戦狂のキキ

第一章

十一

　実をいえば、キキは陰陽寮おんようのつかさのこと、いや、この時代のことをほとんど知らなかった。鬼という驚異があることは自然に知ったが、それ以外のことは知りたくとも知る場所がなかったのだ。
　組織に属する以上、そういった様々な事も知らねばならないだろう……

「ごめんなさい、今は貴女のほうが大事ですね」

　神妙な顔をしていた事に気付いたのか、照灯は優しく微笑み、用意した布に薬を塗るとそっとキキの背に当てた。

「染みると思いますが、少しだけ我慢してね。……それにしても、服もこんなに汚れて」
「そういえば、他の者達は綺麗だったな。どうして、お前だけそんなに汚れている」
「……それは」

　キキは出立から今までのこと……村での戦い、そして、死んだ者の墓と鬼を埋めた事、その全てを伝えた。

「そうか……それで先程一人で帰ってきたと。そのまま隊長に呼び出され、棒叩きに」
「……ごめんなさい、本来であれば、貴女のような子を守るための戦いであるはずなのに、逆に罰を与えるなど……」
「いいえ、わたしは大丈夫です」

　手当を終え、着物を直すとキキはにこと微笑む。
　その幼子の微笑みを照灯はどこか悲しそうに見つめ、抱き寄せるようにそっと肩に触れた。

「疲れ、お腹も空いたでしょう。まずは食事にしましょう」
「お手伝いします」
「良い子ですが、貴女はゆっくり休んでいてください」
「しかし……」
「動いてはなりませんよ。咲久夜様、この子が静かにしてるように見張っていてください」
「はは、わしに見張りをさせるか」
「ふふ、一人で出歩いたおしおきです」
「成程、それではしょうがないな」

　咲久夜は笑い、キキの頭に手を置いた。

「ということだ。お前は静かに座っておれ」
「……はい、有り難うございます」

　キキは頷いた……照れを隠すように俯いて。