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1章
5王子やってくる
しおりを挟むお茶会から移動して、フレデリカの衣装を片付けた後、使用人たちと一緒に食事をとる。本当は個別で用意してもらえるんだけど、遠慮している。
これでどうどうと噂できないだろうよ。って言うあたしなりの作戦みたいなもんで、実際食事時はあたしの悪口は言えない。
黙々と食事をとる。
今日のスープはいまいち。残り物らしいから、フレデリカもこれを食べたんだろうか。こっそり顔を顰めてそうだなぁなんて思った。
「それ、ほんとう?」
「ええ、近いうちにとしか聞いてないのだけど」
なんかの噂話をしているらしい。
なんだろう。フレデリカに関係することなら聞きたい。
そっと耳をそばだてる。それで聞こえてきた単語に、あたしは目を丸くした。
「アルクス殿下が、お見舞いにいらっしゃるって」
アルクス殿下は、年の近い王家の御子息だ。つまり次期王様。社交界で何度か見かけたことはあるけれど、話したことはもちろんない。
ただ、フレデリカとは親しい友人関係だと言うのはフレデリカから聞いていた。なんでも幼い頃からよく遊んだ仲なんだとか。
そうか。例の婚約破棄があって、友人を心配してくるわけか。
フレデリカも前に言っていたな、変わってるけどいい人だって。
そんな人が来るんだったら、きっと屋敷は騒がしくなるんだろう。フレデリカにいつごろくるのかきいてみよう。
私は食器を下げようと立ち上がった。その時、不意にあたしの耳に入ってきたのは、今度は嫌な話だった。
「あの殴った件、本人に結局お咎めがなかったのって、お嬢様が殿下にお願いしたかららしいわよ」
私は思わず振り返った。
たしかに、勘当されたりはしたけど、罰らしいものは受けずに済んでいる。生家のほうにも爵位の没収なんて話はなかったらしい。どうしてだろうって、少し思ってたけど……。
「それ、本当?」
噂をしていたメイドがびくりと肩を震わせた。
「す、すみません」
「いいから、それ本当なのかって聞いてんだけど」
眉間に皺がよる。メンチ切ってるみたいな顔になってることは承知の上で、あたしは噂をしていた2人に詰め寄る。
「あ、あの、以前殿下からお手紙があって、その、内容についてフレデリカお嬢様が、レナ様のことで相談したとおっしゃっていて、それで」
私は愕然として、食器を落としそうになった。
そんな話、フレデリカからは聞いていない。あたしに内緒でなんとかしようとしてくれたってことだ。自分が婚約破棄されて大変な時に、あたしが余計なことしたから、その尻拭いをしてくれてたのか。
そりゃ、フレデリカを好きな屋敷の人たちも、あたしへの当たりが強くなる。
メイドふたりがそそくさといなくなるのを、あたしは追いかけもせず見送った。
しばらくして、あたしは食器を持って台所に向かった。そしてあれこれ片付けて、部屋に戻る。仕事の時間まで少し休憩したくて、1人になりたくて、部屋にこもった。いつもならフレデリカに会いに行くけれど、今日ばかりは合わせる顔がない気がした。
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