[完結]君に好きだと伝えたい〜婚約破棄?そうですか、貴方に愛を返せない私のせいですね〜

日向はび

文字の大きさ
上 下
1 / 5

婚約破棄を受け入れます

しおりを挟む


「あなたが好きです」

「あなたが好きです」

「あなたが、好きです」

 伝えたい言葉は、一欠片も口にはできない。そんな私をどうか、どうか……。




「婚約破棄、ですか」

 内心は呆然としながらも、私は淡々と聞き返しました。
 それはとても失礼なことだと気づいて、けれど聞き返してしまったからには仕方ありません。不快そうに眉を顰めた父の姿に、血の気が引いた気がしました。けれど、父は今回は私を叱ることはありませんでした。
 きっと、内心は怒鳴りたいのでしょう。けれど、外聞があるのでしないのです。

「そうだ。ハーデルハイド子爵、いや、ドレシアン公爵から、お前とアルフォンス殿の婚約を破棄したいという連絡があった」

 ドレシアン公爵。
 私、クリスティア・ヴォルケーの婚約者、ハーデルハイド地方の統治を行うハーデルハイド子爵、アルフォンス・フォグマル様のお父上。
 つまり、婚約者の父親からの連絡。となれば、正式な要求でしょう。
 伯爵位を持っている父といえど、公爵様のご意向となれば、受け入れる他ありません。

「わかりました」

 そう答えるしか、私にはできることがありません。

「そう、簡単に受け入れてもらっては困る」
「ですが……」
「この婚約は貴族のつながりを深めるための大事な契約だったのだ。それをお前のせいで……」

 わたしのせい。確かにそうなのでしょう。理由は定かではありませんが、きっとそうに違いありません。だって私は、一度もアルフォンス様に気持ちを伝えることができなかった。
 目の前で、微笑んで見せることすらできない、鉄仮面のような女を妻にしたいと望むでしょうか。

「公爵とてそれをわかっているはずだ。それで尚、婚約破棄をするというのだからな、そうとう御子息が強く望まれたに違いない。お前の責任以外の何がある」
「……おっしゃる通りです。お父様。申し訳ございません」

 私は痛む胸を手で押さえることもできず、ただこの情けない顔を見せたくなくて、深く頭を下げました。
 いえ、もしかしたら、そんなことをしなくても、私の表情は一切変わっていないのかもしれません。

「……もういい。それに別の打診があった。そちらを受ければなんとか」
「それは、どのような?」
「貴様には関係ない。まったく、不気味なほどに無表情。貴様の母と同じだ」

 忌々しげに父が吐き捨てました。
 だから、母とは違う別の女性を愛したのですよね。
 そうして生まれた妹をあなたは愛し、私を愛しては下さらなかったのですよね。
 そんなこと、口が裂けてもいえませんが。

 でも、これは、呪いなのですよ。

 人前では笑うことも泣くこともできない。愛する人に愛を囁くこともできない。そういう呪いなのです。
 祖父が受けてしまった、愛の呪い。
 だから私はこの想いを伝えられなかったのです。

 あなたを愛しています。と。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

始まりはよくある婚約破棄のように

喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

【完結】婚約破棄したのに殿下が何かと絡んでくる

冬月光輝
恋愛
「お前とは婚約破棄したけど友達でいたい」 第三王子のカールと五歳の頃から婚約していた公爵令嬢のシーラ。 しかし、カールは妖艶で美しいと評判の子爵家の次女マリーナに夢中になり強引に婚約破棄して、彼女を新たな婚約者にした。 カールとシーラは幼いときより交流があるので気心の知れた関係でカールは彼女に何でも相談していた。 カールは婚約破棄した後も当然のようにシーラを相談があると毎日のように訪ねる。

【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました

Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。 必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。 ──目を覚まして気付く。 私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰? “私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。 こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。 だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。 彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!? そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……

さようなら、あなたとはもうお別れです

四季
恋愛
十八の誕生日、親から告げられたアセインという青年と婚約した。 幸せになれると思っていた。 そう夢みていたのだ。 しかし、婚約から三ヶ月ほどが経った頃、異変が起こり始める。

言いたいことは、それだけかしら?

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】 ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため―― * 短編です。あっさり終わります * 他サイトでも投稿中

【完結】契約結婚の妻は、まったく言うことを聞かない

あごにくまるたろう
恋愛
完結してます。全6話。 女が苦手な騎士は、言いなりになりそうな令嬢と契約結婚したはずが、なんにも言うことを聞いてもらえない話。

婚約者を奪われた私は、他国で新しい生活を送ります

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルクルは、エドガー王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。 聖女を好きにったようで、婚約破棄の理由を全て私のせいにしてきた。 聖女と王子が考えた嘘の言い分を家族は信じ、私に勘当を言い渡す。 平民になった私だけど、問題なく他国で新しい生活を送ることができていた。

処理中です...