7 / 86
第一幕
麒麟獅子舞(六)
しおりを挟む
とても明るい音楽が終わると最初と同じ落ち着いた音楽を演奏し始めた。落ち着いた音楽になるとチャッパは役目が終わったかのように鳴り止んだ。残ったのは、摺鉦と横笛と太鼓だけだ。演奏者が落ち着いた音楽を演奏していると閉まっていた大山寺の中から能装束(のうしょうぞく)を身に纏い全身真っ赤に染まった男が現れた。
全身真っ赤な姿をしている男の名は、猩々。祖父の有蔵から聞いた話では、猩々は大のお酒好きでお酒を飲みすぎた事で顔と髪の毛、体中が真っ赤っかになった妖怪だと聞く。そして、麒麟獅子を誘導する役割を持っていると言われている。
猩々は観客達の前を飛び跳ねながら彼らの顔を見て横切り舞い踊っている麒麟獅子の方へ向かった。猩々は体と足腰を動かしながら麒麟獅子の周り跳ねたり近づいたり遠のいたりしていた。猩々の髪の毛は長く顔は真っ赤に染まっていながらも笑っていている。酔っぱらいながら笑っているのだろう。 すると、猩々の笑っている顔が見えた。猩々はキョロキョロと観客達を見渡していた。猩々のあの仕草を見て正輝はすでに分かっていた。猩々は、麒麟獅子に噛んでもらう人間を捜しているのだ。
麒麟獅子に噛まれた者は、一年間、病と災いから守ってくれる。
正輝はあまり期待はしていなかったが、内心はドキドキしていた。もしかすると、自分が噛まれるんじゃないかと思うと期待していなくても緊張する。正輝は猩々と目を合わせないよう逸らした。
すると、猩々の目が留まった。
正輝はチラッと視線を戻した。視線を戻すと正輝の目が留まった。
猩々が正輝を見ているのだ。克己は猩々の視線を辿り隣にいる正輝を見た。正輝は最前列から離れようと思った。しかし、猩々がこちらを見ていて体が動かなかった。硬直した正輝に猩々は近づいた。猩々に続いて麒麟獅子も正輝の方へ近づいた。
正輝は硬直したまま近づいてくる猩々と麒麟獅子をただ見ていた。まさかと正輝は自分の心で思った。
近づいて来た猩々はマジマジと正輝の顔を見た。正輝は視線を逸らそうとしたができなかった。猩々と目が合ったのだ。目が合うとなぜなのか視線が逸れないのだ。それに、猩々から何だか不思議な力が宿っているような感じもする。
すると、猩々が正輝の目をジッと見ながら離れた。目の前に麒麟獅子の獅子頭が見えた。正輝は麒麟獅子の獅子頭を見つめた。
その時、麒麟獅子が獅子頭を上げた。獅子頭を上げる麒麟獅子を見て正輝は目を瞑って頭を下げてた。
カツンー
暗闇の中、軽い音が聞こえた。
しかも、何だか違和感を感じた。痛くもないけど何かに噛まれたような感触がしたのだ。正輝がゆっくりと目を開けると頭に何か噛まれている感触がして赤い足と足袋と草履が見えた。そして、周りから喝采の拍手が聞こえた。正輝が顔を上げようとすると頭を噛まれた感触が消えた顔を上げると目の前に麒麟獅子と症状が立っていた。そして、呆然と辺りを見ると観客達が正輝を見て拍手している。
「マッキー。おめでとう!」
隣にいる克己が正輝の肩をポンと叩いた。
克己が「おめでとう」と言った時、正輝は気づいた。自分は猩々に選ばれ麒麟獅子に噛まれたんだと。今年一年、病と災いから守ってくれるんだと。
全身真っ赤な姿をしている男の名は、猩々。祖父の有蔵から聞いた話では、猩々は大のお酒好きでお酒を飲みすぎた事で顔と髪の毛、体中が真っ赤っかになった妖怪だと聞く。そして、麒麟獅子を誘導する役割を持っていると言われている。
猩々は観客達の前を飛び跳ねながら彼らの顔を見て横切り舞い踊っている麒麟獅子の方へ向かった。猩々は体と足腰を動かしながら麒麟獅子の周り跳ねたり近づいたり遠のいたりしていた。猩々の髪の毛は長く顔は真っ赤に染まっていながらも笑っていている。酔っぱらいながら笑っているのだろう。 すると、猩々の笑っている顔が見えた。猩々はキョロキョロと観客達を見渡していた。猩々のあの仕草を見て正輝はすでに分かっていた。猩々は、麒麟獅子に噛んでもらう人間を捜しているのだ。
麒麟獅子に噛まれた者は、一年間、病と災いから守ってくれる。
正輝はあまり期待はしていなかったが、内心はドキドキしていた。もしかすると、自分が噛まれるんじゃないかと思うと期待していなくても緊張する。正輝は猩々と目を合わせないよう逸らした。
すると、猩々の目が留まった。
正輝はチラッと視線を戻した。視線を戻すと正輝の目が留まった。
猩々が正輝を見ているのだ。克己は猩々の視線を辿り隣にいる正輝を見た。正輝は最前列から離れようと思った。しかし、猩々がこちらを見ていて体が動かなかった。硬直した正輝に猩々は近づいた。猩々に続いて麒麟獅子も正輝の方へ近づいた。
正輝は硬直したまま近づいてくる猩々と麒麟獅子をただ見ていた。まさかと正輝は自分の心で思った。
近づいて来た猩々はマジマジと正輝の顔を見た。正輝は視線を逸らそうとしたができなかった。猩々と目が合ったのだ。目が合うとなぜなのか視線が逸れないのだ。それに、猩々から何だか不思議な力が宿っているような感じもする。
すると、猩々が正輝の目をジッと見ながら離れた。目の前に麒麟獅子の獅子頭が見えた。正輝は麒麟獅子の獅子頭を見つめた。
その時、麒麟獅子が獅子頭を上げた。獅子頭を上げる麒麟獅子を見て正輝は目を瞑って頭を下げてた。
カツンー
暗闇の中、軽い音が聞こえた。
しかも、何だか違和感を感じた。痛くもないけど何かに噛まれたような感触がしたのだ。正輝がゆっくりと目を開けると頭に何か噛まれている感触がして赤い足と足袋と草履が見えた。そして、周りから喝采の拍手が聞こえた。正輝が顔を上げようとすると頭を噛まれた感触が消えた顔を上げると目の前に麒麟獅子と症状が立っていた。そして、呆然と辺りを見ると観客達が正輝を見て拍手している。
「マッキー。おめでとう!」
隣にいる克己が正輝の肩をポンと叩いた。
克己が「おめでとう」と言った時、正輝は気づいた。自分は猩々に選ばれ麒麟獅子に噛まれたんだと。今年一年、病と災いから守ってくれるんだと。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる