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1章
1冗談じゃない
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「フレデリカ・バーンズ。君との婚約を破棄させてもらう」
そんな声が聞こえたのは、学園の創業と社交界デビューを兼ねた大事なパーティが始まってすぐのことだった。
「ま、待ってください。一体どういうっ!」
慌てた様子の声は聞き覚えがありすぎるってくらいあって、慌てて騒動の中心に足を向ける。人混みをぬってでたホールの中心には、3人の人間がいた。
1人は公爵家の嫡男、イーサン・ジェイコブ。その隣にいるのは確か一回生下の娘。名前は知らない。そしてもうひとり、この2人と対峙する形でポツンと立っているのが、フレデリカ・バーンズ。
カウロアド伯爵家の一人娘。才色兼備。穏やかで誰からも好かれる優しい性格の同級生。
そしてあたしの大親友。
この状態、一体なんなの?
いまいち頭が回らないまま、あたしは状況を知るために視線をあちこちに巡らせる。
「君が、シャーリーに嫌がらせをしていた証拠がある。私が彼女と親しくなったことを君は疎ましく思い、彼女に嫌がらせをした。シャーリーの友人に悪い噂を聞かせ、彼女を孤立させようとした。そして先日、彼女を階段から突き落とした! 目撃者もいる! 言い逃れはできないぞ! フレデリカ!」
なんたること。なんたる勘違い。いや、罠か?
フレデリカがそんなことをするはずがない。あの優しいフレデリカが。
「そんな、イーサン様っ、誓って、誓ってそのようなことはしておりません! 先日の事故もたまたまそばに居合わせただけで、わたくしは何も!」
「白々しいぞ。お前が突き飛ばしたのを見たと複数人が証言しているのだ」
「そんな……」
シャーリーっていうのは、あのイーサン様の後ろにいる女の子? 一回生下の子にどうやって嫌がらせを? ていうか、そもそも婚約者のいるあんたが、どこの誰とも知らないけど、そんな女と親しくしてるのが悪いんじゃないの?
「本当に、誓ってわたくしはそのようなことはしておりません!」
フレデリカが両手を胸の前でぎゅっと握って、耐えるような表情でいいつのる。どうにかそばに行って力になってあげたくて、あたしは人混みをどかして脚を踏み出す。その間も、イーサンがあれこれ証拠だとかなんとかを提示している。みるみる間にフレデリカが青ざめていく。多分、何を言っても聞いてくれないイーサンに絶望しているんだ。でもそんなこと相手にはわからなかったらしい。
「顔色が悪いぞ? フレデリカ。やはり本性は悪魔のような女だ。そんな女だったなんて、幻滅したよ。二度と私に近づくな! 卑しい女め!」
イーサンがそんな最低な言葉を口にしたのは、あたしがフレデリカに駆け寄ろうとした時だった。あたしはぎょっとしてイーサンをみて、それからフレデリカに近づく。
「フレデリカ!」
イーサンから姿を隠すようにフレデリカの正面に周り、あたしはフレデリカの肩を掴んだ。呼んだあたしの目をフレデリカが見つめる。
そのブルーの綺麗なひとみから雫が落ちた。
雷が落ちたような衝撃だった。あの、いつも穏やかに笑っていたあのフレデリカが!
あたしはフレデリカに向けていた脚の方向を無理やりかえる。誰かが何か叫んでる。どんどん近づいてくるイーサン。いや、あたしが近づいているんだ。
イーサンが、誰かが、慌てた様子で何かを喚いてる。
でも、そんなこと知ったことか!
「な、なんだお前は……」
続きは言わせてやるつもりもなかった。あたしは思いっきり右腕を振りかぶる。膝に重心をのせ、腰を回し、肩から内側にひねるように!
思いっきりイーサンの顔面を殴り飛ばした。
ずさーー! と音を立ててイーサンが転がる。
沈黙が広場をつつむ。
キュッというヒールが大理石の床をする音がして、あたりは一気に大騒ぎになった。
「きゃぁ!」
「な、なんだ今の!」
「え!? な、殴ったのか?」
「あの令嬢は誰だ!?」
それらの声はあたしにとってはただの有象無象の声よ。
あたしは叫んだ。
「冗談じゃない! フレデリカに向かってそんな暴言をよく言えたもんだな! 一回死んで出直してこい! このろくでなしのクソ野郎!」
肩で息をして、私はフレデリカの方を振り返る。
青白い顔をして、フレデリカがあたしを見てる。
そこであたしは自分がしでかしたことに気づいた。
あたしの人生終わったかも?
