俺と間男と昇り龍

ルルオカ

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俺と間男と昇り龍

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意外にそこは匂いがせず、変な味がすることもなかった。
ベッドや周辺に散らばる大人のおもちゃの中には、ベルトのついたディルドもあったから、彼女が装着して突っこんでもいいように、きれいにしてあったのかもしれない。

すぐには舌を入れないで、外側を、耳につくよう水音を立ててしつこく舐めあげ、様子を窺う。

「ああ、そ、あ、あん、そんああ、や、やだあ、ああん、男に、ん、はあぁ、男、なんか、あ、やあ」と喘ぎ声は、引くほど絶好調で、ぱたぱたと先走りが床に散っている音がしているなら、大丈夫だろう。

それでも、逃げたがるように盛んに尻を振るので、一旦、舌を放して、思いっきり尻たぶに噛みついた。「ひ・・・!」と怯んで身をすくませた隙をついて、一気に舌を差し入れ、舌先を小刻みに揺らしつつ、忙しく抜き差しする。

もっと騒がれるかと思ったのだけど、快感が過ぎて腹に力が入らないのか。
「はぁん・・・ああ・・あん」と甘く掠れた声で鳴き、体のほうは素直で、俺が舌を突っ込むと、もっと深みに導くように尻をつきだした。

「あ、あ、あん、ん、ああん、や、男に、はあん、だ、めぇ、男、なんか、んあぁ、お尻ぃ、あ、や、男、や、だめぇ」

最後まで「男なんか」と繰り返し言っていたけど「あん、あぁん・・・もうっ」と尻を舐められただけで、本当に達してしまった。

雪辱を遂げて、せいせいしたというよりは、やった!と妙な達成感を覚えたのだけど、次の瞬間、その余韻を吹き飛ばすように、けたたましい物音が立った。

音の鳴ったほうを見れば、狭い一直線の廊下の向こうに、ドアに拳を突きたて仁王立ちする、さっきスマホで見た昇り龍の男が。

唖然とした俺は、後ろで物音がしたのに振り返り、尻を上げたままぐったりとしていたはずの間男が、目にも止まらぬ速さで膝まで落ちていたズボンを上げ、起き上がったのを見て、さらに驚かされた。

呆けて見ているうちにも、Tシャツを掴んでベットに跳びのり、鍵を跳ねたなら開けた窓のサッシに足をかけた。

あまりにもの急展開に、間男のようにすぐに頭が切り替えられず、腰が抜けたように座ったままでいたところ、今にも窓から跳びだそうな、その一瞬の合間に、ちらりと視線を寄こされて。

と、同時に、間近で風船が割られたように、俺はぎくりとして、間男に習ってTシャツを掴むと、窓から外へと跳びだしていった。
間男はそんなに先に行っていなく、振り返らずに、ひたすらにその背中を追って駆けた。

後ろから追ってくる気配はなかったとはいえ、駆けるのをやめないまま、途中で二人でTシャツを着たりしつつ、街灯の照る夜道を走りつづけた。

が、ただでさえ、驚きと怖さで、ばくばくと打つ心臓にそんなに負担はかけられず、明るい通りに出る前に俺はギブアップをしてしまい、置いていくと思った間男も、背後が静かだからか、足を止めた。

「マジ、か、あの女っ・・・!」

膝に手をついて屈み、息を切らしつつ罵れば「は」と笑い交じりに息を吐かれる。

「ていうか、あの昇り龍の顔、見た?」

あの状況で顔を見る余裕なんてあったのかと、感心するような呆れるようなで、見上げたところで、街灯の下の間男も、Tシャツを握って息を苦しそうにしつつ、小気味よさそうに笑っている。

「一瞬、目が点になって、硬直したんだ。
そりゃ、そうだよなあ。

だって、俺たち、どう見てもセックスしているようにしか、見えなかったんだから」

なるほど。
恋人に「二人の男に襲われた!」と泣きつかれて、怒り心頭に部屋に殴りこんだら、言われた二人の男がセックスをしていた。

なんて、訳が分からなかっただろうし、しかも絶頂のところに、ちょうど居合わせたともなれば、余計に心境は複雑だろう。

不覚にも、つられて笑いそうになったのを、咳きこんで誤魔化した。
笑いを誘われるまでもなく、こうも状況が混乱を極めたなら、しかも、それでも間男が飄々としているのは、あっぱれというもので、もう怒る気にもなれない。

それどころか、一緒に必死こいて修羅場から逃げてきたせいか「お前も大変だったな」と肩を叩き、肯きあいたい気分だ。

「にしても、ほんと、あの女むかつくよな」とどうやら間男も、俺に仲間意識を持っているらしい愚痴を口にして「だから」とポケットに手を突っこんだ。

取り出した、しわくちゃの何枚かの万札を俺に向けてみせ、そして「あいつの金で、今日はぱあっとやろう」と奥歯まで覗かせ、笑いかけてきた。

部屋にいたときの、人を小馬鹿にしたような気だるげな表情とは、まるで違って、屈託のかけらもなかった。
大人のおもちゃで、イけない快感地獄を味わいさせられ、あれだけ「男でイきたくない」と嫌がっていたのを。

尻を舐められ屈辱的に射精させられた直後に、辺りに花を咲かせるように、よくもまあ、可憐に笑えたもので。
こいつは、やばい。
こいつは、頭がおかしい。
そう思うのに。

「俺の行きつけの店で、おいしいところあるから」とご機嫌なようにお札を握る拳を上げながら、背を向けて歩きだした間男に、ついていこうとして「う」と呻きそうになった。
間男に聞かれまいと声は飲みこんだものの、痛くて足を前に踏みだせない。

さっき、浮気現場の余韻が残るような彼女の部屋で、嫌になるほど喘ぎ声を聞かされ、みっともなく体をくねらせる、その痴態を見せつけれ、でも、そこは凍り付いたようにびくともしなかった。
のに、俺は今になって、ぎんぎんに勃起をしていた。

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