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愛してなどいないのに
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ムカムカする。体内で蛇がのたうち回っているみたいだ。
汗を流せば少しはすっきりするかと思い、仕事を早めに切り上げて、無人のゴールマウスに向かってひたすらに球を蹴る。だが、蹴っても蹴ってもムカムカは収まらない。
目につくもの全てが、俺をイライラさせる。
何故、そんなところにゴールマウスがあるんだ。何故、そんなところに球が転がっているんだ。
当たり前の風景が、今は非常識に見えて仕方がない。
気付くと空には白い月が浮かんでいた。
散らかった球を拾い集める行為で、益々俺の中の蛇は暴れだす。
結局は、逆効果だった。
重くなっただけの体で、保健室へ戻る。
人影のない廊下を歩いていると、誰かの話し声が聞こえた。
声のする方へ近付いていくと、ロッカーを背にしゃがみ込んで携帯を耳に当てている笑顔の早乙女がいた。
早乙女は、この学園の生徒だ。
十年近く、この学園で保健医をやっている俺は、数多の生徒と関係を持ってきた。
同性同士での性欲解消が当たり前のここでは、行為に深い意味などない。
俺自身もこの学園の出身なので、なんの抵抗もなく快楽を追っていた。
最初は、早乙女を抱く気などなかった。
俺が相手にするのは、行為に意味を持たせようとしない者だけだからだ。
高校からの転入組で、外の世界の感覚を持っている早乙女は、俺が最も相手にしないタイプだったからだ。
なにが気に入ったのか、早乙女は放課後になると保健室に入り浸るようになった。
汚いものなど何も知らないと告げているようなキラキラ輝く瞳は、眩しくて、不快で、気に触った。
二度と保健室に来ることがないよう、無理矢理早乙女のぺニスを扱き、吐精させた。
それなのに、翌日の放課後も変わらずに早乙女は保健室を訪れた。
思い通りにならないことに腹が立ち、また早乙女を無理矢理吐精させた。
翌日も、また翌日も。それでも、早乙女は保健室に来ることをやめなかった。
苛立ちが最高潮に達した俺は、早乙女を抱いた。
「先生と繋がれて嬉しい。先生、愛しています」
行為後、早乙女は朝露のような涙を溜めた目を細めて、俺に告白してきた。
「俺は、お前など愛していない。相手が誰であろうと、やりたい時にやるだけだ」
「その誰かの中の一人でいいから、僕を抱いてください」
明らかに傷付いていると分かる顔をした早乙女が、必死に懇願してきた。
そのあとも、保健室に来ることをやめなかった早乙女を抱き続けた。
何度目か行為後、早乙女の瞳から輝きが消えていることに気付いた。
俺を苛立たせてきた輝きなのに、消えたと分かると更に苛立ちは増した。
「うん、じゃあね」
俺に気付いて電話を切った早乙女が、はにかみながら近づいてくる。
今の笑顔は何だ? あんなに清らかで若者らしい表情が出来るのに、何故俺の前では死んだ目になる? お前のことは愛せないと言っているのに、何故健気に尽くそうとする?
蛇が皮膚を破って飛び出してきそうだ。
「先生?」
急に抱きしめた俺に、驚きと喜びの混じった声をあげる早乙女。
「やりたくなったから舐めてくれ」
胸の中でこくんと頭が頷いたので体を離すと、膝をついた早乙女が俺のスラックスと下着を下ろし、俺のぺニスを口に含んだ。
「んっ……」
快感が広がるにつれて、ムカムカ感が薄れていく。
体中を快感だけで満たしたい。
「入れさせろ」
俺のぺニスを咥えている早乙女の腕を掴んで立たせる。
「脱いで、そこに手をつけるんだ」
俺の命令に頷いた早乙女が、ズボンと下着を脱いでいく。そして、下半身だけ露わになった姿でロッカーに手をつき、アナルを差し出してきた。
一刻も早く快感に溺れたい俺は、まだ受け入れる準備の整っていないそこに無理矢理潜り込む。
「あっ……ひゃぁぁ……っ……」
早乙女の口から悲痛な声があがる。
ロッカーがガタガタと音を立てる。
早乙女は必死で手をつき、体が崩れ落ちぬよう耐えている。
強烈な締め付けに、早乙女の痛みが快感に変わるより前に、ドロドロの欲望を吐き出してしまった。
俺が離れたその後も、早乙女はそのままの姿勢で小刻みに震えている。
ロッカーが、カタカタと小さな音を立て続けている。
「ひゃっ……」
俺が無理矢理入り込んだそこに指を入れると、悲鳴とも喘ぎ声ともつかぬ声があがった。
その中を掻き回すと、掌の中にドロッとした生温かいものが落ちてきた。
白と赤が混ざった液体だ。赤い……血?
