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17 マオ

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「ごちそうさまでした。」

 美味しかった。モドキの用意した果物はリンゴやぶどう等、地球にある果物と見た目も味も変わらなかった。大満足である。

「そう言えば、何でその子と一緒に洞窟で暮らしてるんだ。魔人は全員魔国に住むんだろう。」

『そうじゃ。だがこの子は魔人の中でも魔力が高くてな。大人でも制御が難しいんだ。それで魔国では暮らせないと、ワシが育てているんじゃ。』

 可哀想だな。魔力が高いって理由だけで家族と離れ離れか。僕は家族と離れて余り時間は経っていない。でもこの女の子は長い間家族と会っていない。僕よりこんなに小さいのに…。
 女の子の境遇に同情してしまう。

「ゼロがね。モドキじぃじのところに、ちゅれてきてくれたの。」
 
『兄を呼び捨てにしてはダメだろう。』

「ゼロはゼロだもん。にぃにちがう。」

「ゼロ?」

 女の子が大声で怒る。僕の知らない名前が出てきたけど、ゼロって誰だ。僕の疑問にモドキが答える。

『ゼロはこの子をワシに託した人物で、この子の兄と名乗っていた。まあ、1年くらい会っていないから、忘れても仕方がないか。』

 モドキが膝の上に女の子を座らせて頭を撫でると、機嫌が直ったのかニコニコ笑う。

「ねえ、キミはゼロには何て呼ばれていたの。」

「なまえのこと?」

「そう、思い出せる。」

 僕の質問に女の子が腕を組んで考え込む。
 モドキの話していた通り、家族との思い出忘れちゃったのかな。家族が呼んでた名前だよ。思い出して。

「…ま。」
『『「「ま。」」』』

「マ、マオ?」
『『「「マオ。」」』』

「うん、マオってゼロよんでた。たぶん。」

 曖昧な記憶を辿り、女の子の答えた名前はマオだった。ちょっぴり自信の無いようだが、それ以外の名前は女の子の口から出そうにない。

「じゃあ、これからは君をマオって呼ぶね。」

「いいよ。」

 女の子からの了承を貰い、マオと呼ぶことに決めた。

「モドキじぃじも。」

「モドキにもマオって呼んでほしいのか。」

『マオ。』
「はい。」

『マオ。 マオちゃん。』
「はい、はーい。」

 モドキの顔が崩壊する。親バカ発動中だ。瞬く間に2人だけの空間を作り、外野を無視して名前を呼び続ける。




『マオちゃん。』

「はぁ…、あきた。おわりなの。」

「あっち向いてほい。ジャンケ『やっと終了したようですよ。』」

 予想通り長引いたな。時計がないから正確な時間は不明だけど、30分はやってたかな。グレイと隅で座りながら、あっち向いてほいをしていた僕は、立ち上がりモドキの元へ向かう。
 モドキはショックを受けたようで石のように固まっていた。

『ワ、ワシの大切なマオちゃんが反抗期じゃ!?』

『「「マオ(様)は普通です。」」』

 2人からのツッコミに、モドキは落ち込む。こんなの反抗期の内に入らないよ。長い時間返事をするだけだよ。マオが飽きて当然だ。寧ろモドキは後何回名前を呼ぶ予定だったんだ。
 

「モドキって面白いな。モドキ達さえ良ければ、また遊びに来ような。」

「うん。」

「りょうにぃにかえるの。もっとあしょびたい。」

 涼たちの話を聞いていたマオが涙目でグレイと涼の服を引っ張る。こんな洞窟で生活しているから、友達もいなくて寂しいのだろう。縋るような顔で僕を見上げる。

「もうちょっとダメかな。」

「そろそろ行かないと、夜までにテントに戻れない。流石に泊まる訳にはいかないだろう。」

「モドキに送ってもらえば「マオがひとりになるだろう。」」

 モドキの走る速度は僕より速い。また僕は体力がないから帰りは歩きだ。走りはしない。つまり時間が掛かる。そろそろ洞窟を出ないと、テントに到着する頃には夜になる。
 流石にマオを一人にはさせておけず、僕は諦めてマオの目を見た。

「ゴメンね。また今度来るからね。」

「うぅん。」

 引き止めて駄々をねることは無いが、今にも泣きそうな顔に罪悪感が込み上げる。
 すると、今度は僕たちの会話を聞いていたモドキが意外な提案をしてきた。

『リョウ達さえ良ければ、暫くマオちゃんを預かってくれんか。』
 
「俺の話を聞いて、決断したのか。」

『そうじゃ。』

「2人で話を進めないでよ。」

「悪い。モドキには果実を運ぶときに先に説明したんだが、森に異変が起きてるんだ。魔物が縄張りを変えて、新人の狩り場にCランクの魔物が出現したりと、被害が大きいんだ。新人や低ランクの冒険者は依頼を自粛して、皺寄しわよせが俺たちに来てるんだ。しかも、数名の冒険者から大人の魔人を見たと目撃情報が出ていて、俺はその調査の依頼で森にいたんだ。」

『ワシしか魔物がいないのは、全員逃げたからじゃ。ワシもマオちゃんの体調が良ければ、安全な場所に移ったんじゃが「マオがわるいこだったの。」イヤ、マオちゃんは悪くないぞ。』

 確かにモドキ以外の魔物と遭遇しないのは気にはなっていた。…ちょっと待て。この森が魔物の数が少ないのではなく、僕たちの居る場所から魔物が逃げ出したと考えるとーー。

「もしかして、魔人の目撃情報ってこの近く?」

「そうだな。ここより北に数キロの場所だ。だが安心しろ。俺は魔人と戦闘したことがある。2~3人なら、無傷で倒せるよ。それにテントに戻れば安全だ。あそこは魔物も魔人がいないからな。」

 頼もしい。流石はAランクの冒険者だ。それにしても魔人か。大人の魔人ってことはマオではない。なんで魔人がこんな森にいるんだ。あっ。

「その魔人ってマオを迎えに来たゼロって魔人の可能性はないの?」

『ない。グレイの話しだと、魔人は女性だそうじゃ。魔人違いじゃ。』

 違うのか。予想がハズレて少し落ち込む。

「マオを預かるのは良いが、モドキはどうするんだ。一緒に来るか。」
 
『遠慮する。グレイ達は信用しているが、ワシは人間を信用していない。しかし、魔人か森にいる以上、この地は危険じゃ。マオちゃんを連れて暫く安全な町で暮らしてくれ。よろしく頼む。』

「…グレイ兄さん。」

 グレイは大きく息を吐いた。
 今のマオならモドキの要望は通る。リョウがツインテールにした事で、魔人の象徴である角が隠れたからだ。だがマオが魔人だとバレない保証はない。魔人だと知られた場合、マオを守れる力はリョウにはない。だからこそ、何も言わずに判断を俺に委ねている。
 モドキには攻撃したり、色々と罪悪感もある。それに食料を取りに行ったときに聞いたモドキの話も少し気になる。

「この問題が解決するまでだぞ。」

「やったー。今日は一緒にテントでお泊まりしようね。」

「おとまりしゅる。」

 




 喜ぶ2人を前に、俺はこの問題を簡単に考えてしまっていた。だから、この夜モドキに起きる事件を未然に防げなかった。



 洞窟まで俺はガネットから借りた魔法測定地図を使い、モドキの魔力を頼りにこの場所まで辿り着いた。それをこの場で確認すれば、あの最悪の事態は防げたのだ。とてつもなく大きな魔力の持ち主が俺たちの近くまで迫っていた。1日限定という地図の制約。この場の全員が笑顔の中、地図が俺のポケットから消えた。
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