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第一部 神殺しの陰謀 第一章 受肉
忠告と分離
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先ほどまで見えていた田口さんの母親のアストラル体が荒ぶるようにグネグネと形を変え収縮される。この光景はアストラル体を変化させたときの様子とよく似ている。
「東雲さん、お初にお目にかかりますね。」
田口さんのお母さんの声色ではあったが口調が急に変化し、流暢に喋り始めた。
アストラル体にも変化が起きているようで、人と犬が混ざったような犬人が目の前に現れた。
「リリーでいいんだな?」
「はい。今はそうなりますね。ご主人様へ話していた内容も聞こえていましたよ、表へ出ては来れませんが意識はありますからね。」
「なら話が早い、時間もないので単刀直入に言うと、体の持ち主から出ていってもらえないか?」
「あぁ、それは問題ないです。私もご主人様の姿まで変えてしまうとは思ってもいなかったので…、本当に申し訳ないことをしてしまった。それと、一つだけ私からお願いがあります。」
「何だ?」
「ご主人様をもうここには連れてこないでくれ。」
突拍子も無い話が飛び出した。幽世の住人からその様な言葉が出るとは思っていなかった。死したもの達も常世の人に会いたいものだと思っていたからだ。
「わかった。しかし、その理由を聞かせてもらってもいいだろうか?」
「東雲さんは幽世に慣れているので察しがついていたと思っていましたが…。この世界はアストラル体の強さで優劣が付きます。そのため、アストラル体が弱いものは常に危険がつきまとう。」
「それは理解できるが…。」
「この世界には奇妙な住人達がいることはご存じでしょ。あれはこの世界における頂点捕食者…禁忌の者たちです。元は人でしていたが、さまざまなアストラル体を喰らい、結合した事によりあの様に変化したと聞いております。」
あの悪魔や化け物だと思っていた者のはさまざまなアストラル体が結合しあの姿に成り変わった者達であったと言う事であった。
「それと、ご主人様とはどう関係するんだ?」
「死して幽世に来る時にはエーテル体を完全に消費してこっちの世界にくるんです。でも、あなた方はどういうわけかそのエネルギーを持ったままこちらの世界にきている…。」
「アストラル体は弱いが、別の高濃度の栄養がある…より狙われやすくなる…、そういう事だな。」
「あぁ、そういう事です。あの城に女王様がいる限りは頂点捕食者も表立っては手出しはしてこないと思うんだけどね…。」
リリーは真っ直ぐに奇抜な建築様式の城を指差した。そこには女王と呼ばれる何かが住んでおり、それが抑止力となっているようだ。
「しかし、そのバランスももう崩れつつある…。この有様は…女王様の力が及ばなくなってきているのかもしれないです…。」
「エーテル体を持つアストラル体がこの世界に大勢踏み込んでいる…。リリー、君の推測は正しいと思う。」
「あぁ、理解が早くて助かります。こちらの理はこちらの者にしか理解が難しい。」
「こちらの理では、常世の住人はこちらでは恰好の餌という事だな…。しかも、頂点捕食者にとっては女王様とやらの立場を脅かせる力になるくらいの…。」
常世の人が踏み荒らし、自分達は外から来た人間だとアピールしている様なものなのだ。
こちらの世界に初めて来たお上りさんの様に振舞っていては恰好の的になる事は間違いがない。しかも、それが幽世の理を揺るがす事になる、リリーはそういいたいのだ。
「そろそろ、ご主人様とのアストラル体の均衡が崩れそうだ。ご主人様を頼みました…。」
リリーはそういうと意識をなくしたかの様に一瞬項垂れ、アストラル体がまた収縮し、田口さんのお母さんが表に現れた。
「リリーとの話し合いは決着がつきました。」
「はい、聞こえておりました。」
お母さんの意識は無いものだと思っていたが、全てを理解していた様だ。
アストラル体の均衡の問題なのか?それとも共存関係なのか…、興味は尽きない。
研究者としては、このままお母さんを被験者として研究したいという気持ちにも駆られた。
「ではリリーとの切り離しを行いたいと思います。」
「はい…。」
「では双方の同意が取れたので、お母さん、リリー、各々が離れた姿を想像して下さい。」
