死んでもお前を愛さない

ルルオカ

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キスで冷え性はなおるのか

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俺は幼いころから重度の冷え性だ。そりゃあ、これまで通院したり、民間療法を試したり、専門機関、整体やフィットネスに頼ってきたが、高校生になるまで、すこしも改善せず。

もう一生、冷え性とはつきあう運命なのか。と諦めモードになっていたところ、ブログにコメントが。日々の冷え性の実態をつづりつつ、まだ知らぬ改善法を教えてくれるよう呼びかけていたのに、ある学者が「心因性の可能性が高いです」と。

心因性、つもり精神的な問題があるのではないか。というのは、とっくの昔に検証済み。カウンセリングを受けたし、精神科にも診てもらったが、異常は見つからず。

そのときの模様がブログには書かれていて、それを踏まえたうえで、学者は新しい着目点による質問を。「あなたは、これまで恋愛をしたことがありますか?」と。

恋愛をしたことがないから冷え性というのは暴論のようとはいえ、はっとさせられた。だって、実際に俺は高校生にして初恋がまだだし、あらためて考えれば、恋愛感情が希薄だし、恋愛関連の興味がなかったから。

特定の誰かを意識して、顔を熱くしたり、鼓動を早めたり、身を固くして脇に汗をかいたことはない。人の恋バナを聞いても「へー」と内心、鼻くそをほじくって、ドラマや映画、漫画などで、そういうシーンを見ても同じく「へー」で「きゃあ!もー!」と悶えることはない。

あらゆる手を尽くしても、冷え性改善の成果が上がらず、行き詰っていただけに、ダメでもともと。「恋愛=体温」の考え方がユニークで、興を引かれたこともあり、しばらくは、この学者の教えを乞うことに。

その考え方だと、恋愛すれば冷え性が治る。ただ、恋愛はしたくて、できるものでもない。生まれつきなのか、恋愛感情が乏しい俺ならとくに。

「だったら」と学者は提案。「内側から湧き上がらないなら、外側から刺激して、その気になってみる手があるよ」と。

手をつなぐ、腕を組む、抱きしめる、抱きあう、キスをすれば、相手がスキでなくても、胸が高鳴ることがある。このメカニズムを用い、体温上昇につなげられたら万々歳というわけ。

「なるほど」と早速、友人に協力を仰いで試したものを残念無念。肩を落とす俺に友人曰く「いや、俺らふだんから、スキンシップ多いし、これじゃあ平常運転じゃん」と。

「なるほど」と思いつつ、といって、さすがに「キスさせてくれ」とは頼めず。いくら冷え性改善のためとはいえ、偽の告白、偽の交際までしたくないし「どうしたもんか」と頭を悩ませ「そうだ!ニーチャンに頼もう!」と閃き。

ニーチャンは三つ上の幼馴染。親が家に不在がちとあって、幼いころは俺の家に預けられっぱなし。大学生になった今も、たまに夕飯を食べにきて、兄弟のように俺たちは親しい。

冷え性事情もよく知り、ふだんから心配して、こまめにマッサージをしてくれるニーチャンなので、思った通り「キスして冷え性改善か!おもしろそうだな!」と快く協力オーケー。「ただ、ファーストキスはとっておかないとな」と唇以外、頬、額、眉間、こめかみ、耳の付け根をちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ。

が、俺の心臓は平静、手足は氷のように冷たいまま。期待していただけ、また、なんだかニーチャンに申し訳ないようで、しょんぼりするも「馬鹿だなあ!」と背中を叩いて高笑い。

「まだ一回目だろ!お前の心の奥底に、恋愛感情が埋もれているんなら、引きずりだすのには、きっと時間がかかるよ!気長に見ていこうぜ!

それに、俺のことは気にしなくていいって!お前とはキョ―ダイのようなもんだし、こんなの、じゃれあう程度だから!お前がイヤなら、あれだけど、俺はタノシーよ!」

気遣ってのことと分かりつつ、前向き全開に笑いとばしてくれたのに心から励まされて、その日から毎日、ニーチャンの家に通い、毎日、ちゅ、ちゅ、ちゅ。とりあえず、一か月はやり方を変えずに、経過を観察しようと決めたのが、半月経ったころ異変が。俺ではなくニーチャンにだ。

いざキスをしようと向きあったら目を泳がせ、唇を触れるか触れないか程度に掠めさせて、おざなりにちゅっちゅっと。済ませると、とたんに顔を背けて「わるい、今、忙しくて」と部屋から追いだすし。

「やっぱ、男にキスしつづけるのはイヤなんだろうな」と思い、いい加減「もういいよ」と断ろうとした、その日。キススタート前、ふと目が合ったなら、次の瞬間、ニーチャンは真っ赤に。

「しまった」とばかり顔つきをして「ごめん!」とすぐさま頭を垂れた。「もう、お前にキスはできない!」と訴えるに、恋愛事に疎くても、察しられた俺は口をあんぐり。まさか、俺ではなくニーチャンに抜群の効果がでようとは。

「てことは、ニーチャンは今、熱いのか」とはっとし、血管が浮きでる真っ赤な拳と接触。その熱さが肌にじんわりと染みるようで「湯たんぽより、いいかも・・・」と吐息すれば、ニーチャンも肩を揺らしつつ、ため息。

拳をそのままに、もう片手を広げてのお誘い。幼いころは冷え性の俺のために、夜は一つの布団にくるまり、抱きあって寝てくれたとはいえ、今、頬を赤めるニーチャンと抱擁するのは、もちろん、ためらわれる。

これから気まずくなりたくない。できたら、ジーチャンになるまで、今のまま仲良くしたい。
と、考えたものの、なんだかんだ、てっとり早く、拳から伝わる熱欲しさに負けて、おそるおそる腕を伸ばして。

どうも、恋愛感情がないらしい俺は一生、冷え性が治らないのだろうか。でも、恋する人の体温に焦がれるのも、また一種の恋愛なのかもしれない。


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