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第1章 幼年期からの始まり

その9 黒い森、白い森

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        9

「ここが黒森? 噴火で火山灰を被った森だと聞いてたんだけど」

 ついでに、噴火?
 もしかして異界じゃなくて現実の世界に、おれたちは派遣されて作業していたんだろうかなどと考えたりもしていたのだが。

 そこには、まったく噴火などあったようすではない、広大な森があった。

 初めて見る景色だ。今までに行ったことのある土地とはちょっと感じが違う。
 少し、寒い。
 緑濃い広大な森、木々は高く、梢は遠い。

『三十年も経てば再生もする。ましてここは「白竜(アルブス・ドラコー…albus doraco)」のやつめが管理しておる領分じゃからの』

「え? 白竜?」
 それには驚いた!
 初耳だよ!
「もしかしてカエル、じゃない青竜様の、仲間?」

『そうじゃよ。われらは色の竜、と言う存在でな。白とか黒とか銀とか…全部で何人いたかのぅ。昔のことで、ちと、よく思い出せぬな。イル・リリヤ様から直接、命を受けたのじゃ』

「色の竜?」

『あれは短気でな。もともとこの地で起こった三十年前の噴火も、あの女と喧嘩したのが原因じゃったからのぅ。若気の至りよ』
 ふと遠い目をするカエル様。

「カエル様! そんな、とぼけてもダメですよ!」

『ははははは! カエルではないと言ったろう。まったく面白いやつよのう。さあ、行こうぞ。みなは、もう先へ行ったぞ』

 青竜様の後に続いて、森を出た。

 目の前に、だだっ広い草原があった。
 そこに点々と散っている白いもこもことした生き物?

「えっと。あれって確か」

「羊よ。放置しといたから、野生に帰っちゃったわね」
 シエナ先輩が、くすくすと笑う。

「後で、毛を刈り取るまではまだ放牧しておきましょう。それより、向こうに見えている雑木林に向かうわよ」
 先輩が笑って。
 一瞬ののちに景色が変わった。

 なんだ?

 えっと。
 足元に目が行く。

 何か落ちてる。
 茶色くて小さな、実?

 どんぐりだ!

「そうか、先輩、ここはどんぐりの林なんですね!」
 うれしくなって、シエナ先輩をつかまえて言った。

「よくできました!」
 シエナ先輩は、すかさず褒めてくれる。なんていうか、全部うまい!

「へえ?」

「食べられるどんぐりよ。ご褒美に、皆、自由に散歩してきなさい! どんぐりを拾うのを忘れずにね。あく抜きをしなくてもいい品種だから」

『じゃが、みな、あまり遠くまで行くでないぞ! 儂は、いまいましい白竜めに挨拶をしてくるでな。時にはやつの顔を立てておかんと、後が面倒なのじゃ』

「青竜様。お供いたします」

『シエナ、儂は保護者のいる年齢ではないぞ』

「だって青竜様は、謝るのが得意ではないじゃないですか」

『……しようがないのぅ。じゃあ、ついてきてくれるか?』

「はい。喜んで! 青竜様!」

 森の奥へ入っていく青竜様とシエナ先輩を見送って、おれは、アールやイルダや残った仲間たちと、どんぐりを拾っていた。
 そのはずなのだが。

 気が付くと、おれは見知らぬ場所にいた。

 まったく別の空間に、紛れ込んでしまったようだ。

 何しろ見渡す限り、周囲はすべて純白のものばかりだった。

 深く広大な森の木々も。
 下生えのくさむらも。
 すべてが、白いのだ。



「もしかして、これ…白い竜の、異界…だったりして?」


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