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要くんと唯斗さん
道
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僕に初めての恋人が出来た。
今一番人気があるらしいアイドルなんかよりも綺麗で、僕より背が高くて、手足も長くて、スタイル抜群で、選手としても一流で、とても前向きで、いつも太陽の様に輝いていて。
ずっと憧れていた。でも、僕には手の届かない人だと思っていた。
それが今、その人は僕だけを見てくれていて、僕の事を好きだと言ってくれて……。
僕の膝の上で、穏やかに寝息をたてているその人の真っ白な肌に触れる。
くすぐったそうに笑う、僕だけの太陽。
唯斗さんの手術は成功して、オフの日は毎回、所属チームのある京都から唯斗さんの住む東京の家まで車を走らせている。
唯斗さんの笑顔を見たら、気の遠くなるほどの道程も大した事はなかった様に感じられるから不思議だ。
二人だけの幸せな時間を味わっていると、そこに似つかわしくない電子音が響き渡った。
「唯斗さん、携帯が鳴ってますよ」
「んっ……」
大きな瞳が、ゆっくりと開く。
頭は膝に乗せたまま僕の顔を見上げた唯斗さんは、「取って」とテーブルを指差す。
唯斗さんが落ちない様に注意して、携帯を掴む。
唯斗さんに渡す途中、微かに見えたディスプレイの文字に心臓が騒ぎだす。
吐き気すら覚えるドロドロの感情が、喉元まで上がってくるのを感じる。
携帯を受け取った唯斗さんは、僕の膝の上で屈折する事の無い光を放ち続ける。
「えっ、奥さんが? 本当に効くの?」
この前まであなたの光を覆い隠していた人にも、あなたは何もなかった様に光を放つんですね。
「えっ? いるよ」
大きな瞳が僕を映す。
必死で笑顔を作るけれど、顔の筋肉が変な音を立てているのが分かる。
「うん。じゃあね」
僕に気を遣ったのか、数分の会話で再び携帯をテーブルの上に置いた唯斗さんは、僕の膝から頭を上げてソファーに座る。
その隣で、ただ俯いている事しか出来ない。
唯斗さんの周りにはいつも人が集まり、楽しげな輪を作っている。
僕には唯斗さんしかいないけれど、唯斗さんには僕以外がいただろうし、もしかしたら今も……。
「キャプテンがさ、黒酢は体に良いから飲んだらどうかって。奥さんの実家が黒酢を作ってるから送ろうか、だって」
暗い思考に陥っていき固まってしまっている僕の肩に、唯斗さんが頭を乗せてくる。
ホントかな、とクスクス笑う唯斗さんの柔らかな髪が頬をくすぐってくる。
「でもさ……」
唯斗さんの両腕が、僕の首に巻き付いてくる。
「一番の薬は、要くんだから」
僕を見つめる大きな瞳が、口づけをせがんでくる。
本当に、そう思っていますか? 唯斗さんの中にいるのは、僕だけですか?
唯斗さんは、僕だけのものですから。誰にも渡しませんから。
ちゃんと僕だけを見て下さい。
唯斗さんは僕のものだという印を付ける様に、何度も唇を重ねる。
「どうしちゃったの?」
いつになく積極的な僕を不思議に思ったのか、甘い吐息の混じった声で聞きてくる唯斗さん。
「僕だけを見てて下さい」
唯斗さんがどこにも行かない様に、きつく抱きしめる。
「何? やきもち妬いてんの?」
耳元をくすぐってくる柔らかな笑い声。
「だって……僕は唯斗さんしか知らないけど、唯斗さんは僕以外も知っていますよね? それに唯斗さんはモテるから、すぐに僕なんかに飽きて遠くに行ってしまうかもしれないし。また遠くから指を咥えて唯斗さん見つめるなんて、絶対に嫌ですから」
ずっと抱いていた不安を吐き出す。
涙がこぼれない様に必死で目を瞑っていると、温かい感触が唇に伝わってきた。
「馬鹿だな。要くんが嫌って言っても離れてやんないから。それにさ、今なんかは人生八十年でしょ? 今まで生きてきた時間より、これからの時間の方が断然長いんだからさ。ずっと隣にいてくれるんでしょ?」
耳元で優しく響く声にゆっくり瞼を開くと、白い肌が桜色に染まった唯斗さんの笑顔があった。
唯斗さんの右手をとって、固く握り締める。
「ずっとこうやって、一緒に歩いていって下さいね」
「うん」
