最強使い魔軍団を従えて

使い魔との契約

2

「ソフィア様、おはようございます。｣

「おはよう。｣

　誰にも見付からず部屋に無事戻ったソフィアはベッドに入り、侍女のエレナが起こしに来るのを待った。

「今日のお召し物は、どのドレスにしますか？｣

「どれでも良いわよ。｣

　エレナの用意したドレスは、色やボタンが何個着いているかの違いしかない。そのドレスに似合うペンダント等をして貴族は華やかに着飾るが、ソフィアは日常生活で高価な物を身に付けるのは抵抗があった。
　その為に侍女の間では、いかにソフィアに似合う色のドレスを用意するかが勝負だった。着飾らせて貰えないお嬢様を、少しでも可愛く見せようと侍女達はいつも奮闘していた。

「それでは、本日はこちらのドレスにしましょう。｣

　そんな侍女達の奮闘を知らないソフィアは、エレナが選んだ水色のドレスに素直に着替える。

「前に着た空色のドレスより、お似合いですわ。｣

　満足げに頷くエレナに、空色のドレスと殆ど変わらない。とソフィアは心の中で思いながらも、朝食をとるために食堂に向かった。

「私の可愛いソフィア。今日のドレスもよく似合っているよ。まるで、水の妖精さんだ。｣

「お父様。苦しいです。離して下さい。と言うか、離せ。窒息する。｣

　扉を開け中に入った途端に、ソフィアはお父様に突進されて力強く抱き締められた。毎朝の恒例行事であるお父様の抱擁に息が苦しくなる。

　ソフィアの父の名前はクリス・ルリアミーナ。ルリアミーナ伯爵家の現当主だ。9歳の娘であるソフィアが居るとは思えない程の若作りで、20代前半の見た目を保つ美男子だ。

　だが、いくら美男子とはいえ毎回抱き締められるのは窒息しそうでソフィアは自分の身が持持ちそうにない。それに幾ら美男子でも、デレデレに顔を蕩けさせるクリスにソフィアは、父親としての威厳はないのかと説教したくなる。

「行きなさいスイナール。｣

『行くわよ。水弾』

「ぎゃあー。｣

　鈴の音が鳴るような凛とした声が耳に届くのとほぼ同時にクリスが吹っ飛んだ。壁に若干めり込んだクリスだが自業自得である。これも毎朝の恒例行事で周りに居る侍女達も誰もクリスの心配をしていない。何事もない様子で朝食の準備をしている。

「本当にクリスは懲りない人ね。少しは学習をして欲しいものだわ。｣

　ソフィアの横まで歩いて来て仁王立ちしている女性はソフィアのお母様だ。名をハンナ・ルリアミーナ。別名伯爵家の青い薔薇と呼ばれる人物だ。
　名前の由来は、美しい青い髪を持ち主であり、美しい薔薇にはトゲがある。それを再現したような男性に負けない強さの持ち主で、若い頃は怪我をしても、近付きたいと言う男性達に言い寄られたことで有名な人だ。
　
『それは無理ね。あの男がソフィアに関することで学習するなんて、天地が引っくり返っても有り得ないわ。それとソフィア。貴女も少しは反撃しなさいよね。私の仕事を増やさないでちょうだい。』

「ごめんなさい。それと、いつも助けてくれてありがとう。｣

『ふん。主様の命令だから助けただけよ。お礼なんて必要ないわ。』

　ハンナの隣で浮かぶ、小さな少女はハンナの使い魔のスイナール。水の魔法が得意な勝ち気な人魚族の少女だ。そして理由は不明だがソフィアを嫌っていた。今もソフィアの顔さえ見たくないのか、後ろを向き体をプルプル震えさせていた。

「ソフィアが謝る必要は無いわよ。悪いのはクリスですからね。それより、クリスは無視して食事にしましょう。スイナールはご苦労様。もう戻っていいわよ。｣

『了解したわ。』

　ハンナに軽くお辞儀をするとスイナールは泡になってその場から消えた。

「お母様が羨ましい。私も早く使い魔が欲しいよ。｣

「大丈夫だ。ソフィアにも直ぐに使い魔が出来るよ。｣

「お父様復活早いです。｣

　朝食を取ろうと席に着いた途端に、クリスが背後に現れてソフィアの体がビクリと動く。これは心臓に悪い。クリスは完全に復活したようで、体に傷ひとつ見あたらない。その生命力は本当に人間なのかとソフィアは疑いたくなる。

「確かにソフィアもそろそろ使い魔を選んでも良い年頃ね。｣

　ソフィアがクリスとやり取りをしている間、先に朝食を食べ始めていたハンナがフォークを置き何かを考える素振りを見せる。少し強く推せば行けそうな雰囲気だ。
　初めて使い魔がいる人間の年齢は決まってはいない。だが、最近は使い魔を早く欲しがる子供が増加してソフィアと同年代の子でも使い魔と契約している子も少なからず存在した。

「お願いお母様。ソフィアもお母様みたいな可愛い使い魔が欲しいの。｣

「分かったわ。今日の午後に私の部屋で使い魔の契約方法をお勉強しましょうね。｣

「ありがとう。お母様大好き。｣

　今日は素晴らしい１日になりそうだ。どんな子と契約しようかと心を踊らせながらソフィアは朝食を食べるのだった。