妖魔大決戦

左藤 友大

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第十幕

神災(十四)

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気迫だけじゃない。
奴が持つ覇気も闘気も一気に放出されビリビリと肌に感じる。
こんなにも凄まじい氣を感じるのは生まれて初めてだ。
殺気がビンビンと伝わってくる。
覇気と闘気を剥き出しに黑緋神之命は正輝に向けて指を差した。
「こうなれば、私の手で全人類と生物、全ての神々を葬り腐れ切ったこの現世とあの世を跡形もなく消し去ってくれる!まずは、草壁正輝!世界終焉の余興として貴様を完全消去する!貴様が取った私に対する数々の愚弄。そして、私を怒(いか)らせ理想を邪魔したその罪、万死問わず魂の一欠片残さぬようこの手で処分してやる!!」
凄まじく放出する自らの覇気と闘気を振り払い強く宣言した。
正輝はその宣言を受け止めたかのよう表情が強張り天帝主を構えた。
揺れる大広間の中、二人は静かに睨み合いどちらが動くか見計らった。


突然の揺れに小日向は体勢を崩し尻もちをついた。
トコヤミ大神の心臓から出る煙が勢いを増して噴き出してくる。
揺れる部屋にふしぎな泉の水が波を打ち零れだす。
小日向と一反木綿はこれがトコヤミ大神の心臓であることは全く知らない。
偶然にこの部屋に着きそのまた偶然にもトコヤミ大神の心臓を見つけた。
偶然が偶然と重なり合いこのような事態となった。
「やっぱり、俺の勘が当たった。どうも変わった形をした球体だと思ったけど心拍音が聞こえたから、きっとこれはこの化け物の心臓に違いないと思ってたんだ」
高鳴りを増すトコヤミ大神の心臓に変化が現れた。
最初の色は灰色だった。しかし、鉄パイプでたくさん刺したら赤みがかかったオレンジ色に変色した。
鼓動が早まり空気が中に溜まってパンク寸前みたいに膨らんでいた。
「でも、どげんする?正輝はん達はまだこの中のどこかにいるみたし、ここで大爆発でも起きとら」
その時だ。
心臓に異変が起きた。
だんだん膨らむ心臓の中から光が差した。
危機を察知した小日向は振り向いた。
「一反木綿さん!この部屋を出ましょう!」
そう言い小日向は半開きになっていた回転式の鉄の扉を潜り抜けた。


「一反木綿と人間がトコヤミ大神の心臓部をやったぞ」
懐にしまっていた予言玉を片手に持って見ていた大天狗が近くにいるぬらりひょん達に伝えた。
「一反木綿のやつ、よくやった!」
「しかし、その人間とは一体?正輝殿は黑緋神之命と戦っているのでしょう?」
喜びと疑問が飛び交うと大天狗は予言玉から見えた光景をそのまま教える。
「一反木綿と一緒にいるのは人間の大人だ。その人間の大人は何者なのかは知らんが、敵ではないのは確かだ」
ぬらりひょん達は、小日向という人間をまだ知らない。
でも、一反木綿と一緒にトコヤミ大神の心臓を壊したのは事実なので決して小日向という男は怪しい人物ではない事はすでに予言玉で明白されている。
しかし、喜んでいる場合ではない。
大天狗は深刻な表情を浮かべていた。
「だが、この後が大変だ。心臓を破壊した事で大爆発が起きる。しかも、トコヤミ大神一帯を包み込むほどの巨大な爆炎が正輝達を襲う」
それを聞いてぬらりひょん達は大きく動揺した。
心臓が限界を達して辺り一帯を巻き込むほどの大爆発が起こる。
そうなると、黑緋神之命と戦っている正輝に時間がない。
まだ身体が動けない亀姫は弱った声で大天狗に訊ねる。
「正輝は・・・正輝はどうなるんですか?」
大天狗は予言玉を覗くも難しい顔をして首を横に振る。
「分からん。そこまでは、予言玉には映っておらん」
「一反木綿が正輝と合流し無事脱出できることを祈るしかないようだ」
そう言いぬらりひょん達は再び空を見上げた。
肉眼で微かにだが米粒のように見えるトコヤミ大神の姿が見える。
あの米粒から地上に聞こえるほどの鳴き声。
亀姫は、空高く飛行しているトコヤミ大神を見て強く祈った。
猩々。川丸。クロさん。どうか、どうか正輝を助けてあげて・・・・!


トコヤミ大神の心臓がそろそろパンクしそうだ。
部屋には小日向と一反木綿の姿は見えない。
心臓から漏れ出した光がみるみる大きくなり風船のように膨らみ破けそうになると、遂にその時が来た。
ドガァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!
赤みかがったオレンジ色に染まった心臓が派手に大破裂したのだ。
破裂した同時に部屋は一瞬にして爆炎に包まれ重くてビクともしなかった鉄の扉はいとも簡単に大爆発の勢いに押されてぶっ飛ばされた。
心臓が大爆発したと同時にトコヤミ大神が目玉が剥き出し飛び出すかのように大きく見開き断末魔を超えたこの世のものとは思えないぐらいの大絶叫が夜に包まれた大空一帯と地上に轟かせた。
体内は大爆炎に襲われ身体のありとあらゆる組織を破壊しだした。
小日向と一反木綿は急いでこの灼熱廊下を抜け出そうとした。
すると、後ろから激しい爆発音が聞こえ振り向くと爆炎がすぐそこまで迫って来たのだ。
その光景を見て小日向はすぐさま一反木綿の背に飛び乗った。
「一反木綿さん!」
掛け声を出すと一反木綿は瞬時にスピードを上げ飛び去った。
全速力で飛ぶ一反木綿にしがみつきながら小日向は襲い迫る爆炎を見た。
思った以上にすごい速さで爆炎が広がり辺りを飲み込む。
「この後どげんする?」
勢いに乗って全速力で駆ける一反木綿に小日向は答える。
「正輝くんがまだこの中のどこかにいるかもしれない!あの子をほっといて逃げるわけにはいきませんよ!」
「とすれば今頃、黑緋神之命とまだ戦っておるかもしれん。急いで正輝はんを見つけましょ」
そう言いながら一反木綿は途中、別の道へ通じる入り口を見つけ急カーブした。
小日向は振り落とされないようしっかりと一反木綿の背中にしがみついた。


無数の火炎弾の雨が正輝に向かって降り注いでくる。
正輝は降り注ぐ火炎弾に当たらないように潜り抜けながら走る。
黑緋神之命は自ら火炎弾の雨の中に突っ込みながらこちらに向かって来る正輝を襲いかかろうとした。
拳に自らの魔力を纏わせると魔力が具現化し強靭な鋭い爪へと変換した。
口や額に血を流し傷を付けながら正輝は燃え盛る天帝主を持って黑緋神之命に襲いかかる。
降り注ぐ火炎弾による爆発の中、二人は険しい顔をしながら同時に攻撃を仕掛けた。
爆発の渦に飲まれながら正輝と黑緋神之命は互いの攻撃を衝突させた。
黑緋神之命が空いた手で攻撃を仕掛けようとするも正輝はそれに気づき後ろに飛んで一旦、彼から離れた。
天帝主の聖炎が大きくなると正輝は振り回し大きな炎の津波を起こした。
炎の津波は辺り一帯を包み込むかのよう黑緋神之命を襲う。が、持ち前の神通力で止められてしまった。
力強く神通力で津波を弾き飛ばし跡形もなく消えた時、景色が揺らめいていた。
床から立ち上る熱気の中、目の前に正輝が立っていた。
佇む正輝を見て油断したなと思い掌から神通力を放った。
正輝は神通力の衝撃波を受けて倒れると思った矢先、正輝の身体がフワッと煙のように消えた。
消えた正輝を見て黑緋神之命の警戒心は高まる。
すると、後ろから気配を感じ振り向くといつの間にか大胆に飛び掛かる正輝の姿が見えたのだ。
黑緋神之命は、隙だらけの正輝に手を伸ばし首を掴もうとした。が、また煙になって消えた。
またもや正輝が姿を現し攻撃を繰り出すもまた消えまた現れてまたまた消えたりの繰り返しが起こった。
頭に血が上っていても冷静な表情と態度を見せる黑緋神之命はこれは幻だと分かった。
この床から立ち登る熱気が景色を揺らめかせ彼に幻を見せているんだ。
立ち登る熱気は、今も黑緋神之命を翻弄するかのように揺らめている。
黑緋神之命は静かに本体が現れるのを待つと彼の目から映像が流れた。
未来予知が流した映像には、巨大な生き物の姿をした聖炎を放つ正輝の姿が映し出されたのだ。
それを知った黑緋神之命は瞬時に正輝が現れる方を向くと案の定、未来予知の通り正輝の姿が現れた。
正輝は、天帝主を振り下ろすと聖炎で作った虎が姿を現し黑緋神之命に向かって牙をむき襲いかかった。。
しかし、もう既に正輝が攻撃を仕掛けてくると知った黑緋神之命は親指を曲げ残りの四本指を密着させ刀のように降り上げると鋭い牙を見せた聖炎虎の大きな口が真っ二つに斬られ姿形が崩れた。
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