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Historia Ⅰ
凶影(1)
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怪しい夜雲に遮られてなかなか顔を出せない三日月が空に浮かぶ真夜中。涼しい秋風が吹き静寂と暗闇が侵食し全ては黒く染まりつつ街灯からは小さな光が孤独を感じさせる夜道を照らしていた。どこも静まり返っていてまるでこの世の終わりの前兆かのように無になっていた。聞こえる音は風と猫の鳴き声だけ。空は次第に曇っていきとうとう三日月が隠れてしまった。暗雲が立ち込める東京の街並みは更に闇に飲み込まれ街灯の光はますます弱くなっていく。すると、暗雲の彼方から一滴の雫が零れ落ちた。雫はやがて二滴三適と増えていき時間も経たない内に無数の雫が闇に包まれた東京の街を覆い始めた。
静寂をかき消すかのように雑音みたいに音を立てる雫は地面に弾かれ散った雫は地面に染みついていく。これを秋雨というのだろう。
そんな雨が降る中、他の家は真っ暗なのに一軒だけ光が見えた。一軒家の二階には明かりが見えていて深夜とはいえまだ誰か起きているらしい。閉まっているカーテンから光が漏れている。部屋の中にいたのは17歳ぐらいの男の子だ。少年はイヤホンから流れる三人の同級生と会話しながらゲームしている。携帯画面には少年の友人三人の顔が映っている。リモートというやつだ。彼がやっているのは対戦型ゲームでプレイヤー4人が選んだキャラクターで制限時間まで互いのポイントを奪い合うバトルロワイアルだ。少年はゲーム機のコントローラーとボタンを必死に動かしたり押したりして対戦相手に負けまいと必死にやり込んでいた。
「あっ。お前、ふざけんな!」
どうやら少年がプレイしているキャラが対戦相手に攻撃を受けてポイントが失点したらしい。イヤホンの奥から少年が持っていたポイントを奪った一人の同級生がやってやったぜと笑った。悔しそうに負けてたまるかと相手のポイントを奪おうと攻撃を仕掛けた。
時間は午前1時13分。彼らは下の階にいる家族や兄弟に気づかれぬよう静かにゲームを楽しんでいた。その時だ。部屋の電気が突然、チカチカと点滅しだした。それに気づいた少年は見上げると電気はプツンと切れ部屋は真っ暗になった。
停電か?
こんな真夜中に停電するなんてありえるのか?もしかして、電球が切れたんじゃないかと思ったが少年だがゲームと携帯の明かりがあるので気にもしなかった。続けてゲームを再開しようとした途端、突然、ゲーム機の電源が落ちたのだ。
「は?」
少年は突然電源が落ちたゲーム機のコントローラーやボタンを弄りしまいには電源のスイッチを入れたが起動しない。
『どうした?』
イヤホンから聞こえる友人が言った。携帯画面に映るリモートワークには三人の友人が顔を覗かせながら少年の様子を見ている。
「いや。急にスイッチの電源が切れたんだ。再起動できねえ」
壊れてしまったのか?これから挽回しようとしたのに突然の電源落ちに少年は最悪とぼやいた。すると、イヤホンの奥から雑音が聞こえ始めた。異変に気付いた少年は携帯を見てみるとさっきリモートで繋いでいた画面にノイズに切り替わっていた。ノイズが発生してリモートとしていた友人達の顔が全く見えない。ゲーム機に続いて携帯まで故障したのかと思った少年はイヤホンを取りノイズ画面化された携帯をタップしたり電源を押したりしたがゲーム機と同様に携帯も再起動できなかった。
「んだよこれ?くそっ!」
ゲーム機に続き元の画面に戻れないし再起動しても反応がない携帯に少年はイライラしながら電源スイッチを押したりして繰り返した。その時、どこからか奇妙な声が聞こえた。無音で暗闇に包まれた部屋のどこかに奇妙な声が彼の耳に届いたのだ。僅かな謎の声に少年は振り向いたが全てが闇に包まれて何も見えなかった。人影らしきものもなかった。気のせいかと思った少年は壊れたゲーム機と携帯を自分の側に置いて布団に潜りこんだ。
明日になれば勝手に直るだろう。そう思い少年は寝ようとした。その矢先、少年の目に謎の光が見えた。その光は二つあり血で染まったかのような濃い赤色をしていた。まるで、何かの〝眼〟のようなもので唸り声も聞こえた。少年は天井にいる何かを目の当たりにしてよく見てみると異様な黒い形をした物体が彼の頭上にいたのだ。
不気味な黒い物体を見た少年は目を大きく見開いて驚いた。大声を出して慌ててベッドの上から転げ落ちた。少年が転げ落ちた時、何か落とした音が聞こえた。側に置いたゲーム機と携帯だろう。謎の物体は天井から泥が落ちたかのようにゆっくりと彼がいたベッドの上に降りた。少年は尻もちついて目を見開きながら震えている。人間が持つ基礎本能が「逃げろ」と警告を出しているが少年は腰を抜かしたのか立ち上がれなかった。謎の物体は少年より背が大きくまるでこの世の生き物ではない姿をしていた。まさに怪物そのものだ。謎の物体つまり怪物が近づくと危機感を覚え恐怖と絶望に怯えた少年は絶叫から壮絶な断末魔をあげた。蛙を潰したかのような鈍い音。残虐に引き裂く音。充満する熾烈な血の臭い。そして、飛び散った少年の血が部屋中にこびりつく。
雨が降り続く東京の街は冷たさと肌寒さが訪れていた。今日は秋寒く気温も低いので街中を行き交う人達は上着を羽織り網の目の様に東京の街を歩き回っている。信号待ちしていた車も道路で通り駅のホームに佇む人達は電車に乗ってどこかへ向かう。冷たい粒が降り注ぐ雨は東京を濡らし傘は頭上を覆い秋雨を防ぐ。歩道は水浸しであちらこちらに水溜りが広がっている。水溜りは落ちた粒で波紋が生じ鏡のように反射する。地域広告が貼られたポスターは雨でビショビショ。透明色のビニール傘を差して濡れた地面を踏み歩いている少女が一人いる。長い靴下にローファーを履き、シックな茶色の制服を着て胸には赤いリボンが結ばれている。少女は角を曲がり真っ直ぐ進んで右折し更に前へ進むと大きなアーチ看板が見えた。看板には堂々と「練馬銀座商店街」と書かれており少女はアーチを潜った。練馬銀座商店街の中は雨とはいえ賑わいを見せていた。本屋にゲームセンター、飲食店にブティックなどバラエティ豊富なたくさんのお店が建ち並んでいた。少女はネットで調べたがここ練馬銀座商店街は、上野のアメ横や浅草商店街に劣らないぐらい多くの人が足を運ぶ人気スポットらしい。ここはレトロ風味のある建物があって若者が興味惹きそうな店がたくさん並んでいる。確かに、ここの商店街には高齢者はもちろん若い人が多い気がする。
少女はこの商店街のどこかに「賀茂探偵事務所」という事務所がどこにあるのか探した。
賀茂探偵事務所。そこは、難事件や困りごとの相談などいろんな依頼を受けてくれるという。その中には、世にも奇妙で不可解な事件までも請け負ってくれるらしいというSNSや口コミで噂されている。そして、この事務所にいる探偵と助手はなぜなのか普通の人とは雰囲気が違うちょっと不思議な二人組だという話しもありまるで都市伝説みたいな噂が広まっているのだ。そのうえ、探偵事務所の詳細はチラシだけでHP(ホームページ)には一切、記載されていない。事務所の探偵と助手の紹介文さえもないのだ。SNSでは宗教だとか何かの秘密組織とかいろいろ噂されているがそれはあくまで憶測にすぎないという意見も多数あった。少女はSNSでたまたま賀茂探偵事務所の噂を目にしてここ練馬銀座商店街にあると聞き訪れたのだ。探偵事務所は純喫茶「ラ・ポーズ」のすぐ横にあるらしい。少女はその「ラ・ポーズ」というお店を探す。傘を抱えながらスマホのGPSマップで純喫茶を探す。マップアプリには賀茂探偵事務所の住所や場所が登録されていない為、目印となる喫茶店を探すしか方法がないのだ。なぜ、マップに登録されていないのかは謎だけどもしかすると最近できたばかりなのかもしれない。少女はマップを見ながら準喫茶店を探す。
アーケードを潜ってからしばらくすると看板に「ラ・ポーズ」と書かれた店を見つけた。コンクリート状の建物だが看板だけでなく窓や扉もお洒落で花壇が置かれており紅白色のオーニングが設置してあって昭和の雰囲気を感じる店舗だった。となると、この店の横に探偵事務所があるんだと少女はラ・ポーズの路地を覗く。細い路地道のすぐ近くに鉄階段を見つけた。路地に入り鉄階段の方へ近づくと壁に「賀茂探偵事務所 階段を上ってすぐ↑」と書かれた案内の紙を見つけた。雨が降っているのに紙は濡れていない。どうやら防水性能がある紙のようだ。少女は案内の紙を見て鉄階段を上った。水浸しの鉄階段は上っている少女の足音を立てる。上るとすぐ目の前に鉄の扉が少女の前を立ち塞ぐ。何だかイメージしたのと違うなと少女は扉をノックした。
「ご、ごめんください」
これから監房に入るみたいな感じでドキドキしている少女は声をかけた。しかし、何も応答はしなかった。少女は扉のドアノブに手をかける。ドアノブからは雨で濡れているせいか冷たい。心拍数が高まっている少女はゆっくりと扉を開ける。ギギギ・・・と鈍い音がして本当に監房に入るかのような不気味さがあった。扉を開けたその先は監房どころか普通の部屋・・・というよりなんだか異色な空間が広がる光景だった。玄関先にはシックな壁に西洋風と昭和レトロが混ざり合ったアンティークや装飾などが置かれている。少女が知らない物から知っている見た事がありそうな物まで出揃っていた。SNSでは異色な部屋だったと書いてあったがまさにその通りだ。玄関に入り傘を閉じた少女は「すみませ~ん」と声をかけた。誰も顔を出さない。
「どなたかいらっしゃいませんか?」
声をかけても無反応が続くと少女はもしかして留守なのかなと思った。でも、留守なのに鍵をかけないなんてそんな不用心なことはしない。きっと、誰かいるはず。
少女はもう一度、声をかけようとすると後ろから扉の音が聞こえた。振り返ると黒い傘を差して手首に袋を掛けている一人の青年が立っていた。コートを羽織った青年は「もしかして、依頼人ですか?」と訊ねると少女は頷いた。すると、青年は玄関に入り傘を傘立てに立て掛けた。
「すみません。コンビニでちょっと買い物しに行っていたので鍵をかけなかったんですよ。お待たせしてすみません」
「い、いえ。あたしもさっき来たばかりで」
「よかったら上がってください。お茶淹れますので」
青年は笑顔で事務所の中へ招いた。少女は返事して彼のお言葉に甘えて部屋に入ることにした。とても愛想が良さそうで優しそうな青年だったので少女は少し安心したかのようにホッとした。青年に案内されたのはリビングだ。やや広くてあちこちに西洋風のアンティークから昭和時代のレトロチックなインテリアまで全て揃っている。そして、たくさんの本棚があったり辺り一面に積み重なった本が置いてあったりテレビやソファも生活に必要な物は揃っている。
「そこのソファに座ってください。紅茶かコーヒーどちらにしますか?」
「えっと・・・紅茶で」
少女の注文を応えるかのように青年は頷きキッチンへ入った。
革製でアンティーク調のソファに座った少女は部屋中を見渡す。監房じゃなかったからいいけど確かに、SNSで見た噂のとおり異色的で普通の部屋とは少し違う気がした。宗教とか秘密組織とかいろんな話が広まっているけど青年を見る限りそんなに怪しそうな人物じゃないのは確かだ。西洋風と昭和レトロの装飾やアンティークが置いてあるのは彼の趣味なのだろうか?
すると、青年がお盆を持って現れ「どうぞ」と少女の側に紅茶とシュークリームをテーブルの上に置いた。
「どうぞ。ワイルドストロベリーティーです。それと、さっきコンビニで買ったシュークリームです。コンビニで買った物で申し訳ございません」
「いいえ。お気遣いなく」
少女は彼が淹れてくれたワイルドストロベリーティーを一口飲んだ。甘酸っぱくて香りが良くおいしい。普段は午後の紅茶とか市販でしか売っていない紅茶しか飲んだ事なかったので新鮮に感じた。
「ただいまー」
誰かが帰って来たみたい。リビングに現れたのは紺色のスリーピーススーツを着こなした若い男だった。年は青年と同じぐらいだ。
「お帰り。木崎さん家の雨漏り修理どうだった?」
「パッとサッと修理したよ」
すると、スーツの青年は少女の存在に気づいた。
「そちらは?」
「今日の依頼人。まだ内容は聞いてないけど」
それを聞いたスーツの青年はネクタイを締め直しピシッとスーツを整え大々的に自己紹介をし出した。
「ようこそ我が賀茂探偵事務所へ。私(わたくし)は当事務所の主にして名探偵 賀茂悠太と申します」
格好良くキメるかのように多少カッコつけながら挨拶をするユータ。自ら〝名探偵〟だなんて言うからシンは小馬鹿にしているかのように鼻で笑う。彼が言う名探偵は少なくとも違う。正しくは〝迷探偵〟。迷子の探偵である。ユータが調子に乗って自分はすごい探偵なんだとアピールしていると馬鹿馬鹿しく思ってしまう。
シンが笑った時、一瞬チラリとユータがこちらを見た。何が可笑しいと訴えているかのような目で見られたのでシンは何もなかったかのようにとぼけた顔をして誤魔化した。
「で、こちらは私の助手 津守真です」
紹介されるとシンは軽く会釈した。
自分達の自己紹介が終わるとユータとシンは彼女の向かい側のソファに座り話を続けた。
「お名前は?」
ユータが問うと少女は両手を膝の上に置いて自分の名前を教えた。
「遠藤美樹です」
「それ、もしかしてアンバート高等学園の制服でしょ?」
いきなり学校制服の名前を当てたシンに美樹は驚いた。
「どうして分かったんですか?」
まだ何も話していないのに制服の名前を言い当てられて驚きを隠せない美樹は不思議そうに言った。
「制服の襟に付けているそれ。アンバートの校章ですよね?木の実を銜えたフクロウ。フクロウは女神アテナに仕えていた聖なる鳥にして知恵の象徴と呼ばれていた。口に銜えているのは旧約聖書『創世記』に出てくる知恵の実でしょ?私立東都アンバート高等学園は入試偏差値・試験難易度が最も高い名門校で多くの名立たる政治家や芸能人達を卒(しゅっ)したとされている。進学や就職活動にも力を入れていて交換留学も主流になっている知識高い生徒が集まるエリート校」
学校のシンボルまで知っているシンに美樹は頷いた。
「そうです。なぜ知ってるんですか?」
「前にテレビでたまたま観て知ったんです」
アンバート高等学園について軽く解説したシンは会った時から既に知っていたかのように話していると横からユータが「おい」と小突いた。
「今は俺が話してるんだ。割り込むなよ」
会話を挟んで横から割り込んで来た助手に文句を言うユータ。助手は簡潔に「すまん」の一言で終わらせた。助手は探偵の手伝いをするだけでなく尊敬もするはずだがシンにはユータに対する尊敬の欠片は微塵もない。
気を取り直してユータは改めて今回の要件について訊きだした。
「今日はどういったご用件で?」
探偵としての仕事にスイッチが入ったユータは依頼内容を彼女に訊ね詳細を聞きだそうとすると美樹は二人にこう言い出した。
「実は・・・。あたしと同じ学校に通っている生徒の子が死んだんです」
美樹は自分が知っていることを全て二人に話した。
「三日前の夜です。うちの学校で同じクラスにいる組谷くんって子が部屋の中で死んでいたらしいんです。詳しくは知らないですけど朝、組谷くんのお母さんが彼を起こしに部屋へ行ったら本人が・・・組谷くんが死んでいたみたいで」
クラスメイトが死んだ。遺体場所は本人の部屋。慣れ果てた息子を発見したのが母親で大変な騒ぎになったらしい。それはそうだ。息子が死んだのだ。誰だって驚いて騒いでしまう。息子の突然の死に家族は驚きすごく悲しんだろう。
クラスメイトの死に美樹は心を痛めていたところ、シンが言い出した。
「自殺したという可能性は?日本で15歳から19歳までの人が最も一番多い死因は自殺なんです。因みに第2位は事故で第3位は白血病などの悪性新生物だといわれています。その組谷くんとやらは何か悩みとかありましたか?学校内でのいじめとか家庭内でのトラブルとかで苦しんでいたとか」
落ち着いた声で淡々と話すシンに美樹は心当たりないと否定した。
「いいえ。そんな話は聞いた事ありませんし、組谷くんはそんな自殺するような人ではないと思います。普通に学校にいましたし授業もちゃんと受けていて友達もいました。それに・・・」
美樹はまだ何か知っているようだった。
「今回の組谷くんが死んだという話し。もしかしたら、あの事件と関係しているんじゃないのかって学校中、噂になっていて」
「あの事件とは?」
それは一体何なのかユータが訊ねると
「実は、組谷くんだけじゃないんです。五ヶ月ぐらい前から他の生徒や先生が次々と死んでいるんです。しかも、死んでいったのはみんなアンバート高等学園にいる人達ばかりなんです」
それを聞いたシンはそれ知っていると話した。
「ニュースにもなりましたよね。そのニュースで初めてアンバート高等学園を知ったんですよ。確か、五ヶ月前は校長先生が亡くなったんですよね?」
美樹は不安な表情を浮かべながら頷いた。同じ学校に通う生徒とそこで働いている教員が死んだことに不安心と恐れを感じたのか微かだが手が震えていた。
「四ヶ月前は教頭先生。三ヵ月前は組谷くんとあたしと同じクラスにいた三十木くん、ニヶ月前は松宮くん、そして一ヶ月前は荒浪さん・・・。組谷くんも含めて学校内では誰かに殺されたんじゃないのかと噂になっていて。今回の一連でPTAの人達もすごく不安に煽られていますし警察も捜査してくれているみたいなんですが全く手がかりが掴めないみたいで・・・」
「何か心当たりあることはありますか?亡くなった方達の共通点とか」
ユータは内ポケットからメモ帳を取り出し更に事件の話を深掘りしようとした。彼の問いに美樹は自分の脳内にある過去の記憶を探しながら考えていると一つだけ気になったことを思い出した。
「そういえば・・・。友達から聞いた話なんですけど亡くなった五人の死亡推定時刻が同じだったらしいと聞いた事があります。確か、夜中の1時13分。しかも、その五人は一ヶ月に一度だけ13日の夜中に亡くなっているんです。組谷くんが亡くなったのも13日の夜中。ちょうど三日前です」
ユータとシンは考えた。毎月13日の深夜1時13分に六人の生徒・教員が同じ日で同じ時刻に命を落とした。組谷には自殺するような人間ではなく普通に生活を送っていたと美樹が証言している。彼が自ら命を落とす野暮な子じゃないとすれば誰かに殺されたか。過去に同じ事件が五回も起きているとなれば同一犯による犯行の可能性はあると推測する。しかも、その同一犯と思われる犯人はまだ捕まっていない。
「どうする?ユータ」
シンは隣で腕を組んでいる探偵に声をかける。
「あの・・・。それともう一つ話しておきたい事が」
まだ何か言いたそうにしている美樹に二人は彼女の方を見た。
「実は・・・。六人が殺された同じ時間にその・・・」
口ごもって言うか言わないか迷っている美樹にユータは語りかける。
「遠慮なくお話してください。もしかして、今回の事件で思い当たることでも?」
ユータの優しい声かけに迷っていた美樹は決心したかのように話しだす。
「夢を・・見るんです。怖い夢を」
「夢?」
「夜中の1時13分。毎月13日に必ず怖い夢を見るんです。でも、夢にしては何というかなんかリアルっぽくて・・・」
静寂をかき消すかのように雑音みたいに音を立てる雫は地面に弾かれ散った雫は地面に染みついていく。これを秋雨というのだろう。
そんな雨が降る中、他の家は真っ暗なのに一軒だけ光が見えた。一軒家の二階には明かりが見えていて深夜とはいえまだ誰か起きているらしい。閉まっているカーテンから光が漏れている。部屋の中にいたのは17歳ぐらいの男の子だ。少年はイヤホンから流れる三人の同級生と会話しながらゲームしている。携帯画面には少年の友人三人の顔が映っている。リモートというやつだ。彼がやっているのは対戦型ゲームでプレイヤー4人が選んだキャラクターで制限時間まで互いのポイントを奪い合うバトルロワイアルだ。少年はゲーム機のコントローラーとボタンを必死に動かしたり押したりして対戦相手に負けまいと必死にやり込んでいた。
「あっ。お前、ふざけんな!」
どうやら少年がプレイしているキャラが対戦相手に攻撃を受けてポイントが失点したらしい。イヤホンの奥から少年が持っていたポイントを奪った一人の同級生がやってやったぜと笑った。悔しそうに負けてたまるかと相手のポイントを奪おうと攻撃を仕掛けた。
時間は午前1時13分。彼らは下の階にいる家族や兄弟に気づかれぬよう静かにゲームを楽しんでいた。その時だ。部屋の電気が突然、チカチカと点滅しだした。それに気づいた少年は見上げると電気はプツンと切れ部屋は真っ暗になった。
停電か?
こんな真夜中に停電するなんてありえるのか?もしかして、電球が切れたんじゃないかと思ったが少年だがゲームと携帯の明かりがあるので気にもしなかった。続けてゲームを再開しようとした途端、突然、ゲーム機の電源が落ちたのだ。
「は?」
少年は突然電源が落ちたゲーム機のコントローラーやボタンを弄りしまいには電源のスイッチを入れたが起動しない。
『どうした?』
イヤホンから聞こえる友人が言った。携帯画面に映るリモートワークには三人の友人が顔を覗かせながら少年の様子を見ている。
「いや。急にスイッチの電源が切れたんだ。再起動できねえ」
壊れてしまったのか?これから挽回しようとしたのに突然の電源落ちに少年は最悪とぼやいた。すると、イヤホンの奥から雑音が聞こえ始めた。異変に気付いた少年は携帯を見てみるとさっきリモートで繋いでいた画面にノイズに切り替わっていた。ノイズが発生してリモートとしていた友人達の顔が全く見えない。ゲーム機に続いて携帯まで故障したのかと思った少年はイヤホンを取りノイズ画面化された携帯をタップしたり電源を押したりしたがゲーム機と同様に携帯も再起動できなかった。
「んだよこれ?くそっ!」
ゲーム機に続き元の画面に戻れないし再起動しても反応がない携帯に少年はイライラしながら電源スイッチを押したりして繰り返した。その時、どこからか奇妙な声が聞こえた。無音で暗闇に包まれた部屋のどこかに奇妙な声が彼の耳に届いたのだ。僅かな謎の声に少年は振り向いたが全てが闇に包まれて何も見えなかった。人影らしきものもなかった。気のせいかと思った少年は壊れたゲーム機と携帯を自分の側に置いて布団に潜りこんだ。
明日になれば勝手に直るだろう。そう思い少年は寝ようとした。その矢先、少年の目に謎の光が見えた。その光は二つあり血で染まったかのような濃い赤色をしていた。まるで、何かの〝眼〟のようなもので唸り声も聞こえた。少年は天井にいる何かを目の当たりにしてよく見てみると異様な黒い形をした物体が彼の頭上にいたのだ。
不気味な黒い物体を見た少年は目を大きく見開いて驚いた。大声を出して慌ててベッドの上から転げ落ちた。少年が転げ落ちた時、何か落とした音が聞こえた。側に置いたゲーム機と携帯だろう。謎の物体は天井から泥が落ちたかのようにゆっくりと彼がいたベッドの上に降りた。少年は尻もちついて目を見開きながら震えている。人間が持つ基礎本能が「逃げろ」と警告を出しているが少年は腰を抜かしたのか立ち上がれなかった。謎の物体は少年より背が大きくまるでこの世の生き物ではない姿をしていた。まさに怪物そのものだ。謎の物体つまり怪物が近づくと危機感を覚え恐怖と絶望に怯えた少年は絶叫から壮絶な断末魔をあげた。蛙を潰したかのような鈍い音。残虐に引き裂く音。充満する熾烈な血の臭い。そして、飛び散った少年の血が部屋中にこびりつく。
雨が降り続く東京の街は冷たさと肌寒さが訪れていた。今日は秋寒く気温も低いので街中を行き交う人達は上着を羽織り網の目の様に東京の街を歩き回っている。信号待ちしていた車も道路で通り駅のホームに佇む人達は電車に乗ってどこかへ向かう。冷たい粒が降り注ぐ雨は東京を濡らし傘は頭上を覆い秋雨を防ぐ。歩道は水浸しであちらこちらに水溜りが広がっている。水溜りは落ちた粒で波紋が生じ鏡のように反射する。地域広告が貼られたポスターは雨でビショビショ。透明色のビニール傘を差して濡れた地面を踏み歩いている少女が一人いる。長い靴下にローファーを履き、シックな茶色の制服を着て胸には赤いリボンが結ばれている。少女は角を曲がり真っ直ぐ進んで右折し更に前へ進むと大きなアーチ看板が見えた。看板には堂々と「練馬銀座商店街」と書かれており少女はアーチを潜った。練馬銀座商店街の中は雨とはいえ賑わいを見せていた。本屋にゲームセンター、飲食店にブティックなどバラエティ豊富なたくさんのお店が建ち並んでいた。少女はネットで調べたがここ練馬銀座商店街は、上野のアメ横や浅草商店街に劣らないぐらい多くの人が足を運ぶ人気スポットらしい。ここはレトロ風味のある建物があって若者が興味惹きそうな店がたくさん並んでいる。確かに、ここの商店街には高齢者はもちろん若い人が多い気がする。
少女はこの商店街のどこかに「賀茂探偵事務所」という事務所がどこにあるのか探した。
賀茂探偵事務所。そこは、難事件や困りごとの相談などいろんな依頼を受けてくれるという。その中には、世にも奇妙で不可解な事件までも請け負ってくれるらしいというSNSや口コミで噂されている。そして、この事務所にいる探偵と助手はなぜなのか普通の人とは雰囲気が違うちょっと不思議な二人組だという話しもありまるで都市伝説みたいな噂が広まっているのだ。そのうえ、探偵事務所の詳細はチラシだけでHP(ホームページ)には一切、記載されていない。事務所の探偵と助手の紹介文さえもないのだ。SNSでは宗教だとか何かの秘密組織とかいろいろ噂されているがそれはあくまで憶測にすぎないという意見も多数あった。少女はSNSでたまたま賀茂探偵事務所の噂を目にしてここ練馬銀座商店街にあると聞き訪れたのだ。探偵事務所は純喫茶「ラ・ポーズ」のすぐ横にあるらしい。少女はその「ラ・ポーズ」というお店を探す。傘を抱えながらスマホのGPSマップで純喫茶を探す。マップアプリには賀茂探偵事務所の住所や場所が登録されていない為、目印となる喫茶店を探すしか方法がないのだ。なぜ、マップに登録されていないのかは謎だけどもしかすると最近できたばかりなのかもしれない。少女はマップを見ながら準喫茶店を探す。
アーケードを潜ってからしばらくすると看板に「ラ・ポーズ」と書かれた店を見つけた。コンクリート状の建物だが看板だけでなく窓や扉もお洒落で花壇が置かれており紅白色のオーニングが設置してあって昭和の雰囲気を感じる店舗だった。となると、この店の横に探偵事務所があるんだと少女はラ・ポーズの路地を覗く。細い路地道のすぐ近くに鉄階段を見つけた。路地に入り鉄階段の方へ近づくと壁に「賀茂探偵事務所 階段を上ってすぐ↑」と書かれた案内の紙を見つけた。雨が降っているのに紙は濡れていない。どうやら防水性能がある紙のようだ。少女は案内の紙を見て鉄階段を上った。水浸しの鉄階段は上っている少女の足音を立てる。上るとすぐ目の前に鉄の扉が少女の前を立ち塞ぐ。何だかイメージしたのと違うなと少女は扉をノックした。
「ご、ごめんください」
これから監房に入るみたいな感じでドキドキしている少女は声をかけた。しかし、何も応答はしなかった。少女は扉のドアノブに手をかける。ドアノブからは雨で濡れているせいか冷たい。心拍数が高まっている少女はゆっくりと扉を開ける。ギギギ・・・と鈍い音がして本当に監房に入るかのような不気味さがあった。扉を開けたその先は監房どころか普通の部屋・・・というよりなんだか異色な空間が広がる光景だった。玄関先にはシックな壁に西洋風と昭和レトロが混ざり合ったアンティークや装飾などが置かれている。少女が知らない物から知っている見た事がありそうな物まで出揃っていた。SNSでは異色な部屋だったと書いてあったがまさにその通りだ。玄関に入り傘を閉じた少女は「すみませ~ん」と声をかけた。誰も顔を出さない。
「どなたかいらっしゃいませんか?」
声をかけても無反応が続くと少女はもしかして留守なのかなと思った。でも、留守なのに鍵をかけないなんてそんな不用心なことはしない。きっと、誰かいるはず。
少女はもう一度、声をかけようとすると後ろから扉の音が聞こえた。振り返ると黒い傘を差して手首に袋を掛けている一人の青年が立っていた。コートを羽織った青年は「もしかして、依頼人ですか?」と訊ねると少女は頷いた。すると、青年は玄関に入り傘を傘立てに立て掛けた。
「すみません。コンビニでちょっと買い物しに行っていたので鍵をかけなかったんですよ。お待たせしてすみません」
「い、いえ。あたしもさっき来たばかりで」
「よかったら上がってください。お茶淹れますので」
青年は笑顔で事務所の中へ招いた。少女は返事して彼のお言葉に甘えて部屋に入ることにした。とても愛想が良さそうで優しそうな青年だったので少女は少し安心したかのようにホッとした。青年に案内されたのはリビングだ。やや広くてあちこちに西洋風のアンティークから昭和時代のレトロチックなインテリアまで全て揃っている。そして、たくさんの本棚があったり辺り一面に積み重なった本が置いてあったりテレビやソファも生活に必要な物は揃っている。
「そこのソファに座ってください。紅茶かコーヒーどちらにしますか?」
「えっと・・・紅茶で」
少女の注文を応えるかのように青年は頷きキッチンへ入った。
革製でアンティーク調のソファに座った少女は部屋中を見渡す。監房じゃなかったからいいけど確かに、SNSで見た噂のとおり異色的で普通の部屋とは少し違う気がした。宗教とか秘密組織とかいろんな話が広まっているけど青年を見る限りそんなに怪しそうな人物じゃないのは確かだ。西洋風と昭和レトロの装飾やアンティークが置いてあるのは彼の趣味なのだろうか?
すると、青年がお盆を持って現れ「どうぞ」と少女の側に紅茶とシュークリームをテーブルの上に置いた。
「どうぞ。ワイルドストロベリーティーです。それと、さっきコンビニで買ったシュークリームです。コンビニで買った物で申し訳ございません」
「いいえ。お気遣いなく」
少女は彼が淹れてくれたワイルドストロベリーティーを一口飲んだ。甘酸っぱくて香りが良くおいしい。普段は午後の紅茶とか市販でしか売っていない紅茶しか飲んだ事なかったので新鮮に感じた。
「ただいまー」
誰かが帰って来たみたい。リビングに現れたのは紺色のスリーピーススーツを着こなした若い男だった。年は青年と同じぐらいだ。
「お帰り。木崎さん家の雨漏り修理どうだった?」
「パッとサッと修理したよ」
すると、スーツの青年は少女の存在に気づいた。
「そちらは?」
「今日の依頼人。まだ内容は聞いてないけど」
それを聞いたスーツの青年はネクタイを締め直しピシッとスーツを整え大々的に自己紹介をし出した。
「ようこそ我が賀茂探偵事務所へ。私(わたくし)は当事務所の主にして名探偵 賀茂悠太と申します」
格好良くキメるかのように多少カッコつけながら挨拶をするユータ。自ら〝名探偵〟だなんて言うからシンは小馬鹿にしているかのように鼻で笑う。彼が言う名探偵は少なくとも違う。正しくは〝迷探偵〟。迷子の探偵である。ユータが調子に乗って自分はすごい探偵なんだとアピールしていると馬鹿馬鹿しく思ってしまう。
シンが笑った時、一瞬チラリとユータがこちらを見た。何が可笑しいと訴えているかのような目で見られたのでシンは何もなかったかのようにとぼけた顔をして誤魔化した。
「で、こちらは私の助手 津守真です」
紹介されるとシンは軽く会釈した。
自分達の自己紹介が終わるとユータとシンは彼女の向かい側のソファに座り話を続けた。
「お名前は?」
ユータが問うと少女は両手を膝の上に置いて自分の名前を教えた。
「遠藤美樹です」
「それ、もしかしてアンバート高等学園の制服でしょ?」
いきなり学校制服の名前を当てたシンに美樹は驚いた。
「どうして分かったんですか?」
まだ何も話していないのに制服の名前を言い当てられて驚きを隠せない美樹は不思議そうに言った。
「制服の襟に付けているそれ。アンバートの校章ですよね?木の実を銜えたフクロウ。フクロウは女神アテナに仕えていた聖なる鳥にして知恵の象徴と呼ばれていた。口に銜えているのは旧約聖書『創世記』に出てくる知恵の実でしょ?私立東都アンバート高等学園は入試偏差値・試験難易度が最も高い名門校で多くの名立たる政治家や芸能人達を卒(しゅっ)したとされている。進学や就職活動にも力を入れていて交換留学も主流になっている知識高い生徒が集まるエリート校」
学校のシンボルまで知っているシンに美樹は頷いた。
「そうです。なぜ知ってるんですか?」
「前にテレビでたまたま観て知ったんです」
アンバート高等学園について軽く解説したシンは会った時から既に知っていたかのように話していると横からユータが「おい」と小突いた。
「今は俺が話してるんだ。割り込むなよ」
会話を挟んで横から割り込んで来た助手に文句を言うユータ。助手は簡潔に「すまん」の一言で終わらせた。助手は探偵の手伝いをするだけでなく尊敬もするはずだがシンにはユータに対する尊敬の欠片は微塵もない。
気を取り直してユータは改めて今回の要件について訊きだした。
「今日はどういったご用件で?」
探偵としての仕事にスイッチが入ったユータは依頼内容を彼女に訊ね詳細を聞きだそうとすると美樹は二人にこう言い出した。
「実は・・・。あたしと同じ学校に通っている生徒の子が死んだんです」
美樹は自分が知っていることを全て二人に話した。
「三日前の夜です。うちの学校で同じクラスにいる組谷くんって子が部屋の中で死んでいたらしいんです。詳しくは知らないですけど朝、組谷くんのお母さんが彼を起こしに部屋へ行ったら本人が・・・組谷くんが死んでいたみたいで」
クラスメイトが死んだ。遺体場所は本人の部屋。慣れ果てた息子を発見したのが母親で大変な騒ぎになったらしい。それはそうだ。息子が死んだのだ。誰だって驚いて騒いでしまう。息子の突然の死に家族は驚きすごく悲しんだろう。
クラスメイトの死に美樹は心を痛めていたところ、シンが言い出した。
「自殺したという可能性は?日本で15歳から19歳までの人が最も一番多い死因は自殺なんです。因みに第2位は事故で第3位は白血病などの悪性新生物だといわれています。その組谷くんとやらは何か悩みとかありましたか?学校内でのいじめとか家庭内でのトラブルとかで苦しんでいたとか」
落ち着いた声で淡々と話すシンに美樹は心当たりないと否定した。
「いいえ。そんな話は聞いた事ありませんし、組谷くんはそんな自殺するような人ではないと思います。普通に学校にいましたし授業もちゃんと受けていて友達もいました。それに・・・」
美樹はまだ何か知っているようだった。
「今回の組谷くんが死んだという話し。もしかしたら、あの事件と関係しているんじゃないのかって学校中、噂になっていて」
「あの事件とは?」
それは一体何なのかユータが訊ねると
「実は、組谷くんだけじゃないんです。五ヶ月ぐらい前から他の生徒や先生が次々と死んでいるんです。しかも、死んでいったのはみんなアンバート高等学園にいる人達ばかりなんです」
それを聞いたシンはそれ知っていると話した。
「ニュースにもなりましたよね。そのニュースで初めてアンバート高等学園を知ったんですよ。確か、五ヶ月前は校長先生が亡くなったんですよね?」
美樹は不安な表情を浮かべながら頷いた。同じ学校に通う生徒とそこで働いている教員が死んだことに不安心と恐れを感じたのか微かだが手が震えていた。
「四ヶ月前は教頭先生。三ヵ月前は組谷くんとあたしと同じクラスにいた三十木くん、ニヶ月前は松宮くん、そして一ヶ月前は荒浪さん・・・。組谷くんも含めて学校内では誰かに殺されたんじゃないのかと噂になっていて。今回の一連でPTAの人達もすごく不安に煽られていますし警察も捜査してくれているみたいなんですが全く手がかりが掴めないみたいで・・・」
「何か心当たりあることはありますか?亡くなった方達の共通点とか」
ユータは内ポケットからメモ帳を取り出し更に事件の話を深掘りしようとした。彼の問いに美樹は自分の脳内にある過去の記憶を探しながら考えていると一つだけ気になったことを思い出した。
「そういえば・・・。友達から聞いた話なんですけど亡くなった五人の死亡推定時刻が同じだったらしいと聞いた事があります。確か、夜中の1時13分。しかも、その五人は一ヶ月に一度だけ13日の夜中に亡くなっているんです。組谷くんが亡くなったのも13日の夜中。ちょうど三日前です」
ユータとシンは考えた。毎月13日の深夜1時13分に六人の生徒・教員が同じ日で同じ時刻に命を落とした。組谷には自殺するような人間ではなく普通に生活を送っていたと美樹が証言している。彼が自ら命を落とす野暮な子じゃないとすれば誰かに殺されたか。過去に同じ事件が五回も起きているとなれば同一犯による犯行の可能性はあると推測する。しかも、その同一犯と思われる犯人はまだ捕まっていない。
「どうする?ユータ」
シンは隣で腕を組んでいる探偵に声をかける。
「あの・・・。それともう一つ話しておきたい事が」
まだ何か言いたそうにしている美樹に二人は彼女の方を見た。
「実は・・・。六人が殺された同じ時間にその・・・」
口ごもって言うか言わないか迷っている美樹にユータは語りかける。
「遠慮なくお話してください。もしかして、今回の事件で思い当たることでも?」
ユータの優しい声かけに迷っていた美樹は決心したかのように話しだす。
「夢を・・見るんです。怖い夢を」
「夢?」
「夜中の1時13分。毎月13日に必ず怖い夢を見るんです。でも、夢にしては何というかなんかリアルっぽくて・・・」
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