丘の上の嘆き岩

森羅秋

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探しびと

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 空中を旋回するようにくるくる飛び回ると、王の肩に止まった。

 「王。ここから北の方角に町の明かりが確認出来ます」

 「北の方角?」

 王は手首をさっと上に向ける。風が二人の体を包み上空へと身を躍らせた。
 北の方角に明かりが点々と浮かんでいるのを自らの目で確認する。規模からして大きな町だろう。小高い丘に教会がぽつんと建っているのが確認できた。

 「あそこに行ってみようか。何か手がかりがあるかもしれない」

 「はい、最後の宝石が見つかるかもしれません」

 王はガクッと肩を下ろした。

 「それは、願っても無い事だけどね。でも今は」

 マークは飛びながら、明後日の方角へと視線を向ける。

 「そうですな。町に居るとすれば、物珍しさにどこかの見世物小屋に軟禁されているか、食卓の上でしょう」

 「食卓……」

 本気で言っているマークに、王は笑えないと一瞬だけ顔が青ざめた。

 あんな見た目の魚を食べる者がいるのかと驚愕する。
 世の中には様々な生き物がいる。様々な趣向を持つ者のうち、あれを食べていようという猛者もいるかもしれない。

 「王よ。そう心配なさるな」

 鳥はふっと微笑を浮かべると、口調を和らげて安心させるように言った。

 「間抜けで腑抜けであるが、あれも我が同僚。グラン様の優秀な部下でありまする。間抜けで、トンマで、腑抜け、うっかり者で、危機感薄い奴ですが、実力だけはあります。例え、天敵に襲われたとしても、滅多な事では食卓には並びませぬよ。絶対に」

 見世物小屋は否定しなかったマーク。
 その辺はまぁ、旧知の仲の軽口なのだろうと、王は解釈した。

 相変わらずの毒舌であるが、マークもセルジオを心配しているようだ。
 素直じゃないなぁ、と笑みを浮かべる。

 「そーだね。影響を与えないように省エネ型とはいえ、神獣騎士だもんね」

 「その通りです。ですから王がご心配する必要は一切ございません」

 そしてマークが肩から飛び立ち羽ばたく。

 「では、行きましょうか。もうすぐ朝日が昇ります。夜のうちに近くまで飛んでゆく方が無難かと」

 「うん、分かった。行こうマーク。あと、何度も言うけど、ここでは僕は王ではなく、ラルだよ」

 「人間が誰もいませんので、名を呼ぶのは控えさせてもらいます」

 「えー……」

 「我が主の名を軽率に呼ぶことは出来ません」

 「えー。でも人間界だし」

 「却下します。王、行きましょう」

 空を飛び町に近づいたが、あと少しというところで朝日が昇り、二人は近くの森に一度身を隠した。
 
 町の家々が肉眼でも確認できる距離になったので、マークは町へ飛び立ち、上空を観察する。
 偵察兼安全確認だ。
 それを終えると森の中へ戻り、ラルの肩に止まった。

 「王よ。あの町は商人達の旅の通過地点、いわゆる休憩地点でしょう。特に危険は無い様に伺えますので、このままお進みください」

 「ありがとう。でも、もう自分の身は守れるから、過保護にしなくて良いんだよ?」

 「何をおっしゃいます!」

 マークは激しく怒りながら翼をバサバサ広げて、ラルの正面に浮かぶ。白目が見えないはずなのに、目が血走っているのが分かる。

 「君子危うきには近寄らずとも申しますし、念には念を! でございます!! 王には常に安全な旅をして頂かないと、私の騎士としてのプライド及び、信念が曲げられてしまいます! そもそもいつ何時王に害をもたらそうとする人間が近付くか分かりません! 危険と判断できる材料を片っ端から排除しなければ! 万が一にでも王の体に傷を追わせる事態が発生してしまえば、取り返しがつきません! ご自身の身がどれほど貴重かつ神聖な存在かを把握なさってください!!!」

 マークは正義を貫くがゆえにすぐにお説教が始まってしまうのだ。
 時間が惜しいと思ったラルは「コホン」と咳払いをして止めるよう促すと、マークはピタリと黙った。

 「分かった。僕が浅はかだったよ。じゃ、町に行こう。マークは目立つから上空にて待機。何かトラブルがあったら遠慮なく降りてきて良いから」

 でも、すごく些細な事でも来るんだけどね。この人。と心でこっそり付け加える。

 「畏まりました」

 マークは恭しく頭をたれ、片翼を自分の胸の位置に持っていきながらお辞儀をしてから空へ飛び立つ。鳥の姿が小さくなったので、ラルは草むらを歩き、街道に出た。

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