二人が小さな光になって天に召されていく日まで、否、天に召されていった後も、こうやって手を繋いで、ずっとずっと一緒にいよう。
今一番人気があるらしいアイドルなんかよりも綺麗で、僕より背が高くて、手足も長くて、スタイル抜群で、選手としても一流で、とても前向きで、いつも太陽の様に輝いていて。
ずっと憧れていた。でも、僕には手の届かない人だと思っていた。
それが今、その人は僕だけを見てくれていて、僕の事を好きだと言ってくれて……。
僕の膝の上で、穏やかに寝息をたてているその人の真っ白な肌に触れる。
くすぐったそうに笑う、僕だけの太陽。
唯斗さんの手術は成功して、オフの日は毎回、所属チームのある京都から唯斗さんの住む東京の家まで車を走らせている。
唯斗さんの笑顔を見たら、気の遠くなるほどの道程も大した事はなかった様に感じられるから不思議だ。
二人だけの幸せな時間を味わっていると、そこに似つかわしくない電子音が響き渡った。
「唯斗さん、携帯が鳴ってますよ」
「んっ……」
大きな瞳が、ゆっくりと開く。
頭は膝に乗せたまま僕の顔を見上げた唯斗さんは、「取って」とテーブルを指差す。
唯斗さんが落ちない様に注意して、携帯を掴む。
唯斗さんに渡す途中、微かに見えたディスプレイの文字に心臓が騒ぎだす。
吐き気すら覚えるドロドロの感情が、喉元まで上がってくるのを感じる。
携帯を受け取った唯斗さんは、僕の膝の上で屈折する事の無い光を放ち続ける。
「えっ、奥さんが? 本当に効くの?」
この前まであなたの光を覆い隠していた人にも、あなたは何もなかった様に光を放つんですね。
「えっ? いるよ」
大きな瞳が僕を映す。
必死で笑顔を作るけれど、顔の筋肉が変な音を立てているのが分かる。
「うん。じゃあね」
僕に気を遣ったのか、数分の会話で再び携帯をテーブルの上に置いた唯斗さんは、僕の膝から頭を上げてソファーに座る。
その隣で、ただ俯いている事しか出来ない。
唯斗さんの周りにはいつも人が集まり、楽しげな輪を作っている。
僕には唯斗さんしかいないけれど、唯斗さんには僕以外がいただろうし、もしかしたら今も……。
「キャプテンがさ、黒酢は体に良いから飲んだらどうかって。奥さんの実家が黒酢を作ってるから送ろうか、だって」
暗い思考に陥っていき固まってしまっている僕の肩に、唯斗さんが頭を乗せてくる。
ホントかな、とクスクス笑う唯斗さんの柔らかな髪が頬をくすぐってくる。
「でもさ……」
唯斗さんの両腕が、僕の首に巻き付いてくる。
「一番の薬は、要くんだから」
僕を見つめる大きな瞳が、口づけをせがんでくる。
本当に、そう思っていますか? 唯斗さんの中にいるのは、僕だけですか?
唯斗さんは、僕だけのものですから。誰にも渡しませんから。
ちゃんと僕だけを見て下さい。
唯斗さんは僕のものだという印を付ける様に、何度も唇を重ねる。
「どうしちゃったの?」
いつになく積極的な僕を不思議に思ったのか、甘い吐息の混じった声で聞きてくる唯斗さん。
「僕だけを見てて下さい」
唯斗さんがどこにも行かない様に、きつく抱きしめる。
「何? やきもち妬いてんの?」
耳元をくすぐってくる柔らかな笑い声。
「だって……僕は唯斗さんしか知らないけど、唯斗さんは僕以外も知っていますよね? それに唯斗さんはモテるから、すぐに僕なんかに飽きて遠くに行ってしまうかもしれないし。また遠くから指を咥えて唯斗さん見つめるなんて、絶対に嫌ですから」
ずっと抱いていた不安を吐き出す。
涙がこぼれない様に必死で目を瞑っていると、温かい感触が唇に伝わってきた。
「馬鹿だな。要くんが嫌って言っても離れてやんないから。それにさ、今なんかは人生八十年でしょ? 今まで生きてきた時間より、これからの時間の方が断然長いんだからさ。ずっと隣にいてくれるんでしょ?」
耳元で優しく響く声にゆっくり瞼を開くと、白い肌が桜色に染まった唯斗さんの笑顔があった。
唯斗さんの右手をとって、固く握り締める。
「ずっとこうやって、一緒に歩いていって下さいね」
「うん」
二人が小さな光になって天に召されていく日まで、否、天に召されていった後も、こうやって手を繋いで、ずっとずっと一緒にいよう。
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