2 / 3
2
しおりを挟む
「セレナ。また、マルク様のところへ行っていたの?」
母が帰ってきたセレナに言った。
「うん。あの、すこし悲しいことがあって」
「どんな?」
「お父様が、マルクとの婚約をなかったことにするというの」
母は驚いた様子で目を丸くすると、悲しそうに眉をひそめた。
「嫌っていったのよ。でも聞いてくださらなくて」
「そう。……でもね。お父様はセレナのことを思っていらっしゃるのよ」
「だったら、マルクとの婚約を解消するなんておっしゃらないわ」
「セレナ……」
「マルクからは少し時間をおいてからお父様と話したほうがいいと言われたの! だからそうするつもりよ」
幼げな表情でセレナは笑った。
母はそんなセレナをみて、やはり悲しそうな表情をしていた。
マルクの実家からマルクの父母がやってきたのはそれから数日後のことだった。
もちろんマルクも一緒で、セレナは喜んだ。
「マルク! 来てくれたのね!」
「うん。すぐ会えたね」
「ええ! 嬉しいわっ」
セレナは自分とほとんど変わらない背丈のマルクの手を取った。マルクもうれしそうに笑う。
そんなセレナを、セレナの父と母が諌める。
「待ちなさい。大事なお話があるのよ」
「大事な?」
「婚約の件で………」
セレナは顔色を変えた。
「マルクのお父様もそんなことを仰るの!?」
「セレナ」
父が今度は囁くようにセレナに話しかける。
「マルクくんとの婚約はすでに破棄されているんだよ。だからもうどうしようもないんだ。お前がそれを拒むから、来てくださったんだ」
「変よ! だって昨日聞いたばかりよ!?」
「いいや、もっと前にも何度も言ったはずだよ」
「聞いてないわ!」
セレナは首を降る。
「ねぇ、おかしいわよね、マルク!」
話しかければマルクは優しく笑うのみ。
「……マルクはなんと言っているんですか?」
マルクの母がセレナに言った。
セレナは思わず眉をひそめる。
「何をって……今は何も……でも! ねぇマルク! マルクからも何か言ってよ!」
マルクは何も話さない。
昔から変わらない優しく幼い顔立ちのまま、穏やかに笑うのみだ。
どうしてマルクは無言なのだろう。
セレナとの婚約破棄をなんとも思ってないのだろうか。どちらの両親もなぜこちらの言葉を聞いてくれないのだろう。
「みんな変よ。私たちは愛し合ってるのよ! ずっと一緒なの!」
マルクは穏やかに笑みを深くする。
「ずっといっしょだよ」
マルクが言った。
「マルクだってこう言ってるじゃない!」
「マルクくんは、何も言わないよ」
「やめてよ! 変なこと言わないで!」
セレナの叫びはどんどん高くなっていき、とうとう涙を流した。
おかしい。おかしい。と嘆く。
その姿に、マルクの母が涙ぐんでいた。セレナの母もだ。
セレナは混乱する。
何が起きているのかわからない。
セレナはマルクの手を取ると、バッと走り出した。
「セレナ!」
呼ぶ声を振り払って走った。
母が帰ってきたセレナに言った。
「うん。あの、すこし悲しいことがあって」
「どんな?」
「お父様が、マルクとの婚約をなかったことにするというの」
母は驚いた様子で目を丸くすると、悲しそうに眉をひそめた。
「嫌っていったのよ。でも聞いてくださらなくて」
「そう。……でもね。お父様はセレナのことを思っていらっしゃるのよ」
「だったら、マルクとの婚約を解消するなんておっしゃらないわ」
「セレナ……」
「マルクからは少し時間をおいてからお父様と話したほうがいいと言われたの! だからそうするつもりよ」
幼げな表情でセレナは笑った。
母はそんなセレナをみて、やはり悲しそうな表情をしていた。
マルクの実家からマルクの父母がやってきたのはそれから数日後のことだった。
もちろんマルクも一緒で、セレナは喜んだ。
「マルク! 来てくれたのね!」
「うん。すぐ会えたね」
「ええ! 嬉しいわっ」
セレナは自分とほとんど変わらない背丈のマルクの手を取った。マルクもうれしそうに笑う。
そんなセレナを、セレナの父と母が諌める。
「待ちなさい。大事なお話があるのよ」
「大事な?」
「婚約の件で………」
セレナは顔色を変えた。
「マルクのお父様もそんなことを仰るの!?」
「セレナ」
父が今度は囁くようにセレナに話しかける。
「マルクくんとの婚約はすでに破棄されているんだよ。だからもうどうしようもないんだ。お前がそれを拒むから、来てくださったんだ」
「変よ! だって昨日聞いたばかりよ!?」
「いいや、もっと前にも何度も言ったはずだよ」
「聞いてないわ!」
セレナは首を降る。
「ねぇ、おかしいわよね、マルク!」
話しかければマルクは優しく笑うのみ。
「……マルクはなんと言っているんですか?」
マルクの母がセレナに言った。
セレナは思わず眉をひそめる。
「何をって……今は何も……でも! ねぇマルク! マルクからも何か言ってよ!」
マルクは何も話さない。
昔から変わらない優しく幼い顔立ちのまま、穏やかに笑うのみだ。
どうしてマルクは無言なのだろう。
セレナとの婚約破棄をなんとも思ってないのだろうか。どちらの両親もなぜこちらの言葉を聞いてくれないのだろう。
「みんな変よ。私たちは愛し合ってるのよ! ずっと一緒なの!」
マルクは穏やかに笑みを深くする。
「ずっといっしょだよ」
マルクが言った。
「マルクだってこう言ってるじゃない!」
「マルクくんは、何も言わないよ」
「やめてよ! 変なこと言わないで!」
セレナの叫びはどんどん高くなっていき、とうとう涙を流した。
おかしい。おかしい。と嘆く。
その姿に、マルクの母が涙ぐんでいた。セレナの母もだ。
セレナは混乱する。
何が起きているのかわからない。
セレナはマルクの手を取ると、バッと走り出した。
「セレナ!」
呼ぶ声を振り払って走った。
11
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説

王妃の愛
うみの渚
恋愛
王は王妃フローラを愛していた。
一人息子のアルフォンスが無事王太子となり、これからという時に王は病に倒れた。
王の命が尽きようとしたその時、王妃から驚愕の真実を告げられる。
初めての復讐ものです。
拙い文章ですが、お手に取って頂けると幸いです。

【完結】その約束は果たされる事はなく
かずきりり
恋愛
貴方を愛していました。
森の中で倒れていた青年を献身的に看病をした。
私は貴方を愛してしまいました。
貴方は迎えに来ると言っていたのに…叶わないだろうと思いながらも期待してしまって…
貴方を諦めることは出来そうもありません。
…さようなら…
-------
※ハッピーエンドではありません
※3話完結となります
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

優柔不断な公爵子息の後悔
有川カナデ
恋愛
フレッグ国では、第一王女のアクセリナと第一王子のヴィルフェルムが次期国王となるべく日々切磋琢磨している。アクセリナににはエドヴァルドという婚約者がおり、互いに想い合う仲だった。「あなたに相応しい男になりたい」――彼の口癖である。アクセリナはそんな彼を信じ続けていたが、ある日聖女と彼がただならぬ仲であるとの噂を聞いてしまった。彼を信じ続けたいが、生まれる疑心は彼女の心を傷つける。そしてエドヴァルドから告げられた言葉に、疑心は確信に変わって……。
いつも通りのご都合主義ゆるんゆるん設定。やかましいフランクな喋り方の王子とかが出てきます。受け取り方によってはバッドエンドかもしれません。
後味悪かったら申し訳ないです。

真実の愛かどうかの問題じゃない
ひおむし
恋愛
ある日、ソフィア・ウィルソン伯爵令嬢の元へ一組の男女が押しかけた。それは元婚約者と、その『真実の愛』の相手だった。婚約破棄も済んでもう縁が切れたはずの二人が押しかけてきた理由は「お前のせいで我々の婚約が認められないんだっ」……いや、何で?
よくある『真実の愛』からの『婚約破棄』の、その後のお話です。ざまぁと言えばざまぁなんですが、やったことの責任を果たせ、という話。「それはそれ。これはこれ」



【完結】愛くるしい彼女。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。
2023.3.15
HOTランキング35位/24hランキング63位
ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる