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鬼生まれし刻災厄きたる
火の者を模した鬼①
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暗闇の中にぽつんとした明かりがみえてきた。劍の自宅だ。明かりはあるが人の気配がないように思える。家の裏手の山の中腹に艮の鬼門がある。すぐに向かわなければならないが、鷹尾は魄に止まるよう指示した。封印の具合よりも先に劍達の安否を確認するためだ。
周囲に疫病神がいなかったので、駐車場スペース手前で魄が止まり、鷹尾が背中から降りた。
「静かだけど誰かいるのかな?」
魄は家に向かって歩き出した。疫病神は人を求めてやってくるので、静かであれば誰もいない可能性が高い。
「もしかして事態の収拾に行ったのかも」
疫病神を蹴散らしてから劍と雪絵が鬼門に向かったのかもしれない、と楽観した。
鷹尾は周囲を見渡しながら裏手の山を見つめる。そして怪訝そうに眉をひそめた。鬼門のあたりからは思ったよりも妖気が感じられない。しかし強い妖気を感じる。
出処を探すべく視線だけをあちこちに飛ばすが、鷹尾の目が劍の住居に止まった。妖気が強く感じられるのはここからである。おかしい、と怪訝そうに眉をひそめた。
魄は家の中を確認しようと駐車スペースを進んで門の近くに来た。すると庭から魁が歩いてくる。どことなく影を感じるが、勝負に負けたのを引きずっているのかと思い、魄は気にしなかった。
「鷹尾。魁がいたよ」
魄が鷹尾に呼びかけると、彼は魁に視線を向けて……すぐに違和感を覚えた。
「魁。これはどうなってるの?」
説明を求めて魄は魁に歩み寄った。その瞬間。
魁は右手で手刀を作ると、魄の鳩尾に刺して背中まで貫いた。
「がは!」
鮮血が魁の腕を染める。
痛みに呻く間もなく、魄は急いで魁の手を掴むと後ろにジャンプして勢いよく身体から引き抜いた。
距離を取ろうとしたが髪の毛の束を掴まれ引っ張られる。体に穴が開いているので踏ん張れず、魄は魁の方へ引き寄せられた。
魁は血濡れた右手を振り上げ、魄の頭めがけて脳天を突こうとした。
「臨兵闘者皆陣列在前行!」
鷹尾が素早く九字を切ると、魁の顔面がぱぁんと破裂した。
血しぶきは……飛ばなかった。
その代わりに中から咲紅の頭から目までが露出して、鷹尾は目を見開いて驚いた。あれは魁ではなく、魁の姿を模した鬼だ。それが咲紅を取り込んでいる。
鬼の正体が気になったが魄を助けることが先決だ。あの悪鬼はまだ髪の毛を放していない。傷はまだ塞がっていないため、あのままだと押し負ける。
「臨兵闘者皆陣列在前行!」
九字切りで悪鬼の右手が破裂して前腕部が消滅したが、コンマ一秒ですぐに生えた。何事もなかったように魄の頭に手刀を突きおろす。
間に合わない、と鷹尾が冷や汗を浮かべる中、魄と手刀の間に大きな影が割り込んだ。
メキィ。と骨と肉を砕く音が響く。
魄の髪の毛の束数本と悪鬼の左上腕が宙を舞った。
低姿勢で走って来た魁は悪鬼の左腕を引きちぎりながら、魄を抱きしめてスライディングをして距離を取る。
数秒遅れて、目標物を失った悪鬼の腕が地面に刺さった。
獲物を仕留めそこなった悪鬼はすぐに地面から腕を抜くと、大きく飛んでその場から離れて屋根に着地する。鷹尾が瞬時に出した九字切りが空を切ったため「くそが」と毒づいた。
みるみるうちに悪鬼が魁の姿に戻る。卑下た笑みを浮かべて立ち上がると裏手の山へジャンプして消えた。