私が瞬きした間に、リリーは田口さんのお母さんの腕の中に抱かれていた。
そのリリーは初めて見た時より少し大きくなっている様に思える。
「エーテル体でリリーに力を与えた分だけリリーのアストラル体が大きくなったんだな。その分、お母さんは消耗しているはずだから帰ったら十分に休んで下さい。」
私の仮説は正しかった、双方の合意がありかつ、双方の形を形成できるアストラル体の量があれば分離は可能であると。
もしかすると、アストラル体を半分に分けて二人の自分を作る事ができるのか?などの考えが頭をよぎる。
「リリー、最後に質問なんだが。私たち常世の人間がこちらの世界で欠損したアストラル体をこちらの世界のアストラル体で補った場合はどうなるんだ?私の考えでは器を超える量を取らなければ現世での体の変化はしないと思うんだが…。」
「わん、わん、ワン!わーん!」
リリーは人の言葉を喋れなくなっていた…、必死で答えようとしてくれている様にも思えたが、犬の言語は理解ができない。
リリーのアストラル体を人に近しいアストラル体に変化させればもしかすると…とも考えたが、エーテル体の無いこちらの住人はそう簡単には変化とはいかないのであろう。
「リリー、悪かったな。田口さん、帰りましょう。リリーとは最後のお別れです。リリーとの約束がありますので…。」
田口さんはリリーをこれでもかと言うくらい抱きしめて、リリーを地面に置いた。
「リリー、少しの間だったけどありがとう。」
田口さんは大きく手を振りリリーもその姿を何度も何度も振り返りながら死者達の街へ帰って行った。
私の最後の質問の意図は、もしかするとリリーと結合したままで共存できる可能性があるのではないかという仮説を立証したかったがための質問であった。
肉体というアストラル体の器を超えないようにアストラル体を欠損させ調整すれば、死者の一部を持ち帰っても現世で死者のアストラル体が生きられるのでは無いか…そういった話だ。
しかし、我々にはエーテル体があるので、その欠損を修復し、追加したアストラル体が器から溢れてしまう可能性も考えられる。
そこが、現世の者と死者の世界の者との大きな違いであろう…。
さらにリリーから聞いた頂点捕食者…禁忌の者…、常世の住人がこの幽世にもたらす影響に関しては全く考えておらず…胸のざわめきは取れなかった…。
「東雲さん、お初にお目にかかりますね。」
田口さんのお母さんの声色ではあったが口調が急に変化し、流暢に喋り始めた。
アストラル体にも変化が起きているようで、人と犬が混ざったような犬人が目の前に現れた。
「リリーでいいんだな?」
「はい。今はそうなりますね。ご主人様へ話していた内容も聞こえていましたよ、表へ出ては来れませんが意識はありますからね。」
「なら話が早い、時間もないので単刀直入に言うと、体の持ち主から出ていってもらえないか?」
「あぁ、それは問題ないです。私もご主人様の姿まで変えてしまうとは思ってもいなかったので…、本当に申し訳ないことをしてしまった。それと、一つだけ私からお願いがあります。」
「何だ?」
「ご主人様をもうここには連れてこないでくれ。」
突拍子も無い話が飛び出した。幽世の住人からその様な言葉が出るとは思っていなかった。死したもの達も常世の人に会いたいものだと思っていたからだ。
「わかった。しかし、その理由を聞かせてもらってもいいだろうか?」
「東雲さんは幽世に慣れているので察しがついていたと思っていましたが…。この世界はアストラル体の強さで優劣が付きます。そのため、アストラル体が弱いものは常に危険がつきまとう。」
「それは理解できるが…。」
「この世界には奇妙な住人達がいることはご存じでしょ。あれはこの世界における頂点捕食者…禁忌の者たちです。元は人でしていたが、さまざまなアストラル体を喰らい、結合した事によりあの様に変化したと聞いております。」
あの悪魔や化け物だと思っていた者のはさまざまなアストラル体が結合しあの姿に成り変わった者達であったと言う事であった。
「それと、ご主人様とはどう関係するんだ?」
「死して幽世に来る時にはエーテル体を完全に消費してこっちの世界にくるんです。でも、あなた方はどういうわけかそのエネルギーを持ったままこちらの世界にきている…。」
「アストラル体は弱いが、別の高濃度の栄養がある…より狙われやすくなる…、そういう事だな。」
