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雷迷走恋模様
しおりを挟む友人は雷が怖い。くせに、真っ青な顔をしつつ「雷?え?気づかなかった」と(間抜けなほど、あきらかに)すっとぼけたふりをするし「べつに笑わないって」と云うも「はあ!?笑うってなにがあ!?そもそも、雷になんとも思ってませんけどお!?」と(いっそ図星のように)激昂して、言い訳がましく、まくしたてるし。
「笑わないって」と宥めたように、友人が雷にびびろうが、かまわないし、むしろ認めて、ありのまま、びびってくれたほうが、対処がしやすい。涙目でチワワのように震えて「雷でびっくりするわけないだろ!子供じゃないんだから!」と負け犬の遠吠えをするほうが鬱陶しく、外出先で雷鳴がしたときなど「なんなら雷に打たれてみたいっつうの!ほら、いこうぜ!」と無駄に奮起するから面倒くさい。
いつまでも、頑なにヒステリックに否認するから、そのこと自体鬱陶しく「素直になれ」と促すのも面倒くさくなって、このごろは放置。とはいえ、全国で一番、雷が落ちる地域に生みおちた皮肉な運命なれば、口だししなくなっても「俺、雷、怖くないもん!」アピールはやまず。「水責めして白状させてえ!」と苛立ちながらも、まともに取り合わないよう、耐えつづけての、ある日のこと。
友人と所属する大学の「ホラー研究会」。拠点の小部屋で友人と二人、遅い昼ご飯を食べ、俺はソファで昼寝。友人は期限の迫るレポート執筆。
空は雲がかっていたものを、春の陽気がして、ちょういい加減の涼しげなそよ風が吹きこみ、そりゃあ、涎を垂らして、ぐっすり。晴れわたったお花畑で「待てよお☆」「つかまえてみなさい☆」と女の子と追いかけっこをしていたのが「ドンビラガッシャーン!」が耳を打ったのと、鳩尾に打撃を食らったので「うぐはあ!」と強制お目覚め。
起き抜けながら、部屋が発光したのに「ああ」と。すこしして、また「ドンガラガッシャーン!」と騒音がして、やや壁が揺れたのは、近くに雷が落ちてのこと。
誰かさんと同じく全国一の地域に生まれ育って、でも、誰かさんとちがって、幼いころから平気だった俺にとって、飽きるほど慣れ親しんだものだが、腹の衝撃は不明。下半身のほうを見やると、うつ伏せで腹におおいかぶさっている友人が。
発光した直後に、俺の腹にダイブしたと思われる。が、理由は謎。「お」い、と呼びかけようとしたら発光し、肩を跳ねつつも友人は雷鳴に負けじと「か、かか、か、雷様をあなどるなあああ!」と絶叫。
「雷様」と聞き、とたんに腑に落ちた。「雷が落ちたとき、腹をだしていると、雷様にヘソをとられる」との迷信を真に受けているのだ。とあって、発光したときに、俺が眠りながら、シャツをめくったのを目にし「危なーい!」と大真面目も大真面目に助けようとしたのだろう。
大学生にもなって?と呆れるところ「ホラー研究会」の断トツ一等のビビりにして、どんなに、うさん臭く荒唐無稽な怪談や都市伝説でも、鵜呑みにするヤツだ。なるほど、正確には「雷様」を畏敬していたから「雷でチビらねーよ!」とむきになって正しているつもりだったのか。
いや、でも、その違いだけで「俺を信じないお前は人でなしだ!」と否定しきれるものか?とひかっかるものを覚え、いまだ腹に乗っかている友人を眺めて、ぴんときた。
勘なれど、確信満点に「ヘソフェチか・・・!」と思わず、頭を叩いて。肩を跳ねながらも、顔を上げず、腹にしがみついたまま、再三、発光したのに涙ながらに訴えたものだ。
「雷様あ!どうか、こいつのヘソは、ご勘弁くださあああああい!」
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