20 / 21
ダーマフィバーの些事
②
しおりを挟む「高梨君は、こういう趣味なのかね?」
会員制のバーにて。
ウィスキーを片手に、写真の感想を述べた武藤先生に「違います!」と失礼にも、カウンターにグラスを叩きつけた。
が、もうウィスキー五杯目で、そのグラグが空ともなれば、大目に見てくれて、俺がくだをまくのにも、耳を傾けてくれる。
「とくにSでもMでもないです!
ただ、昔から、『気持ちよくない』『愛が感じられない』って不評で、まともな交際ができなくなって、風俗に頼るようになったんです!
商売だったら、多少、サービスで、嘘でも気持ちいいふりをしてくれますからね!
なのに、ダーマの店といったら!
同性愛者が多い国のはずなのに、全然、優しくしてくれなかった!
『お客さん、ひどいにも程がある』『これ以上、つづけようとするなら、通報する』って脅してきて!」
で、「それだけは、ご勘弁」とパンツ一丁で土下座をしたわけだ。
笑いどころとはいえ、紳士でダンディーな武藤先生は「そりゃあ、災難だったね」とグラスの氷を揺らすだけで、聞き流してくれる。
ふり向いて告げた一言、「やっぱり、君はネコの体質なのじゃないか?」は余計だったが。
「選挙の神」と謳われる与党の重鎮、武藤先生は同性愛者であり、初手から俺の尻を揉んできたほどの好き者だ。
政界の人間の誰にも、性的傾向を明かすつもりはなかったが、お誘いに「俺はタチ専なので」と断ったことで、知られてしまい、以来、たまに二人で飲んでいる。
飲むたびに「私の目利きは、外れることがないんだがな」「高梨君は、どうもタチっぽくないのだよね」とそこはかとなーく、ネコになるよう誘導されている気がするものの、それはともかく。
今回、俺のほうから誘ったのは、「ネコになります」宣言をするためではない。
さる国とキマシア、両方からハニートラップにかけられて、板挟みになっている苦境を訴え、相談するためだった。
キマシアの大使館でのパーティーまで後五日。
三日前までには返事が欲しいと、告げられたので、後二日しか猶予がない。
といって、どちらの国かと武藤先生に間に入ってほしいと、頼みにきたのではなかった。
ハニートラップにかかって、板挟みになるなんて、馬鹿げた失態をしておいて、さすがに人に助けは請えやしないというもの。
議員失格なのを認め、潔く辞めるつもりでいた。
元々、「国にこの身を捧げよう!」というほど高い志も、「一旗揚げたる!」という意欲もなかったし。
貢ぐための資金源を失くすのは惜しいが、スキャンダルになるほうが嫌だったし。
ただ、問題なのは、辞めたとして、さる国がどういう出方をするか、分からないことだ。
気品高い王子は、尾っぽを巻いて逃げた腑抜けなどに、かまやしないだろう。
一方で、さる国は「恨みは千年忘れない」と標榜する、お国柄だ。
使いえない工作員でも、「ハニートラップにかけた手間や金の分、まだ働いていないだろ」と借金の取り立てよろしく、尚もつきまとってきそうだった。
実際は、どうなのかと、武藤先生には聞くつもりだった。
武藤先生は大御所ながら、一度も金や女(いや、男)問題やスキャンダルで、足をすくわれたことがない。
世間的にもクリーンなイメージを保っていて、ハニートラップの裏事情なんかと無縁そうだが、そうではないだろう。
好き者ながら、クリーンなイメージを保っていられるのは、逆に裏事情に精通した上で、抜け目なく狡猾に立ち回っているからだ。
これまで、そのノウハウをすこし、教えてもらったこともある。
まあ、今回ばかりは、武藤先生に抜け道を伝授してもらうわけにはいなかいだろうと、思っていたのが、「そうでもないよ」と。
「辞めることもないし、ハニートラップから逃れられる方法があるといったら、どうする?」
どうする?とは、まあ、そういうことだ。
「辞めたほうが、容赦なく扱われるかもしれないね」と忠告されたからに、降参するしかなかった。
これでは、誰に脅されているのか、分からなくなってくるが・・・。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
人生二度目の悪役令息は、ヤンデレ義弟に執着されて逃げられない
佐倉海斗
BL
王国を敵に回し、悪役と罵られ、恥を知れと煽られても気にしなかった。死に際は貴族らしく散ってやるつもりだった。――それなのに、最後に義弟の泣き顔を見たのがいけなかったんだろう。まだ、生きてみたいと思ってしまった。
一度、死んだはずだった。
それなのに、四年前に戻っていた。
どうやら、やり直しの機会を与えられたらしい。しかも、二度目の人生を与えられたのは俺だけではないようだ。
※悪役令息(主人公)が受けになります。
※ヤンデレ執着義弟×元悪役義兄(主人公)です。
※主人公に好意を抱く登場人物は複数いますが、固定CPです。それ以外のCPは本編完結後のIFストーリーとして書くかもしれませんが、約束はできません。
【完結】人形と皇子
かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。
戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。
性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。
第11回BL小説大賞で奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
[長編版]異世界転移したら九尾の子狐のパパ認定されました
ミクリ21
BL
長編版では、子狐と主人公加藤 純也(カトウ ジュンヤ)の恋愛をメインにします。(BL)
ショートショート版は、一話読み切りとなっています。(ファンタジー)
可愛いあの子は。
ましろ
恋愛
本当に好きだった。貴方に相応しい令嬢になる為にずっと努力してきたのにっ…!
第三王子であるディーン様とは政略的な婚約だったけれど、穏やかに少しずつ思いを重ねて来たつもりでした。
一人の転入生の存在がすべてを変えていくとは思わなかったのです…。
(11月5日、タグを少し変更しました)
(11月12日、短編から長編に変更しました)
✻ゆるふわ設定です。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
氷の森で苺摘み〜女装して継母のおつかいに出た少年が王子に愛される話〜
おりたかほ
BL
氷の森のほとりの屋敷で、継母にいびられる毎日を送っていた少年アリオト。
ある日継母から「イチマルキウでスケスケショウブシタギを買ってこい」という、意味不明なおつかいを言い渡されて途方に暮れる。
義兄の謎アドバイスにより女装しておつかいに出た結果、いろいろあって、アリオトはシブヤ領主(次期国王)に愛されてしまう。
***************
グリム童話をベースにしたメルヘンBL?です。舞台はおとぎの国ですが、名称は和洋ミックスの謎世界観です。
おつかいの元ネタは、某国民的アイドル様冠番組の大昔の企画です。
時々シリアスチックですが、基本コメディです。真夏の夜の夢的な妖精魔法でどたばたします。
ハッピーエンドです。(なかなか進まなくてすみません!もうちょいなんでお付き合いください……)
過激表現はありませんが一応BL、かつ前半(第5章まで)は女装なので、苦手な方はどうか気をつけてください。
特に※印のエピソードはちょっと苦手な人いるかもなので、気をつけて読むか、飛ばしてください。
腐文体さえ大丈夫であれば、気軽にお立ち寄りください。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる