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マイヒーロー オワ マイデビル

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「おまえが、いかに友情に熱い男が、ナビ太に知らせてやらないとな」

内容に見あわず、いけしゃあしゃあと副店長が口にした一言は脅迫だった。

口惜しいが、鋭い洞察をして、人の急所を見抜いている。

俺がナビ太を意識しているのを、まわりにバレないよう、ふるまっていたはずが。
お見通しの副店長に、ナビ太を人質にとられて、まんまと手も足もだせない状態にさせられた。

それからというもの、ナビ太との接触、接近をせず。
笑ってあしらっていた、副店長のイヤガラセを、無抵抗に受けとめることに。

俺が脅しに屈しても尚、ナビ太を標的にするなら、だまっちゃいなかったが、大仏さんに耳打ちされたあとは音沙汰なし。
ただ、手だしせずとも、目の届く距離にいて、監視しているようというに、気がぬけない。

副店長に遠まわしに脅迫されたのを、もちろん、まわりは知る由がなかったものの、俺が急に大人しくなったからに、察しられただろう。

が、誰も「副店長となにかあったのか?」と聞いてくることなく。
まわりにすれば、俺は反抗的な態度をとっていたに「これで、副店長をへたに刺激しないで済む」とほっとしたようで。

ひねくれて、つい、そう見てしまうのか。

それも、しかたないこと。
副店長に一方的に虐げられ、耐えるしかない日日を過ごせば、心は荒むばかり。

ことなかれ主義の人人に見て見ぬふりをされるのもツライながら、大仏さんのようなお節介の、ワルギないアリガタキ助言が、なにより耳障りで。

「ナビ太はかわいそうだけど、気にするだけ自分が損をするだけなんだから、ほどほどにしなさい」

べつに副店長を裁きたいわけでも、正義を貫きたいわけでもない。
とはいっても、ナビ太を気にすることが「損をするだけ」で無価値だと、切りすてられては、やりきれず。

大仏さんの善意による鉄拳を食らわされ、精神はずたぼろ。
ワルイことは重なるもので、その日の夜、副店長に捕まった。

さんざん、罪のない人たちの無関心と偽善にいたぶられて、ノックアウト寸前だったから、公開処刑の場に引っぱりだされても、闘争心ゼロで呆けていた。
「どうせ、副店長に余計なことをするなって皆、思ってんだろ」と投げやりにもなっていたし。

ボケたジイサンのような哀れなざまを晒せば、副店長は鼻歌交じりに上機嫌。
いつになく「なあなあ」と馴れ馴れしく、くっついてきたが、もちろん手加減はなし。

「『売り子つぶし』、店にこなくなって、せいせいしたよなあ?」

大仏さんの情報によると。
副店長に強要され、ナビ太が土下座した相手、その客がよりによって「売り子つぶし」だったらしい。

知識不足の店員をイビリ、ナビ太に喧嘩をふっかける「売り子つぶし」は、でも、通う頻度からして、この店がお気にいりなのは明白。
きっと土下座されて、困っただろうし、ナビ太が跪いたのに、むしろ傷ついたはず。

なにより、大勢の客がいてもかまわず、意気揚々と公開処刑した副店長の狂気に慄いたにちがいない。

その日以降「売り子つぶし」の来店が途絶えたのも、ムリあるまい。
おそらく、副店長の企てとなれば、尚のこと。

「トモダチを失くして、ナビ太、かわいそうだなあ?」とせせら笑うに、確信犯で二人の友情を壊した可能性大。

「売り子つぶし」と接するときは、やや頬を緩めるナビ太の、ささやかなタノシミを、イヤガラセの一環で奪ったのだ。

と分かっても、まえのように、肩をつかんで迫ることができない。
いい加減、疲れたのもあるが、今は副店長へのコワさを自覚しているから。

ナビ太土下座事件を知って、副店長に食ってかかろうとしたとき。
逆上しつつも、戸惑っていもいた。

悪意をふりまくにしろ、あまりに節操がなくて。
一線を越えたように思うに「結局、この人、なにしたいんだ?」とあらためてワケが分からなくなったから。

たしかに、ナビ太を人質にとるのは、俺に対しての戦略としては有効。
なれど「売り子つぶし」を巻きこむ必要はあったのか?

副店長が金払いのよくない客に冷たいのは、いつものこととはいえ、あのとき辺りに大勢の客がいたのだ。
彼らは、さぞ気分をワルクしただろうし「あそこの店はヤバい」と噂を広めるかも。

店での副店長の素行によって、クレームが増えるのも毎度のことだが、公開処刑はやり過ぎ。

店どころか、本社にも多大な損害と不利益をもたらし、さすがに副店長の立場だって危うくなるだろうに。

保身も念頭になく突っ走るのは、目的なく、ひたすら欲求を満たしたがっているとしか思えない。

ナビ太を人質にとるだけで、十分、目的は果たせるところ。
とことん人を踏みにじって屈辱まみれにし、その悶絶するざまを眺めたいというのなら、もう趣味といっていい。

生粋のサドのオモチャにされるなんて御免だが、俺は店を辞められない。

皆は引きとめずに、目の上のタンコブには、ぜひ辞めてほしいだろうし、キャリアを捨てるのが惜しくなければ、経済的に余裕がないでもなし。
それでも。

俺のせいでナビ太がイジメられていると、思ってはいけなかったから。

ナビ太のために辞めるわけにいかなかった。

そうガンジガラメになっては「売り子つぶし」を愚弄されても、口だしできず。
ナビ太も頬を引くつかせつつ、だんまり。

上司相手でも容赦なく、舌打ちするナビ太を屈服させられたとなれば、そりゃあ、副店長は大得意。

「おまえ、ほんとキモイ、オタクだなあ!」と声高らかに笑いものにし「おまえも、そう思うだろ?」と俺に同意を求めてくる始末。
俺の悪口を叩き、ナビ太に肯かせようともして。

決して俺は首をタテにふらなかったものの、案外、ナビ太も身動きせず。
その手に乗るかと、ささやかな抵抗をするも「なんだお前ら、もじもじしやがってホモかっつーの」と茶化されてしまい。

ホモ呼ばわりされて、俺だけなら屁でもないのが、ナビ太とセットだと気まずい。

とても顔が見れないで、うな垂れながら、デスクの下で、腹を腕でおおった。
胃がきりきりと、悲鳴をあげてのこと。

がんがんと頭痛がするは、眩暈がするは、吐き気がするは、いっそ失神したいとまで思いつめたところ。

「ホモのお仲間がいると知ったら、関東本部の社長がヨロコブんじゃないかあ!」

笑えなさすぎる冗談に、まわりは息を飲み凍りついた。
尻目に俺はといえば、いい意味で、肩透かしを食らって、むしろ気がゆるんだような。

自覚なく、表情に露わにしていたらしく。
とたんに「ほんとキモイな、おまえ!」と苛ただしげな副店長の罵倒が。

「ホモって云われて、にやにやしやがって、なにが可笑しいってんだ!」

そりゃあ、笑えるだろう。

現状を打破する策はなく、辞めるわけにもいかず、にっちもさっちもいかないようで、俺には奥の手があるのだから。

心中覚悟に、ゲイもののDVDで副店長を陥れるなんて、お下劣おマヌケ計略が。

提案をした誰かさんが、大真面目に全面協力してくれるだろうと思えば、痛快でしかたなかった。




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