29 / 30
大仏鬼ごっこのお前の距離感がおかしい
しおりを挟むバスケ部の練習終わり。一年の当番の奴らと体育館のモップがけをしていたら、開けっ放しの扉の向こうを、他の運動部の帰宅連中が横ぎった。
「おさきー」と挨拶をしつつ、なにかを体育館に放りこんで。笑いを響かせて去っていったあとに、部員の一人が持ち上げてみると、ゴム製の大仏の被りもの。パーティーグッズや芸人がコントで使うような。
部活でしごかれて、疲弊しきっていても、なにせ、俺らは箸が転んでもおかしい年ごろだ。被りものを拾った奴が装着し、無言で追いかけてきてから「大仏鬼ごっこ」スタート。
大仏に捕まった奴は装着させられ「ぐあああああ!」と身悶えることしばし、ふと身動きしなくなり、あとはもう、むっつりだんまり、ひたすら部員を追いかけるという、のを繰りかえした。
そんな小芝居を挟みつつ、大仏特有の虚無的な表情で、一言も発さず疾走してくるだけでも、腹筋が破裂しそう。捕獲され、抱きつかれようものなら「ひー勘弁してえ!」と涙腺決壊だし、黙黙と迫る大仏と揉み合うさまに、周りの部員は床にのたうつように笑いこけたもので。
時間も忘れて大仏鬼ごっこに興じ、やっと俺に出番が回ってきて「よっしゃ!」と鼻息を噴いて走りだそうとしたとき「なーに、やっとるかあ!」と怒声にぶん殴られた。バスケ部顧問の雷親父の乱入で、強制終了。
全員正座をさせられ、説教されてから、雷親父の監視下で、念入りにモップがけ。その間、俺はずっと大仏を被ったまま。
没収せずに放置したのは、これも一種の罰なのか。正座して、うな垂れる大仏。肩を落としつつも、熱心に隅々までモップがけする大仏。
俺自身、大仏だったので、客観視はできなかったけど、想像するだけで噴きだしそうだったからに、それこそ虚無的な表情で、焦点の合っていない目をした部員たちは、死に物狂いで堪えていたのだろう。すこしでも、にやつけば、再び、雷親父の逆鱗に触れることになるから。
地獄のような試練を乗りきり、最後に友人と二人でモップを片づけていて「はー死ぬかと思った」とため息をついたら「いや、お前、愉しんでいたんじゃないか?」と眉をしかめられた。「もう雷親父はいないっていうのに、大仏被ったままだし」と指摘され「えーそんなわけないじゃん」と不服そうに返しつつも、どうせ見えないからと、にやにやする。
「本当にわざとじゃないのか?」と顔を寄せて、目の穴から覗きこもうとする友人。「え、ひっどーい。俺をそんな奴だと思っていたわけ?」とおちゃらけて応じ、いい加減「その通りでーす」と開き直ろうとしたけど、顔の接近はとどまらず、へこんだゴムが当たったのに口をつぐんだ。
すぐに顔は退き、ゴムも跳ね返ったものの、口を半開きのままフリーズ。ブザービーターされ逆転負けしたかのように呆ける俺を茶化すでなく、心配するでもなく「早く帰らないと、また雷親父が降臨するぞ」としれっと云いやがって、体育館倉庫から友人は小走りにでていった。
足音が聞こえなくなってから「はあー!?」と遅ればせながら激昂し、とにかく友人を捕獲せねばと、踏みだそうとしたとき。倉庫の開いた扉の向こうに、仁王立ちの雷親父。
「なあに、もたもたしとるかあー!」
大仏のままでいたのが、よかったのやら、なんなのやら。おかげで、ゴム越しとはいえ、友人にファーストキスを奪われたわけだけど、顧問にも正体がばれなかったもので。「誰だ!お前!」と被りものを剥がそうとした手をよけて、脇をすり抜けた俺は、まんまと大仏のまま、逃げおおせたのだった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
工事会社OLの奮闘記
wan
BL
佐藤美咲は可愛らしい名前だが、男の子だった。
毎朝スカートスーツに身を包み、ハイヒールを履い て会社に向かう。彼女の職場は工事会社で、事務仕事を担当してい る。美咲は、バッチリメイクをしてデスクに座り、パソコンに向か って仕事を始める。
しかし、美咲の仕事はデスクワークだけではない。工具や材料の 在庫を調べるために、埃だらけで蒸し暑い倉庫に入らなければな らないのだ。倉庫に入ると、スーツが埃まみれになり、汗が滲んで くる。それでも、美咲は綺麗好き。笑顔を絶やさず、仕事に取り組 む。
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
学園もののBLゲームにモラルがなさすぎて風紀委員の貞操が危ういです
ルルオカ
BL
あまりにゲームで学校中で男子高生がエッチをするのに「モラルがさすぎ!」と怒る現実の男子高生。
そんな彼が風紀委員となって取り締まるのだが、一人だけ強敵がいて・・・。
2000字前後のエッチでやおいなBLショートショートです。R18。
この小説を含めた四作を収録したBL短編集を電子書籍で販売中。
詳細が知れるブログのリンクは↓にあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる