上 下
12 / 19
第一章 最強聖女の復讐

第11話 「インディゴ王家の者に見つかりました」

しおりを挟む
深夜に、街中で魔物の群れに襲われていた
男性を助けてから、二日ほど経ったある日。
滞在中である、宿にインディゴ王家の使者が
私に用があるらしい、と女将さんに言われて
陽の光が差す、客間へと私は重い足取りで向かった。

「初めまして、ルミエール様」

「私のことを知っているのですね」

突然、見知らぬ男性に自分の名前を
言い当てられたことに私はさほど驚きはしなかった。
彼らは私のことを知っているからこそ、
私に用があると、ここへやって来たと
何となくだが分かっていたからだ。

「あなたは?」

「申し遅れました、わたくしはムナールと言います。
インディゴ王国では、第一騎士団の団長を務めております」


なるほど。私の元へやって来たのは
この国の騎士団だったのか。
だからこそ、鎧を身にまとい、
それでも分かるほどにガタイがいいわけだ。

それから騎士団長こと、ムナールさんに
聞かされたことは、二日前に助けた男性は
この国の第一王子、ウラノス・アオローラ殿下で
私のことはこの国の聖女、フィエーラに聞いたとのこと。
それを知った国王夫妻が、私にお礼をしたいと
述べているらしく、騎士団で私のことを
捜索していたらしい。

「……なるほど、分かりました。
しかし、私はそのお気持ちだけで結構です」

「そうはいきません。
陛下は貴女様に直々にお礼の品を
お渡ししたいと申されております」

──既に私が、王城へ行くしかない理由を
国王陛下は作っていたのね。

何とも面倒だと思うし、私はデルソーレ王国の
者たちにバレるわけにはいかないと、
目立つ行動は避けたいところ。
とはいえ、ムナールさんの様子を見るに、
これは『王命』なのだろう。

他国の、それも元は王子の婚約者であろうとも
この国のトップからの命令に
逆らうわけにはいかないだろう。
……仕方がない。ここは大人しく行きますか。

「……分かりました。
しかし、こちらにも事情があってこの国に居ます。
なるべく穏便にして頂けるのならば、
国王陛下にお会いすることにします」

「畏まりました」


私に一礼したムナールさんは、
私を宿の裏口へと案内し、そこにあった馬車に乗り、
あまり人出の少ない道をなるべく通って、
私を王城へと招き入れた。






「ようこそいらっしゃいました、ルミエール嬢」

「お初にお目にかかります、両陛下」

私が通された場所は、玉座のある王の間ではなく
王城の中でも一番広い客室だった。
流石は貿易大国。室内の装飾は見事なものだった。

「初めまして、ルミエール嬢。
俺はインディゴ王国の第一王子、ウラノスと申します。
二日前の夜には魔物に襲われていたところを
お助けいただき、ありがとうございました」

「いいえ、何事もなく無事で何よりです」

デルソーレ王国では見たこともない
豪華なソファに座らされた私の向かい側には
国王夫妻、左側の一人用のソファにはウラノス王子、
そして右側の一人用のソファには聖女フィエーラが
この客室に集っていた。

「お礼の品として、この国で採掘された
宝石のイヤリングを贈りたい」

「これは……随分とお高いものではありませんか?
インディゴ王国でしか採れないサファイアですよね?」

小さな、それでいて豪華な装飾に飾られた
小箱を開けると、インディゴ王国でしか
採掘することのできない宝石、サファイアが
ふんだんに使われたイヤリングだった。

「儂としてはこれでも足りないくらいだ。
どうか、値段などは気にせず受け取ってほしい」 

「……分かりました。有難く頂戴致します」

私はサファイアのイヤリングを、
小箱に入れたまま、『異次元空間』へと仕舞い込みました。
それには国王夫妻も、ウラノス王子も、
フィエーラ様も驚かれていました。


「どうしました?」


「いや……初めて見る魔法だったのでな」

私としては普段から当たり前のように
使ってきた魔法であるため、
そこまで驚かれていることに驚愕するしかない。

「そんなに大したものでもありませんよ」

「いいえっ!各国の聖女でも、魔法使いでも、
異次元空間を開くことは不可能に近いのです!
やはり、ルミエール様は素晴らしいですわ!」


苦笑いしながら答えた私の言葉に、
身を乗り出してフィエーラ様が
瞳をキラキラと輝かせながら私を称賛します。
そんなに凄いことだったかしら……?

