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第二章 アイリス三歳『魔力診』後
その14 ローサのアイリスお嬢様。
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14
エルレーン公国首都シ・イル・リリヤの中央区、いわゆる富裕層が集まっている住宅街。
その一角に、エナンデリア大陸全体に拠点を広げている、名だたる豪商、ラゼル家の邸宅がある。
「う~ん、いいお天気! さぁ今日もがんばろう!」
ラゼル家に住み込んでいるメイドのローサは毎朝、自分に気合いを入れる。日課である。
なにしろローサには、お嬢さま専任の小間使いという大事なお役目があるのだ。
「いつも元気がいいわね、ローサ」
声をかけられて驚いた。
廊下で出会ったのはメイド長のエウニーケだったのである。
「あっ! メイド長、おはようございます!」
「あなたの仕事ぶりには感心しているのよ。これからもアイリスお嬢さまのお世話を頼むわね」
「はいっ!」
憧れのメイド長を前にして緊張しまくりのローサ。
「いいのよ、楽にして。そうそう、お嬢さまは昨夜の『魔力診の夕べ』で、お疲れでしょうから、いつもより遅くまで寝かせてさしあげて。朝食はあとで別にとっていただけばいいでしょう」
「はい、かしこまりました」
「では、ここはいいから台所を手伝って、そのあとでお嬢さまのご様子をうかがってきて」
「はいっ!」
ローサは親戚を頼って田舎から出てきた。
アイリスお嬢さまと歳が近いので小間使いに抜擢されたのだ。
金髪に緑の目をして、素直で、賢くて、すごくかわいいお嬢さま。
メイドたちの噂にのぼる、よそのうちのお嬢さまみたいにワガママを言ったりしない。
そればかりか、この館で暮らす者は下働きに至るまで、毎日、体の調子はいいし幸福感に満ち溢れているという夢のような職場だった。
「アイリスお嬢さまの小間使いになれてよかった!」
ローサは日々、自らの幸運に感謝している。
「あなたのお役目はとても大事なのですよ。お嬢様もローサを気に入っています。がんばってね」
エウニーケに褒められて、ローサは喜ぶよりよけいに緊張してしまった。
言われた通りに台所の手伝い、メイド見習いとしてのお手伝い、等々をこなしていく。
子ども部屋に向かうことができたのは、乳母やのサリーが気遣ってくれたからだった。
※
アイリスお嬢さまの、お部屋の扉を、そうっと開ける。
天蓋付きの子供用のベッドには、天使が眠っていた。
カーテンが少しだけ開いているのは、お嬢さまがいつも夜中に星を見たがって開けるからだ。
小さい身体でも開くことはなんとかできるのだが、閉じるのは難しいらしい。おかげで朝の日差しがアイリスお嬢さまの髪を黄金のように燦めかせ、色の白い、整った面差しを照らしている。
髪や肩のあたりに、キラキラと光る粉が降りかかっている。アイリスお嬢さまの守護妖精たちだ。
旦那様の弟で、魔法使いになるための公立学院に通っているエステリオ様のおっしゃることには、光と風の妖精が、守護についているという。
通常は一種類の妖精から守護を得られればもう「すごいこと」なのだ。
ほんの僅かな魔力しか持っていないローサには、守護妖精の姿を見ることはできないけれど。
「なんてお可愛らしい。ほんとうに天使のようなお嬢さま」
ローサは幸福感に包まれて、独り言をつぶやいた。
「まだ深く眠っておいでだわ。お疲れなんでしょうね」
だけど、そろそろ起こしてもいいと乳母やさんに言われたのだし。
それに、お嬢さまのお目覚めを、いまかいまかと待ち構えている、二匹の子犬が控えている。
ほんとうは子犬じゃなくて、魔獣らしいのだけど。
昨夜、有名な魔法使いの長カルナックさまがいらして、お嬢さまの危機を救ってくださったあとで、ご自分の従魔を貸してくださったのだ。
(あれはドキドキしたわ!)
思い出すとうっとりしてしまう。
カルナックさまの影から、白と黒の、二匹の大きな魔獣が出て来たのには、驚いた。すごく強くて頼りになるっておっしゃって。
すてきな方だった。
さあ、がんばって、あたしもアイリスお嬢さまをお世話してさしあげなくちゃ!
ローサは気合いを入れた。
「お嬢さま! 今日も青空ですよ!」
※
「おはよう、ローサ」
あたしはアイリス・リデル・ティス・ラゼル。
三歳の『まりょくしん』というぎょうじを、ぶじにおわって。
やってきた小間使いのローサに起こされるまで、じつは、寝たふりをしていたの。
ベッドの脇にいる子犬たちの鳴き声が、かわいかったから。
横になって、耳を澄ませていたの。
ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん
ク~ン、ク~ン、ク~ン、ク~ン、ク~ン
左右に一匹ずついる。
やがて、あたしがローサに起こされると、我慢できなくなったらしくて、二匹はベッドに飛び乗った。
しめった温かい鼻先を押しつけて匂いをかいだりくんくん鳴いたりして。
ふわふわの毛を、ぎゅうぎゅう押しつけてくる。
目を開けると、あたしの顔を両側から挟んでいる、白と黒の子犬がいる。
「ふふっ」
自然と笑顔になる。
「シロ、クロ。おはよう!」
「わふ~ん!」
「わふ~ん!」
腕の中に飛び込んでくる、二匹の子犬。
名前はシロとクロ。
日本語なんだけどね。
最近、我が家には、もふもふ成分が投入された。
白犬と黒犬、二頭の子犬。
これは仮の姿で、本来は成獣で犬じゃなくて魔獣。カルナック様が、あたしの身を守るための『従魔獣』にするようにって貸してくれたの。
だけど、二頭とも、あたしと『従魔契約(仮)』を交わしたとたんに縮んで子犬になっちゃった。
彼らは主から魔力を貰って存在を維持するんだって。だから主の魔力の大きさに影響される。
あたしから与えられる魔力だと、ずっと成獣でいるのは難しいんだって。
大きくなったら、この子たちも育つの。
ああ、もっと魔力があったらな。
カルナックさまが持っていた、白ウサギの「ユキ」ちゃんも、貸していただけたかもしれない。
早く、大きくなりたいな。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「サヤカとアリスの学園生活」エピソードは、ランスルーの他作品「妹なんかじゃないっ・完全版」を舞台にしています。
山本雅人・伊藤杏子のカップルが主役ですが、
カルナックの前世である並河香織(月宮アリスをスカウトしたプロダクションの社長令嬢)その婚約者、沢口充、北欧系美少女スクールカウンセラー、そのほかの人物が、吉祥寺や西荻窪で繰り広げるラブコメ・ファンタジー。
コマラパの前世も出て来ます。もう丸わかりでしょうが……
こちらでは香織たちがまだ高校一年なので、後輩になる月宮アリスは出ていませんが、翌年には登場します。
アイドル枠で。サヤカとアリスで。
ちなみに従魔「牙(スアール)」と「夜(ノーチェ)」とカルナックの出会いは、
カルナックの小さい頃を書いたスピンオフ「精霊の愛し子」に出てきます。
続編の「リトルホークと黒の魔法使いカルナックの冒険」もあります。
時代が違うものを同時進行で幾つか書いています。
遅筆なのに。バカなのか?自分。
がんばります!
もしよかったら他の作品ともども、どうぞよろしくお願い致します!
エルレーン公国首都シ・イル・リリヤの中央区、いわゆる富裕層が集まっている住宅街。
その一角に、エナンデリア大陸全体に拠点を広げている、名だたる豪商、ラゼル家の邸宅がある。
「う~ん、いいお天気! さぁ今日もがんばろう!」
ラゼル家に住み込んでいるメイドのローサは毎朝、自分に気合いを入れる。日課である。
なにしろローサには、お嬢さま専任の小間使いという大事なお役目があるのだ。
「いつも元気がいいわね、ローサ」
声をかけられて驚いた。
廊下で出会ったのはメイド長のエウニーケだったのである。
「あっ! メイド長、おはようございます!」
「あなたの仕事ぶりには感心しているのよ。これからもアイリスお嬢さまのお世話を頼むわね」
「はいっ!」
憧れのメイド長を前にして緊張しまくりのローサ。
「いいのよ、楽にして。そうそう、お嬢さまは昨夜の『魔力診の夕べ』で、お疲れでしょうから、いつもより遅くまで寝かせてさしあげて。朝食はあとで別にとっていただけばいいでしょう」
「はい、かしこまりました」
「では、ここはいいから台所を手伝って、そのあとでお嬢さまのご様子をうかがってきて」
「はいっ!」
ローサは親戚を頼って田舎から出てきた。
アイリスお嬢さまと歳が近いので小間使いに抜擢されたのだ。
金髪に緑の目をして、素直で、賢くて、すごくかわいいお嬢さま。
メイドたちの噂にのぼる、よそのうちのお嬢さまみたいにワガママを言ったりしない。
そればかりか、この館で暮らす者は下働きに至るまで、毎日、体の調子はいいし幸福感に満ち溢れているという夢のような職場だった。
「アイリスお嬢さまの小間使いになれてよかった!」
ローサは日々、自らの幸運に感謝している。
「あなたのお役目はとても大事なのですよ。お嬢様もローサを気に入っています。がんばってね」
エウニーケに褒められて、ローサは喜ぶよりよけいに緊張してしまった。
言われた通りに台所の手伝い、メイド見習いとしてのお手伝い、等々をこなしていく。
子ども部屋に向かうことができたのは、乳母やのサリーが気遣ってくれたからだった。
※
アイリスお嬢さまの、お部屋の扉を、そうっと開ける。
天蓋付きの子供用のベッドには、天使が眠っていた。
カーテンが少しだけ開いているのは、お嬢さまがいつも夜中に星を見たがって開けるからだ。
小さい身体でも開くことはなんとかできるのだが、閉じるのは難しいらしい。おかげで朝の日差しがアイリスお嬢さまの髪を黄金のように燦めかせ、色の白い、整った面差しを照らしている。
髪や肩のあたりに、キラキラと光る粉が降りかかっている。アイリスお嬢さまの守護妖精たちだ。
旦那様の弟で、魔法使いになるための公立学院に通っているエステリオ様のおっしゃることには、光と風の妖精が、守護についているという。
通常は一種類の妖精から守護を得られればもう「すごいこと」なのだ。
ほんの僅かな魔力しか持っていないローサには、守護妖精の姿を見ることはできないけれど。
「なんてお可愛らしい。ほんとうに天使のようなお嬢さま」
ローサは幸福感に包まれて、独り言をつぶやいた。
「まだ深く眠っておいでだわ。お疲れなんでしょうね」
だけど、そろそろ起こしてもいいと乳母やさんに言われたのだし。
それに、お嬢さまのお目覚めを、いまかいまかと待ち構えている、二匹の子犬が控えている。
ほんとうは子犬じゃなくて、魔獣らしいのだけど。
昨夜、有名な魔法使いの長カルナックさまがいらして、お嬢さまの危機を救ってくださったあとで、ご自分の従魔を貸してくださったのだ。
(あれはドキドキしたわ!)
思い出すとうっとりしてしまう。
カルナックさまの影から、白と黒の、二匹の大きな魔獣が出て来たのには、驚いた。すごく強くて頼りになるっておっしゃって。
すてきな方だった。
さあ、がんばって、あたしもアイリスお嬢さまをお世話してさしあげなくちゃ!
ローサは気合いを入れた。
「お嬢さま! 今日も青空ですよ!」
※
「おはよう、ローサ」
あたしはアイリス・リデル・ティス・ラゼル。
三歳の『まりょくしん』というぎょうじを、ぶじにおわって。
やってきた小間使いのローサに起こされるまで、じつは、寝たふりをしていたの。
ベッドの脇にいる子犬たちの鳴き声が、かわいかったから。
横になって、耳を澄ませていたの。
ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん
ク~ン、ク~ン、ク~ン、ク~ン、ク~ン
左右に一匹ずついる。
やがて、あたしがローサに起こされると、我慢できなくなったらしくて、二匹はベッドに飛び乗った。
しめった温かい鼻先を押しつけて匂いをかいだりくんくん鳴いたりして。
ふわふわの毛を、ぎゅうぎゅう押しつけてくる。
目を開けると、あたしの顔を両側から挟んでいる、白と黒の子犬がいる。
「ふふっ」
自然と笑顔になる。
「シロ、クロ。おはよう!」
「わふ~ん!」
「わふ~ん!」
腕の中に飛び込んでくる、二匹の子犬。
名前はシロとクロ。
日本語なんだけどね。
最近、我が家には、もふもふ成分が投入された。
白犬と黒犬、二頭の子犬。
これは仮の姿で、本来は成獣で犬じゃなくて魔獣。カルナック様が、あたしの身を守るための『従魔獣』にするようにって貸してくれたの。
だけど、二頭とも、あたしと『従魔契約(仮)』を交わしたとたんに縮んで子犬になっちゃった。
彼らは主から魔力を貰って存在を維持するんだって。だから主の魔力の大きさに影響される。
あたしから与えられる魔力だと、ずっと成獣でいるのは難しいんだって。
大きくなったら、この子たちも育つの。
ああ、もっと魔力があったらな。
カルナックさまが持っていた、白ウサギの「ユキ」ちゃんも、貸していただけたかもしれない。
早く、大きくなりたいな。
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山本雅人・伊藤杏子のカップルが主役ですが、
カルナックの前世である並河香織(月宮アリスをスカウトしたプロダクションの社長令嬢)その婚約者、沢口充、北欧系美少女スクールカウンセラー、そのほかの人物が、吉祥寺や西荻窪で繰り広げるラブコメ・ファンタジー。
コマラパの前世も出て来ます。もう丸わかりでしょうが……
こちらでは香織たちがまだ高校一年なので、後輩になる月宮アリスは出ていませんが、翌年には登場します。
アイドル枠で。サヤカとアリスで。
ちなみに従魔「牙(スアール)」と「夜(ノーチェ)」とカルナックの出会いは、
カルナックの小さい頃を書いたスピンオフ「精霊の愛し子」に出てきます。
続編の「リトルホークと黒の魔法使いカルナックの冒険」もあります。
時代が違うものを同時進行で幾つか書いています。
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