「あぁ、そういう事です。あの城に女王様がいる限りは頂点捕食者も表立っては手出しはしてこないと思うんだけどね…。」
リリーは真っ直ぐに奇抜な建築様式の城を指差した。そこには女王と呼ばれる何かが住んでおり、それが抑止力となっているようだ。
「しかし、そのバランスももう崩れつつある…。この有様は…女王様の力が及ばなくなってきているのかもしれないです…。」
「エーテル体を持つアストラル体がこの世界に大勢踏み込んでいる…。リリー、君の推測は正しいと思う。」
「あぁ、理解が早くて助かります。こちらの理はこちらの者にしか理解が難しい。」
「こちらの理では、常世の住人はこちらでは恰好の餌という事だな…。しかも、頂点捕食者にとっては女王様とやらの立場を脅かせる力になるくらいの…。」
常世の人が踏み荒らし、自分達は外から来た人間だとアピールしている様なものなのだ。
こちらの世界に初めて来たお上りさんの様に振舞っていては恰好の的になる事は間違いがない。しかも、それが幽世の理を揺るがす事になる、リリーはそういいたいのだ。
「そろそろ、ご主人様とのアストラル体の均衡が崩れそうだ。ご主人様を頼みました…。」
リリーはそういうと意識をなくしたかの様に一瞬項垂れ、アストラル体がまた収縮し、田口さんのお母さんが表に現れた。
「リリーとの話し合いは決着がつきました。」
「はい、聞こえておりました。」
お母さんの意識は無いものだと思っていたが、全てを理解していた様だ。
アストラル体の均衡の問題なのか?それとも共存関係なのか…、興味は尽きない。
研究者としては、このままお母さんを被験者として研究したいという気持ちにも駆られた。
「ではリリーとの切り離しを行いたいと思います。」
「はい…。」
「では双方の同意が取れたので、お母さん、リリー、各々が離れた姿を想像して下さい。」
私が瞬きした間に、リリーは田口さんのお母さんの腕の中に抱かれていた。
そのリリーは初めて見た時より少し大きくなっている様に思える。
「エーテル体でリリーに力を与えた分だけリリーのアストラル体が大きくなったんだな。その分、お母さんは消耗しているはずだから帰ったら十分に休んで下さい。」
私の仮説は正しかった、双方の合意がありかつ、双方の形を形成できるアストラル体の量があれば分離は可能であると。
もしかすると、アストラル体を半分に分けて二人の自分を作る事ができるのか?などの考えが頭をよぎる。
「リリー、最後に質問なんだが。私たち常世の人間がこちらの世界で欠損したアストラル体をこちらの世界のアストラル体で補った場合はどうなるんだ?私の考えでは器を超える量を取らなければ現世での体の変化はしないと思うんだが…。」
「わん、わん、ワン!わーん!」
リリーは人の言葉を喋れなくなっていた…、必死で答えようとしてくれている様にも思えたが、犬の言語は理解ができない。
リリーのアストラル体を人に近しいアストラル体に変化させればもしかすると…とも考えたが、エーテル体の無いこちらの住人はそう簡単には変化とはいかないのであろう。
「リリー、悪かったな。田口さん、帰りましょう。リリーとは最後のお別れです。リリーとの約束がありますので…。」
田口さんはリリーをこれでもかと言うくらい抱きしめて、リリーを地面に置いた。
「リリー、少しの間だったけどありがとう。」
田口さんは大きく手を振りリリーもその姿を何度も何度も振り返りながら死者達の街へ帰って行った。
私の最後の質問の意図は、もしかするとリリーと結合したままで共存できる可能性があるのではないかという仮説を立証したかったがための質問であった。
肉体というアストラル体の器を超えないようにアストラル体を欠損させ調整すれば、死者の一部を持ち帰っても現世で死者のアストラル体が生きられるのでは無いか…そういった話だ。
しかし、我々にはエーテル体があるので、その欠損を修復し、追加したアストラル体が器から溢れてしまう可能性も考えられる。
そこが、現世の者と死者の世界の者との大きな違いであろう…。
さらにリリーから聞いた頂点捕食者…禁忌の者…、常世の住人がこの幽世にもたらす影響に関しては全く考えておらず…胸のざわめきは取れなかった…。
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