上 下
5 / 26
1章

5王子やってくる

しおりを挟む

 お茶会から移動して、フレデリカの衣装を片付けた後、使用人たちと一緒に食事をとる。本当は個別で用意してもらえるんだけど、遠慮している。
 これでどうどうと噂できないだろうよ。って言うあたしなりの作戦みたいなもんで、実際食事時はあたしの悪口は言えない。

 黙々と食事をとる。
 今日のスープはいまいち。残り物らしいから、フレデリカもこれを食べたんだろうか。こっそり顔を顰めてそうだなぁなんて思った。

「それ、ほんとう?」
「ええ、近いうちにとしか聞いてないのだけど」

 なんかの噂話をしているらしい。
 なんだろう。フレデリカに関係することなら聞きたい。
 そっと耳をそばだてる。それで聞こえてきた単語に、あたしは目を丸くした。

「アルクス殿下が、お見舞いにいらっしゃるって」

 アルクス殿下は、年の近い王家の御子息だ。つまり次期王様。社交界で何度か見かけたことはあるけれど、話したことはもちろんない。
 ただ、フレデリカとは親しい友人関係だと言うのはフレデリカから聞いていた。なんでも幼い頃からよく遊んだ仲なんだとか。
 そうか。例の婚約破棄があって、友人を心配してくるわけか。
 フレデリカも前に言っていたな、変わってるけどいい人だって。
 そんな人が来るんだったら、きっと屋敷は騒がしくなるんだろう。フレデリカにいつごろくるのかきいてみよう。

 私は食器を下げようと立ち上がった。その時、不意にあたしの耳に入ってきたのは、今度は嫌な話だった。

「あの殴った件、本人に結局お咎めがなかったのって、お嬢様が殿下にお願いしたかららしいわよ」

 私は思わず振り返った。
 たしかに、勘当されたりはしたけど、罰らしいものは受けずに済んでいる。生家のほうにも爵位の没収なんて話はなかったらしい。どうしてだろうって、少し思ってたけど……。

「それ、本当?」

 噂をしていたメイドがびくりと肩を震わせた。

「す、すみません」
「いいから、それ本当なのかって聞いてんだけど」

 眉間に皺がよる。メンチ切ってるみたいな顔になってることは承知の上で、あたしは噂をしていた2人に詰め寄る。

「あ、あの、以前殿下からお手紙があって、その、内容についてフレデリカお嬢様が、レナ様のことで相談したとおっしゃっていて、それで」

 私は愕然として、食器を落としそうになった。
 そんな話、フレデリカからは聞いていない。あたしに内緒でなんとかしようとしてくれたってことだ。自分が婚約破棄されて大変な時に、あたしが余計なことしたから、その尻拭いをしてくれてたのか。
 そりゃ、フレデリカを好きな屋敷の人たちも、あたしへの当たりが強くなる。

 メイドふたりがそそくさといなくなるのを、あたしは追いかけもせず見送った。
 しばらくして、あたしは食器を持って台所に向かった。そしてあれこれ片付けて、部屋に戻る。仕事の時間まで少し休憩したくて、1人になりたくて、部屋にこもった。いつもならフレデリカに会いに行くけれど、今日ばかりは合わせる顔がない気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

誰がゲームの設定に従うと思いまして?

矢島 汐
恋愛
いい加減に、してほしい。この学園をおかしくするのも、私に偽りの恋心を植え付けるのも。ここは恋愛シミュレーションゲームではありません。私は攻略対象にはなりません。私が本当にお慕いしているのは、間違いなくあの方なのです―― 前世どころか今まで世の記憶全てを覚えているご令嬢が、今や学園の嫌われ者となった悪役王子の名誉と秩序ある学園を取り戻すため共に抗うお話。 ※悪役王子もの第二弾

姉に全てを奪われるはずの悪役令嬢ですが、婚約破棄されたら騎士団長の溺愛が始まりました

可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、婚約者の侯爵と聖女である姉の浮気現場に遭遇した。婚約破棄され、実家で贅沢三昧をしていたら、(強制的に)婚活を始めさせられた。「君が今まで婚約していたから、手が出せなかったんだ!」と、王子達からモテ期が到来する。でも私は全員分のルートを把握済み。悪役令嬢である妹には、必ずバッドエンドになる。婚活を無双しつつ、フラグを折り続けていたら、騎士団長に声を掛けられた。幼なじみのローラン、どのルートにもない男性だった。優しい彼は私を溺愛してくれて、やがて幸せな結婚をつかむことになる。

【完結】悪役令嬢に転生したけど『相手の悪意が分かる』から死亡エンドは迎えない

七星点灯
恋愛
絶対にハッピーエンドを迎えたい! かつて心理学者だった私は、気がついたら悪役令嬢に転生していた。 『相手の嘘』に気付けるという前世の記憶を駆使して、張り巡らされる死亡フラグをくぐり抜けるが...... どうやら私は恋愛がド下手らしい。 *この作品は小説家になろう様にも掲載しています

リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。 ――というのは表向きの話。 婚約破棄大成功! 追放万歳!!  辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。 ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19) 第四王子の元許嫁で転生者。 悪女のうわさを流されて、王都から去る   × アル(24) 街でリリィを助けてくれたなぞの剣士 三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ 「さすが稀代の悪女様だな」 「手玉に取ってもらおうか」 「お手並み拝見だな」 「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」 ********** ※他サイトからの転載。 ※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。

利用されるだけの人生に、さよならを。

ふまさ
恋愛
 公爵令嬢のアラーナは、婚約者である第一王子のエイベルと、実妹のアヴリルの不貞行為を目撃してしまう。けれど二人は悪びれるどころか、平然としている。どころか二人の仲は、アラーナの両親も承知していた。  アラーナの努力は、全てアヴリルのためだった。それを理解してしまったアラーナは、糸が切れたように、頑張れなくなってしまう。でも、頑張れないアラーナに、居場所はない。  アラーナは自害を決意し、実行する。だが、それを知った家族の反応は、残酷なものだった。  ──しかし。  運命の歯車は確実に、ゆっくりと、狂っていく。

【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

tea
恋愛
愛読していた小説の推しが死んだ事にショックを受けていたら、おそらくなんやかんやあって、その小説で推しを殺した悪役令嬢に転生しました。 本来悪役令嬢が恋してヒロインに横恋慕していたヒーローである王太子には興味ないので、壁として推しを殺さぬよう陰から愛でたいと思っていたのですが……。 人を傷つける事に臆病で、『壁になりたい』と引いてしまう主人公と、彼女に助けられたことで強くなり主人公と共に生きたいと願う推しのお話☆ 本編ヒロイン視点は全8話でサクッと終わるハッピーエンド+番外編 第三章のイライアス編には、 『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』 のキャラクター、リュシアンも出てきます☆

流され追放令嬢は隣国の辺境伯に保護されました

そうみ
恋愛
【完結】国外に追放された訳あり元令嬢は、隣国の辺境伯に保護された。令嬢は拾われたお礼にと、長年培われたメイド仕事で辺境砦の生活改善を進めていく。 女っ気のない砦に突然現れた有能で華奢で可愛い令嬢に、どうやって近寄ればいいのかわからない強面辺境伯。 じれじれロマンスの予定です。 ざまぁは苦手です。ごめんなさい。

処理中です...