「それで……言いづらい事かもしれませんが、
ルミエール嬢はどうしてこの国に?」

「そうですね……滞在させて頂いてる以上、
私がこの国に来た経緯をお話しなければなりませんね」

王妃様に言われて、私は静かにこの国へ
やってきた経緯を簡潔に話すことにした。

デルソーレ王国の第一王子クシオンから、
婚約破棄と国外追放を言い渡されたこと。
その理由は、『聖女なんていない』と
クシオン王子とその周りにいた貴族たち、
それに加えて国王夫妻や民までもが
聖女の存在をまやかしだと信じて疑わず、
私を王家を騙した悪女という理由で、
追い出されたからだということを話しました。


「なんてことをッ……!」

「気にしないでください、フィエーラ様。
先程私がお話したとおり、
今は彼らへ復讐している最中なのです」

怒りに震えているフィエーラ様を見て、
私は久しぶりに心からの笑みを浮かべました。
その様子を見て、何故か両陛下やウラノス王子が
悲しげな表情をしています。

「それに、クシオン殿下には感謝しているのです。
あのお互いを探り合い、罵り合う貴族社会から、
面倒くさい王太子妃としての仕事から
私を解放してくれたんですもの。これ以上ない喜びです」

「ルミエール嬢……」


そう。私がフィエーラ様に告げた言葉は
嘘偽りのない、私の本心。
次期王太子妃としての厳しい妃教育にも、
腹の探り合いと、罵り合いしかない
あの汚れた社交界からも、私はクシオン殿下に
婚約破棄を命じられたことで、解放されたのです。
しかもそれに加えて国外追放まで命じてくれたお陰で、
民からの罵倒も、貴族たちからの陰口も、
欲まみれの男どものエサになることもなく、
私は潔白なまま、あの大嫌いな国から出られた。

今頃は、魔物たちが国中に溢れかえって
大変でしょうけど、私には知ったこっちゃありません。
私を捨てたのだから、当然の結果です。


「お礼の品、ありがとうございました。
私はこれから、やることがあるので
ここで帰らさせていただきますね」


「ああ、分かった……気を付けて」


私はこれ以上、インディゴ王城に居るつもりは
なかったので、国王夫妻に頭を下げ、
部屋から去ることにした。
何故か、ウラノス王子が悲しげな傷ついたような
表情をなされていたけど、何かあったのかしら?
そんなことをぼんやりと思いながら、
私はここに連れて来てくれたムナールさんに
送られて、王城を後にした。




「残念ね……とても綺麗で素敵な子だったから、
是非ともウラノスの嫁に来て欲しかったのだけど
あぁまで王家、貴族社会に恨みを持っていては
お嫁に来て欲しいなんてお願いできなかったわね」

「母上!?」

ルミエールが一瞬にして客室から消えた後、
その魔法力と技量に驚きながらも、
あれが聖女協会序列第一位の聖女なのだと
たった一瞬のことだけでも実感させられた。

少しの間、静寂に包まれた客室で、
一番初めに声を発したのは王妃であった。
その言葉にウラノスは驚きのあまり、
勢いよくソファから立ち上がり、母である王妃の
顔を見つめている。

「ウラノスはルミエール嬢に
想いを寄せていたみたいだし?
親としては息子の初恋だもの。
応援したいという気持ちがあったのよ」

ふふ、と悪戯っ子のように笑う王妃の姿に
ウラノスははぁ、と深くため息を吐いて
ドサッと音を立てて脱力したようにソファに逆戻りする。

そう、王妃の言葉は事実であった。
要するにウラノスはルミエールに一目惚れしたのだ。
月を背負いこちらを見下ろしてこちらを見ていた
あの日のことは、今起きたことのように
鮮明に覚えている。それほどまでウラノスにとって
印象深いことであった。

けれど、そのルミエールはデルソーレ王国での
王太子妃教育にも、貴族社会にも飽き飽きしている
様子だった。ならば、つい先程嫁に来て欲しいと
告白したところで断られていただろう。
そもそもルミエールとしては、助けた男性が
インディゴ王国の王子であることすら知らなかった。
もちろんウラノスも逆に、フィエーラから
教えてもらうまで、自分を助けてくれた女性が
隣国の聖女、世界最強の聖女であるとは知らなかった。

お互いにお互いのことを知らな過ぎる。
一目惚れしたから、というのは理由になるだろうが、
それは確実に結ばれることができるか、といえば
分からないし、可能性は低いかもしれない。

だからこそ、先程ウラノスの気持ちを伝えたところで
そもそも無意味だったのだ。
もちろん彼にとっては初恋。
この気持ちを忘れることは、生涯ないだろう。
せめて彼女がこれから先、幸せになれるように。
それだけは祈ることを許されるだろうか……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生発明家は異世界で魔道具師となり自由気ままに暮らす~異世界生活改革浪漫譚~

夜夢
ファンタジー
 数々の発明品を世に生み出し、現代日本で大往生を迎えた主人公は神の計らいで地球とは違う異世界での第二の人生を送る事になった。  しかし、その世界は現代日本では有り得ない位文明が発達しておらず、また凶悪な魔物や犯罪者が蔓延る危険な世界であった。  そんな場所に転生した主人公はあまりの不便さに嘆き悲しみ、自らの蓄えてきた知識をどうにかこの世界でも生かせないかと孤軍奮闘する。  これは現代日本から転生した発明家の異世界改革物語である。

年増公爵令嬢は、皇太子に早く婚約破棄されたい

富士とまと
恋愛
公爵令嬢15歳。皇太子10歳。 どう考えても、釣り合いが取れません。ダンスを踊っても、姉と弟にしか見えない。皇太子が成人するころには、私はとっくに適齢期を過ぎたただの年増になってます。そんなころに婚約破棄されるくらいなら、今すぐに婚約破棄してっ! *短篇10本ノック3本目です*

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈 
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

私はあなたの母ではありませんよ

れもんぴーる
恋愛
クラリスの夫アルマンには結婚する前からの愛人がいた。アルマンは、その愛人は恩人の娘であり切り捨てることはできないが、今後は決して関係を持つことなく支援のみすると約束した。クラリスに娘が生まれて幸せに暮らしていたが、アルマンには約束を違えたどころか隠し子がいた。おまけに娘のユマまでが愛人に懐いていることが判明し絶望する。そんなある日、クラリスは殺される。 クラリスがいなくなった屋敷には愛人と隠し子がやってくる。母を失い悲しみに打ちのめされていたユマは、使用人たちの冷ややかな視線に気づきもせず父の愛人をお母さまと縋り、アルマンは子供を任せられると愛人を屋敷に滞在させた。 アルマンと愛人はクラリス殺しを疑われ、人がどんどん離れて行っていた。そんな時、クラリスそっくりの夫人が社交界に現れた。 ユマもアルマンもクラリスの両親も彼女にクラリスを重ねるが、彼女は辺境の地にある次期ルロワ侯爵夫人オフェリーであった。アルマンやクラリスの両親は他人だとあきらめたがユマはあきらめがつかず、オフェリーに執着し続ける。 クラリスの関係者はこの先どのような未来を歩むのか。 *恋愛ジャンルですが親子関係もキーワード……というかそちらの要素が強いかも。 *めずらしく全編通してシリアスです。 *今後ほかのサイトにも投稿する予定です。

ミュージカル小説 ~踊る公園~

右京之介
現代文学
集英社ライトノベル新人賞1次選考通過作品。 その街に広い空き地があった。 暴力団砂猫組は、地元の皆さんに喜んでもらおうと、そこへ公園を作った。 一方、宗教団体神々教は対抗して、神々公園を作り上げた。 ここに熾烈な公園戦争が勃発した。 ミュージカル小説という美しいタイトルとは名ばかり。 戦いはエスカレートし、お互いが殺し屋を雇い、果てしなき公園戦争へと突入して行く。

