妹なんかじゃないっ

紺野たくみ

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第1章

その16 エイプリルフールお花見頂上合戦!(16)ツンデレな守護精霊

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                    16

「香織さんの声、ずっと聞こえてたよ。ありがとう……」
 嬉しそうだな、充。
 とろけるような表情をしてる。
 こいつ! ロリコンだったのか? 充が高校一年(来週には入学式だ)で、香織さんが見たところ七、八歳じゃ、グレーゾーンだよな……

「聞こえてた?」
 香織さんは充に抱きしめられても嫌がりもしていない。誘拐犯のボスと戦って守ったので、株を上げてるんだろう。

「うん。おれを心配して、杏子さんをかばって。でも、自分のことを後回しにするのは、だめだよ」
「わかんない。そんなつもりじゃない」
「じゃあ気づいてないんだ。これからは、ちゃんと自分のことも大切にしてくれよ」
「……おまえが言うなら。そうする」
 香織さんは、安らいだ表情をしていた。

「カオちゃん! 香織! よかった、ぶじで」
 杏子さんが香織さんに飛びついて、ぎゅーぎゅー抱っこ。
「きょ、キョウコ?」
 困惑している香織さん。
 充もまだ「絶対に離さない」勢いでハグしてるし、杏子さんも対抗意識を燃やしてるみたいに、香織さんをハグする権利を主張する。

「どうなっちゃうかと思ったわ! 犯人たちもだし、あのボスってヤツ、サイテー。頭のおかしい赤毛のニーチャンも、変態なのバカなの頭悪いの?」
 開放感と安堵からか、杏子さんはよくしゃべり、怒り、笑った。

 充は、香織さんから手を離した。
 今夜初めて出会った自分なんかよりも、親友の杏子さんと一緒にいるほうが。安心できるだろうから。
 ……充なら、きっとそう考えているはず。

 二人の少女は抱き合ったり泣いたり笑ったりおしゃべりしたり。主に杏子さんがマシンガントークで。
 やがて落ち着いた二人は、童子姿の神様と、銀髪美少女……自称、香織さんの守護精霊に、やっと気づいて、向き直る。
「落ち着いたようじゃの。今さらじゃが、我は『神』の代理人のようなものと思うてくれればよい。名前は、無い。好きに呼べ。……そして、こちらは」
 と、銀髪美少女を振り返る。
「異界に在る者なれど、ぬしの守護精霊である。助けてほしいと望んだのは、この者ぞ。感謝ならば、この娘にのべるがよい」
「ちょっと! やめてよ、そんな恥ずかしいこと!」
 意外なことに、守護精霊は、……照れた。

「えっと。えっとね。たすけてくれて、ありがとう!」
「ありがとう!」
 香織さんと杏子さんから、かしこまってお礼を言われた銀髪美少女は、一瞬、きょとんとして。
 それから、ゆっくりと、幸福そうな微笑みを浮かべた。

「うふふふ。どういたしまして。ちょっと無茶したけど、その甲斐はあったわ」
 くすくすと、笑う。耳に心地よい、きれいな声で。
「お礼を言うわ。充、雅人。あなたたちが頑張ってくれたから、この世界の香織と杏子の未来が繋がったわ」

「おれたちが?」
 きょとんとする充。
「そんなにがんばってないよ。がんばったのは香織さんと杏子さんだし。でもまあ充は、よくやったよ」
 おれは素直に認める。
 正直、充は、がんばった。
 あの赤毛の悪魔に、殺されたもんな。ほんとに、美少女精霊がいなかったら、あのまま死んでいた。
「謙虚だこと。そもそも、あたしが、あなたたちをこんなところまで導いたのに。怒らないの? 勝手に巻き込まれて」

「思わない」
 きっぱりと、すぐさま充は言った。
「香織さんが助かった」

 おれも、言う。
「杏子さんもだ」

「ふぅん。気に入ったわ。人間にしては、まあまあね」
 美少女精霊は、満足げにうなずいた。

「やっぱり、ぬしは、素直でないのう。喜べばよいものを」
 童子の姿をした『神様』が、ぼそっと。
「そういうのは、たしか『つんでれ』と」
「うるさいわね!」
 これが神様と精霊の会話とは。

「あたしはあなたたちの守護精霊。ラト・ナ・ルア。……別に、覚えておかなくてもいいけどね。あなたたちは、いずれ遠い未来に、あたしと関わり合う魂だから。穢れなんか寄せ付けたくないの」
 頬を少し赤くして、美少女は、言った。
「香織、杏子。この男の子達が助けてくれたのよ」

 杏子さんと香織さんは、顔を見合わせ、しばらくして、杏子さんが一歩、進み出た。
「ありがとう、おにいさんたち。初めて会ったのに、こんなに、傷を負ったり、殺されそうになったりまでして、助けてくれて」

「いや、そんなの当然だから」
「そうだよ。困っている女の子がいたら誰だって、こうするよ」

「誰でもじゃない。きっと、ここまでは、してくれないよ」
 こう言ったのは香織さん。
 そして杏子さんも頷いて。
「自己紹介もしてなかったなんて、いま気がついたわ」
「ほんとだ!」
「あたしは、伊藤杏子。この子は、並河香織っていうの。あたしたちは、20**年生まれで、七歳。でも、おとなっぽいってよく言われるのよ」
 杏子さんは、胸を張った。七歳という年齢にふさわしく、ささやかな。

「え?」
「えっ!?」
 ……おれと充は期せずしてハモった。

 二人が告げた、生まれ年は。
 おれたちと同じだったのだ。
 なのに、なんで。

 おれたちと杏子さんたちは、年齢が違うんだ!?

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