妖魔大決戦

左藤 友大

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第十一幕

終戦(二)

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天照大御神の眩い光で目を閉じた正輝は真っ暗な空間にいた。
さっきまでは白くて明るい世界だったが、今度は真っ暗で何も見えない世界に辿り着いた。
すると、暗闇の中に一筋の光が聞こえた。その光から微かに誰かが呼んでいる声が聞こえた。
小さかった光が正輝の目の前で大きくなり暗闇だった空間が一瞬にして明るくなった。
正輝は閉じていた瞼をゆっくりと上げた。そこには見覚えのある顔が揃っていた。
目に映ったのは、精神の狭間でもあの世でもない。正輝が知っている人達だった。
亀姫に太朗丸、小日向に一反木綿、白カラス・・・。どれも正輝が知っている人達だ。
そして、彼女たちの周りには傷ついた妖怪達が一斉にこちらを見ていた。
正輝が目覚めると顔を覗かせていた亀姫達とこちらを見る妖怪達が歓喜をあげた。中には涙を流して嬉し泣きをしたり喜びの雄叫びをあげてお互い抱き合ったり万歳したり英雄の目覚めに誰もが大喜びをした。
包帯に巻かれた正輝は近くで自分の顔を覗かせていた亀姫を見た。
「よかった・・・。無事だったんだね」
安心した表情を浮かべると亀姫は目に浮かべていた涙を満面な笑みで小さく頷いた。
仰向けになって寝ていた正輝がゆっくりと身体を起こすと東の空が白んで薄明るくなってきたことに気づいた。
夜明けが来たのだ。長い長い夜はもう終わり新しい一日のが始まろうとしていた。
昇る朝日の光は温もりがありまるで目覚めた正輝を祝福しているかのように照らしていた。
すると突然、太郎丸と小日向が飛び込んできて起き上がりの正輝にしがみついた。飛び込んでしがみついて来た衝動で正輝は「ぐえっ」と踏み潰された蛙の鳴き声みたいな声を出しまた仰向けになって倒れた。
「このバガァ~~~!オメェ、ジンパイざぜやがっで~~~~!!!」
しかめ面で滝のように涙を流す太郎丸を見て正輝は苦笑いをしながら「ごめん。ごめん」と謝った。
太郎丸と一緒に縋りつく小日向は目を真っ赤にし鼻水を垂らしてまるで子供みたいに泣きじゃくっていた。
「めちゃめちゃ心配してたんだよ!君がたった一人であの化けクジラに残って・・・・大爆発が起きてもうダメだとと・・・!一人で無茶するからだよ~!でも、無事でよがっだ~~~~~!!!」
二人が大泣きしているところを見て正輝は妙に気恥ずかしかった。でも、これだけ正輝の事を心配してくれて本当に感謝しかない。
そして、みんな無事で本当によかった。
すると、隣で見ていた亀姫が一本の剣を持って正輝に見せた。
「あなたがトコヤミ大神の大爆発に遭ったと聞いた時は、信じられなくてすごくショックを受けたわ。あの大爆発を見て正輝はもう帰ってこないと諦めかけていた時、突然、空から天帝主(あまのみかどぬし)が降ってきてあなたを地上まで連れて来てくれたの。天帝主(あまのみかどぬし)は、トコヤミ大神が滅んだ時からあなたを守ってくれたのよ」
その話を聞いて正輝は、彼女の手にある天帝主を受け取った。
精神の世界で天照大御神が言っていた事は本当だった。トコヤミ大神が滅んだ時、天帝主は共に戦ってきた正輝の命を守り亀姫達がいる地上まで運んでくれた。この剣は、正輝の命の恩人だ。
自分の命を守ってくれた天帝主を優しく触れながら正輝は心の中で感謝の言葉を送った。
(ありがとう。僕を助けてくれて。僕がこうして無事に生きて帰る事ができたのは、君が一緒に戦ってくれたおかげだ。いろいろ大変なことがたくさんあったけど、僕に力を貸してくれて本当にありがとう)
天帝主があったから戦場を切り抜け黑緋神之命と滝夜叉姫という強敵に勝てた。もし、天帝主がなかった正輝は生きて帰れなかったかもしれない。この聖剣は長い長い時代の中、歴代の聖戦士に幾度もなく力を貸してくれた。
今回の戦いもそう。天帝主があったからこそ、正輝は厳しい修羅場を潜り抜けたのだ。


太陽が顔を出し朝の光が照らされている中、ぬらりひょんと大天狗は都内にあるビルの屋上にいた。
ボロボロな姿のまま屋上から見える朝日が昇る瞬間を眺めていた。
全てが終わった。現世は無事に新しい今日を迎えることができたのだ。
黑緋神之命が率いる悪霊軍団との戦いはとても長った。たった一日とは思えないぐらいえげつないほど長く戦ったような気がした。夜はとても長いのでその分、悪霊軍団とドンパチする時間もかなり長く感じた。激しく容赦ない戦いが繰り広げたものだから長期戦を覚悟に悪霊軍団と衝突し続けた。戦争なので時間なんて忘れてしまう。
「今回の戦いは、かなり犠牲者が多く出てしまったな」
朝日の日差しを眺めながら屋上に座る大天狗は呟いた。
黒カラスに川丸、猩々を含め悪霊化されたうえ戦闘に命を落とした妖怪の数は多かった。人間の死者も多数いて今回の戦はかなり手痛い結果を残した。
どれだけの人間が巻き込まれたのか。それはぬらりひょんも大天狗も知る由がなかった。
数知れない尊い命が犠牲になり多くの人間と妖怪がどれだけ傷ついたのか。この傷跡は、一生消えないだろう。
の後ろに白カラスが姿を現した。
ぬらりひょんは煙管(きせる)を吹かしながら語る。揺れる煙が太陽の日差しに当たる。
「トコヤミ大神の復活。滝夜叉姫に黒緋神之命。あまりの異常事態に一時はどうなるかと思ったわい。そのうえ、妖怪による悪霊化はさすがにショックが大きかったな。まさか、わしらの手で同胞を殺める事になるとは・・・・」
「だが、悪霊にされた同胞達はあの世で安らかに眠っているだろう。妖怪の魂は消滅してしまえば復活はできぬが、長い年月を経てば新しい命となって生まれ変わる。仲間を苦しみから解放してくれた草壁正輝に感謝しなければ」
「そうじゃな。じゃが、もう戦はこりごりだ」
「戦は犬も食わぬってか」
ぬらりひょんと大天狗は笑った。
「わしら妖怪は決して戦が好きとは言えん。何事もなく平穏に暮らすのが一番じゃからな。人間が問題さえ起こさなければだが」
「それは難しい話だ。人間は身勝手な生き物だからな。だが、今回に関しては人間も被害者に過ぎん。彼らは何も知らないで悪霊達に襲われたからな。犯人が黑緋神之命だとは人間達は分かっておらんだろう。だが、今回の件に関して戦争や侵略がどれだけ恐ろしいのか身を持って知ることができただろう」
煙管を吹かしているぬらりひょんは太陽が昇る光景を眺めながら訳ありな話をし出した。
「それはともあれ、奴らがあの封印があることに気付かなかったのは不幸中の幸いじゃったな」
その話を聞いた大天狗は真顔になって会話を続けた。
「ああ。もし、奴らが黑緋神之命があの封印を見つけてしまったら今よりもっと最悪な事態を招いていたかもしれんな」
あの封印とは一体なんなのか?
この二人はどうやら誰も知らない秘密を隠し持っているようだ。
「だが、どうする?黑緋神之命がいなくなったとはいえ、もしもあの封印が人間達の手に解かれてしまったら」
心配そうに封印とやらを気にかけるぬらりひょん。
しかし、大天狗は何も心配していないかのように表情を全く変えなかった。
「心配する必要はなかろう。あの封印は町の御神木として今でも住民達が大事に守っている。どこぞの不埒者があの神木を切り倒さない限りあいつは目覚めん。お主もそれを知っているだろう?」
「そうじゃな」
大天狗の話に納得したぬらりひょんは頷いた。
すると、朝日を眺めながら会話している二人の後ろから白カラスが現れた。
「大天狗様。ぬらりひょん殿。こちらにいましたか」
「どうした?シロよ」
訊ねる大天狗に白カラスは跪きながら吉報を知らせた。
「黑緋神之命とトコヤミ大神の討伐に成功した正輝殿がつい先程お目覚めになりました!」
嬉しい知らせににぬらりひょんと大天狗は喜んだ。
「そうか。正輝は無事なのだな?」
白カラスは大天狗に向けて「はい!」としっかりとした声で返事をした。
そして、ぬらりひょんはよっこらせと腰を上げ吹かしていた煙管を懐にしまった。
「さて、わしらはそろそろ帰るとするかの」
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