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その理由になんとなく覚えがあるけど、あれは夢だったということにしたい僕は確認する意で訊いた。
「お前、三つ目爺に会っただろう? 奴は、ビースト系モンスター。着衣すれば一見人っぽく見える。が、観察すればその違いは歴然。まあ、詳しく話さなくてもお前は身をもって知っただろうが」
……うん。知りたくなかったけど三つ目爺が人間じゃないことは重々わかったよ。
「お前は危うく食べられるところだった。ちょうど通りかかった私に見つけられてよかったな」
「……う、うん。でも、なんでフィンランドにモンスターが?」
「『そこ』はフィンランドじゃない」
「フィンランドじゃない?」
「お前が三つ目爺と会ったのは、今いるこちらの世界と並行する世界で『異世界』……とでも言えば理解できるか? そこに三つ目爺は住んでいる。普段は人間と接触する事はない。が時折、様々な理由で空間が歪んだりしてゲートが開く事がある。その時に迷い込んだ人間が襲われる事もあるようだ」
……冗談だろ?
という僕の戸惑いは置いて行かれたまま言葉は続けられる。
「どうやらお前は異世界に迷いやすい体質のようだから気を付けたほうがいい」
「迷いやすい体質? どういうこと?」
「さあ? 私は偶々お前がゲートに入って行っているのを見ただけなので何とも……って、おいっ」
喋っているうちにくらっとした。枕に頭を沈める。
「おい、大丈夫か?」
……頭で処理しきれない事を言われ疲れがドッと出たのかも。
枕に頭を俯せに沈めたままくぐもった声でボソボソと答える。
「……ま、まあ一応体は大丈夫だけど。ちょっと抱えきれなくて。あの…三つ目爺、とか? 異世界とか…ですか? 日本で普通に暮らしていた僕には刺激が強過ぎて、どう答えたらいいか……」
と返事をしたところで顔を横に向き直すと鼻先数センチの距離にヴィフレアの秀麗な顔……いつの間にか体をベッドに預けて僕のすぐ隣に横たわっている。不覚にも照れてしまい頬が熱くなる。
「……ッ。…ぅ、えっと。あ、あなたが僕を助けてくれた?」
「そう。お前を助けたのはこの私だ」
と、微笑んだヴィフレアの片手が僕の顎に添えられる。そして――。
「げっ」
逃げる暇なく、ヴィフレアの紅い舌が僕の頬をペロッと舐めた。
「『げっ』とは失礼な奴だな」
「げっ、だよ! なんで舐めるんだよ!」
二人ともベッドに横になったままの口論。僕は舐められた頬を手で覆う。
「お礼をもらうだけだ」
「お礼?」わけもわからず言葉を繰り返す。
「そう、お礼」
美術品のような顔が更に近付いてくる。そう思った、ら。
「んっ」
キスされた。
「何すんだよ!?」
「キスだ」
「そ、それは知ってる。そーいうことじゃなくって!」
僕はヴィフレアの体を押し返して飛び起きる。ヴィフレアも僕に倣って上体を起こす。
「お礼だと言っただろう? お前は助けてもらった恩人にお礼しないつもりなのか?」
「別に……。ってか、キスじゃなくてもいいだろ!?」
「いや、私はお前が欲しい。お前の身体が」
「なっ……」
とんでも発言に激しく動揺する。
……何言ってんだこいつ。頭がおかしいのか?
「どこの人間が『助けたお礼に身体を差し出せ!』なんて言うかよ! そんな奴いねえよ!」
「いないのか?」
「いないよっ」
「そうか。それは知らなかった。だが、安心しろ。……私は人間とはちょっと違う」
「はァーぁあ!?」
……『人間と違う』って何だよ?
「私はお前たち人間とは異なる種族、森の民エアリ族。人間からは『亜人族』と認識される類だ」
言いながら立ち上がったヴィフレア。一九〇センチ近くはある長身美形がきらきら輝く髪の毛をバサッと掻き上げ尖った耳を見せて来た。
どうだ? と言わんばかりの顔。
「……エア、リ? あじん……?」
あ、やばい。視界が回り出した。
……傷心旅行中の僕には処理しきれない出来事だらけだ。や、傷心旅行中じゃなくてもこんなの処理しきれるか? ……あ、ファンタジー好きな元カノにはサンタクロースとの写真よりも『亜人族』のヴィフレアと写真を撮って送った方があてつけとして正解かも。
薄れゆく意識の奥底でそんなことを考えていた。
「お前、三つ目爺に会っただろう? 奴は、ビースト系モンスター。着衣すれば一見人っぽく見える。が、観察すればその違いは歴然。まあ、詳しく話さなくてもお前は身をもって知っただろうが」
……うん。知りたくなかったけど三つ目爺が人間じゃないことは重々わかったよ。
「お前は危うく食べられるところだった。ちょうど通りかかった私に見つけられてよかったな」
「……う、うん。でも、なんでフィンランドにモンスターが?」
「『そこ』はフィンランドじゃない」
「フィンランドじゃない?」
「お前が三つ目爺と会ったのは、今いるこちらの世界と並行する世界で『異世界』……とでも言えば理解できるか? そこに三つ目爺は住んでいる。普段は人間と接触する事はない。が時折、様々な理由で空間が歪んだりしてゲートが開く事がある。その時に迷い込んだ人間が襲われる事もあるようだ」
……冗談だろ?
という僕の戸惑いは置いて行かれたまま言葉は続けられる。
「どうやらお前は異世界に迷いやすい体質のようだから気を付けたほうがいい」
「迷いやすい体質? どういうこと?」
「さあ? 私は偶々お前がゲートに入って行っているのを見ただけなので何とも……って、おいっ」
喋っているうちにくらっとした。枕に頭を沈める。
「おい、大丈夫か?」
……頭で処理しきれない事を言われ疲れがドッと出たのかも。
枕に頭を俯せに沈めたままくぐもった声でボソボソと答える。
「……ま、まあ一応体は大丈夫だけど。ちょっと抱えきれなくて。あの…三つ目爺、とか? 異世界とか…ですか? 日本で普通に暮らしていた僕には刺激が強過ぎて、どう答えたらいいか……」
と返事をしたところで顔を横に向き直すと鼻先数センチの距離にヴィフレアの秀麗な顔……いつの間にか体をベッドに預けて僕のすぐ隣に横たわっている。不覚にも照れてしまい頬が熱くなる。
「……ッ。…ぅ、えっと。あ、あなたが僕を助けてくれた?」
「そう。お前を助けたのはこの私だ」
と、微笑んだヴィフレアの片手が僕の顎に添えられる。そして――。
「げっ」
逃げる暇なく、ヴィフレアの紅い舌が僕の頬をペロッと舐めた。
「『げっ』とは失礼な奴だな」
「げっ、だよ! なんで舐めるんだよ!」
二人ともベッドに横になったままの口論。僕は舐められた頬を手で覆う。
「お礼をもらうだけだ」
「お礼?」わけもわからず言葉を繰り返す。
「そう、お礼」
美術品のような顔が更に近付いてくる。そう思った、ら。
「んっ」
キスされた。
「何すんだよ!?」
「キスだ」
「そ、それは知ってる。そーいうことじゃなくって!」
僕はヴィフレアの体を押し返して飛び起きる。ヴィフレアも僕に倣って上体を起こす。
「お礼だと言っただろう? お前は助けてもらった恩人にお礼しないつもりなのか?」
「別に……。ってか、キスじゃなくてもいいだろ!?」
「いや、私はお前が欲しい。お前の身体が」
「なっ……」
とんでも発言に激しく動揺する。
……何言ってんだこいつ。頭がおかしいのか?
「どこの人間が『助けたお礼に身体を差し出せ!』なんて言うかよ! そんな奴いねえよ!」
「いないのか?」
「いないよっ」
「そうか。それは知らなかった。だが、安心しろ。……私は人間とはちょっと違う」
「はァーぁあ!?」
……『人間と違う』って何だよ?
「私はお前たち人間とは異なる種族、森の民エアリ族。人間からは『亜人族』と認識される類だ」
言いながら立ち上がったヴィフレア。一九〇センチ近くはある長身美形がきらきら輝く髪の毛をバサッと掻き上げ尖った耳を見せて来た。
どうだ? と言わんばかりの顔。
「……エア、リ? あじん……?」
あ、やばい。視界が回り出した。
……傷心旅行中の僕には処理しきれない出来事だらけだ。や、傷心旅行中じゃなくてもこんなの処理しきれるか? ……あ、ファンタジー好きな元カノにはサンタクロースとの写真よりも『亜人族』のヴィフレアと写真を撮って送った方があてつけとして正解かも。
薄れゆく意識の奥底でそんなことを考えていた。
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