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2章

18 いつだっておんなじ

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『あの子、そっち系の人と付き合ってるらしいよ』
『生徒会長と幼馴染ってほんとかなぁ』
『マジで? あたし生徒会長結構好きだったのに、それってなんかショック』
『なんであんなのが、うちの学校にいるんだろうね』


『またやらかしたのか。本当に何をしても問題ばかり起こすやつだ』
『あんたがいるから、うちの近所の評判も最悪なのよ。人前に出ないでほしいわ』


『あいつ、最近目立ってきたよな。喧嘩が強いからってさ、大きな顔しやがって』
『西高のチームとも親しいって話だぞ』
『マジかよ。じゃあ俺らはもうあのチームとは距離おいた方がいいかもな』
『なんで』
『知らねーの? あの女と仲良くしてると、東高とかから喧嘩売られるんだよ』

 
『西高が東高にやられたらしい』
『なんで急に?』
『あの女と仲良しこよししてたかららしい』
『言わんこっちゃねー』


『ほんと、あいつどっかいってくれねーかなぁ』



 いつだって、同じだ。
 あたしはあたしのやりたいようにやってきたし。不良なんかやってれば、周りを巻き込むのは当たり前だし。だから同じような仲間と組んでたけど、そこでもあたしは厄介者だった。いつも、いつも、いつも。
 転生してからはこの性格のせいで、家じゃ家族から怖がられたり嫌われたり、嫌悪されたり。社交界でも言葉遣いのせいで遠巻きにされた。学園でもそうだ。
 でも、フレデリカはそんなあたしに優しくて、だから嬉しくて一緒にいたけど、それだって悪い噂がフレデリカにつく結果になったりしたことは、何度もあった。
 こないだだって、あたしが転がり込んだりしなければ、フレデリカとアルクスに妙な噂が立つことはなかっただろう。
 そして今回も。

 あたしはあたしらしいことをして、それが疎まれる。
 あたしがあたしだから。
 疎まれるのはいい。でも、それでまわりに迷惑かけて、最後はその人たちにも……。
 それがこわい。

「レナ?」

 ああ、どうしてこんな時ばかり、あいつはきてしまうのだろう。
 普段は廊下で会いもしないのに、めずらしくアルクスと遭遇した。あわてて踵をかえすあたしの手をアルクスが掴む。

「はなせって」
「まって、お前、どうした? なにか……」
「なんでもないっ」
「なんでもなくないだろう! 泣きそうな顔して!」

 逃げるあたしを、アルクスが無理矢理正面を向かせた。必然的に、アルクスの顔を見ることになる。

「……泣いてたのか?」
「っないてないっ!」

 嘘をついてもバレバレな顔をしてる。
 あたしは捕まれた方と反対の手で、顔を隠そうとした。でも、そっちの手もアルクスにつかまれてしまう。
 
「本当に、何があったんだ」
「なにもない。離せよ」

  ここが廊下だとか、口調をどうにかしようとか、そういうの何も考えられない。とにかくあたしは手を離してほしくて暴れるけれど、びくともしない。
 前世のあたしなら、振り解けたのに。こんなふうに惨めな気持ちになることだってなかったかもしれないのに。

「レナがなくなんて、そんなの見ると思わないだろ。だって、いつも笑ってて、だから、なに、あった?」

 あたしの両手を掴んだまま、アルが優しくあたしに問いかけてくる。
 どうして、こんなに優しいのだろう。

「……っなにもないっ。あたし、他に働く場所探すことにした」
「!?」

 その方がいい。そうしないと迷惑かかる。絶対これからいいことなんかない。フレデリカにも迷惑をかける。だから。あたしはいない方がいい。

「そんなこと、急に……」
「急にじゃない。ずっと考えてたことなんだよ。だからっ」
「だとしても、理由を教えてくれ」

 大きな声を出すでもなく、落ち着いた様子で、でも有無を言わせない感じで尋ねられる。あたしは口を引き結んで黙り込んだ。だって、言えない。あたしがどんなに迷惑かけてるかいえない。
 だって言ったら……。
 それで迷惑だって言われたら?
 本当は迷惑だったって、いない方がいいって言われたらどうしたらいいのさ。
 今はそうじゃなくても、いつか、いつか、あたしと出会わなきゃよかったって、言われたら、あんたなんか、産まなきゃよかったって、お母さんみたいに否定されたら、あたし、どうしたらいいのかわかんない。
 そんなのやだ。やだ。

 ぽろっと涙が落ちてしまった。
 あわてて拭おうとするけど、両手がつかまってるからできない。
 やだ、やだ、みっともない。

「俺のせいか?」
「え……」
「俺が、悲しませるようなことした?」

 鼻がつんとして、声にならない変な唸り声みたいなのしかでないけど、アルクスの言ってることが違うってことは否定したい。したくて、首を振る。
 涙なんかどっか行っちゃえって思うのに、ぽろぽろおちてくるから嫌になる。
 止まれ。止まれ。涙なんか止まれ。

「あたしが」
「うん」
「あたしが、いると、迷惑だってっ」
「誰かがそう言ったのか? そう言われた?」
「ちがうっけど、ちがうけど、でもそうなるって……だってあたし、いつもそうだもん。いつもっ迷惑かけて、あたしがいると、あたしが、そばにいるだけでっ、うぅ」

 言わせないでよ。言いたくない。
 でもいつか言われるかもしれない。

「俺はそんなふうには思わないよ。絶対」

 強い言葉でアルクスが否定してくる。でも違うんだ。最初はみんなそう言う。でも、いつかそうではなくなる時が来る。いつもそうだった。誰もがみんな。あたしが前世死んだのだって、仲間にやられたんだ。本当は嫌われて、後ろからやられた。それであたし、死んだ。いつだってそうだ。ここでだって。

 あたしはたまらなくなって、首を大きく横に振った。
 涙があちこちに飛ぶけど気にしない。とにかく大きく首を振ってあたしは否定する。いろんなことを否定して、言いたいことをとにかく叫ぶしか今できることはない気がした。

「あたしがいなかったらよかったって、アルにそう言われるのが一番嫌なの! だからっ」

 そう言われるときがくるのが、一番――。

「俺は!」

 アルクスが叫んだ。
 大きな声だった。驚いて、目を見開くと、涙がまたこぼれた。
 ようやくあたしはアルクスの顔をみた。ひどく悲しそうな顔をしていた。

「俺は絶対そんなこと言わないし、思わない」

 そんなこと。
「……わかんないじゃん」

 アルクスの目をみて、言う。

「わかるよ!」
「わかんないよっ」
「だって、俺はレナが好きなんだ!」

 また、叫んだ。知ってるよ。知ってる。でもそういう気持ちがあってもさ、友情なんてすぐ霧散しちゃうよ。そんなもんだよ。

「あたしだって好きだけど」
「そうじゃない! そういう意味じゃなくて」

 そのときようやく両手が離された。距離を取ろうとするあたしに、むしろアルクスが近づいてくる。距離が近い! なんていつもみたいに言う間も無く、あたしとアルクスの距離はゼロになった。

 アルクスの鼓動が聞こえて、抱きしめられているって、その時初めて気づいた。

「こういう意味で好きなんだよ。恋とか、愛とか、そういう意味だよ」

 
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