上 下
26 / 31

太陽と向日葵1

しおりを挟む
 君は太陽。俺は君を追い続ける向日葵――
 冬は寒い。寒い時には、温めてもらうのが一番だ。
 つーことで、寒空の下で中庭掃除の当番を終えた俺は、太陽の光を浴びに走るのです。

 コンコンコンコンコン……

「陽太、昼飯行こー」

 コンコンコンコンコン……

 ノック連打56打目で、やっと出てきてくれた俺の太陽。
 冬空のせいで薄暗い室内で、自慢の白肌もち肌が、より強調されている。
 衝動にかられて、その頬にそっと掌を当ててみると、段々と桜色に染まっていった。
 あぁ、どうしよう。すっげーキスしたい。
 ごくんと生唾を飲み込んだ音が凄く大きく感じられて、俺だけが理性の無い獣のような気がして恥ずかしくなって手を戻した。
 あれ? 今、陽太の奴、あ、って顔した。それって、期待してたってこと?
 くー、奪っちゃえば良かったかも。

「行こっか」

 陽太の手を握ると、凄く温かかった。
 今まで、暖房の効いた部屋にいたせいかな? 
 この寒い中を歩いてきた俺の手が、冷たすぎるのかな?
 それとも、陽太の体の中が熱くなっているってこと?

「どうした?」

 黙って手を握られたまま、俺の後をついてきた陽太だったけど、人気のない廊下から食堂に続く回廊へ出ようとすると、急に立ち止まってしまった。

「……手」
「手?」
「……離せよ」

 分かった、って頷いて手を解く。
 本当はさ、陽太とだったら手を繋いで学園内を歩くのは勿論、全校生徒の前でチューしちゃっても全然平気なんだけど、陽太が嫌だって言うのに無理矢理したくない。
 俺って、紳士だからね。

 昼飯を食べ終わって、中庭を散歩しながら寮の部屋まで戻る。
 肌を刺す空気は凄い冷たいんだけど、心ん中がほかほか温かいから全然寒く感じない。
 寮の前まで来ると、入口脇にある自販機の、あったか~い、と書かれた文字が目に入った。

「陽太、何か飲む?」
「……コーヒー」

 あいよって頷き、リクエスト通りコーヒーのボタンを押して陽太に渡す。
 サンキュ、って呟いてそれを受け取った陽太の顔が、段々と不機嫌になっていく。

「どうした?」
「……冷てぇ」

 差し出されたそれを受け取ると、確かに冷たい。
 ホットを買ったつもりだったんだけどな。
 冷たいものを温かくするには……。
 ぱっとひらめいて、プルタブを開けて冷たい液体を口内に流し込んだ俺を見て、怪訝そうな顔をする陽太。
 口内の熱が液体の冷たさを吸い込み、段々と人肌に近い温度になっていく。
 このくらいで、いいかな。

「んちんんちぃ」

 口を指して懸命に伝えるが、陽太は理解できていないようで首を傾げている。
 言葉で伝えるのは無理だから、体で伝えるしかないな。
 がしって陽太の肩を掴んで、コーヒーを一杯に含んだ唇を陽太の唇に近づける。
 愛がいっぱい詰まったあったかいコーヒーを、俺が飲ませてやるからな。

「ゲホッ」

 脇腹に、衝撃が走った。
 陽太の為に温めてやったコーヒーが、ビシャッと勢い良く地面に広がる。

「イデデ、何するんだよっ」

 脇腹を押さえながら、暴力反対って陽太を見上げる。

「汚ねっ」
「何だよぉ。陽太の為に温めてやって、親切にも口移しで飲ませてやろうと思ったのに」

 酷ーいって泣き真似をしている俺の掌の中から缶を取り上げた陽太は、冷たいままのコーヒーを口に運んでいく。
 ゴクゴクゴクと三回喉を鳴らした陽太は、無言で缶を俺に返してきた。
 捨てとけってことか? 仕方ねーなー。

「あれっ?」

 空だと思った缶を受け取ると、ピシャッとまだ中に液体が入っている音を立てた。
 何で?って缶を見つめる。

「……お前の分」

 小さな声で呟いた陽太が、背を向けて歩き出した。
 残ったコーヒーを一気に飲み干し、缶をごみ箱に投げ捨ててその後を追う。

「陽太、ありがとねー」
「……」
「あっ、間接チューしちゃったねー」
「……」
「でもやっぱ、間接じゃなくて直接チューがしたいなー、今すぐっ!」
「うるせぇ」

 背中に顔を擦り寄せてゴロゴロ言っている俺の頭を、思いっきり叩く陽太。
 ボコッて凄い音がしたけど、これ以上馬鹿になったらどうしてくれるんだよ。
 一生、介護してもらうからな!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

眠るライオン起こすことなかれ

鶴機 亀輔
BL
アンチ王道たちが痛い目(?)に合います。 ケンカ両成敗! 平凡風紀副委員長×天然生徒会補佐 前提の天然総受け

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

さがしもの

猫谷 一禾
BL
策士な風紀副委員長✕意地っ張り親衛隊員 (山岡 央歌)✕(森 里葉) 〖この気持ちに気づくまで〗のスピンオフ作品です 読んでいなくても大丈夫です。 家庭の事情でお金持ちに引き取られることになった少年時代。今までの環境と異なり困惑する日々…… そんな中で出会った彼…… 切なさを目指して書きたいです。 予定ではR18要素は少ないです。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

処理中です...