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あなたの喉仏をしゃぶらせて

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俺は喉仏にしゃぶりつきたい。女の胸ではなく、男の喉仏をしゃぶりたい。

と自覚したのは、よりによって高校一年。思春期真っ盛り、体の成長と共に精神的に不安定になったり、性衝動に振りまわされる、難しいお年ごろで「喉仏にしゃぶりつきたい」と四六時中、悶々とするのは地獄だった。

ややこしいのは、その欲求が性的なものでなく、恋愛や性愛の対象が同性でもないってこと。条件反射のようなもので、そう、いわばパブロフの犬。

フェチやマニアでもなさそうで「この喉仏はタイプ」「いただけない喉仏」と甲乙をつけるでなし、人類すべての喉仏に惹かれてしまう。喉が渇いて水を求めるように、対象に好意があるかないかは関係ない。

せめて恋愛や性愛の対象が同性だったら、すんなり望みは叶ったものを。おかずにさせてもらっているのは、がっつり女体。

男体では興奮も反応もせず、これまた難儀なことに、写真や動画の喉仏に舌なめずりはしない。そう、紙面や画面を舐めて慰めることもできないわけで、まあ、その絵面はアウトに思えるから、不幸中の幸いだったというか、なんといか。

つまり、男に面と向かって「喉仏をしゃぶらせて」と頭を下げる以外、方法がない。とはいえ、交際も、性的な行為もするつもりがない同性に頼んだら、断れるのは必至。

だけでなく、俺の高校生活、いや人生が終わる。「妖怪・喉仏しゃぶり」の汚名を着せられ、後ろ指をさされ笑われて、耐えられる根性はない。高校中退しても「なんとかなるさ」と口笛を吹けるような過信もできない。

というわけで「どうやったら喉仏をしゃぶれるか」と突きつめるのではなく、目をそらすほうに全集中をし、ひたすら歯噛みして、高校三年をやり過ごした。もしかしたら、三年の間に飽きるか、体質が変化するのではないかと、ほんの期待したものを、残念無念。我慢するだけ、飢えがひどくなるばかりで「どうせ今日で、終わりなのだから」とやけになりそうだったから、卒業式を欠席したほど。

気を抜くと、無意識にそこらの男を襲いかねない具合にまでなったが、大学は高校より制約がなく、融通が利いて、やりくりがしやすかったので、入学して、すこし一息つけた。「ばれたら、人生が終わる」と思いつめなくもなり、あらためて、合法的にリスクなく、喉仏をしゃぶる方法を模索。

で、閃いたのが、サークルの飲み会でのこと。二次会になって、男しかいなくなり、尚のこと、成人した酔いどれ先輩方は羽目を外して大騒ぎ。大泣きしたり、土下座したり、裸で奇声を上げたり。そばにいる人を巻き添えに、抱きついたり、プロレスをしたり、体中吸ったり、噛んだり、足を舐めたり、果てには、反応した下半身に笑いながら、大勢が手を伸ばしたり。

ややアウトな行為をしつつも、翌日、頬を赤らめるでなく、気まずくするでもなく「ぜんっぜん、昨日のこと覚えてねー!」と晴れやかなもので、動画で乱れっぷりを見せられても「俺、やっべー!」と周りとげらげら。一連の先輩方の酒乱による愚行を見て「こ・れ・だ!」と頭上に、見えない電球がぴかーっとなったわけだ。

酔っぱらって、同性の体を食む食むしてもノープロブレム。ついでに喉仏をしゃぶれる。しかも翌日には笑い話にして済ませてくれる。酒の席にこそ、活路はあると。

高校一年で喉仏に対するパブロフの犬になってから、一回もしゃぶれたことがないまま、いい加減、煮つまっている。ただ、目的達成の見込みが立つと、それまでの時間が長くても、へっちゃら。

「成人したら」「成人したら」とうきうき気分で過ごすうちに、あっという間に成人式を迎えて、翌々日に、サークルの親しい先輩主催の「ようこそ大人の仲間入りに!」と銘打った飲み会へ。「喉仏しゃぶり解禁!」と意気盛んに臨んだはずが、まったく酔えなかった。酔えない体質らしい。

もともと「ふり」をするつもりだったとはいえ、こうも素面で理性がびんびんだと、踏んぎりがつかない。「神様の意地悪」と酔っていないのに、泣きそうになりながら、水のように酒を飲んでいたところ「なんだ、お前え!しけた面してえ!」と酔っ払いに抱きつかれた。そのまま、頬にチュッチュ。

酔っぱらう芝居をするため、未成年のときから、参考になりそうな酔っ払いを観察していたとあって、今更、キス魔であたふたしない。ただ、相手を見て、目を丸くした。

ふだんから親交のある先輩ながら、酒に弱い人だったから。飲み会には参加しつつ、いつも酒の一滴も口にしないはずが。

成人をした後輩を祝福するため、思いきったのか。いや、安易にノリに流されない先輩らしくなく「なにかあったんすか」と心配したものを、チュッチュをやめないどころか、体重をかけてきた。床に押し倒され、今度は額にチュッチュ。

同性にキスの雨を浴びせられるのに、不快でなければ、興奮もしなかったが、先輩が体を上にずらしたことで、目の前に喉仏が。辛抱たまらんかったのもあるし「酒の弱い先輩なら、気にしないし、明日はきれいさっぱり記憶がないだろう」と見込んで、ついに喉仏に舌を這わせ、歯を立てずに食んだ。

とたんに上体を起こした先輩は、顔を赤くしつつも、見開いた目の焦点は合っていたもので。「え?」と違和感を抱く間もなく、両手で頬をつかまれ、唇にブッチュー。舌までねじ込まれて。


※  ※  ※


「お前が一年のころから好きだったんだ。でも、お前は人前でエロ本を広げて、男的な下ネタにはしゃぐような、ザ・女好きだったから、望みはないと思って。

まあ、未練たらたらだったから、酒の席によく、きていたのを見て、これはチャンスかなって。酔ったどさくさにキスをするくらい、許してほしかったんだけど、まさか、お前が・・・」

翌日、恋する乙女よろしく、頬を染めもじもじする先輩に、ばっちり覚えられていたし、告白もされた。満更でもなかったものを、惜しむらくは、念願に喉仏をしゃぶったところで、下半身は無反応、胸もときめなかったこと。

とはいえ、喉仏を食んだ瞬間、渇ききった喉に水が染みたような、性的でなく食欲的な快感に酔いしれたこと。極楽を垣間見たからこそ「もっと」「もっと」と物足りなさに駆られて、むしろ前より飢えてしまったこと。

結局、喉仏なしで生きられない身と痛感させられたとなれば、先輩の告白を無下にはできず「ええい、なるようになれ!」と頭を下げ「お願いします!」と勢いよく手を差しだした。

「どうか俺と交際してください!」

「っ・・・!」と感極まったように息を飲むのが聞こえたのに「う!」と胸に激痛を覚えながらも「ではなく!」と一生一代の阿呆な告白をしたもので。

「あたなの喉仏をしゃぶらせてください!お願いします!」





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