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第七章 アイリス六歳

その2 アイリスはドレスに悩む

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「どうしよう、困っちゃったわ!」
 子ども部屋のベッドにひっくり返って、あたし、アイリスは声をあげた。

 お行儀がいいとは言えないから、もしも今、乳母やのサリーやメイド長のエウニーケさんがいたら、厳しくたしなめられてるところだわ。

「アイリスこまる! パオラもこまる!」
「パウルもこまる!」
 パオラさんとパウルくんも一緒になって寝転んで叫んだ。こっちを見つめるきらきら澄み切った瞳に、すっごい癒されて、なごんだ。
 あたしはベッドに上半身を起こした。
 シロとクロも、わふわふ鳴いてくっついてくる。

「ごめんね。心配かけちゃった」
 みんなに笑顔を向ける。
「シロとクロにも、パオラさんにも、パウルくんにも。悪かったわ」

 そしてあたしは部屋を見回す。
 子ども部屋に詰めてくれてる、魔導師協会から派遣されている護衛メイド。
 プラチナブロンドにペリドットの瞳の美少女ルビーさんと、長い黒髪に黒い瞳のセクシー美女サファイアさんは、本来はカルナックさまの護衛だった。

「ねえねえ、ルビーさんサファイアさん! ご相談があるの!」

「うん? 相談? あたしらに?」
「本気の顔ね。どうしたの」

「お披露目会の準備のことなの」

「心配か? 順調に準備は進んでるぞ」
 ルビーさんは首をひねる。
 けど、サファイアさんは、すぐに何のことか、ぴんときたみたい。
「ドレスのことね?」

「そうなの! 今朝も、メイドさんたちの意見は、ぜんぜん、まとまらなかったわ。みんな、全力で『推し』のドレスを持って来てくれて、どれもすてきだし、でも、もしお披露目会のなかで衣装替えをしても、着られるのは何枚かだけでしょ。これが原因で、メイドさんたち仲が悪くなったりしてない? しんぱいなの」

「そうだなあ、これまでみたいに和気藹々って感じじゃないね」
「今までは全員、仲良しだったのにね。奥様づきのレンピカも、家内の雰囲気がよくないって言ってたわ。ローサも巻き込まれてるみたいよ」

「どんなドレスでもかまわないのに」
 アイリスはため息をつく。

 サファイアは、
「どんなでもいいって訳にもいかないのよ」
 と、眉をひそめる。
「一生に一度しかない、お披露目だもの。きっと、ラゼル家の旦那様にも奥様にも、売り込みにいろいろなお店から来てるわね。商売の付き合いもあるでしょうし悩みどころね。こうなるとエステリオ・アウルなんかは、学生だし世間ずれしてないからねえ」

 しばらく、らしくもなく頭を抱えていたルビーは、ふいに、顔を輝かせて、
「よし! ドレスはサファイアに任せる!」こう言い放ったのだ。

「なに言ってるのよ! もう、丸投げ? お師匠さまは、こういうとこダメだしねえ」
 丸投げ宣言に呆れるサファイアだが、ふと、思いついたことがあった。

「良いデザイナーがいるわよ!」

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