王都から追放されて、貴族学院の落ちこぼれ美少女たちを教育することになりました。

スタジオ.T
ファンタジー
☆毎日更新中☆  護衛任務の際に持ち場を離れて、仲間の救出を優先した王都兵団のダンテ(主人公)。  依頼人を危険に晒したとして、軍事裁判にかけられたダンテは、なぜか貴族学校の教員の職を任じられる。  疑問に思いながらも学校に到着したダンテを待っていたのは、五人の問題児たち。彼らを卒業させなければ、牢獄行きという崖っぷちの状況の中で、さまざまなトラブルが彼を襲う。  学園魔導ハイファンタジー。 ◆◆◆ 登場人物紹介 ダンテ・・・貴族学校の落ちこぼれ『ナッツ』クラスの担任。元王都兵団で、小隊長として様々な戦場を戦ってきた。戦闘経験は豊富だが、当然教員でもなければ、貴族でもない。何かと苦労が多い。 リリア・フラガラッハ・・・ナッツクラスの生徒。父親は剣聖として名高い人物であり、剣技における才能はピカイチ。しかし本人は重度の『戦闘恐怖症』で、実技試験を突破できずに落ちこぼれクラスに落とされる。 マキネス・サイレウス・・・ナッツクラスの生徒。治療魔導師の家系だが、触手の召喚しかできない。練習で校舎を破壊してしまう問題児。ダンテに好意を寄せている。 ミミ・・・ナッツクラスの生徒。猫耳の亜人。本来、貴族学校に亜人は入ることはできないが、アイリッシュ卿の特別措置により入学した。運動能力と魔法薬に関する知識が素晴らしい反面、学科科目が壊滅的。語尾は『ニャ』。 シオン・ルブラン・・・ナッツクラスの生徒。金髪ツインテールのムードメーカー。いつもおしゃれな服を着ている。特筆した魔導はないが、頭の回転も早く、学力も並以上。素行不良によりナッツクラスに落とされた。 イムドレッド・ブラッド・・・ナッツクラスの生徒。暗殺者の家系で、上級生に暴力を振るってクラスを落とされた問題児。現在不登校。シオンの幼馴染。 フジバナ・カイ・・・ダンテの元部下。ダンテのことを慕っており、窮地に陥った彼を助けにアカデミアまでやって来る。真面目な性格だが、若干天然なところがある。 アイリッシュ卿・・・行政司法機関「賢老院」のメンバーの一人。ダンテを牢獄送りから救い、代わりにナッツクラスの担任に任命した張本人。切れ者と恐れられるが、基本的には優しい老婦人。 バーンズ卿・・・何かとダンテを陥れようとする「賢老院」のメンバーの一人。ダンテが命令違反をしたことを根に持っており、どうにか牢獄送りにしてやろうと画策している。長年の不養生で、メタボ真っ盛り。 ブラム・バーンズ・・・最高位のパラディンクラスの生徒。リリアたちと同学年で、バーンズ家の嫡子。ナッツクラスのことを下に見ており、自分が絶対的な強者でないと気が済まない。いつも部下とファンの女子生徒を引き連れている。

葬送神器 ~クラスメイトから無能と呼ばれた俺が、母国を救う英雄になるまでの物語~

音の中
ファンタジー
【簡単な章の説明】 第一章:不遇→覚醒→修行 第二章:信頼出来る仲間との出会い 第三章:怪に殺された女の子との出会い 第四章︰クラン設立と合同パーティ 第五章:ダンジョン『嚥獄』ダイブ 【あらすじ】 初めて日国に魔獣が目撃されてから30年が経過した。 その当時を知る人は「あの時は本当に地獄だった」と言っているが、今の日国にはそんな悲壮感は漂っていていない。 それは25年前に設立された『ハンター協会』により、魔獣を狩るハンターという職業が出来たからだ。 ハンターという職業は、15年連続で男女問わず『大人になったらやりたい職業』のトップを飾るくらい人気で、多くの人たちがハンターに憧れている。 それはこの物語の主人公、神楽詩庵にとっても例外ではなかった。 高校生になった詩庵は、同じ高校に進んだ幼馴染との楽しい学園生活や、トップランクのハンターになって活躍できると信じていた。 しかし、現実は―― 中学まで仲良かった幼馴染からは無視され、パーティを組んだ元メンバーからは無能と呼ばれてしまうように。 更には理不尽な力を持つナニカに殺されて何も達成できないまま詩庵は死んでしまった。 これは、神楽詩庵が死んでからトップランクのハンターになり、日国を救うまでの物語だ。 ※タグの性描写有りは保険です ※8話目から主人公が覚醒していきます 【注意】 この小説には、死の描写があります。 苦手な方は避けた方が良いかもです……。 苦手な描写が唐突に来るとキツイですもんね……。

極上の彼女と最愛の彼 Vol.2~Special episode~

葉月 まい
恋愛
『極上の彼女と最愛の彼』 ハッピーエンドのちょっと先😊 結ばれた瞳子と大河 そしてアートプラネッツのメンバーのその後… •• ⊰❉⊱……登場人物……⊰❉⊱•• 冴島(間宮) 瞳子(26歳)… 「オフィス フォーシーズンズ」イベントMC 冴島 大河(30歳)… デジタルコンテンツ制作会社 「アートプラネッツ」代表取締役

処理中です...