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第四章
十五
しおりを挟む「鬼の城とは良く言ったものだな」
開け放たれた戸から城下を見つめ、カナは呟いた。
備前国、吉備――鬼ノ城。
その名の通り、城には……いや、街にも鬼が溢れていた。これだけの鬼が集まるのは珍しいことではあったが、京に居たカナには見慣れた光景でもある。
とはいえ、人間と同じく鬼にも土地柄というものがあるのか、ここの鬼は京の鬼とは違った。温羅の性格が鬼にも伝わっているのか、京よりかは静かで行儀良く見える。
(使い走りというのは気にくわんが……京に居るよりかは幾分か良いか)
闇の夜を見つめ、夏の風にカナは目を細めた。
夏は良い……空の顔は瞬時に変わり、暗雲立ちこめ、その内に雷を宿す。カナ自身にとっては良き季節だった。
(まあ、雨に濡れるは勘弁してほしいが)
彼岸花の咲く黒き衣――焔で焼かれた部分はもうない。京に戻った時に、舞鬼であるイクマに新しく用意して貰ったのだ。
出来るなら、イクマも一緒に連れて来てやりたかったが……京で飯炊きしているよりかは気が晴れようし、イクマならキキのことを気に入るだろう。
(早う用事を済ませて、キキを迎えに行きたいが)
鬼の武具を造らないというのであれば、カナはそれはそれで良かった。けれど、京の主はそうはいかない。
(人の様子を見てこい、次は武具を頼んでこいなどと)
煩く、面倒な事だが、もう少し温羅と話さねばならぬか。
(――それにしても、あれで隠しているつもりか)
闇夜の城下を見つめたままカナは笑った。城のそこかしこに感じる鬼とは別の気配……人の気配。
(我も侮られたものだ。いや、元より隠すつもりがないのかもしれぬな)
ともあれ、
(人を囲っていることが、手を貸さない理由(わけ)か)
『鉄いじりができればよい』という温羅の言葉も気になる。人を囲っていることにも無関係ではないだろう。
(余程の変わり者だが……さて)
「何か用か、阿曽殿」
振り返り衾障子へと声をかける。すると、すっと静かに衾障子が開き、その女性は深く頭を下げ。
「――お休みの所、申し訳ありませぬ。お見せしたきことがございます、カナ様」
先程まで見せていた微笑みはまるでなく、阿曽は悲しみと苦しさを含んだ瞳で静かにそう伝えた。
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