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《SCENARIO:H》 ー盟約ー
昼休み
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午前の終鈴と共に、教室はここぞとばかりに活気に満ち溢れてゆく。数学の授業はクラスの大半に人気がないようで、毎度休憩時間の訪れにはその反動が顕著に現れていた。それが昼休みとなれば、皆なおさら開放感に浸りたくなるのだろう。
そのあまりの変わりように顔をしかめてブツブツと小声で文句を言いながら、数学の担当となった男性教員は教室を足早に立ち去る。一人の女子生徒が廊下側の窓から顔を出すと、男性教員が十分離れた事を確認したのか、さっそく当人への陰口が教室を飛び交った。雑談や世間話もあちこちで始まって、綾人が一息ついた時にはもうそれぞれがいつもお決まりのグループを形成していた。
入学式から一週間が過ぎ、高校生活に大分慣れた頃だった。
綾人は登校時に購入したパンを鞄から取り出し、袋を開けて一口齧る。不自然にならないよう注意を払いながら、横目で瑞希を眺めた。
1学年はAとBの2組があり、もれなく同じA組になってしまったわけだが、それはそれで気が落ち着かない日々だった。
結局の所、未だこの気持ちをどう扱っていいのか決めあぐねていた。……こんな見るに見かねた顔の男が、よりにもよってクラス一の美少女である瑞希に、恋愛感情のような好意を寄せているのだ。傍からみればそれだけで虫唾が走るだろう。しかし、初恋とはそういうものなのかもしれないと、綾人は徐々に受け入れつつあった。
まず第一に自分の容姿は普通ではなく、相手は格別であるということ。その時点で釣り合いが取れないのを重々承知しているが、それを何度心に言い聞かせても理性が全く通じないのだ。
気付けばこうして瑞希を目で追ってしまう始末である。綾人は自分のことながらもうお手上げだった。
……その瑞希はというと、綾人と同じく自分の席で一人持参の弁当を食べていた。ただ、瑞希は特定のグループに入ろうとしないだけで、大抵のクラスメートとは適度に交流がある。元からの人となりと高圧的な眼光も相まってか、誰からも敬遠されている綾人とは根本的に質が違うのだ。
孤独と孤高。そう形容すればしっくりくる。
瑞希は持前の優秀な学力や恵まれた容姿を非蹴散らかす事なく、慎ましい態度で周りに接してはいるが、やはり高嶺の花という印象が強いのだろうか、男子生徒は中々声をかけづらい様子で、女子生徒にすらも一定の距離を置かれている様に見えた。
中にはその表面化するスクールカーストを僻み、嫉妬する輩もいるといえばいる。
人間の価値の均等を説く言葉は宗教にも哲学にも数多く存在するが、蓋を開けてみればなんてことはない。天は不平等に二物も三物も与えるものなのだ。
間違いなくカースト最下位の綾人は、自覚していながらに高みの見物といった姿勢でそれらを傍観し、悠々自適に学生生活を送っている。……あくまで瑞希以外に対して、ではあるが。
「あの、瑞希ちゃん」
「はい……? ああ、園原さん、えっと、何ですか?」
突然の来訪者に、瑞希は箸を止めた。話しかけたのは入学式で発作を起こした、あの少女だ。そういえばあんなやつもいたなと、綾人はまるで今気づいたというフリをした。
「ちょっと、どうしてもここじゃない場所で話したいことがあるの。いいかな?」
名前は確か、琴音だったか。そう綾人はまたわざとらしく偶然思い出したかのように振る舞う。常に能天気で何も考えていないような性格の割には、後ろで組んだ手をもじもじとしていて、瑞希に幾分か緊張している様子だった。
「ごめんなさい、ちょっと待って。もうすぐ食べ終わるから」
何の用事かは分からないが、琴音はあの瑞希に大胆にも誘いをかけたようだった。さすがは琴音と、綾人は素直に感嘆した。
綾人は発作の件から琴音と関わってはいないが、既にその人柄の分析は済んでいた。あの髪色を置いておいたとしても、別の意味で目立つ琴音は知りたくなくても勝手に知ってしまう。明るく活発で、嘘を付けない、そんな性格だ。
あんまりこういう事を言いたくはないが、多分……、いや、間違いなく馬鹿である。そう結論付けた理由としては、ずばり裏表が無さすぎるという点に尽きる。加減の違いはあれど、人は普通誰にでも建前があり、少なからず隠している本性がある。綾人はそれを暴くのが得意だった。しかし、どういうわけか、琴音にはそういった内面の憶測が全く立てられないのだ。これ程読めない、否、読むものがない人間は初めてだった。
綾人が心の中でこれでもかという程に琴音を蹂躙していると、瑞希は昼食を食べ終わったようで、スッと席を立つ。
「じゃ、行こう?」
そう言い、琴音は笑顔を向ける。堂々と差し出された琴音の腕に僅かに逡巡したが、瑞希は結局その手を握った。そうして二人は教室を出て行った。
目の届いた範囲ではあったが、今回の他に琴音が瑞希と一緒にいた所を目撃した場面はなく、初め瑞希が琴音に対して敬語を使っていた事から、おそらくこれが初接触なのだろうと綾人は思った。その裏付けとして、琴音のスキンシップに対して瑞希には躊躇いが見えていた。少々馴れ馴れしいんじゃないかと、綾人はまた声には出さず、琴音の無頓着さを貶した。
ひとしきりの人間観察を終えた綾人は、食べ終わったパンの袋を教室のごみ箱に捨てながら、正面上部に飾られた時計を見た。分かってはいたが、期待とは裏腹にまだ猶予は十分にあった。この時間は本当に長く感じられる。単純にすることがないのだ。
特に目的があるわけでもないが、綾人は気晴らしにどこかへ行くことにした。
◇
昼休みは教室で惰眠を貪るのが殆どで、こうして出歩いた事は他に一度だけだ。まあまだ入学してから間もない為、当たり前と言っては当たり前だが、さすがに3年間昼寝に費やすのもどうかと思い、綾人は教室とは別に暇つぶしが出来る場所はないかと散策していた。
何かをするにも一人で可能な事。そう限定すると、選択肢はあまり多くはなかった。集団行動が主である体育館やグラウンドなどは以ての外である。先週見回った時に使えそうだったのは、体裁的に芳しくない候補を強引に入れても2つ。定番の図書室と、立ち入り禁止の屋上くらいだ。
一学年A組の教室のすぐ脇にある階段を昇り、三学年生徒の学び舎である三階を通過して、さらに上を目指せば狭い踊り場が現れる。その突き当りに屋上への扉があった。立ち入り禁止と大きな文字で注意書きのされた紙が張ってあったが、綾人が何度か確認しに来た所、管理がざるなようでいつも鍵は掛けられていなかった。その為、侵入は用意であるものの、もし見つかってしまえば校則違反で大目玉を食らうのは避けられなさそうだ。だが逆に、この立ち入り禁止というのがミソでもあった。
図書室も悪くはないが、当然全校生徒が利用可能なわけで、この醜貌を晒す機会を自ら増やしてしまう事になる。同級生に留まらず、上級生にも必要以上に認知される恐れがある図書室を頻繁に訪れるのにはやはり抵抗があった。
その点を踏まえて、多少のリスクは伴うが、生徒への解放の許可が下りていない屋上は、誰も来ることの無い完全な独占地帯ということで、綾人にとってはこの上ない魅力的な候補であった。
今回もしばしの間、ゆっくり過ごせそうな目ぼしい場所はないかと校内を歩き続けてみたが、結局新天地の発見には至らなかった。
(……となれば、試しに行ってみるか)
綾人は損失よりも利益が勝っているのなら、非常識であろうと気にも留めず行動する性質である。さすがに一応は人目を避けるが、誰かに告げ口をされたとしてもそれは正当な報いである為、一向に構わなかった。
道中周りへの気配りが空回りする程人気はなく、誰にも遭遇せずに三階までたどり着く。昼休み半ばともなれば移動する人間は早々多くはない。見回りで適度に時間を潰したのが功を奏したようだ。そうして綾人は警戒を解いて先に進んだ。
「……ってのはどういう事だ?」
踊り場が見えてきた辺りで、綾人はピタリと足を止めた。どうやら先客がいたらしい。何やら争っている声が聞こえる。
「ワタシはもう、お前らの言いなりにはならないと言ってる」
「一丁前の事ほざく様になったもんだなぁ、男女。立場が逆転した事も忘れたのか?」
声色を変えず淡々と答える少女の声と、えらく好戦的な少年の声。綾人はこちらの姿が見えないように慎重に様子を覗き込んだ。
「もう腕力で勝てねえんだから、その自慢の頭で切り抜けてみろよ」
一人の少女を囲んで、数人の少年が逃げ口を塞いでいる。いじめの現場か。自分よりも髪が短いボーイッシュな少女の方は初めて見た顔だが、少年達の方は同じクラスの素行の良くない連中だった。男女とは言い得て妙だ。少女は女性にしては背も高く、ぱっと見た感じそう思えても仕方のない容姿だ。唯一性別を分類しているのは差別化されている制服のみといった所か。
少年に挑発され、無言で強行突破しようとする少女の腕を、乱暴に中心核の少年が掴んだ。
「……離せ」
少女は暴れたが、男の力に成す術もなく引き戻されて尻もちをついた。男が揃いも揃って女一人に手を上げるなど、非常に穏やかな事ではない。しかし、いじめというのは大概同性同士で起こる力関係であり、少なくとも綾人の知る限りでは珍しい構図だった。
綾人は性根の腐ったごろつき共に心底軽蔑したが、それ以上居座ることはせずに静かに踵を返す。面倒事に巻き込まれるのはごめんだった。悪質極まりない事態であろうが、わざわざ表立って善行を働かなければならない義理はない。他人のいざこざなど、どうでもいいのだ。
もう行くあては一つしかなかった。綾人は必死に刃向う少女を置き去りにして、しぶしぶ図書室へと向かった。
そのあまりの変わりように顔をしかめてブツブツと小声で文句を言いながら、数学の担当となった男性教員は教室を足早に立ち去る。一人の女子生徒が廊下側の窓から顔を出すと、男性教員が十分離れた事を確認したのか、さっそく当人への陰口が教室を飛び交った。雑談や世間話もあちこちで始まって、綾人が一息ついた時にはもうそれぞれがいつもお決まりのグループを形成していた。
入学式から一週間が過ぎ、高校生活に大分慣れた頃だった。
綾人は登校時に購入したパンを鞄から取り出し、袋を開けて一口齧る。不自然にならないよう注意を払いながら、横目で瑞希を眺めた。
1学年はAとBの2組があり、もれなく同じA組になってしまったわけだが、それはそれで気が落ち着かない日々だった。
結局の所、未だこの気持ちをどう扱っていいのか決めあぐねていた。……こんな見るに見かねた顔の男が、よりにもよってクラス一の美少女である瑞希に、恋愛感情のような好意を寄せているのだ。傍からみればそれだけで虫唾が走るだろう。しかし、初恋とはそういうものなのかもしれないと、綾人は徐々に受け入れつつあった。
まず第一に自分の容姿は普通ではなく、相手は格別であるということ。その時点で釣り合いが取れないのを重々承知しているが、それを何度心に言い聞かせても理性が全く通じないのだ。
気付けばこうして瑞希を目で追ってしまう始末である。綾人は自分のことながらもうお手上げだった。
……その瑞希はというと、綾人と同じく自分の席で一人持参の弁当を食べていた。ただ、瑞希は特定のグループに入ろうとしないだけで、大抵のクラスメートとは適度に交流がある。元からの人となりと高圧的な眼光も相まってか、誰からも敬遠されている綾人とは根本的に質が違うのだ。
