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2章
22 驚かないでよ
しおりを挟む数日後、あたしは1人でいつもの道をあるいて城に向かっていた。
最近はどうにも寝つきがわるい。
アルクスとは時々顔を合わせるけれど、あたしが意図的に話をしないようにしていた。何か、変なことを口走ってしまいそうだった。
アルクスはそのたびに悲しそうな顔をする。そりゃそうだ。好きだって言った相手に避けられたら、だれだって落ち込む。
たとえ、婚約者がいても。
城の入り口を通って、庭を抜けて、裏口から城内へ。そうしていつもの道を歩きながらあたしはかんがえた。
イーサンのことだ。
フレデリカという婚約者がいるのにも関わらず、別の女性を好きになって、その人と一緒になるために、婚約者を振った。それは、純愛のようで、でも婚約者からすればひどい裏切りだった。結局幸せにはなれなくて……。
でも婚約者を選んでいたら幸せになれたのに、なんて言えない。相手がフレデリカのように素晴らしい人でも、人はその人に恋できなければ、きっとかつて好きだったひとをずっと思い続けるから。
あたしには、何が正解がわからない。
でも、一つだけ言える。
もし、あたしが誰かと恋をして、その相手が婚約をけってあたしのものになったとして、その人の婚約者が不幸になったら、あたしは何も嬉しくないってこと。
それが、フレデリカなら、なおさら。
それだけが、あたしの変わらない真実の気持ちだった。
だから。
「レナ」
呼びかけられて、あたしは久しぶりに足を止めた。目の間にアルクスがいた。
「話が、ある。部屋に来てくれないか」
「…………お茶お持ちしますね」
「……ああ」
多分これが正し距離感だ。
アルクスの執務室には、ミゲルさんはいなかった。
お茶を入れないまま、アルクスとあたしは向き合う形になる。椅子に座るように言われたけど、別の仕事があるから、と断った。
そうすると、少しアルクスが悲しそうな顔をした。
「あのさ、レナ」
「…………」
「迷惑、かけてごめん」
「え?」
何をいうかと思えば、迷惑? 何が?
「君を好きだって言った」
びくりと肩が震えた。震えるな。ちゃんと話さないとだめだ。
「それから君は俺を避けてるだろう? 迷惑だった?」
「そんなこと、ない」
ああ、そうだって言えばよかった。ふってしまえ。そうすれば、あとはフレデリカとアルクスが幸せになるだけなんだから。
ふって、しまえ。
「でも、でも……あ、あたし、は」
あたしは、答えられない。答えたらいけないんだって。わかってるくせに。
「わかってる、くせに」
「え?」
アルクスの間抜けな表情がムカついた。
「アル……婚約するって聞いた」
「え!」
ああ、驚かないでよ。
バレた。って顔しないで。
あたしのこと好きだって言ったの、嘘だって言わないで。
誰かのものになるなんて、言わないで。
「婚約の話、わかってたのに、わかってて、好きだって、言ったんでしょ!?」
気まずそうに沈黙が帰ってくる。
ああ、ああ、あたし、本当に馬鹿だ。
「じゃあ、じゃあもういいでしょ! あたしのこと馬鹿にして、そんなのうまくいきっこないのにっ。本気にして、逃げてるあたしのこと、馬鹿だって、思ってたんじゃないの!?」
そんなこと思う人じゃないって知ってるよ。
そんなひどい人じゃないって、知ってる。知ってるよ。
でも、ごめん。あたし、耐えられなかったよ。
部屋を飛び出す。後ろからアルクスが呼んでる。わかる。でも、逃げるしかできなかった。
あたし、本当はアルクスのこと、好きだったんだ。
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