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一夜の過ちはなかった。はず

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講義室で友人と話しながら、席に着こうとして、忘れていた。普通に腰を落として、とたんに「うんぎゃー!」と生まれたてのような絶叫。ばったりと机に突っ伏し、そのまま身動きがとれずに、ひたすら痙攣をする。

「おいおいどうした」と覗きこむ友人に顔を向け「い、いや、今日、朝から肛門が腫れてて・・・」と伝えたら、目を見開き硬直。「どうした?」と返す間もなく「ああなんてこと!私はそんな子に育てた覚えはありませんよ!」とにわかに上体を反らして「オウマイガー!」とばかり額に手を当ててみせた。

ただでさえ、注目されていたのが、友人の突然の嘆きに「なんだなんだ」と講義室にいた奴らがわらわら。「肛門が腫れて、痛いんですって!不潔よ!」とオネエキャラのまま説明をすると、これまた顔色を変えた連中が「結婚するまで清い体でいなさいって云ったのに!」「こんな尻軽になって!育て方を間違えたわ!」「もうお嫁にいけないわよ!」と母親気取りで騒ぎだす。

人並みに下ネタが通じる俺だから、もちろん察して「うっせえ!俺の体は俺のもんだー!」と半分乗っかりつつ、一喝。手垢がついてしまった娘と、純潔を守らなかったことを責める母とのバトルごっこに、しばし興じて、教授がきたところで終結。結局「お嫁にいけない体になった」のを否定したかったのが、まさか、仇になろうとは。

講義が終わると、ごっこ遊びのつづきをするでなく、何事もなかったように友人と談笑しながら、次の授業に向かおうとして。「ちょっと、話、いいか」と声をかけられた。

振りかえれば、浦谷。同じ学科の同級生ながら、一匹狼なので、ほとんど交流がない。の割に、深刻な顔つきをするもので、なんの心当たりもないから、ただただ不思議がって、ついていったところ。人気のない廊下で切りだしたことには「肛門は俺のせいかもしれない」と。

あまりに予想外過ぎて、開いた口をふさげないでいるうちに、一通りの説明をされた。ことの発端は、三日前の友人宅での飲み会。酒を切らしたので、浦谷とは昔馴染みという友人が「家が近いから、持ってこさせてやる!」と零時を過ぎての迷惑呼びだし。

案外、浦谷はお人好しらしく、のこのこ酒を持参してきたところで、俺らを含め、できあがった酔っ払いに捕まり、飲酒を強要された。酒に弱い浦谷は、すぐにバタンキュー。朝、目覚めたところで、目と鼻の先でマッパの俺が寝ていたらしい。

「いやいやいや!違うから!俺、酒癖悪いんだよ!酔うといつも、裸になって踊りだして、ぶっ倒れて!脱いだ時点で記憶、ぶっとんでいるけどな!」

事情を聞いたら、さすがに呆けていられなくなり、声高に訴えた。が、相手にまともに言葉は通じなく「どうか、病院行ってくれ!」と肩をつかまれ、逆に力強く訴えられる。

「俺、クラミジアに感染しているんだ!」

酔いつぶれて、起きたら、そばに裸の男がいた。というだけで、一夜の過ちがあったと、判断したわけではないらしい。さっき講義室で「肛門が腫れている」「お嫁にいけない」と耳にして、自分の病気と結びつけたというわけか。

「って、なるほどそうか!ってなるか、ど阿呆が!肛門が腫れる原因は、ほかにもあるっつうの!」

一応、言い分は筋が通っているとはいえ、そもそも「一夜の過ちがあった」と認めるなんて正気ではない。「ぜってえ、病院にいかないからな!」と力一杯、胸を突いて逃げたものを、なにせ相手は正気でないから「俺が責任をとる!」と頓珍漢に意気込んで、どこまでも追いかけてきて。おまけに、心配して見にきた友人に聞かれて「お腹の子の父親はお前かあ!」と蒸し返して、おもちゃにされる始末。

それからというもの、まさに「責任を取る」とばかり、つわりが辛い妊婦に付き添うように、俺の世話を焼いた。送り迎えをするは、重い荷物を持つは、尻に優しい座布団を持ち歩くは、全面的に勉強のサポートをするは、学食でお盆を持ってきて、食器を返しにいくは「結婚前に汚らわしい!」と友人がしつこく茶化すのに「俺がすべて悪いんだ!」と全身全霊で庇うは。

反抗的な性格の俺は、高圧的にされると、されるだけ頑固一徹で踏んばるが、しおらくされると、割とちょろい。尻尾をふって追従する献身ぶりと、諦めず「どうか病院に」とチワワよろしく涙目で懇願しつづけるのに、ついには絆されて(肛門の腫れも中々、ひかなかったし)病院へ。

まあ、案の定「だたの炎症ですね」と医師に告げられたのだけど。端から「一夜の過ちがあるはずが」と肩をすくめていたような俺だから、診断結果を聞いても無感動。

いや「やっと浦谷から解放される」「ない責任をとらせるのも悪いしな」とほっとしそうなものだが、どうにも悶々として、浦谷が待つ待合室に、とぼとぼと向かった。探す間もなく、女性と向き合って立つのが目に入って。「ごめんなさい!」と女性が頭を下げるのを見て、察し。

(勘違いだけど)俺に感染させた浦谷も、誰かからクラミジアをもらったわけだ。ということに、あらためて気づいたなら、女性が去っていき、こちらに気づいた浦谷が「どうだった」と聞いたのに「う、うん、やっぱり・・・」と。

「なんで嘘吐いてんの俺!」と我ながら吃驚仰天したものを「そっか」と案外、さばさばとしたのにも驚いたもので。どこか浦谷がほっとしたように見えるのは、気のせいだろうか。一夜の過ちからして、気のせいな俺らに、なにかが芽生えることがあるのだろうか。

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