4 / 33
キスで冷え性はなおるのか
しおりを挟む俺は幼いころから重度の冷え性だ。そりゃあ、これまで通院したり、民間療法を試したり、専門機関、整体やフィットネスに頼ってきたが、高校生になるまで、すこしも改善せず。
もう一生、冷え性とはつきあう運命なのか。と諦めモードになっていたところ、ブログにコメントが。日々の冷え性の実態をつづりつつ、まだ知らぬ改善法を教えてくれるよう呼びかけていたのに、ある学者が「心因性の可能性が高いです」と。
心因性、つもり精神的な問題があるのではないか。というのは、とっくの昔に検証済み。カウンセリングを受けたし、精神科にも診てもらったが、異常は見つからず。
そのときの模様がブログには書かれていて、それを踏まえたうえで、学者は新しい着目点による質問を。「あなたは、これまで恋愛をしたことがありますか?」と。
恋愛をしたことがないから冷え性というのは暴論のようとはいえ、はっとさせられた。だって、実際に俺は高校生にして初恋がまだだし、あらためて考えれば、恋愛感情が希薄だし、恋愛関連の興味がなかったから。
特定の誰かを意識して、顔を熱くしたり、鼓動を早めたり、身を固くして脇に汗をかいたことはない。人の恋バナを聞いても「へー」と内心、鼻くそをほじくって、ドラマや映画、漫画などで、そういうシーンを見ても同じく「へー」で「きゃあ!もー!」と悶えることはない。
あらゆる手を尽くしても、冷え性改善の成果が上がらず、行き詰っていただけに、ダメでもともと。「恋愛=体温」の考え方がユニークで、興を引かれたこともあり、しばらくは、この学者の教えを乞うことに。
その考え方だと、恋愛すれば冷え性が治る。ただ、恋愛はしたくて、できるものでもない。生まれつきなのか、恋愛感情が乏しい俺ならとくに。
「だったら」と学者は提案。「内側から湧き上がらないなら、外側から刺激して、その気になってみる手があるよ」と。
手をつなぐ、腕を組む、抱きしめる、抱きあう、キスをすれば、相手がスキでなくても、胸が高鳴ることがある。このメカニズムを用い、体温上昇につなげられたら万々歳というわけ。
「なるほど」と早速、友人に協力を仰いで試したものを残念無念。肩を落とす俺に友人曰く「いや、俺らふだんから、スキンシップ多いし、これじゃあ平常運転じゃん」と。
「なるほど」と思いつつ、といって、さすがに「キスさせてくれ」とは頼めず。いくら冷え性改善のためとはいえ、偽の告白、偽の交際までしたくないし「どうしたもんか」と頭を悩ませ「そうだ!ニーチャンに頼もう!」と閃き。
ニーチャンは三つ上の幼馴染。親が家に不在がちとあって、幼いころは俺の家に預けられっぱなし。大学生になった今も、たまに夕飯を食べにきて、兄弟のように俺たちは親しい。
冷え性事情もよく知り、ふだんから心配して、こまめにマッサージをしてくれるニーチャンなので、思った通り「キスして冷え性改善か!おもしろそうだな!」と快く協力オーケー。「ただ、ファーストキスはとっておかないとな」と唇以外、頬、額、眉間、こめかみ、耳の付け根をちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ。
が、俺の心臓は平静、手足は氷のように冷たいまま。期待していただけ、また、なんだかニーチャンに申し訳ないようで、しょんぼりするも「馬鹿だなあ!」と背中を叩いて高笑い。
「まだ一回目だろ!お前の心の奥底に、恋愛感情が埋もれているんなら、引きずりだすのには、きっと時間がかかるよ!気長に見ていこうぜ!
それに、俺のことは気にしなくていいって!お前とはキョ―ダイのようなもんだし、こんなの、じゃれあう程度だから!お前がイヤなら、あれだけど、俺はタノシーよ!」
気遣ってのことと分かりつつ、前向き全開に笑いとばしてくれたのに心から励まされて、その日から毎日、ニーチャンの家に通い、毎日、ちゅ、ちゅ、ちゅ。とりあえず、一か月はやり方を変えずに、経過を観察しようと決めたのが、半月経ったころ異変が。俺ではなくニーチャンにだ。
いざキスをしようと向きあったら目を泳がせ、唇を触れるか触れないか程度に掠めさせて、おざなりにちゅっちゅっと。済ませると、とたんに顔を背けて「わるい、今、忙しくて」と部屋から追いだすし。
「やっぱ、男にキスしつづけるのはイヤなんだろうな」と思い、いい加減「もういいよ」と断ろうとした、その日。キススタート前、ふと目が合ったなら、次の瞬間、ニーチャンは真っ赤に。
「しまった」とばかり顔つきをして「ごめん!」とすぐさま頭を垂れた。「もう、お前にキスはできない!」と訴えるに、恋愛事に疎くても、察しられた俺は口をあんぐり。まさか、俺ではなくニーチャンに抜群の効果がでようとは。
「てことは、ニーチャンは今、熱いのか」とはっとし、血管が浮きでる真っ赤な拳と接触。その熱さが肌にじんわりと染みるようで「湯たんぽより、いいかも・・・」と吐息すれば、ニーチャンも肩を揺らしつつ、ため息。
拳をそのままに、もう片手を広げてのお誘い。幼いころは冷え性の俺のために、夜は一つの布団にくるまり、抱きあって寝てくれたとはいえ、今、頬を赤めるニーチャンと抱擁するのは、もちろん、ためらわれる。
これから気まずくなりたくない。できたら、ジーチャンになるまで、今のまま仲良くしたい。
と、考えたものの、なんだかんだ、てっとり早く、拳から伝わる熱欲しさに負けて、おそるおそる腕を伸ばして。
どうも、恋愛感情がないらしい俺は一生、冷え性が治らないのだろうか。でも、恋する人の体温に焦がれるのも、また一種の恋愛なのかもしれない。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
攻められない攻めと、受けたい受けの話
雨宮里玖
BL
恋人になったばかりの高月とのデート中に、高月の高校時代の友人である唯香に遭遇する。唯香は遠慮なく二人のデートを邪魔して高月にやたらと甘えるので、宮咲はヤキモキして——。
高月(19)大学一年生。宮咲の恋人。
宮咲(18)大学一年生。高月の恋人。
唯香(19)高月の友人。性格悪。
智江(18)高月、唯香の友人。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる