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眠れないキミとずっと
しおりを挟むサカキが家に泊まりにきたとき。
朝、起きたら、俺のベッドにサカキがぐーすか。
床に敷いた布団に寝ていたはずが、いつの間に?
まあ、トイレからもどってきて、寝ぼけたまま、まちがえてベッドにあがったとか、そんなところだろう。
そう考えつつ、アクビをして、あらためてサカキを見やる。
寝息を潜めての、死んだような熟睡ぶり。
髪をどかして、寝顔を拝もうとしたら、指が頬に触れるか触れないかで、目をかっ開き、跳ね起きた。
そのままの勢いで、俺の手をがっしりと両手でにぎり、叫んだもので。
「やばい!チョー眠れた!」
今日は日曜日。
朝食を済ませたあと、俺の部屋にて、あらためて事情聴取。
すこし緊張した面もちでサカキが打ちあけたことには「中学から、眠りがあさくなったんだ」と。
それから、夜に目覚める回数が多くなっていき、今では三十分寝ては、三十分起きてを繰りかえしているという。
おかげで夜の睡眠時間は半分。
日中、合間合間に眠り、補っているとはいえ、なにせ俺たちは、いくら食べても寝ても足りないような育ち盛りだから。
「なんか体も気分も重くて、毎日、HPゲージ半分で過ごしているというか・・・。
親や、まわりにばれたくないから、なんとかゴマカシテ、ふつうっぽく見せているけど」
学校で、常にべったり、つるんでいる俺さえ、寝不足の症状を察知しなかったくらいだから、相当、ふだん気合と根性で乗りきっているのだろう。
気づけなかったのを悔しがりながら「かわいそうに」と心から同情もした。
だって、俺はカナラズ一日八時間確保しているほど、眠ることがスキだったから。
もし自分がサカキのようになったら・・・と脳内で疑似体験をしてみて「生き地獄だ!」とつい頭を掻きむしって。
「そりゃあ、ツラかったろうな・・・」
髪を乱したまま、半泣きで呟くと、目を丸くするサカキ。
しばし逸らした目を、また、俺に向けて「あ、その・・・」と切りだしにくそうに、もごもご。
「断ってくれても、ぜんぜん、かまわないからさ。
も、もし、よかったら、こうして月に一回、おまえんちに泊めてもらって、そんで、添い寝してくれないか?」
キョウシュクしまくっているものの「なんだ、そんなことか」と拍子ぬけ。
親にも睡眠不足のことを、打ちあけていないというに、ましてや添い寝を頼むなんて、そりゃあ、サカキにとってはハードルが高すぎるのだろう。
が、俺のほうは「定期的なお泊り会、たのしそー」と呑気なもので「サカキくんみたいな息子がほしかった!」と絶賛した母にしろ、大歓迎のはず。
「まあ、一応、親に聞いてみるけど、俺はべつに、なんもかまわんよ。
なんなら、週一でもいいけど」
「は!?いや、それは、さすがに・・・!
だって、俺んちは、泊めてやれないんだから!
おまんちばっか、週一でなんて、申し訳ないよ!」
「睡眠不足の改善のとっかかりを、やっと見つけたんだろ?
だったら、できるだけ俺は協力してやりたいし、思い悩む本人のおまえこそ、もっと図図しく、睡眠不足解消を目指せよ」
「申し訳ないなんて思っている場合か」と叱りつけたのと「やだあ!第二の息子ができたみたい!」と母の歓喜の舞を見せたことで「いや、その変な頑固さ、なんなのよ・・・」とぼやきつつ、サカキは折れて。
「できるだけ協力したい」は本心。
となれば「男同士なんて・・・」と抵抗感や恥じらいはなかったが、心配がひとつ。
俺の体温が高いことと、熱がりなこと。
べつに密着して寝るつもりはないといっても、自分の体の放熱が、睡眠の妨げにならないか。
熱がって「うーんうーん」と唸り、寝がえりをうつのが、これまた邪魔にならないか。
懸念しつつも、話したら「そんなに気を使われるなら、やめる!」とわがまま(?)を再発動しかねない。
「まあ、一回試してみないことには」とはじめての週一のお泊り会に臨んだのだが、まったくの杞憂で。
電気カーペットなどの人工物と、やはり人肌はちがう。
肌にしっくりくる、ゼツミョウな加減のぬくもりで、時間が経っても、暑くるしくなく、布団のなかが、蒸して、こもることもなく。
陽だまりで眠っているような快適さが、ずっとつづき、目が覚めたのは、午前十時ごろ。
いつも日曜は、八時ごろ起きるはずが・・・。
先に起きたサカキも、よく眠れたのか。
「おはよう」と薄紅の頬を艶めかせ、笑いかけたもので。
添い寝の効能は、サカキだけでなく、俺にも、もたらされた。
効能というか、眠ることがスキな俺にしたら、極上の快眠は、もはや身にあまるご褒美。
「無償でご褒美をもらっているようで、なんか居たたまれない!」とそわそわしたし、睡眠不足に悩むサカキのそばで「俺だけ極楽気分を味わうなんて・・・」と、こちらこそキョウシュクしたほど。
まあ、そうやって気が引けた分、サカキの気がねは軽減されたらしい。
人の家にオジャマする、最低限の礼儀を弁えつつ、まえより、リラックスするように。
俺と眠るとき以外は、相変わらず睡眠不足らしいものを「すこし、気だるさがなくなった!」と笑うサカキは、お世辞でなく、うれしそうで。
中学から四年も悩んできたのだから、気長に見守ることになりそう。
俺得とあって、望むところであり、このまま、しばらくは順調に快眠ライフがつづくと思っていたのだが・・・。
その日は俺が先に起床。
起きあがって、ぼんやりとしていたら「う、ん・・・」と聞こえて、なにげなくサカキを見やったところ。
天使といって過言ではない、赤ちゃんのような寝顔が。
もともと、サカキは小柄で、たまに中学生にマチガエられるほど幼い顔つきをしているとはいえ、この半端ない寝顔の輝かしき無垢さよ。
みょうに胸を高鳴らせて、見いっていたら、そのうち起きて、涎を垂らしたまま、薄目にこちらを見あげて。
「へにゃり」という擬音語がぴったりの、気のぬけきった笑みを見せられ、体温急上昇。
口から心臓がでてくるような錯覚をして、口を手でおおい、奥歯を噛みしめたもので。
それからというもの、添い寝をするとき、はじめのほう目がぎんぎんとして、眠れなくなった。
「おやすみ」と二人して布団インすると、とたんに、あの極上無防備な寝顔と笑顔が思いだされ、心臓ばくばく、全身が沸騰。
「せっかく貴重な熟睡を妨げては・・・!」と荒れる心音と発熱をしずめようと、ヒッシに素数を数えているうちに、まあ、爆睡はするのだが・・・。
起きたときは、体中、こり固まっているし(睡眠時間は十分なのに)謎の疲労感を覚えるし。
サイワイなことに、添い寝する相手の異常な体温や心音を、サカキはまるで察知せず、心おきなく、週一の快眠を貪っているよう。
一方で、回を重ねるごとに、こちとら心身をすり減らすように疲弊していったが、そのことをサカキには教えず、なんなら、ばれないように気をつけたほど、添い寝をやめようとしなかった。
せっかく睡眠不足の改善の兆しがあるのに、足を引っぱりたくない。
との思いもありつつ、それだけではないような・・・。
むきになったように添い寝をつづける、その真の理由を見いだすまえに、週一のお泊り会に異変が。
その日、俺ら一家が、遠くにいる親戚の法事にいくことなって。
「俺一人だけ、のこってもいいんだけど、親戚のほうが、みんなの顔を見たいっていうから」
「ばーか、なんで、そんな、しょんぼりしているんだよ。
もともと、俺のカッテな都合につきあってもらっているんだから。
逆に、いつでもエンリョなく断ってくれたほうが、こっちもエンリョしないで済むよ」
「そうなんだけど・・・」とぐずるように呟くも「あ、やべ!」と遮られる。
「休み時間中に、先生に、プリント提出しなきゃならないんだった!
わりいけど、俺、さきに教室にもどるな!」
俺たちが、立ち話をしていたのは、人気のない廊下。
突きあたりの壁近くに立っていたサカキが、俺のよこを通りすぎようとしたのを、思わず腕をつかんだ。
そして、これまた思わず。
「な、なあ!俺んち以外の家に泊まらないでくれるか!」
情熱的に訴えたそばから「はあ!?なに口走っちゃってんの!?」と自分で自分にツッコミ。
よりによって、この瞬間に、なにがなんでも添い寝をしたがる理由が判明。
「心の準備なくて、どストレートに思いの丈ぶちまけちゃったじゃん!」とそりゃあ、赤面したものだが、なんと、やおら振りかえったサカキも顔どころか耳や首まで真っ赤か。
「な」と声をあげる間もなく「ばーか!」と手を振りはらって。
「おまえの心音、夢まで響いてくるんだよ!」
涙をちらしながら怒鳴りつけ、猛ダッシュでとんずら。
サカキの背中が見えなくなってから、やっと、もろもろ飲みこめて、頭が再噴火。
四十度を超えていそうな発熱に、とても立っていられず、ふらふらと壁にもたれたなら、しゃがみこんで頭を抱えた。
一回休んでの、週一のお泊り会は、これまで以上にキビシイ試練になりそうで、俺のクナンはまだまだ、つづきそう。
それでも、やっぱり、添い寝をやめたくないし、だれにも、この座を譲りたくなかった。
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