戦狂のキキ

shio

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第三章

十二

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 ――ザザザザザッ

 志那都比売神シナツヒメノカミ――

 風の神、その風を身に纏わせ常人ならぬ動きで森を駆け抜けていく。

(けれど)

 和可は内で呟いた。
 未だ未熟な為、自分も、そして、宇加も完全な神降ろしができておらず、その力の一旦しか纏えていない。
 今は風の力を借り、身を軽くすることしかできない――だから、戦うことなどできるはずもない。
 元より、咲久夜が自分達に武具を与えないのは戦わせない為だ。戦ってはならない、戦う事を考えてはならない。そう戒められている。

(でも……陰陽師ならば)

 当然、術者の器の違いはあれど、戦えないなどということは――陰陽師が鬼を祓えないなどあってはならない。

 ――私達はいつか陰陽師に成れていた。

 宇加の言葉が浮かぶ。

(けれど)

 再度、思う。
 戦えないから……キキのような幼子を一人戦わせなければならない。
 それは、キキ自らが決めたことは知っている。その意思を否定することもしたくない。けれど、自分達が戦えたならば……

(私が戦えたなら、キキを一人で戦わせたりしない)

 ――だからこそ、

(鬼の数と位置をちゃんと把握しないと)

 キキの為に。戦えない自分ができる精一杯なこと。

「……和可、急ぎすぎ」

 森を駆け抜けながら近づき、そう伝えてくる宇加に和可は速さは緩めないまま視線も向けず。

「でも、なるべく早く見つけないと」

 それだけ、小さく呟いた。

「余計な事考えすぎ」
「…………」
「『戦う事を考えるな』……咲久夜様の言葉、忘れてないよね」
「分かってる」
「分かってなさそうだから言ってる」
「…………」

 一瞬だけ宇加に視線を向け、

「……別れて探そう。『いつも通りに』」

 伝え、すぐに駆ける速さを増し左へと和可は向かった。

「『いつも通り』じゃないから言ってるのに……」

 宇加は立ち止まり、和可の消えた方へと顔を向ける。
 本来ならば、和可の言う通り別れて探すのだが……不安がある。
 斥候とはいえ、戦いはもう始まっている。鬼を見つけるめいを受けた以上、それは絶対。

 けれど……

「…………」

 宇加は駆け出した――和可が向かった先へと。
 自分達を戦わせないのは死なせない為だ。生きること、それは何より一番大事な役目。
 それは絶対に護らなければならない。
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