魄は薄目を開けて悪鬼の姿を確認する。どこからどうみても魁だ。なんなら服装まで同じだ。あれは見分けがつかない。思いっきりやられたと怒りが芽生える。
本物の方は右肩から腕と腹部と両足の服が破れており、血が付いた素肌が見えている。再生した跡だ。先にこちらに会っていれば不意を突かれなかったのに、とタイミングの悪さを呪った。
悪鬼の背が小さくなるのを苦々しく睨んでいた魁は、すぐに魄を横抱きに抱える。整えられていた髪の一部がざんばらになり、鳩尾に腕の太さの穴が開いていた。出血はもう止まっており内側から肉が再生している。
自分の姿に油断して不意を突かれてしまったに違いないと強く感じて、「……すまない」と魁は小さく謝った。
「全く! 何があったか説明しろ!」
脅威が一時的に去ったと感じた鷹尾は、急いで二人の元へ駆け寄ると開口一番で魁に怒鳴った。
魁は伏し目がちになりながら「その前に、蔵へ来てくれ」と促す。
「あーったくもーー! 文句言いたいが時間がないからあとでまとめる!」
怒りの形相のまま、鷹尾は懐から形代を取り出し魄の額にくっつけた。
「回生起死 延命息災 急急如律令」
形代の腹部が真っ黒になると、魄の胴体が綺麗に治った。
全快した魄はパチッと目を開けて鷹尾を見る。抱き上げてもらっているので下から見上げた。目が合うと鷹尾の表情が和らぐ。
「助かったよ鷹尾。内臓もやられてたから回復に少し時間がかかってた」
「事が終わってたら自然回復で様子見るんだけどな」
一呼吸おいて、鷹尾は魁を睨み「さっさと魄を下ろせ」と強い口調で言った。
怪我が治ったとはいえ再生の反動で倦怠感が強くなる。本当におろして大丈夫なのか、と魁は少し迷った素振りを見せたが、魄が「もう大丈夫だよ」と答えたので、優しく地面に立たせた。なんだかお姫様扱いされたような気分になって、魄はちょっと機嫌が良くなった。
「時間が惜しい。雪絵いるんだろう? さっさと蔵にいくぞ」
周囲に疫病神がいなかったので、駐車場スペース手前で魄が止まり、鷹尾が背中から降りた。
「静かだけど誰かいるのかな?」
魄は家に向かって歩き出した。疫病神は人を求めてやってくるので、静かであれば誰もいない可能性が高い。
「もしかして事態の収拾に行ったのかも」
疫病神を蹴散らしてから劍と雪絵が鬼門に向かったのかもしれない、と楽観した。
鷹尾は周囲を見渡しながら裏手の山を見つめる。そして怪訝そうに眉をひそめた。鬼門のあたりからは思ったよりも妖気が感じられない。しかし強い妖気を感じる。
出処を探すべく視線だけをあちこちに飛ばすが、鷹尾の目が劍の住居に止まった。妖気が強く感じられるのはここからである。おかしい、と怪訝そうに眉をひそめた。
魄は家の中を確認しようと駐車スペースを進んで門の近くに来た。すると庭から魁が歩いてくる。どことなく影を感じるが、勝負に負けたのを引きずっているのかと思い、魄は気にしなかった。
「鷹尾。魁がいたよ」
魄が鷹尾に呼びかけると、彼は魁に視線を向けて……すぐに違和感を覚えた。
「魁。これはどうなってるの?」
説明を求めて魄は魁に歩み寄った。その瞬間。
魁は右手で手刀を作ると、魄の鳩尾に刺して背中まで貫いた。
「がは!」
鮮血が魁の腕を染める。
痛みに呻く間もなく、魄は急いで魁の手を掴むと後ろにジャンプして勢いよく身体から引き抜いた。
距離を取ろうとしたが髪の毛の束を掴まれ引っ張られる。体に穴が開いているので踏ん張れず、魄は魁の方へ引き寄せられた。
魁は血濡れた右手を振り上げ、魄の頭めがけて脳天を突こうとした。
「臨兵闘者皆陣列在前行!」
鷹尾が素早く九字を切ると、魁の顔面がぱぁんと破裂した。
血しぶきは……飛ばなかった。
その代わりに中から咲紅の頭から目までが露出して、鷹尾は目を見開いて驚いた。あれは魁ではなく、魁の姿を模した鬼だ。それが咲紅を取り込んでいる。
鬼の正体が気になったが魄を助けることが先決だ。あの悪鬼はまだ髪の毛を放していない。傷はまだ塞がっていないため、あのままだと押し負ける。
「臨兵闘者皆陣列在前行!」
九字切りで悪鬼の右手が破裂して前腕部が消滅したが、コンマ一秒ですぐに生えた。何事もなかったように魄の頭に手刀を突きおろす。
間に合わない、と鷹尾が冷や汗を浮かべる中、魄と手刀の間に大きな影が割り込んだ。
メキィ。と骨と肉を砕く音が響く。
魄の髪の毛の束数本と悪鬼の左上腕が宙を舞った。
低姿勢で走って来た魁は悪鬼の左腕を引きちぎりながら、魄を抱きしめてスライディングをして距離を取る。
数秒遅れて、目標物を失った悪鬼の腕が地面に刺さった。
獲物を仕留めそこなった悪鬼はすぐに地面から腕を抜くと、大きく飛んでその場から離れて屋根に着地する。鷹尾が瞬時に出した九字切りが空を切ったため「くそが」と毒づいた。
みるみるうちに悪鬼が魁の姿に戻る。卑下た笑みを浮かべて立ち上がると裏手の山へジャンプして消えた。
魄は薄目を開けて悪鬼の姿を確認する。どこからどうみても魁だ。なんなら服装まで同じだ。あれは見分けがつかない。思いっきりやられたと怒りが芽生える。
本物の方は右肩から腕と腹部と両足の服が破れており、血が付いた素肌が見えている。再生した跡だ。先にこちらに会っていれば不意を突かれなかったのに、とタイミングの悪さを呪った。
悪鬼の背が小さくなるのを苦々しく睨んでいた魁は、すぐに魄を横抱きに抱える。整えられていた髪の一部がざんばらになり、鳩尾に腕の太さの穴が開いていた。出血はもう止まっており内側から肉が再生している。
自分の姿に油断して不意を突かれてしまったに違いないと強く感じて、「……すまない」と魁は小さく謝った。
「全く! 何があったか説明しろ!」
脅威が一時的に去ったと感じた鷹尾は、急いで二人の元へ駆け寄ると開口一番で魁に怒鳴った。
魁は伏し目がちになりながら「その前に、蔵へ来てくれ」と促す。
「あーったくもーー! 文句言いたいが時間がないからあとでまとめる!」
怒りの形相のまま、鷹尾は懐から形代を取り出し魄の額にくっつけた。
「回生起死 延命息災 急急如律令」
形代の腹部が真っ黒になると、魄の胴体が綺麗に治った。
全快した魄はパチッと目を開けて鷹尾を見る。抱き上げてもらっているので下から見上げた。目が合うと鷹尾の表情が和らぐ。
「助かったよ鷹尾。内臓もやられてたから回復に少し時間がかかってた」
「事が終わってたら自然回復で様子見るんだけどな」
一呼吸おいて、鷹尾は魁を睨み「さっさと魄を下ろせ」と強い口調で言った。
怪我が治ったとはいえ再生の反動で倦怠感が強くなる。本当におろして大丈夫なのか、と魁は少し迷った素振りを見せたが、魄が「もう大丈夫だよ」と答えたので、優しく地面に立たせた。なんだかお姫様扱いされたような気分になって、魄はちょっと機嫌が良くなった。
「時間が惜しい。雪絵いるんだろう? さっさと蔵にいくぞ」
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