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俺が好きな人をきらいっていうな!
しおりを挟む高校生のとき、姉に2.5次元の舞台につれていかれて、俺は俳優の当真くんに一目惚れ。
舞台終了後、即ファンクラブに入会し、翌日にはバイト開始。
お金と時間が許す限り、当真くんの舞台に足を運び、グッズを集め、誕生日などに贈り物をして。
大学にあがってからは、バイト量を増やしつつ、勉学も怠らず。
というのも「好成績をおさめれば、俳優追っかけ活動を支援する」と親に云われたから。
息つく間もないほど忙しくも、当真君に会うため、応援するためと思えば、どれだけツラクキツイ勉強もバイトも、やり甲斐がある。
「生きるってタノシイ!」と胸弾ませるほど、充実した日々を送っていたのが、ひとつだけ不服が。
友人の今野が、当真くんの批判をすることだ。
大学入学で出会い、親しくなった今野は、アニメ、マンガ、絵画、小説、演劇、ドラマ、映画などなど幅広いエンタメ作品に詳しい、俺とはまた別種のオタク。
「アニメは低俗」と鼻で笑うように、どんなエンタメ作品だろうと見下さず、敬意をはらっている。
2.5次元の舞台や俳優にも偏見がないはずが、当真くんに対してだけは手厳しい。
「華がないのは致命的だな。
そういうオーラのようなものは、訓練して習得できるものでないし、いつか主演作を!ってあまり、入れこまないほうがいいぞ」
「このまえの舞台、俺、原作のファンなんだけど、キャラのイメージがちがっていた。
原作では、ニヒルで物静かなのに、やたらと、ぎゃあぎゃあ喚いて、なんか空回りしているみたいで・・・」
「やっぱ2.5次元俳優は・・・ってあんま、云いたくないんだけどさあ。
有名な劇団の舞台じゃあ、2.5次元っぽさが抜けなくて浮いてて、あちゃあって思ったよ」
もちろん、当真くん命の俺はだまっていなかった。
「俳優を、華があるないで評価するのは、つまらないよ。
たしかに、生まれつきの才能はあるだろうけど、試練に挑んで成長していく当真くんが、俺はスキだから」
「原作ファンの人は、思いいれがあるから、いろいろ意見をしたくなると思う。
だからって、そうじゃない人の意見『舞台は舞台で、ああいうキャラもいいね』というのもマチガッテいるわけじゃないだろ」
「当真くんは、新しい挑戦をはじめたばかりだ。
これから学んで経験を積んで、試行錯誤していくだろうし、まだ『これだから2.5次元は・・・』ってバカにするには気が早すぎるだろ」
「しょせん、ひいき目」と嘲られないよう、できるだけ感情的、攻撃的にならないよう説得したものの「いや、でもなあ」と今野は屁理屈をこねて、引きさがらず。
どちらも折れないで、いくら云いあっても埒がないうえ「あーもう、おまえ、うるさい!」と俺が匙が投げても「いいや、耳をかっぽじって聞け」と追いかけてくるし。
そのうち俺は理解を求めるのをアキラメタとはいえ、今野はいつまでも「ほんと当真はさあ」と嘆いて、からんでくる。
異常なしつこさからして「逆にストーカー的にスキなのか?」と疑うほど。
それにしても天邪鬼がすぎるし、理由がどうだろうと、当真くんをこきおろされては、胸がイタむ。
どうせ忙しい身だし「ワリ、俺、急いでいるから」としばらく、避けつづけたところ。
その日、当真くん大ニュースが!
なんと、国際映画祭で賞をとったことがある監督の、新作映画に当真くんが出演すると!
2.5次元業界では、人気の高い当真くんだが、まだまだ世間の知名度は低い。
そういう微妙な立場でいて、メジャーな、しかも本格的な大注目作品の出演は大出世だ。
そりゃあ、胸がすく思いだった。
「どーだ!」とこの吉報を突きつけたとき、今野がどんな顔をするのか想像すると、もう。
まあ、こんなときに限って、お互いすれちがって、会うことができず。
一週間後、やっと対面が叶ったものの、当真くん大出世ニュースを知っているはずの今野は、にやにや。
俺が「ざまあみろ!」と得意になる間もなく「当真くん、不倫したんだってな」とスマホ画面を突きつけて。
表示されているのは「巨匠監督の妻、敏腕プロデューサーと当真がホテルへ?」というネットニュースの見出し。
今野が概要を説明したところによると、監督の妻、敏腕プロデューサーとして有名な彼女に、当真くんが枕営業して役をもらったのでは?と疑惑があるらしい。
不倫の証拠としては、ホテルからでてくる二人の写真が。
ほかにもベラベラしゃべっていたが、途中から記憶がない。
気がついたら、自室のベッドで寝ていた。
放心しつつ、天井を眺めっぱなしに一日を過ごして。
お茶を飲んでから、またベッドに横たわって、コンドは睡眠。
ほぼ一日寝て、いい加減、起きたとはいえ、カーテンを閉ざしっぱなしの薄暗い部屋で、ただただ呆けていた。
スマホは電源を落として、部屋のスミに放置。
空腹も覚えないほど無感覚になり、思考も閉ざしていたものの「おい!大丈夫か!」と扉を叩く音が。
「うるさいな、放っておいてくれ」とムシしようとするも「開けてくれないなら、大家さんや警察に連絡するからな!」と叫ばれて、しぶしぶ腰をあげる。
扉を開けると、泣きそうに顔をひしゃげた今野が。
「今更」と癇に障ったが、俺が苛立ちをぶつけるより先に「ごめんなさい!」と土下座。
地面に額を擦りつけて曰く「不倫はまったくの誤報だったんだ!」と。
すさまじい手のひら返しに、すぐに飲みこめなかったとはいえ、そのうち腰が抜けたようになり、へたりこんだ。
土下座する今野の脳天を見下ろしても、怒りが湧かないで「なんで・・・」と呟く。
なんで、そこまで当真くんを愛する俺を目の仇にするのか。
単純に不思議がっているのが伝わったらしく、ゆっくりと顔をあげた今野は気まずそうに「いや、その・・・」と。
「お、おまえが、当真当真って、あいつのことばっかしゃべって、目をハートにしているのが・・・おもしろく、なくて・・・」
頬を染め、ちらりと俺を見て、目を伏せる。
おずおずと手に触れたテノヒラは熱い。
恋する乙女のように恥じらう今野を、驚くでなく、笑うでなく見つめて。
次の瞬間、邪険に手をふりはらったなら、勢いよく立ちあがり、腕をふりかぶった。
「俺をスキなら、俺がスキな当真くんをキラって、俺を傷つけるなあああ!」
あらん限り声を張って怒鳴りつけ、脳天に手刀をドーン!
顔を地面に叩きつけ「うぐ、ぐわあ!」と呻いたものを、情け容赦なく扉を閉めきった。
そのあと、扉を叩いたり、声をかけてこなく、さすがに大反省して帰ったよう。
一時間後、電源を入れたスマホに、今野からメッセ―ジが。
「ごもっともです」と。
それを目にして、すこし溜飲がさがったとはいえ「つぎはないぞ」とも思う。
ヤキモチがカワイイと許されると思ったら、オオマチガイだからな。
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