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第八章 お披露目会の後始末
その17 伝説の王さま、出張授業
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レベル1のままだった、あたし(アイリス・リデル・ティス・ラゼル)の、魔法の修行が本格的に始まることになりました。
教師はもちろんアルナシルさま。
生徒はだれ? たくさんいる青竜幼稚園(?)組の全員だと思っていたら、衝撃の事実が発覚しました。ほかのみんなは魔法を覚える必要はないから学ばなくてもいいんだって。
もちろんサファイアさんは成人で、公立学院を卒業した一人前の魔法使いだから。
ということは……
生徒は、あたし一人だけ!?
マンツーマンじゃないマンツー・リトルガール?
これならとびきり早く上達するわよってサファイアさんはフォローしてくれたんだけど。
ちょっとハードじゃないかしら?
……いいえ。
困惑してる場合じゃないわ。
あたしたちを「ちょっとそこまでお出かけ」なんて言いくるめて、この青竜さまの統べる『水底の異界』(いまだに大陸のどこにあるのかもわからないです)に連れてきて置き去りにしたカルナックお師匠さまに、少なくとも魔法においては立派に成長したところを見せつけるのよ!
と、サファイアさんが拳を振り上げて応援してくれている。
そして青竜さまの弟子たちも、なんだかわけがわからないままに応援してくれて、シエナさま、青竜さま、白竜さまが見守る中で。
特別出張野外授業、始まりました。
会場は学び舎兼寄宿舎の、外庭です。
ここは運動場でもあるので、木々や畑があるわけじゃなし、威力のある魔法を放っても問題ないらしい。
※
特別講師アルナシルさまは、この地を訪れたときには寒冷地用の服をまとっていましたが、今は薄手の半袖シャツに七分丈のすとんとしたズボン、足元はサンダル履きというカジュアルな衣装に着替えて、校庭に立ちました。
生徒のアイリス・リデル・ティス・ラゼルと、向かい合って立つ。
アイリスは自前の生成り色……灰褐色のリネンワンピースに木綿の白いエプロンドレス、足元は履きなれた編み上げ靴で。
まるで今から対決しようかという意気込みであった。
「最初に言っておく。アイリス・リデル・ティス・ラゼル。そなたは強くなる」
開口一番、腕組みをしてアイリスを見下ろし、アルナシルは言い切った。
それを耳にしたサファイアは気をもむ。
(まさかと思うけど、それってアイリスお嬢様がムキムキになるってんじゃないですよね? まだ六歳の幼女なんで、筋肉増強とか困ります! いえカルナックお師匠様は面白がるでしょうけど、ご両親とエステリオ・アウルは白目をむいてぶっ倒れちゃうわ!)
ハラハラしていたのだが、ここで一介のヒトであるサファイアが差し出たことをいうわけにもいかず、黙って見守り、無事を祈るしかないのだった。
ここは竜の聖域で、相手は伝説の中の人物……『北風の向こうの国』の呪われていた王子、そして竜の養女であるシエナを娶り呪いがとけて、後世まで賢い王とたたえられているアルナシル(勝利)王だ。
彼に異を唱えることができるのは竜たちのほかにはカルナック師くらいのものだろう。師匠は『世界』の恩寵を受ける、稀有な存在なのだ。
「強く、なれるのですか、アルナシルさま」
「なれるのですか、ではない。なれる。いや、なるのだ。呪いを乗り越えた、この、我が保証する。それと、授業の間は、先生と呼びなさい。返事は、『はい』のみだ!」
「はい!」
「自分はレベルが低いから大きな魔法が使えない? マイナスの思い込みはいらん。捨てろ」
「はい、先生」
「実施あるのみだ。やるぞ。身体でコツをつかみ会得できるまでな」
「は……はいっ!」
「深呼吸! 息を大きく吸って止めろ。ゆっくりと吐き出しながら同時に魔法を放て」
「アルナシル先生、魔法の発動方法、アイリスはまだ教わってないです!」
「まだ?」
アルナシルは白い眉を持ち上げて、怪訝な表情になり、かがんで、アイリスの手を取った。
「大丈夫だ。『魔力』は流れている。それに、発動したことはあるだろう。無意識に制限しているな。自分で流れを止めているのだ。放て。解放しろ」
「で、でも、いろんなものを壊してしまって。地割れも起こって」
「ああ、そんなことか」
アルナシルは、笑う。
「案ずるな。ここは『竜の聖域なる異界』。そなたのような、覚醒しておらぬ、みどりごの放つ力など、なにほどのことにも、ならぬよ」
「でも」
「心配ならば、手をにぎっているがよい。なつかしいな、弟も、力は強いのに優しい子でな、よく、こうして、二人で力を使う練習をしていたものだ……」
「おとうと、さん?」
「ああ。いつか、そなたは出会うやもしれぬな。あれはエルレーンの首都シ・イル・リリヤにいる。聖堂に入り神官をしておると聞いた」
「なまえを…おたずねしても?」
「シャンティ・アイリ……いまは、よく、ただのプリーストだ、などと名乗っているそうだがな……」
遠くを見るかのような、まなざし。
アイリスは深く、息を吸った。
そして『魔力』そのものを放った。
呼吸をするように、自然に。
レベル1のままだった、あたし(アイリス・リデル・ティス・ラゼル)の、魔法の修行が本格的に始まることになりました。
教師はもちろんアルナシルさま。
生徒はだれ? たくさんいる青竜幼稚園(?)組の全員だと思っていたら、衝撃の事実が発覚しました。ほかのみんなは魔法を覚える必要はないから学ばなくてもいいんだって。
もちろんサファイアさんは成人で、公立学院を卒業した一人前の魔法使いだから。
ということは……
生徒は、あたし一人だけ!?
マンツーマンじゃないマンツー・リトルガール?
これならとびきり早く上達するわよってサファイアさんはフォローしてくれたんだけど。
ちょっとハードじゃないかしら?
……いいえ。
困惑してる場合じゃないわ。
あたしたちを「ちょっとそこまでお出かけ」なんて言いくるめて、この青竜さまの統べる『水底の異界』(いまだに大陸のどこにあるのかもわからないです)に連れてきて置き去りにしたカルナックお師匠さまに、少なくとも魔法においては立派に成長したところを見せつけるのよ!
と、サファイアさんが拳を振り上げて応援してくれている。
そして青竜さまの弟子たちも、なんだかわけがわからないままに応援してくれて、シエナさま、青竜さま、白竜さまが見守る中で。
特別出張野外授業、始まりました。
会場は学び舎兼寄宿舎の、外庭です。
ここは運動場でもあるので、木々や畑があるわけじゃなし、威力のある魔法を放っても問題ないらしい。
※
特別講師アルナシルさまは、この地を訪れたときには寒冷地用の服をまとっていましたが、今は薄手の半袖シャツに七分丈のすとんとしたズボン、足元はサンダル履きというカジュアルな衣装に着替えて、校庭に立ちました。
生徒のアイリス・リデル・ティス・ラゼルと、向かい合って立つ。
アイリスは自前の生成り色……灰褐色のリネンワンピースに木綿の白いエプロンドレス、足元は履きなれた編み上げ靴で。
まるで今から対決しようかという意気込みであった。
「最初に言っておく。アイリス・リデル・ティス・ラゼル。そなたは強くなる」
開口一番、腕組みをしてアイリスを見下ろし、アルナシルは言い切った。
それを耳にしたサファイアは気をもむ。
(まさかと思うけど、それってアイリスお嬢様がムキムキになるってんじゃないですよね? まだ六歳の幼女なんで、筋肉増強とか困ります! いえカルナックお師匠様は面白がるでしょうけど、ご両親とエステリオ・アウルは白目をむいてぶっ倒れちゃうわ!)
ハラハラしていたのだが、ここで一介のヒトであるサファイアが差し出たことをいうわけにもいかず、黙って見守り、無事を祈るしかないのだった。
ここは竜の聖域で、相手は伝説の中の人物……『北風の向こうの国』の呪われていた王子、そして竜の養女であるシエナを娶り呪いがとけて、後世まで賢い王とたたえられているアルナシル(勝利)王だ。
彼に異を唱えることができるのは竜たちのほかにはカルナック師くらいのものだろう。師匠は『世界』の恩寵を受ける、稀有な存在なのだ。
「強く、なれるのですか、アルナシルさま」
「なれるのですか、ではない。なれる。いや、なるのだ。呪いを乗り越えた、この、我が保証する。それと、授業の間は、先生と呼びなさい。返事は、『はい』のみだ!」
「はい!」
「自分はレベルが低いから大きな魔法が使えない? マイナスの思い込みはいらん。捨てろ」
「はい、先生」
「実施あるのみだ。やるぞ。身体でコツをつかみ会得できるまでな」
「は……はいっ!」
「深呼吸! 息を大きく吸って止めろ。ゆっくりと吐き出しながら同時に魔法を放て」
「アルナシル先生、魔法の発動方法、アイリスはまだ教わってないです!」
「まだ?」
アルナシルは白い眉を持ち上げて、怪訝な表情になり、かがんで、アイリスの手を取った。
「大丈夫だ。『魔力』は流れている。それに、発動したことはあるだろう。無意識に制限しているな。自分で流れを止めているのだ。放て。解放しろ」
「で、でも、いろんなものを壊してしまって。地割れも起こって」
「ああ、そんなことか」
アルナシルは、笑う。
「案ずるな。ここは『竜の聖域なる異界』。そなたのような、覚醒しておらぬ、みどりごの放つ力など、なにほどのことにも、ならぬよ」
「でも」
「心配ならば、手をにぎっているがよい。なつかしいな、弟も、力は強いのに優しい子でな、よく、こうして、二人で力を使う練習をしていたものだ……」
「おとうと、さん?」
「ああ。いつか、そなたは出会うやもしれぬな。あれはエルレーンの首都シ・イル・リリヤにいる。聖堂に入り神官をしておると聞いた」
「なまえを…おたずねしても?」
「シャンティ・アイリ……いまは、よく、ただのプリーストだ、などと名乗っているそうだがな……」
遠くを見るかのような、まなざし。
アイリスは深く、息を吸った。
そして『魔力』そのものを放った。
呼吸をするように、自然に。
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