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第十幕
神災(十一)
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ビクとも動かない身体に正輝は力を入れて天帝主を振り下ろそうとしたが、1ミリも動かなく全身が固まっていた。
きっと、黑緋神之命の神通力のせいだろう。
宙に止まったまま身動きが取れない正輝に亀姫はただ見る事しかできなかった。
彼女の手には重傷を負った猩々と太郎丸がいる。
この場を離れるわけにもいかないが、正輝を放っておくのもできない。
自分は彼らに守られてばかりでどうすることもできないと悩みを抱えていたのだった。
黑緋神之命は頭上にいる正輝を睨みながら神通力で衝撃波を与えた。
衝撃波の勢いで飛ばされ倒れた正輝は起き上がろうとするといつの間にか目の前に黑緋神之命が立っていた。
見下すように冷徹な目で見る黑緋神之命の掌から青黒い電気が光っていた。
如何にもとどめを刺そうとしているみたいに青黒くて不気味な雷(いかずち)を見せびらかす。
まるで、牙をむいて威嚇しているかのようにバチバチと音を鳴らしている。
雷(いかずち)で纏った掌が上を向いた時、まずいと思った正輝は避けようとしたが、身体に力が入らなかった。
さっき受けた衝撃波が強すぎたせいだろうか?
動けない正輝に黑緋神之命は掌を振り下ろした。
力が入らず立てないこの状況で正輝はやられたと思い強く目を瞑った。
雷が強く光りすごい爆音が大広間中、鳴り響いた。
強烈な落雷の音は鼓膜が破けそうになるぐらい鋭く耳が痛くなりそうなぐらい大音響だった。
やられたと思った矢先、全く痺れと痛みを感じなかった。
しかも、雷に撃たれた感覚が全く無いのだ。
正輝は自らの手を見て動かしたが、全く感電はしていない。
どうやら無事みたいだ。でも、後ろから焦げた臭いがした。
振り返ってみると正輝は目を大きく見開いた。
彼が目の当たりにしたのは、信じられない光景が広がっていたのだ。
身体が黒ずみ焦げていて着物がはだけており右手には太郎丸が持っていた鉄パイプを持っていた。
細い身体に細い手足、それにふくよかな女性がうつ伏せになって倒れていた。
正輝は彼女を知っている。
黒こげになって倒れているのは、亀姫だ。
落雷は、亀姫に落ちたのだ。
ピクリとも動かない亀姫の無惨な姿に正輝は言葉が発せられなかった。
雷に撃たれ意識を失った亀姫に正輝は振り向いた黑緋神之命を睨んだ瞬間、突然、黑緋神之命の足が正輝の顔面に直撃した。
顔面を蹴られた正輝は仰向けになって倒れ込むと黑緋神之命が手を伸ばし正輝の胸倉を掴み持ち上げた。
蹴られた衝動で鼻血を出した正輝は黑緋神之命に胸倉を掴まれ持ち上げられた事で身体がぶら下がっている。
しかも、彼の手には天帝主がない。
黑緋神之命に蹴られたことで天帝主を手放してしまったのだ。
持ち上げられていることで首が絞まり苦しみながらも正輝は自分の胸倉を掴んでいる黑緋神之命の手を振り解こうとしたが、腕力と握力が強いため脱出は不可能だった。
相手に胸ぐらを掴み上げられるのは人生で初めてだったので持ち上げられて宙に浮いている正輝はただ足をジタバタ動かす事しかできなかった。
ギリギリと首を絞められて窒息してしまいそうで意識が朦朧しかけていた。
まだ息がある猩々はまだ癒えていない傷で立ち上がろうとするも激しい痛みに襲われ動けなかった。
きつく首を締められ正輝が泡を吹いて気を失いそうになったその時だ。
なんと、黒こげになって倒れていた亀姫がゆっくりと起き上がろうとしたのだ。
「その子を・・・・離しなさい・・・」
弱々しい小さな声でそう呟いた時、とどめを刺すかのように黑緋神之命が立てた人差し指を彼女に向けた。
