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悪い男
しおりを挟む幼馴染のトオルが俺を好きなのに気づいている。俺が気づいているのをトオルも気づいている。
でも、昔から変わらないような友人のままでいる。トオルが自覚しころには、俺に異性の恋人がいたから。
正直、トオルの好意を知って、心が揺らいだ。恋人との関係が悪化していたせいもある。いや、だからこそ、かけがえない幼馴染に対し踏みだせなかった。
恋人とも、相性抜群に息の合った友人関係にあった。「異性では彼女以上によき相棒はいない」と心から思いって告白したはずが、交際しだしたら、お互いの短所ばかり目につくようになり、我慢できないで、咎めたり責めたり罵ったりしあう始末。
俺が好きになった彼女は、はじめから存在していなかったのではないか。と、今では思うほど、心が放れてしまい「交際しなければ、心置きなく笑いあえる仲のままでいられたのでは」と悔いさえする。
そう、トオルと同じ轍を踏みたくないと願うからこそ、ためらう。お互い知らんふりをして保っている均衡が、きっかけがあると崩れそうで、どうにかこうにか彼女を繋ぎとめている。まあ、そんな不純すぎる動機で関係維持できるわけがなかったのだけど。
「クリスマスはせめて、お互いをけなさないで、穏やかに過ごそう」と彼女の家でろうそく灯るディナーの席についたものを、食べおえるまで「食べれない量を買ってくるな」「片づけするのは私なんだから」と散々、愚痴を浴びせられ「なんで、ちょっとした約束も守れないんだ!」とブチ切れ。立ち上がったついでに、コートを羽織って、家からでていこうとしたら、そでを引っぱられた。
「もう電車ないでしょ!こんな時間帯に家をとびだされちゃあ、私が悪者になるじゃない!」
「行かないで」としおらしくすれば、俺だって引っこみがついたものを。と考えてしまう自分にも嫌気がさして「それはどうも!でも、トオルんちにいくから、心配すんなよ!」とつい八つ当たり。
次の瞬間、平手打ちをされ、さらに脇腹を蹴られた。半開きだったドアから、外にでると、中指を立て、引導を渡されたもので。
「トオルトオルうっさいんだよ!この腐れホモ!もう、こんな根性のひん曲がったホモなんかいならない!」
反論の余地がなかったのと、真っ向から指摘され、むしろほっとしたのとで、閉まったドアに手をかけず、背を向けて去っていった。といって、どうしたものか。電車の始発まで五時間。今月は金欠でタクシーは乗れないし、漫画喫茶とか、ここらへんにはない。
トオルの家は近くにあったとはいえ、彼女と別れたから即鞍替えというわけにいかず、そもそも、変化を望んでいないとなれば、今はもっとも顔を合わせるべきではない。とりあえず、冷えた体を温めるためにコンビニへ。
ホットのお茶と肉まんを買い、支払いをしたところで「あれ、どうしたんだ?」と入り口のほうから呼びかけ。ぎくりとして見やれば、ジャージにダウンジャケットを羽織ったトオル。
「そういや、このコンビニ行きつけだったな」と思いだすも遅し「いや、まあ」と目をそらす。が、ちょうど腫れた頬を見せてしまい、察したトオルはため息をつき「俺んちこいよ。泊めてやるから」と。
理性がぐらつきそうになったのを「ばっか、クリスマスで一晩過ごすなら、彼女んちでだろ」と笑って、やり過ごそうとしたのだが、トオルは応じない代わりに走ってきて、持ったままでいた財布をぶんどった。で、体当たりしてドアを押し開き、とんずら。
支払い済みとはいえ、財布がないことには帰れない。まさか、彼女に電車賃を借りるわけにもいかない。
買ったお茶と肉まんを放ったまま、すぐに追いかけて、暗い住宅街で鬼ごっこすることしばし、用水路にかかる橋に至ったところで、その真ん中で止まったトオルは、財布を流水に投擲。悪ふざけが過ぎるのに「お前なあ!」と詰めより、胸倉をつかもうとしたら「お前こそ、ほんと、悪い男だな!」と突きとばされた。
「聖夜の夜のおこぼれくらい、俺にくれたっていいだろ!」
夜空を裂くように怒髪天を衝きながらも、大粒の涙をこぼし「わあー!」と赤ん坊よろしく泣きわめいて。あからさまな発言をしたからに「もう俺らは終わりだ」と絶望しているのだろう。
俺にとっても、最悪な結果になったが、ひたすら涙に暮れるのを放っておけなく、手を引き抱きしめた。「やめろ!彼女がいながら!」を胸を叩くのに「別れたから」と返すも「うるさい!この悪い男が!」と泣きながら尚もじたばた。
否定も言い訳もせずに「そう、俺は悪い男だ」と応じたら、ぴたりと暴れるのをやめ「かっこつけんな、糞野郎・・・」と胸に顔を埋めて嗚咽を漏らしだした。「悪い男」と分かりきっていても、すがる手を放せないトオルが哀れでありつつ「我は悪い男」と開き直った俺も哀れなほど、救いようがなかった。
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