孤独と孤高。そう形容すればしっくりくる。
瑞希は持前の優秀な学力や恵まれた容姿を非蹴散らかす事なく、慎ましい態度で周りに接してはいるが、やはり高嶺の花という印象が強いのだろうか、男子生徒は中々声をかけづらい様子で、女子生徒にすらも一定の距離を置かれている様に見えた。
中にはその表面化するスクールカーストを僻み、嫉妬する輩もいるといえばいる。
人間の価値の均等を説く言葉は宗教にも哲学にも数多く存在するが、蓋を開けてみればなんてことはない。天は不平等に二物も三物も与えるものなのだ。
間違いなくカースト最下位の綾人は、自覚していながらに高みの見物といった姿勢でそれらを傍観し、悠々自適に学生生活を送っている。……あくまで瑞希以外に対して、ではあるが。
「あの、瑞希ちゃん」
「はい……? ああ、園原さん、えっと、何ですか?」
突然の来訪者に、瑞希は箸を止めた。話しかけたのは入学式で発作を起こした、あの少女だ。そういえばあんなやつもいたなと、綾人はまるで今気づいたというフリをした。
「ちょっと、どうしてもここじゃない場所で話したいことがあるの。いいかな?」
名前は確か、琴音だったか。そう綾人はまたわざとらしく偶然思い出したかのように振る舞う。常に能天気で何も考えていないような性格の割には、後ろで組んだ手をもじもじとしていて、瑞希に幾分か緊張している様子だった。
「ごめんなさい、ちょっと待って。もうすぐ食べ終わるから」
何の用事かは分からないが、琴音はあの瑞希に大胆にも誘いをかけたようだった。さすがは琴音と、綾人は素直に感嘆した。
綾人は発作の件から琴音と関わってはいないが、既にその人柄の分析は済んでいた。あの髪色を置いておいたとしても、別の意味で目立つ琴音は知りたくなくても勝手に知ってしまう。明るく活発で、嘘を付けない、そんな性格だ。
あんまりこういう事を言いたくはないが、多分……、いや、間違いなく馬鹿である。そう結論付けた理由としては、ずばり裏表が無さすぎるという点に尽きる。加減の違いはあれど、人は普通誰にでも建前があり、少なからず隠している本性がある。綾人はそれを暴くのが得意だった。しかし、どういうわけか、琴音にはそういった内面の憶測が全く立てられないのだ。これ程読めない、否、読むものがない人間は初めてだった。
綾人が心の中でこれでもかという程に琴音を蹂躙していると、瑞希は昼食を食べ終わったようで、スッと席を立つ。
「じゃ、行こう?」
そう言い、琴音は笑顔を向ける。堂々と差し出された琴音の腕に僅かに逡巡したが、瑞希は結局その手を握った。そうして二人は教室を出て行った。
目の届いた範囲ではあったが、今回の他に琴音が瑞希と一緒にいた所を目撃した場面はなく、初め瑞希が琴音に対して敬語を使っていた事から、おそらくこれが初接触なのだろうと綾人は思った。その裏付けとして、琴音のスキンシップに対して瑞希には躊躇いが見えていた。少々馴れ馴れしいんじゃないかと、綾人はまた声には出さず、琴音の無頓着さを貶した。
ひとしきりの人間観察を終えた綾人は、食べ終わったパンの袋を教室のごみ箱に捨てながら、正面上部に飾られた時計を見た。分かってはいたが、期待とは裏腹にまだ猶予は十分にあった。この時間は本当に長く感じられる。単純にすることがないのだ。
特に目的があるわけでもないが、綾人は気晴らしにどこかへ行くことにした。
◇
昼休みは教室で惰眠を貪るのが殆どで、こうして出歩いた事は他に一度だけだ。まあまだ入学してから間もない為、当たり前と言っては当たり前だが、さすがに3年間昼寝に費やすのもどうかと思い、綾人は教室とは別に暇つぶしが出来る場所はないかと散策していた。
何かをするにも一人で可能な事。そう限定すると、選択肢はあまり多くはなかった。集団行動が主である体育館やグラウンドなどは以ての外である。先週見回った時に使えそうだったのは、体裁的に芳しくない候補を強引に入れても2つ。定番の図書室と、立ち入り禁止の屋上くらいだ。
一学年A組の教室のすぐ脇にある階段を昇り、三学年生徒の学び舎である三階を通過して、さらに上を目指せば狭い踊り場が現れる。その突き当りに屋上への扉があった。立ち入り禁止と大きな文字で注意書きのされた紙が張ってあったが、綾人が何度か確認しに来た所、管理がざるなようでいつも鍵は掛けられていなかった。その為、侵入は用意であるものの、もし見つかってしまえば校則違反で大目玉を食らうのは避けられなさそうだ。だが逆に、この立ち入り禁止というのがミソでもあった。
図書室も悪くはないが、当然全校生徒が利用可能なわけで、この醜貌を晒す機会を自ら増やしてしまう事になる。同級生に留まらず、上級生にも必要以上に認知される恐れがある図書室を頻繁に訪れるのにはやはり抵抗があった。
その点を踏まえて、多少のリスクは伴うが、生徒への解放の許可が下りていない屋上は、誰も来ることの無い完全な独占地帯ということで、綾人にとってはこの上ない魅力的な候補であった。
今回もしばしの間、ゆっくり過ごせそうな目ぼしい場所はないかと校内を歩き続けてみたが、結局新天地の発見には至らなかった。
(……となれば、試しに行ってみるか)
綾人は損失よりも利益が勝っているのなら、非常識であろうと気にも留めず行動する性質である。さすがに一応は人目を避けるが、誰かに告げ口をされたとしてもそれは正当な報いである為、一向に構わなかった。
道中周りへの気配りが空回りする程人気はなく、誰にも遭遇せずに三階までたどり着く。昼休み半ばともなれば移動する人間は早々多くはない。見回りで適度に時間を潰したのが功を奏したようだ。そうして綾人は警戒を解いて先に進んだ。
「……ってのはどういう事だ?」
踊り場が見えてきた辺りで、綾人はピタリと足を止めた。どうやら先客がいたらしい。何やら争っている声が聞こえる。
「ワタシはもう、お前らの言いなりにはならないと言ってる」
「一丁前の事ほざく様になったもんだなぁ、男女。立場が逆転した事も忘れたのか?」
声色を変えず淡々と答える少女の声と、えらく好戦的な少年の声。綾人はこちらの姿が見えないように慎重に様子を覗き込んだ。
「もう腕力で勝てねえんだから、その自慢の頭で切り抜けてみろよ」
一人の少女を囲んで、数人の少年が逃げ口を塞いでいる。いじめの現場か。自分よりも髪が短いボーイッシュな少女の方は初めて見た顔だが、少年達の方は同じクラスの素行の良くない連中だった。男女とは言い得て妙だ。少女は女性にしては背も高く、ぱっと見た感じそう思えても仕方のない容姿だ。唯一性別を分類しているのは差別化されている制服のみといった所か。
少年に挑発され、無言で強行突破しようとする少女の腕を、乱暴に中心核の少年が掴んだ。
「……離せ」
少女は暴れたが、男の力に成す術もなく引き戻されて尻もちをついた。男が揃いも揃って女一人に手を上げるなど、非常に穏やかな事ではない。しかし、いじめというのは大概同性同士で起こる力関係であり、少なくとも綾人の知る限りでは珍しい構図だった。
綾人は性根の腐ったごろつき共に心底軽蔑したが、それ以上居座ることはせずに静かに踵を返す。面倒事に巻き込まれるのはごめんだった。悪質極まりない事態であろうが、わざわざ表立って善行を働かなければならない義理はない。他人のいざこざなど、どうでもいいのだ。
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