すると人差し指の指先から出た電撃が彼女の身体を貫いた。
貫かれた亀姫は口から煙出し再び倒れようとした瞬間、瀕死状態にも関わらず踏みとどまった。
黑緋神之命は彼女がまだ息があるという未来が見えていた。
電撃で彼女の身体を射抜かれたとはいえ、亀姫はそれでも倒れない。
持っている鉄パイプに寄りかかりながら姿勢を立たそうとする。
身体中に電気が流れながらも亀姫は正輝を助けようと試みる。
「・・・・正輝・・・今、わ、私・・・が」
鬱陶しく思ったのか黑緋神之命は神通力で亀姫を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた亀姫は転がり鉄パイプを落として倒れた。
「目障りな妖(あやかし)だ」
すると、黑緋神之命が二本指を立てた。
猩々達の周りに漆黒に染まった大きな星が浮かび上がった。
漆黒の星は黒紫色に輝き猩々達を包み込む。
「貴様らにはご退場願おうか」
胸倉を掴まれている正輝は黑緋神之命の手の中で苦しそうにもがく。
「やめろ・・・!」
首が絞まっていて大きな声が出せない。
不気味な光に包まれている猩々はピンチに陥っている正輝を見ていて居ても立っても居られず力を振り絞って声を荒げた。
「正輝・・・・!松明丸の時を思い出せ」
そう言い残し猩々は亀姫と太郎丸と一緒に光の彼方へと消え消滅した。
松明丸の時を思い出せ。
それが、猩々の最期の言葉。
その時、ドスッという鈍い音が響いた。
腹を殴られた感触がして正輝は大きく目を見開いた。
掴まれていた胸ぐらを離した途端に押し出され正輝は倒れた。
黑緋神之命から離れたことで正輝はすぐ身体を起こして立ち上がろうとした。
が、なぜか立ち上がれなかった。
力が抜けているかのようで全身に力が入らない。そのうえ、痺れていてうまく立とうにも立てなかった。
全然力が入らなく立つ気力さえ無くなっている正輝は自分の身に何が起こったのか理解できない状態になっていた。
すると、黑緋神之命が彼の身に何が起きたのか冷徹な表情で教えたのだ。
「どんなに足掻いても無駄だ。貴様には、力と思考を無効化にする呪術をかけたのだ。その呪術を解除しない限り、貴様は一生そこで這いつくばるだけだ」
呪術をかけられた。
その言葉に正輝は思い当たりがあった。
さっき、奴に腹を殴られ押し出された時だ。
腹を殴ったことで正輝の体内に呪術が施され力と思考を無効にしたのだ。
言われてみればさっきから頭が薄ら薄らボーッとしてきている。
考えたくても思考力が衰えてくる。
印を結んで何やら企んでいる黑緋神之命。
すると、正輝の周りに不思議な形をした紋様が浮き出してきた。
まるで魔法陣のような形をしていて正輝はその魔法陣の中心にいる。
これもまた不気味な色をしていて嫌な予感だけしかない。
黑緋神之命は印を結びながら何もできない正輝に言う。
「人は愚かで醜い。寿命が短い分際で大きな態度を示して天狗になる。そんな救いようがない生き物を自らの命を投げ出すまで救おうとする貴様の曖昧な考えは馬鹿としか言葉がない。素直に尻尾を巻いて逃げればいいものを。すれば、こんな勝ち目のない戦いに参加する必要はなかったはず?」
容赦なく貶してくる黑緋神之命に対し力と思考を失いつつある正輝は眉を寄せながら反論した。
「逃げたってどうせ殺すのには変わりないだろ?例え救いようがなくても、救わなくちゃいけないことだってあるはずだ。妖怪も人間も精一杯生き延びるのに必死なんだ。生きる価値がないなんて、そんなのどこにもないんだ。だから、僕らは戦ってるんだ。みんなが明日を迎える為にも僕はお前に勝たなくちゃいけない」
身動きが取れない状況になりながらも正輝は決して諦めなかった。
いつもの明日がある明日を守る為にも自分だけではなく世界中の人達に元の平和が戻れる事を強く願いそして取り戻そうとする姿勢は変わりなかった。
正輝の頭の中には鳥取にいる家族や友達、妹の愛菜に水木しげるロードで出会った小日向、そして猩々、太朗丸、亀姫、一反木綿を含める妖怪達の顔が浮かび上がった。
生きとし生きるたった一度の人生を神と名乗る身勝手野郎に壊させる訳にはいかない。
強気な態度を示す彼を見下す黑緋神之命の表情は何一つ変わっていない。
見下し目線を送りながら黑緋神之命は冷淡とした態度を見せる。
「力と思考が無くなっても生意気は健在か」
「生意気で結構。僕はお前を倒す事は変わりない」
「そう言っていられるのも今の内だ」
黑緋神之命が突然、冷徹な笑みを浮かべた。
その笑みを見て嫌な雰囲気が正輝を襲った。
「全ては整った。これからトコヤミ大神が現世を破壊する。トコヤミ大神が放つ巨大な咆哮で東京を破壊すれば下で戦っている妖怪共はもちろん、地球上全ての人間が一匹残らず死滅する。その威力は、巨大小惑星が地球に衝突した時と同じだ」
俄(にわ)かに信じ難いが、黑緋神之命が言っているから本当らしい。
体内の中ではそんなに大きな変化を感じられないけど外ではとっくに巨大咆哮を撃つ準備ができているみたいだ。
すると、黑緋神之命の頭上に画面が映った。
画面には日本列島が映っていた。その一部に真っ暗な部分がある。
真っ暗に見える部分は東京みたいだ。
しかし、東京以外の場所はちらほらと星のように小さな光が見える。
どうやら、東京以外の他県はそんなに被害は受けていないらしい。
トコヤミ大神は現在、東京から更に上昇して空と宇宙の境目辺りにいるらしい。
この画面は、トコヤミ大神の目線で映っているのだ。
そして、黑緋神之命の目にも世界が消える未来が見えるのだ。
トコヤミ大神が巨大咆哮を解き放ち関東地方を始め全国が、日本列島が、世界が跡形もなく消滅するという光景が明確に映ったのだ。
「私は見えたのだ。現世が無残に散っていくのを。私の未来予知は決して外れない」
黑緋神之命の頭上に現れた映像がプツンと消えた。
呪術のせいで力が出せず思考が動かない正輝はただうつ伏せになることしかできなかった。
「まずは、下界の愚者よりも一足先に貴様を消す。貴様が隙を見て天帝主を呼ぼうとしている未来が見えたからな。聖炎は、闇の力を焼き払うからな。呪術にかかっているとはいえ、油断はできない」
そう告げると魔法陣が強く光り出すと同時に数体の黒赤色の鬼火が現れた。
鬼火は不気味でおどろおどろしく正輝を取り囲む。
そして、鬼火の中から人の姿をした骸骨が姿を現した。
漆黒の和装に身を包み頭骨に角らしき物体が付いていた。一本角を持つ骸骨もいれば、二本角を持つ骸骨もいる。
上腕骨と肋骨が向き出しになっていて眼窩(がんか)にはちゃんと目玉が付いている。
骸骨が持つ赤い瞳が正輝を見る。
正輝は骸骨の赤い眼を見た途端、悪寒が襲いゾクッとした。
骸骨達が印を結ぶと何やら詠唱をしているかのような不気味な声が聞こえ始めた。
不気味でこの世のものとは思えないぐらい暗くて重い声が正輝の耳に入いり意識が朦朧としてきた。
骸骨達の詠唱と共に魔法陣が突然回り始めた。
光り輝くとまるで、何かを押し出そうとする感触が正輝の身体に伝わった。
いや、身体じゃない。身体の中にある何かを押し出そうとしている。
「これから貴様はこの奈落の骸共に魂を喰われる。こいつらに喰われたらもう二度と転生もできないうえあの世へも霊界へも行けない。貴様はこの骸共の糧となって消滅する」
それを聞いた正輝はこの身体の中から感じる感触は、正輝自身の魂を肉体から押し出す合図だったのだ。
「現世とあの世の終わりを見届けられないまま消滅する。貴様らしい最期だ」
