妖魔大決戦

左藤 友大

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第七幕

大戦争(十五)

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半壊され成れの果てと化したスカイツリーは黒煙に舞い燃えゆく東京の町を見下ろすかのように佇んでいる。
スカイツリーの上半身はトコヤミ大神に潰され東京の名所とは言えないぐら重苦しそうな邪気を漂わせていた。
東京のシンボルとも呼ばれたスカイツリーがこんな形で人を寄せ付けないとても暗い雰囲気を見せるとは思ってもみなかった。
ソラマチもどんよりしていてとてつもなく暗い。
あの賑やかさが嘘のようにガラリと変わり果てていた。
根城が佇むスカイツリーから少し離れ春日通り近くに黒カラス、亀姫、太郎丸の3体の妖怪が歩いていた。
すると、近くから大きな爆音と気勢、そして武器をぶつける音が聞こえた。
亀姫達は音が聞こえる方へ走ると目の前には多くの妖怪と悪霊が乱闘している光景が広がっていた。
目の前にはトコヤミ大神がいるスカイツリーが見える。
斬っては斬られ殴れば殴られ自らの能力で蹴散らせば自らの力で荒っぽく蹴散らされ両者は傷を負いながらも手を止めることなく戦い続けていた。
彼らの戦い方はとても派手でぶっ飛んでいた。
戦場で上げる声はとても異常で怒りの声が聞こえれば断末魔を叫ぶ声もあった。
両者譲れない戦いなので、とても深刻な状況に陥っていたのだ。
空も激しい攻防戦が広がっていた。黒カラスだけ空から二人を誘導するという手もあったが、今の上空は激戦を繰り広げているので誘導するのは難しい。
こうなったら、地上でこの戦場を潜り抜けるしかないと思った黒カラスは二人にそう伝えて走り出した。
混乱している戦場の中、黒カラスが先頭に立ち続いて亀姫と太郎丸が彼の後を追いかけ戦場を掻い潜った。
戦場の中、走ってみて分かったが妖怪達の目は血眼になっていて我を忘れているかのようで戦いに没頭しつつあった。
亀姫と太郎丸は、戦いで目の色を変えている仲間達を間近で見るのは初めてでちょっと怖い気もした。
昔の人間は無謀で愚かな戦争を繰り広げ多くの人の命を奪いそして、逆に自分の命を奪われるという繰り返しをしながら多くの血を流し無造作に人を殺す事は当たり前のような感じになっていた。
彼女達はもちろん、多くの妖怪も人間が起こしてきた数々の戦争をこの目で間近で見ていた。
中には人間に対して妖怪達は口を揃えて言う。
〝人間は俺達、妖怪よりものすごく残酷で卑劣で恐ろしい生き物だ〟と。
人間は科学という力がある。武器を作ることだってできる。金や権力に眩み平気で弱者を踏みにじる。
しかし、妖怪は人間と比べてほとんど乏しいところがある。
妖怪には科学の力なんて持っていないし、お金も無ければ権力だって無い。
武器だけは作れても彼ら妖怪が持っているのは、自ら持っている能力、そして人を畏れさせる力を持っている。
争いを繰り広げていた人間と比べ妖怪は平穏で昔から時代の流れと変わりゆく世界をたくさん見てきている。
あまり妖怪は戦争を好まない平和主義なところもあるが、いざ人間が戦争を始めると平穏だった暮らしが奪われ自分達の住処までも失ってしまう。
人間が戦争さえ始めなければ、いつまでも平和な生活が続いていた。
妖怪から見て人間は愚かな生き物だけしか見ていないのもおかしくはないだろう。
戦争は腹が減るだけなのに。
それからしばらく経って、人間達は戦争をやめた。
あの恐ろしい戦争を経験した妖怪は星の数ほど多い。人間の愚かしさに見下す妖怪もたくさんいた。
70数年前、人間達は今の妖怪達みたいに戦いに夢中で生きるか死ぬかの繰り返しをしている。
三人は戦乱の中で激しくぶつかり合っている両者を避けながら先へ進む。
すると、目の前に悪霊が現れた。
三人が戦乱の中、走っている所を見つけたらしい。
悪霊が襲いかかろうとすると黒カラスが構えて拳を突き出した。
強く拳を突き出すと悪霊は吹き飛ばされた。吹き飛ばされた時、拳から悪霊の身体に衝撃が走ったかのような強い力が全身に伝わった。
しかし、悪霊を吹き飛ばしても黒カラス達は足を止めなかった。
彼らに足を止める暇はないのだ。
戦場を駆け抜けて目的地のスカイツリーへ走っていると亀姫が突然、足を止めた。
急に足を止めた彼女に太郎丸が訊ねた。
「亀姫さん?どないした」
亀姫が指を差した。
彼女が指を差す方向を見るとそこには、悪霊と戦うぬらりひょんの姿が見えた。
ぬらりひょんは刀を奮い立たせ戦っていたが、彼のが相手しているのは2体の悪霊。
しかも、その二体の悪霊はでかい身体をしていてぬらりひょんの身長を超えていた。
ぬらりひょんは、二体の悪霊に囲まれジリジリと攻められていた。
悪霊が鋭くて大きな刃を振り下ろすとぬらりひょんは刀で受け止め弾き返し巧みに相手の攻撃を受け流していた。
例え、数が不利でも激しく猛攻を繰り返す悪霊にぬらりひょんはぬらりくらりと2体の攻撃を見事にかわしきる。
攻撃が届かないのか悪霊は苛立っているのかさっきより勢いが増してきた。
怒り狂う二体の悪霊にぬらりひょんは平然と冷静な表情を見せた。
そして、襲って来る二体に向かって歩き出すと太郎丸が「危ない!」と叫び駆け寄ろうとした。
すると、黒カラスが「待て!太郎丸殿」と呼び止めた。
呼び止められた太郎丸は納得していなさそうな顔で黒カラスを見た。
「なんや!早うしないと総大将が!」
「助ける必要はありません」
キッパリと宣言した黒カラスに太郎丸は眉間を寄せた。
二体の悪霊が持つ刃は勢いよくぬらりひょんを襲う。
すると、ぬらりひょんは刃の餌食となって斬られてしまった。
身体は裂かれ首は刎ねられ無惨に死を遂げたぬらりひょんはぶっ倒れた。
ぬらりひょんの首が転がると太郎丸と亀姫の顔が真っ青になり言葉を失った。
「総大将!!」
亀姫と太郎丸は悲痛な叫びを上げた。
太郎丸は転がっているぬらりひょんの首を見ると鋭い目つきで黒カラスの方を見て歩き出した。
そして、太郎丸は思い切り黒カラスの胸倉を掴んだ。
「テメェ!何が助ける必要ないや!!テメェのせいで総大将が・・・総大将が・・・・!」
怒りを覚える太郎丸は怒鳴り声を上げるが、黒カラスは冷静な表情を見せていた。
そして、落ち着いた顔で自分の胸倉を掴んでいる太郎丸の手を掴んだ。
「落ち着いてください。あれを見てください」
怒り狂う太郎丸を落ち着かせるよう黒カラスは指を差して教えた。
彼の指を差している方を見ると刎ね飛んだぬらりひょんの首から黒い靄が立ち上っていた。
黒い靄が立ち上る彼の顔に太郎丸は仰天した。
「そうだ・・・!総大将、ぬらりひょんは確か勝手に人の家に上がり込み茶を啜るだけではなく」
亀姫が呟くとぬらりひょんの切り裂かれた体と頭が立ち上る靄と共に消えかけていると突然、一体目の悪霊に異変が起きた。
一体目の悪霊の背中に何か突き刺さった感触が走ったのだ。
すると、一体目の悪霊の背後からみるみると姿を現した。揺らめく靄の中から出てきたのは、死んだはずのぬらりひょんだった。
ぬらりひょんには傷一つもなく平然とした表情を浮かべ一体目の悪霊の身体に刀を突き刺していた。
そして、刀を強く振り上げ一体目の悪霊の身体を切り裂いた。
身体を切り裂かれた一体目の悪霊はよろめき仰向けになって倒れた。
倒れた時、一体目の悪霊の身体は崩れた。
そして、亀姫は呟き続けた。
「姿が見えるのに捕まえどころが無いうえ、夢幻(ゆめまぼろし)を見せる妖怪だった」
仲間のやられた姿を見たのか二体目の悪霊がぬらりひょんを襲いかかる。
ぬらりひょんは二体目の悪霊の勢いに乗って避けようとする。
すると、横から黒カラスの強烈なキックが襲いかかって来た。
キックを受けた二体目の悪霊は吹き飛んだ。
「ん?お主は」
黒カラスはお辞儀して挨拶をした。
「ぬらりひょん殿。ご無沙汰しております」
すると、ぬらりひょんは明るい顔を見せた。
「おおっ!クロではないか!久しいな!お主が来たという事は」
黒カラスは頷く。
「正輝殿とみなさんの助太刀に参りました」
「総大将」
「そ~だいしょ~!」
黒カラスに連れて亀姫と太郎丸も駆け寄って来た。
「おおっ。お前達か」
亀姫は彼の無事を安心して話した。
「無事でよかった。怪我はしてない?」
彼女の気遣いにぬらりひょんはかっかっかと笑った。
「わしはこの通り大丈夫じゃ。お前達がここに来たという事は」
この戦場、東京に来た理由を察した亀姫は頷いた。
「正輝が受けていた大天狗様の修行は無事に終わったわ」
その時だ。二体目の悪霊が体を起こし始めた。
それに気づいた黒カラスと太郎丸、ぬらりひょんは構えた。
「それはよかった。で、正輝はどこにいる?」
ぬらりひょんは刀を構えながら訊ねる。
「さっきまでは一緒にいたけど、トコヤミ大神の攻撃に襲われて今はバラバラになってどこかへ行っちゃったけど、正輝には猩々と一反木綿がいるからきっと大丈夫だと思うわ。それに、私達はトコヤミ大神がいる東京スカイツリーへ向かってるの。きっと、正輝達もそこへ向かっているはずだわ」
詳細を聞いたぬらりひょんは理解したかのように返答した。
「そうか。ならば、お前達は先を急いで合流地点へ行け。あの悪霊はわしが成敗する」
ぬらりひょんは黒カラスの方を見た。
「クロよ。二人を頼む」
黒カラスはぬらりひょんの顔を見た。顔に後は任せると訴えているかのように見えたので構えていた手を下した。
「わかりました。亀姫殿。太郎丸殿。行きましょう」
そして、黒カラスは最後にこう告げた。
「ぬらりひょん殿。お気をつけて」
そう言い残し黒カラスは振り向いて走り出した。
続いて亀姫と太郎丸も彼の後を追いかけた。
二体目の悪霊は刃を光らせるとぬらりひょんは刀を強く握りしめゆっくりと歩み出す。
ぬらりひょんが歩むと二体目の悪霊も歩み出す。
半時計回りで歩む二人が足を止めると互いを睨み合いながら構え始めた。
ぬらりひょんは腰に力を入れ二体目の悪霊は刃を掲げた。
そして、互いを睨み合いながら火花を散らし動かなかった。
二人の周りには緊張した空気が漂うが5分も経たない内で動き出した。
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