そんな声が聞こえたのは、学園の創業と社交界デビューを兼ねた大事なパーティが始まってすぐのことだった。
「ま、待ってください。一体どういうっ!」
慌てた様子の声は聞き覚えがありすぎるってくらいあって、慌てて騒動の中心に足を向ける。人混みをぬってでたホールの中心には、3人の人間がいた。
1人は公爵家の嫡男、イーサン・ジェイコブ。その隣にいるのは確か一回生下の娘。名前は知らない。そしてもうひとり、この2人と対峙する形でポツンと立っているのが、フレデリカ・バーンズ。
カウロアド伯爵家の一人娘。才色兼備。穏やかで誰からも好かれる優しい性格の同級生。
そしてあたしの大親友。
この状態、一体なんなの?
いまいち頭が回らないまま、あたしは状況を知るために視線をあちこちに巡らせる。
「君が、シャーリーに嫌がらせをしていた証拠がある。私が彼女と親しくなったことを君は疎ましく思い、彼女に嫌がらせをした。シャーリーの友人に悪い噂を聞かせ、彼女を孤立させようとした。そして先日、彼女を階段から突き落とした! 目撃者もいる! 言い逃れはできないぞ! フレデリカ!」
なんたること。なんたる勘違い。いや、罠か?
フレデリカがそんなことをするはずがない。あの優しいフレデリカが。
「そんな、イーサン様っ、誓って、誓ってそのようなことはしておりません! 先日の事故もたまたまそばに居合わせただけで、わたくしは何も!」
「白々しいぞ。お前が突き飛ばしたのを見たと複数人が証言しているのだ」
「そんな……」
シャーリーっていうのは、あのイーサン様の後ろにいる女の子? 一回生下の子にどうやって嫌がらせを? ていうか、そもそも婚約者のいるあんたが、どこの誰とも知らないけど、そんな女と親しくしてるのが悪いんじゃないの?
「本当に、誓ってわたくしはそのようなことはしておりません!」
フレデリカが両手を胸の前でぎゅっと握って、耐えるような表情でいいつのる。どうにかそばに行って力になってあげたくて、あたしは人混みをどかして脚を踏み出す。その間も、イーサンがあれこれ証拠だとかなんとかを提示している。みるみる間にフレデリカが青ざめていく。多分、何を言っても聞いてくれないイーサンに絶望しているんだ。でもそんなこと相手にはわからなかったらしい。
「顔色が悪いぞ? フレデリカ。やはり本性は悪魔のような女だ。そんな女だったなんて、幻滅したよ。二度と私に近づくな! 卑しい女め!」
イーサンがそんな最低な言葉を口にしたのは、あたしがフレデリカに駆け寄ろうとした時だった。あたしはぎょっとしてイーサンをみて、それからフレデリカに近づく。
「フレデリカ!」
イーサンから姿を隠すようにフレデリカの正面に周り、あたしはフレデリカの肩を掴んだ。呼んだあたしの目をフレデリカが見つめる。
そのブルーの綺麗なひとみから雫が落ちた。
雷が落ちたような衝撃だった。あの、いつも穏やかに笑っていたあのフレデリカが!
あたしはフレデリカに向けていた脚の方向を無理やりかえる。誰かが何か叫んでる。どんどん近づいてくるイーサン。いや、あたしが近づいているんだ。
イーサンが、誰かが、慌てた様子で何かを喚いてる。
でも、そんなこと知ったことか!
「な、なんだお前は……」
続きは言わせてやるつもりもなかった。あたしは思いっきり右腕を振りかぶる。膝に重心をのせ、腰を回し、肩から内側にひねるように!
思いっきりイーサンの顔面を殴り飛ばした。
ずさーー! と音を立ててイーサンが転がる。
沈黙が広場をつつむ。
キュッというヒールが大理石の床をする音がして、あたりは一気に大騒ぎになった。
「きゃぁ!」
「な、なんだ今の!」
「え!? な、殴ったのか?」
「あの令嬢は誰だ!?」
それらの声はあたしにとってはただの有象無象の声よ。
あたしは叫んだ。
「冗談じゃない! フレデリカに向かってそんな暴言をよく言えたもんだな! 一回死んで出直してこい! このろくでなしのクソ野郎!」
肩で息をして、私はフレデリカの方を振り返る。
青白い顔をして、フレデリカがあたしを見てる。
そこであたしは自分がしでかしたことに気づいた。
あたしの人生終わったかも?
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