怪人ヤッラーの禁断の恋

ルルオカ

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魔人ダンダーラの略奪愛

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「君とまた仕事ができるのが、楽しみだよ。
そうそう、ちょっとしたサプライズもあったりしてね」

楽しみに思ってくれるのはいいとして「サプライズ」とは引っかかる。

どうも嫌な予感がして、サプライズといえど、何とか探りを入れられないかと思ったけど、そんな隙を与えないように「後、悪いけど、もう一つ頼みごとをしていいかな」と畳みかけられた。

「魔人ダンダーラの子が、さっき急にお腹を痛めて吐いちゃってね。
食あたりみたいで、今日は病院で安静にすることになったんだよ。

白人のいい子でさ、これまで無遅刻無欠勤だったものだから、つい頼りきりにしちゃって、他を当てにしていなかったんだよね。
急いで色々と当たってみたけど、あれだけでっかい子になると、中々見つからなくて。

今日だけでもいいんだ。

劇団に大きな子で、なるべくステージ慣れしてアクションのできる子がいたら、一緒に来て欲しいなって」

魔人ダンダーラは、小柄なのと大柄なのと二人いた覚えがある。

ショーの内容によって使い分けて、魔法重視のラスボス感を出したいときは小柄なのを。
アクションもする実力派なボス感を出したいときは大柄なのを出演させていた。

ちなみにアカルイオサムが、飛び込みで代役をしたときは、小柄なほうだった。

アクションはせず、音声に合わせ仰々しく魔法の杖を振るくらいしか、しなくて良かったから、代役をこなせたわけだけど、大柄のほうだと、そうはいかない。

同じ身長ほどの人材はいても、肩パットにマント、甲冑のような、ごつい防具を身につけてアクションをこなせる人物は少ないだろう。

劇団では逆に、アクションができる奴はいても、身長が足らない。
唯一、当てはまる団員、羅伊緒にしろ、今日は朝から晩までメディアの取材とラジオ、テレビ出演があると言っていたから無理だ。

おそらくピンクレンジャーの代役探しより、困っているだろうと思えば、今すぐに羅伊緒を電話で呼びつけたいところだけど、一目散に駆けつけてきそうなのが逆に恐いので「あーすみません」と言おうとした。
そのとき、けたたましくドアが開く音がした。

ドアを殴りつけるようにして開けたのだろう。
見やれば羅伊緒が不動明王のような顔をして、無言で稽古場を突っ切っていった。

行き当たった壁に歩く勢いのまま、頭突きをかまし動かなくなる。

突然の出現にして奇行を見せられたわけだが、俺はさほど驚かずに「すみません、ちょっと、待っててもらえますか」と電話を保留にして「大丈夫か」と声をかけた。

「マスコミなんて糞くらえだ」

壁に頭突きした体勢のまま、殺意のこもった一言をこぼして、それきり口を利こうとしなかった。

「取材とかどうしたんだ」「途中で投げ出してきたのか」と聞くべきなのだろうけど、本心では「羅伊緒にしては、よくもったほうだ」と思うだけに声のかけようがない。

「保守的な演劇界に殴りこんできた風雲児」「これからの演劇界を背負う次世代スター」なんて仰々しいフレーズを掲げられ、もてはやさている羅伊緒とはいえ、本人はどこ吹く風で、なんなら興ざめしているようだった。

賛美の言葉を浴びせ、神輿を担ぐ連中をあからさまに鬱陶しがり、蔑むように見て「てめえの目は腐ってんじゃねえか」「俺を利用して旨い汁をすすろうとすんじゃねえよ」とどれだけ偉い評論家だろうと無礼を口を叩いて憚らない。

こんな調子では、当然、メディアやマスコミを相手にするのも嫌がったものの「いつも大目に見ているんだ。すこしは客寄せパンだとして働け。じゃないと退団させるぞ」のと団長の命令に、意外にも羅伊緒は従った。

こう言っては悪いけど、羅伊緒は団長を敬っていない。
だから、団長に頭が上がらないわけではないし、ましてやマスコミにおだてられて調子づくタイプでなければ、俳優として名を上げることに熱心な野心家でもなかった。

にも関わらず、ライオンのように金髪を逆立たせながらも団長の言うことを聞いているのは「退団させるそ」の脅しが効いているからだろう。

周りの賞賛に耳を貸さないほど、欲も野心も関心もない羅伊緒は、でも劇団には執着心があるらしい。

そうなら、まともに台本を読んできたり、下手に周りに喧嘩を売らずに稽古に励んだり、本番でやらかして周りを混乱に陥らせないで欲しいのだけど。

「もう戻らないつもり?」と未だ反省する猿状態の羅伊緒に聞けば、睨まれた。
別に「戻れ」と説得するつもりはなかった。

ドタキャンされた先方には迷惑がかかるだろうとはいえ、前に読んだ羅伊緒の記事が散々だったことを思えば、多少、俺もマスコミ不信があるから、あまり同情はできなかった。

元より、劇団が来るもの拒まずに、質の悪い仕事も多く引き受け、その上で過密スケジュールを押しつけてきたのにも原因があるわけだから、短気な羅伊緒ならとくに耐えたほうだと、それこそ同情をするところ。

まあ、なんだかんだ、見てみたいのかもな。
と、思いつつ、羅伊緒の睨みを無視して、保留を止めたスマホに耳を当て言った。

「すみませんでした。
ちょうどいい奴が見つかったもんで」





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