だんだん弱り果てていく正輝は死んでたまるかと意識を保ちながらこの死の呪いに抵抗するも打つ手がなくほぼ降参状態になっていた。
なんとかして、この魔法陣から脱出しなければならないが呪術で力と思考がなくなった今、抗う術が全く無い。
きっと、黑緋神之命の神通力のせいだろう。
宙に止まったまま身動きが取れない正輝に亀姫はただ見る事しかできなかった。
彼女の手には重傷を負った猩々と太郎丸がいる。
この場を離れるわけにもいかないが、正輝を放っておくのもできない。
自分は彼らに守られてばかりでどうすることもできないと悩みを抱えていたのだった。
黑緋神之命は頭上にいる正輝を睨みながら神通力で衝撃波を与えた。
衝撃波の勢いで飛ばされ倒れた正輝は起き上がろうとするといつの間にか目の前に黑緋神之命が立っていた。
見下すように冷徹な目で見る黑緋神之命の掌から青黒い電気が光っていた。
如何にもとどめを刺そうとしているみたいに青黒くて不気味な雷(いかずち)を見せびらかす。
まるで、牙をむいて威嚇しているかのようにバチバチと音を鳴らしている。
雷(いかずち)で纏った掌が上を向いた時、まずいと思った正輝は避けようとしたが、身体に力が入らなかった。
さっき受けた衝撃波が強すぎたせいだろうか?
動けない正輝に黑緋神之命は掌を振り下ろした。
力が入らず立てないこの状況で正輝はやられたと思い強く目を瞑った。
雷が強く光りすごい爆音が大広間中、鳴り響いた。
強烈な落雷の音は鼓膜が破けそうになるぐらい鋭く耳が痛くなりそうなぐらい大音響だった。
やられたと思った矢先、全く痺れと痛みを感じなかった。
しかも、雷に撃たれた感覚が全く無いのだ。
正輝は自らの手を見て動かしたが、全く感電はしていない。
どうやら無事みたいだ。でも、後ろから焦げた臭いがした。
振り返ってみると正輝は目を大きく見開いた。
彼が目の当たりにしたのは、信じられない光景が広がっていたのだ。
身体が黒ずみ焦げていて着物がはだけており右手には太郎丸が持っていた鉄パイプを持っていた。
細い身体に細い手足、それにふくよかな女性がうつ伏せになって倒れていた。
正輝は彼女を知っている。
黒こげになって倒れているのは、亀姫だ。
落雷は、亀姫に落ちたのだ。
ピクリとも動かない亀姫の無惨な姿に正輝は言葉が発せられなかった。
雷に撃たれ意識を失った亀姫に正輝は振り向いた黑緋神之命を睨んだ瞬間、突然、黑緋神之命の足が正輝の顔面に直撃した。
顔面を蹴られた正輝は仰向けになって倒れ込むと黑緋神之命が手を伸ばし正輝の胸倉を掴み持ち上げた。
蹴られた衝動で鼻血を出した正輝は黑緋神之命に胸倉を掴まれ持ち上げられた事で身体がぶら下がっている。
しかも、彼の手には天帝主がない。
黑緋神之命に蹴られたことで天帝主を手放してしまったのだ。
持ち上げられていることで首が絞まり苦しみながらも正輝は自分の胸倉を掴んでいる黑緋神之命の手を振り解こうとしたが、腕力と握力が強いため脱出は不可能だった。
相手に胸ぐらを掴み上げられるのは人生で初めてだったので持ち上げられて宙に浮いている正輝はただ足をジタバタ動かす事しかできなかった。
ギリギリと首を絞められて窒息してしまいそうで意識が朦朧しかけていた。
まだ息がある猩々はまだ癒えていない傷で立ち上がろうとするも激しい痛みに襲われ動けなかった。
きつく首を締められ正輝が泡を吹いて気を失いそうになったその時だ。
なんと、黒こげになって倒れていた亀姫がゆっくりと起き上がろうとしたのだ。
「その子を・・・・離しなさい・・・」
弱々しい小さな声でそう呟いた時、とどめを刺すかのように黑緋神之命が立てた人差し指を彼女に向けた。
すると人差し指の指先から出た電撃が彼女の身体を貫いた。
貫かれた亀姫は口から煙出し再び倒れようとした瞬間、瀕死状態にも関わらず踏みとどまった。
黑緋神之命は彼女がまだ息があるという未来が見えていた。
電撃で彼女の身体を射抜かれたとはいえ、亀姫はそれでも倒れない。
持っている鉄パイプに寄りかかりながら姿勢を立たそうとする。
身体中に電気が流れながらも亀姫は正輝を助けようと試みる。
「・・・・正輝・・・今、わ、私・・・が」
鬱陶しく思ったのか黑緋神之命は神通力で亀姫を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた亀姫は転がり鉄パイプを落として倒れた。
「目障りな妖(あやかし)だ」
すると、黑緋神之命が二本指を立てた。
猩々達の周りに漆黒に染まった大きな星が浮かび上がった。
漆黒の星は黒紫色に輝き猩々達を包み込む。
「貴様らにはご退場願おうか」
胸倉を掴まれている正輝は黑緋神之命の手の中で苦しそうにもがく。
「やめろ・・・!」
首が絞まっていて大きな声が出せない。
不気味な光に包まれている猩々はピンチに陥っている正輝を見ていて居ても立っても居られず力を振り絞って声を荒げた。
「正輝・・・・!松明丸の時を思い出せ」
そう言い残し猩々は亀姫と太郎丸と一緒に光の彼方へと消え消滅した。
松明丸の時を思い出せ。
それが、猩々の最期の言葉。
その時、ドスッという鈍い音が響いた。
腹を殴られた感触がして正輝は大きく目を見開いた。
掴まれていた胸ぐらを離した途端に押し出され正輝は倒れた。
黑緋神之命から離れたことで正輝はすぐ身体を起こして立ち上がろうとした。
が、なぜか立ち上がれなかった。
力が抜けているかのようで全身に力が入らない。そのうえ、痺れていてうまく立とうにも立てなかった。
全然力が入らなく立つ気力さえ無くなっている正輝は自分の身に何が起こったのか理解できない状態になっていた。
すると、黑緋神之命が彼の身に何が起きたのか冷徹な表情で教えたのだ。
「どんなに足掻いても無駄だ。貴様には、力と思考を無効化にする呪術をかけたのだ。その呪術を解除しない限り、貴様は一生そこで這いつくばるだけだ」
呪術をかけられた。
その言葉に正輝は思い当たりがあった。
さっき、奴に腹を殴られ押し出された時だ。
腹を殴ったことで正輝の体内に呪術が施され力と思考を無効にしたのだ。
言われてみればさっきから頭が薄ら薄らボーッとしてきている。
考えたくても思考力が衰えてくる。
印を結んで何やら企んでいる黑緋神之命。
すると、正輝の周りに不思議な形をした紋様が浮き出してきた。
まるで魔法陣のような形をしていて正輝はその魔法陣の中心にいる。
これもまた不気味な色をしていて嫌な予感だけしかない。
黑緋神之命は印を結びながら何もできない正輝に言う。
「人は愚かで醜い。寿命が短い分際で大きな態度を示して天狗になる。そんな救いようがない生き物を自らの命を投げ出すまで救おうとする貴様の曖昧な考えは馬鹿としか言葉がない。素直に尻尾を巻いて逃げればいいものを。すれば、こんな勝ち目のない戦いに参加する必要はなかったはず?」
容赦なく貶してくる黑緋神之命に対し力と思考を失いつつある正輝は眉を寄せながら反論した。
「逃げたってどうせ殺すのには変わりないだろ?例え救いようがなくても、救わなくちゃいけないことだってあるはずだ。妖怪も人間も精一杯生き延びるのに必死なんだ。生きる価値がないなんて、そんなのどこにもないんだ。だから、僕らは戦ってるんだ。みんなが明日を迎える為にも僕はお前に勝たなくちゃいけない」
身動きが取れない状況になりながらも正輝は決して諦めなかった。
いつもの明日がある明日を守る為にも自分だけではなく世界中の人達に元の平和が戻れる事を強く願いそして取り戻そうとする姿勢は変わりなかった。
正輝の頭の中には鳥取にいる家族や友達、妹の愛菜に水木しげるロードで出会った小日向、そして猩々、太朗丸、亀姫、一反木綿を含める妖怪達の顔が浮かび上がった。
