族に立ち向かい封印したという話があり、それ以降…禁忌となったそうです。私が伝承でしか知らないので、あなた方が知らないのは当たり前でしたね、申し訳ない。」

 千暁に対し今度は逆になまはげがひたすら謝っている。それに対して今度は千暁がこちらこそと謝り、謝りの連鎖が続いている。
 
 「すまないこの話は禁忌かもしれないんだが、1点だけ確認させてくれないか…。頂点捕食者…そう呼ばれる存在との関係性は何なんだ?」
 「禁忌の一族…その信奉者ですね。氷の国では即刻、コキュートスに送られます。」
 「女王が統治している国で見かけたんだが…。」
 「あそこの女王様の考え方は疑わしきは罰せず…です、確定ではない限り…捕縛されることはないですね…。」

 女王が統治するあの国は法治国家といったところなのであろう。なので、何人も法の中では平等であり、それを侵さない限りは自由なのであろう。

 「この国は違うのか?」
 「この国はちがいますね、王がすべてを決めます。」

 この国は独裁国家なのか…、あまり良い印象はないが、独裁者が優秀であれば国としては栄える。今まで見てきたここでの景色を見る限りはよほど優秀な王様なのであろう。的確に悪は地獄に入れ、良いものをしっかりと保護しているそんな印象をうける。

 「すまない、いろいろと質問してしまって。」
 「同郷の者と話すのは楽しいですよ。やはり未来を生きた人と話すのは楽しいですね。」
 「もとは日本出身であったのですか?」
 「はずかしながらそうですね。死んで幽世に来た時にこちらの王に声をかけられましてね。その王が…私が退治しようとしていた鬼であったとは…、驚きでしたが…。」

 鬼退治をしようとしていたということは、このなまはげは桃太郎か何かなのだろうか、管理古い人間であることは間違いがない。そういわれると馬にまたがる姿など、どこかやんごとなき雰囲気も漂っている気もする。

 日出にいたっては興味がなさすぎて、話にすら入ってこない。それ以上に周りのこの環境、アストラル体の在り方に関して関心があるのであろう。

 「もうすぐ着きますよ。」

 目の前には巨大な城が見えてきた、その城は巨大な岩を削り形成されたような武骨ではあるがどこか趣のある佇まいであった。

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