「先生、もういいの?」
振り返った潤んだ瞳が笑う。
「先生?」
なんだかとても愛しくなって、早乙女の体を抱きしめる。
欲望と一緒に蛇を吐き出したようで、今は腕の中のこいつのことしか考えられない。
顎を掴んで、早乙女の顔を見つめる。
瞳は澄んでいて、キラキラと輝いている。
「んっ……」
吸い寄せられるように唇を重ねた。深く、深く、ねっとりと。
考えてみたら、初めての口付けだったのかもしれない。
「はぁん……ふぁ……」
口内で体を一つに繋げたまま、太腿に当たる早乙女のぺニスを扱いてやる。
すぐに、幸せそうな甘い声が漏れはじめた。
俺の背中に回された早乙女の腕の力が、段々と増していく。
それが快感と比例していることは、容易に分かる。
「あぁっ……」
太腿に生温かさが広がると、腕の中にいた早乙女が崩れ落ちた。
「ごめんなさい……」
俺の足を伝って床に落ちていく白濁を見て、申し訳なさそうに俺を見上げる早乙女の頬は濡れている。
捨てられた子犬を撫でるように、自然にしゃがみ込んでその頭を撫でていた。
心が、動き始めた――
汗を流せば少しはすっきりするかと思い、仕事を早めに切り上げて、無人のゴールマウスに向かってひたすらに球を蹴る。だが、蹴っても蹴ってもムカムカは収まらない。
目につくもの全てが、俺をイライラさせる。
何故、そんなところにゴールマウスがあるんだ。何故、そんなところに球が転がっているんだ。
当たり前の風景が、今は非常識に見えて仕方がない。
気付くと空には白い月が浮かんでいた。
散らかった球を拾い集める行為で、益々俺の中の蛇は暴れだす。
結局は、逆効果だった。
重くなっただけの体で、保健室へ戻る。
人影のない廊下を歩いていると、誰かの話し声が聞こえた。
声のする方へ近付いていくと、ロッカーを背にしゃがみ込んで携帯を耳に当てている笑顔の早乙女がいた。
早乙女は、この学園の生徒だ。
十年近く、この学園で保健医をやっている俺は、数多の生徒と関係を持ってきた。
同性同士での性欲解消が当たり前のここでは、行為に深い意味などない。
俺自身もこの学園の出身なので、なんの抵抗もなく快楽を追っていた。
最初は、早乙女を抱く気などなかった。
俺が相手にするのは、行為に意味を持たせようとしない者だけだからだ。
高校からの転入組で、外の世界の感覚を持っている早乙女は、俺が最も相手にしないタイプだったからだ。
なにが気に入ったのか、早乙女は放課後になると保健室に入り浸るようになった。
汚いものなど何も知らないと告げているようなキラキラ輝く瞳は、眩しくて、不快で、気に触った。
二度と保健室に来ることがないよう、無理矢理早乙女のぺニスを扱き、吐精させた。
それなのに、翌日の放課後も変わらずに早乙女は保健室を訪れた。
思い通りにならないことに腹が立ち、また早乙女を無理矢理吐精させた。
翌日も、また翌日も。それでも、早乙女は保健室に来ることをやめなかった。
苛立ちが最高潮に達した俺は、早乙女を抱いた。
「先生と繋がれて嬉しい。先生、愛しています」
行為後、早乙女は朝露のような涙を溜めた目を細めて、俺に告白してきた。
「俺は、お前など愛していない。相手が誰であろうと、やりたい時にやるだけだ」
「その誰かの中の一人でいいから、僕を抱いてください」
明らかに傷付いていると分かる顔をした早乙女が、必死に懇願してきた。
そのあとも、保健室に来ることをやめなかった早乙女を抱き続けた。
何度目か行為後、早乙女の瞳から輝きが消えていることに気付いた。
俺を苛立たせてきた輝きなのに、消えたと分かると更に苛立ちは増した。
「うん、じゃあね」
俺に気付いて電話を切った早乙女が、はにかみながら近づいてくる。
今の笑顔は何だ? あんなに清らかで若者らしい表情が出来るのに、何故俺の前では死んだ目になる? お前のことは愛せないと言っているのに、何故健気に尽くそうとする?
蛇が皮膚を破って飛び出してきそうだ。
「先生?」
急に抱きしめた俺に、驚きと喜びの混じった声をあげる早乙女。
「やりたくなったから舐めてくれ」
胸の中でこくんと頭が頷いたので体を離すと、膝をついた早乙女が俺のスラックスと下着を下ろし、俺のぺニスを口に含んだ。
「んっ……」
快感が広がるにつれて、ムカムカ感が薄れていく。
体中を快感だけで満たしたい。
「入れさせろ」
俺のぺニスを咥えている早乙女の腕を掴んで立たせる。
「脱いで、そこに手をつけるんだ」
俺の命令に頷いた早乙女が、ズボンと下着を脱いでいく。そして、下半身だけ露わになった姿でロッカーに手をつき、アナルを差し出してきた。
一刻も早く快感に溺れたい俺は、まだ受け入れる準備の整っていないそこに無理矢理潜り込む。
「あっ……ひゃぁぁ……っ……」
早乙女の口から悲痛な声があがる。
ロッカーがガタガタと音を立てる。
早乙女は必死で手をつき、体が崩れ落ちぬよう耐えている。
強烈な締め付けに、早乙女の痛みが快感に変わるより前に、ドロドロの欲望を吐き出してしまった。
俺が離れたその後も、早乙女はそのままの姿勢で小刻みに震えている。
ロッカーが、カタカタと小さな音を立て続けている。
「ひゃっ……」
俺が無理矢理入り込んだそこに指を入れると、悲鳴とも喘ぎ声ともつかぬ声があがった。
その中を掻き回すと、掌の中にドロッとした生温かいものが落ちてきた。
白と赤が混ざった液体だ。赤い……血?
「先生、もういいの?」
振り返った潤んだ瞳が笑う。
「先生?」
なんだかとても愛しくなって、早乙女の体を抱きしめる。
欲望と一緒に蛇を吐き出したようで、今は腕の中のこいつのことしか考えられない。
顎を掴んで、早乙女の顔を見つめる。
瞳は澄んでいて、キラキラと輝いている。
「んっ……」
吸い寄せられるように唇を重ねた。深く、深く、ねっとりと。
考えてみたら、初めての口付けだったのかもしれない。
「はぁん……ふぁ……」
口内で体を一つに繋げたまま、太腿に当たる早乙女のぺニスを扱いてやる。
すぐに、幸せそうな甘い声が漏れはじめた。
俺の背中に回された早乙女の腕の力が、段々と増していく。
それが快感と比例していることは、容易に分かる。
「あぁっ……」
太腿に生温かさが広がると、腕の中にいた早乙女が崩れ落ちた。
「ごめんなさい……」
俺の足を伝って床に落ちていく白濁を見て、申し訳なさそうに俺を見上げる早乙女の頬は濡れている。
捨てられた子犬を撫でるように、自然にしゃがみ込んでその頭を撫でていた。
心が、動き始めた――
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