生きとし生きるたった一度の人生を神と名乗る身勝手野郎に壊させる訳にはいかない。
強気な態度を示す彼を見下す黑緋神之命の表情は何一つ変わっていない。
見下し目線を送りながら黑緋神之命は冷淡とした態度を見せる。
「力と思考が無くなっても生意気は健在か」
「生意気で結構。僕はお前を倒す事は変わりない」
「そう言っていられるのも今の内だ」
黑緋神之命が突然、冷徹な笑みを浮かべた。
その笑みを見て嫌な雰囲気が正輝を襲った。
「全ては整った。これからトコヤミ大神が現世を破壊する。トコヤミ大神が放つ巨大な咆哮で東京を破壊すれば下で戦っている妖怪共はもちろん、地球上全ての人間が一匹残らず死滅する。その威力は、巨大小惑星が地球に衝突した時と同じだ」
俄(にわ)かに信じ難いが、黑緋神之命が言っているから本当らしい。
体内の中ではそんなに大きな変化を感じられないけど外ではとっくに巨大咆哮を撃つ準備ができているみたいだ。
すると、黑緋神之命の頭上に画面が映った。
画面には日本列島が映っていた。その一部に真っ暗な部分がある。
真っ暗に見える部分は東京みたいだ。
しかし、東京以外の場所はちらほらと星のように小さな光が見える。
どうやら、東京以外の他県はそんなに被害は受けていないらしい。
トコヤミ大神は現在、東京から更に上昇して空と宇宙の境目辺りにいるらしい。
この画面は、トコヤミ大神の目線で映っているのだ。
そして、黑緋神之命の目にも世界が消える未来が見えるのだ。
トコヤミ大神が巨大咆哮を解き放ち関東地方を始め全国が、日本列島が、世界が跡形もなく消滅するという光景が明確に映ったのだ。
「私は見えたのだ。現世が無残に散っていくのを。私の未来予知は決して外れない」
黑緋神之命の頭上に現れた映像がプツンと消えた。
呪術のせいで力が出せず思考が動かない正輝はただうつ伏せになることしかできなかった。
「まずは、下界の愚者よりも一足先に貴様を消す。貴様が隙を見て天帝主を呼ぼうとしている未来が見えたからな。聖炎は、闇の力を焼き払うからな。呪術にかかっているとはいえ、油断はできない」
そう告げると魔法陣が強く光り出すと同時に数体の黒赤色の鬼火が現れた。
鬼火は不気味でおどろおどろしく正輝を取り囲む。
そして、鬼火の中から人の姿をした骸骨が姿を現した。
漆黒の和装に身を包み頭骨に角らしき物体が付いていた。一本角を持つ骸骨もいれば、二本角を持つ骸骨もいる。
上腕骨と肋骨が向き出しになっていて眼窩(がんか)にはちゃんと目玉が付いている。
骸骨が持つ赤い瞳が正輝を見る。
正輝は骸骨の赤い眼を見た途端、悪寒が襲いゾクッとした。
骸骨達が印を結ぶと何やら詠唱をしているかのような不気味な声が聞こえ始めた。
不気味でこの世のものとは思えないぐらい暗くて重い声が正輝の耳に入いり意識が朦朧としてきた。
骸骨達の詠唱と共に魔法陣が突然回り始めた。
光り輝くとまるで、何かを押し出そうとする感触が正輝の身体に伝わった。
いや、身体じゃない。身体の中にある何かを押し出そうとしている。
「これから貴様はこの奈落の骸共に魂を喰われる。こいつらに喰われたらもう二度と転生もできないうえあの世へも霊界へも行けない。貴様はこの骸共の糧となって消滅する」
それを聞いた正輝はこの身体の中から感じる感触は、正輝自身の魂を肉体から押し出す合図だったのだ。
「現世とあの世の終わりを見届けられないまま消滅する。貴様らしい最期だ」
だんだん弱り果てていく正輝は死んでたまるかと意識を保ちながらこの死の呪いに抵抗するも打つ手がなくほぼ降参状態になっていた。
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