異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊

文字の大きさ
上 下
170 / 183

お出かけしよう

しおりを挟む
 あんこのお誕生日会を行ってから、約半月が経過した。

 気候はとても春めいてきて、周囲の雪も溶け出してきている。ウキウキで蕗の薹や土筆を探しにいったけど、こちらには無いみたい。

 それ以外にこの半月の間にした事といえば、お誕生日会の翌日に拠点の周辺に木を何本か植えた事と、ただひたすら引きこもって魔力牛のビーフジャーキーを改良する日々を過ごしていた事だけ。


 そんな毎日を過ごしていた俺だったが、ビーフジャーキーの改良を納得のいく形で終えた俺の目に飛び込んできたのは......拠点の周囲に立派な成長を遂げた樹木が五本、それとなんかよくわからない花が咲く花壇が出来た。

 たった半月で何故こうなるのか......

 それは、ピノちゃんが張り切った。これだけ。


 実験で劇物の種を二つ地面に埋め、その近くに召喚で取り寄せた桜の木、梅の木、個人的に好きな枝垂れ桜を一本ずつ植えた。
 桜とかは成木が来るのかなと思っていたけど、手元に出てきたのは苗木だったのでこれを植える事になった。

 たまに様子を見にくればいいかなーと気楽に考え、ソレらを植えた後は放置してしまった俺。特にやりたい事も思いつかなかったので、その後はビーフジャーキーの生成に熱を入れた。

 調味液や調味料の工夫や肉の乾燥方法、途中で燻製など......まぁ色々試した。
 あんこが好んで食べていたビーフジャーキーに似た味わいになるように、ほぼずっとジャーキー作りに専念。

 春になり雪が溶けた事で行動範囲が増えた皆が、個々での活動に勤しんでいて俺が寂しかったってのも、ビーフジャーキー作りに没頭してしまった要因でもある。

 その甲斐あってか、シアンお手製ビーフジャーキーはしっかり完成した。
 完成品を皆に振る舞うと、これにはあんこだけではなく全員が歓喜し、度々おねだりされるようになった。上目遣いでジャーキーをおねだりする姿は最強すぎて血反吐を吐きそうになった。


 俺がそんな事をしている間、俺や皆の監視の目が無かったマイペースなピノちゃんは、優雅に日向ぼっこをしながら【木魔法】を練習していた。手に入れてから今まで日の目を浴びておらず、すっかり忘れていたピノちゃんの【木魔法】だ。

 何年経過すれば立派な木になるのかなーとのんびり構えていた俺を嘲笑うかのように、ピノちゃんはダラけながらもグングンと【木魔法】の熟練度を上げていき、それに伴い植えたばかりの木もグングン育っていく。


 その結果......

 経過を観察していなかった木達は、半月足らずで立派な木になってしまっていた。
 桜や梅はしっかり育ちきり、それはもう見事な花を咲かせていた。

 ピノちゃんが俺を呼びに来て、『どーよ』とドヤりながら木を見せてくれたので、そこでようやく発覚する事となる。

 結果が出るまでは、幻影をフルに活用して木の成長具合をバッチリ隠蔽していた小狡いピノちゃんに脱帽。
 集中してソレを意識しないとわからないレベルの幻影を掛けていやがりましたよ......この子......やりよるわぁ......

 劇物の木はあの森で見た物よりもまだ全然小さく実も付けていなかったけど、『後半月くらいで実も付けられるくらいにまで成長させられるよ!』と、これまたドヤりながら報告をしてくるピノちゃん。

 ドン引きしながら、【木魔法】についての取り調べを行った。
【木魔法】を使ってみた感想は、植物を一センチ育てるだけでも魔力をかなり使うらしくて、普通の人が使う場合使い勝手が悪すぎて魔法を使っても、普通に成長させた時との違いは誤差レベルだと教えてくれた。
 でも、ほぼ無限に魔力を使えるピノちゃんは【木魔法】を見事使いこなしてしまい、悪魔的なまでのチートっぷりを発揮して今に至る。

 この報告には愛想笑いをするしかなかった俺だけど、これで鳥ちゃんズが欲しがっていた大きい木の条件を達成できたので素直に喜んだ。
 ......うん......言いたいことはあるけど、ピノちゃんありがとね。



 こうして俺は、伝説の木と実を無限増殖させる術を手に入れましたとさ。めでたしめでたし......



 ◇◇◇



 夢だった日向ぼっこしながらのお昼寝や、皆でワイワイお花見を行い、非常に有意義で満足だった四月を過ごした。


 そうして、とうとう四月が終わりを迎えそうになったある日の夜......

 隠蔽の外に出ても問題のない強さになったワラビがお外から戻り、俺らに報告を行った。
 ちなみにワラビはあれからも劇物を食べ続けているが、未だ進化するまでには至っていない。

『ココカラ、アマリ、トオクナイ、イチニ、ダンジョン、ミツケタ』

 あらやだ、とても簡潔な報告ぅ。

「それは何処で見つけたの?  此処からダンジョンまではどれくらいの距離なのかな?」

『ゼンリョクデ、トンデ、サンジカン、クライ』

「結構近いんだねー」

『ダンジョン!!』
『行こっ!!』

 その報告を聞いて、ワクワクが抑え切れなくなったツキミちゃんとダイフクのテンションが振り切れる。
 あんことピノちゃんは普通のテンション。ヘカトンくんはお留守番だから我関せず。

「あー、んー......じゃあ、ダンジョン行こうか。もし行きたくないって子がいるなら無理に着いてこなくてもいいよ」

 鳥ちゃんズのテンションに押され、前から約束していたダンジョン攻略に踏み切る事が決まった。


 ここでお留守番の意向を示したのはピノちゃん。理由を聞くと、あの大きい木を最後まで育てたいからと言われてしまった。

「えー......マジかぁ......」

 お留守番してもいいよと言った手前、俺がここでゴネるのは間違っている。間違っているんだけど......寂しさが抑えきれずにしょぼくれてしまう。

 もうすぐで完成だからと頑として譲らないので、ここは大人しく諦める。
 その際、もっとあの木を増やしていいかとも聞かれ、二十本までならと制限を付けた。
 あの木をアホほど増やされても困るから、どうか二十本まででお願いします。

 それでももう少し増やしたいピノちゃんにゴネられちゃったので、仕方なく他の植物を用意する事に。

「他にも違う植物を何本か植えとくから、それで我慢してください」

 ここまで言ってどうにか納得してもらえたので、ここでダンジョン攻略前夜の話し合いは終わった。



 そして翌日、出発前に木材として使えそうな種類と役に立ちそうな種類を植えていった。
 松、樫、黒檀を五本ずつ、桃、楓、白樺も五本ずつ、それと竹をそこそこ多めに。
 竹は万能素材としてだけでなく、筍ご飯や焼き筍が食べたくなったから。

 これだけあればきっと大丈夫......ピノちゃんも満足してくれるはずだ。
 俺ができる事はこれまで......後はあの子が張り切りすぎて、帰ってきた時に思いもよらない光景になっていない事を祈るのみだ。

 お願いだからしっかり管理するんだよ。頼むよ!!


 残りの問題点も解消していく。
 ダンジョンをクリアするまでにどれだけ時間が掛かるかわからないので、ご飯類や必要そうな物は一年分ほどヘカトンくんの収納袋に詰め込んでおいた。
 後は牛の処置などについても色々お話した。

「じゃあ俺らはダンジョン攻略に行ってくるからお留守番頼んだよ。牛と植物のお世話はしっかりやるんだよー!!」

 両肩にツキミちゃんとダイフク、定位置にあんこをセットした俺は、ワラビの背に飛び乗って角を掴む。

「行くどー」

 俺の掛け声と共に羽根を広げて飛び立ったワラビが、どんどんスピードを上げていく。この子、やけにテンションが高い。

 初めてのダンジョンと、俺らを乗せて飛ぶ事が楽しいのかな?

 龍さんに乗った時以来の空で少し落ち着かない。ていうか、早い高い怖い。
 落ちても無事なのはわかるけど、なんか怖い。風圧がやばい......

「そ、そこまで急がなくていいから......もう少しスピード落とそうね」

 楽しそうにカッ飛ばすワラビを宥めてスピードを落としてもらい、やっと落ち着いて空の旅を楽しめるようになった。

 ......スピード違反はダメだね。法定速度は遵守しましょう。

「あぁぁぁ落ち着いたスピードで飛ぶ空の旅って気持ちいいぃぃぃぃ」

 不満そうにするワラビには悪いけど、スピードをあげようとする度に威圧を飛ばして牽制。

 それから約六時間をかけた空の旅を楽しみ、日が傾きかけた辺りでようやく目標のダンジョンへと辿り着いた。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...