上 下
16 / 183

ビタ止まり

しおりを挟む
 現在俺の収納には、ものっすごい量のお湯が入っている。努力の結晶とも言える程の量だ。

 日本でそんな事をやったら、翌月に無事死亡するであろう。金銭的な意味で。


 それで、昨日はお湯を収納に入れてる間がかなーり暇だったので、収納にお湯を入れ続けながら魔法の練習していた。
 そしたら【多重思考】のスキルが生えていた。

 やったね!でも脳の容量が足りないのか知らないが、今はあんまり活用できない......
 いつかきっとコイツは俺の役に立ってくれる事でしょう。




 さぁ朝飯を食おうか。

 昨日の朝よりも豪華な飯......ふわふわのパンとチーズのスープ、あとサラダとハムだった。

 チーズスープはオニオングラタンスープに近い味だった。
 チーズが濃厚で美味しかったけど、こっそり胡椒を足した。手が勝手に動いたのです。
 パンと良く合っていて満足できました。
 他のものは昨日より少しだけクオリティが高かった気がする。


 食後に部屋で少しダラけたあと、ゆっくりと準備を始める。


 身支度を終わらせて、最後に遮光カーテンを外して収納する。後片付けはこれで終わりかな。



 女将さんに丁寧にお礼を言ってから宿を出た。


 宿を出た俺が真っ先に向かったのは、昨日行ったパン屋。

 そこで色々と焼きたてのパンや、まだ冷めていないパンを多めに仕入れて収納にしまっていく。焼きたてのパンは大正義だ。


 やる事を済ませたので、街を出ようと門に向かっていたところ、あの門番が今日も立っているのに気付いた。

 探す手間が省けたのは僥倖。ささやかな報復を実行するとしましょう。


 ズボンの留め金を糸で外して、そのまま糸で固定。ヤツは突っ立ってる仕事だし、俺が解除するまでは外れる事はないと思う。

 この場を離れてから30分後くらいに魔法を解除してあげよう。

 下着にまで手をかけないのはいい情報をくれたお礼だ。今後も楽しく門を守っていっておくんなまし。



 そんな事をやってから街を出る。あの最初の森方面が東だったから、森と逆方向に進めばいいんですね。

 さぁて、王都へ向かって進もー。



◇◇◇



 てくてくと歩いていく。


 王都方面まで向かう道には、ちゃんと整備された道があるので迷う事はきっとないだろう。

 今日のあんこは中型犬サイズになって、俺とのお散歩を楽しんでいる。


 いい天気すぎるので、アラクネローブが無かったらきっとお外が辛くなっていただろう。夏はほんと嫌い。
ㅤあんこは冷気を出すのを覚えてからは、自分とって心地良い温度を常に保っているので、こんな暑さでも元気にしている。



 あんこを見てみるとソワソワしていたので、運動したいのか、俺と遊びたいんだろうと推理。

 軽く走り出してみると、追いかけっこ?やったー!と喜んでいるので、そのまま追いかけっこをしながら道を進んでいく。





 五時間程走り続けたので休憩をとることにした。多少息切れしている程度のマイ不思議ボディ。
 あんこを見てみるといっぱい走って満足したのか自分で水出して、飲んだり浴びたりして遊んでいる。


 人とはそれなりにすれ違ったけど、犬と走ってる俺を見て生暖かい視線を貰った。
 これからはなるべく人目を避けて進もう......



 息を整えたあとは、石を組んだだけの簡易な竈を作り、火を熾す。

 フライパンでスライスしたフランスパンを片面焼き目をつけ一度取り出し、バターを溶かした後にもう片面をカリッとするまで焼いていく。

 バターの付いた面に粗挽き胡椒を多めに振り、軽く焼いたベーコンとスライストマトを乗せて完成。

 簡単だけどコレが結構うまい。それを二切れアイスコーヒーと共に食べた。


 あんこはいつものジャーキーとミルクを。



 この後はどうしようかな?

 龍さんに頼んで飛んでもらうのもいいんだろうけど、こちらは騒ぎになっていたし止めておいた方がよさそう。
ㅤ閉鎖されたプライベート空間や、人が居ない環境はとても穏やかに過ごせるから、スキップしちゃうのは勿体ないかなぁ......


 もともとこんな気質だったのもあり、日本にいた頃から人間社会はあまり好きじゃなかった。

 心残りな事も沢山あったけど、こっちに来れた事は今ではよかったと思えている。
 あっちでは味わえない旅を、じっくり満喫しながら進もうかね。



 よし、休憩はこれで終わり。


 さっきまでごちゃごちゃと考えてたけど、このまままったりと進んで行こうと思う。
 一度人里に行けた事で、色々と解決したのもあるから特に急ぐ理由もない事に今気付けたし。


 そういえば、お勉強した時にダンジョンもある世界だということがわかったので、見つけたら入ってみるのもいいと思っている。

 ダンジョンの深層には、不思議な効果のあるお宝があったりするみたい。ダンジョン内は油断ならないと思うから、もし攻略する事ができたなら、その時は自衛もしっかりと出来るようになっているだろうし一石二鳥かもね。


 まぁこんな感じの事を、グダグダと考えながら歩いて進んでいく。


 一番思う事、それが......モンスターがぜんっぜん出てこないという事。

 いい事なんだろうけどさぁ......いや、平和なのはいい事か。何も起きないのが一番。


 だが、とりあえずこれだけは言わせてくれ。暇だと。





 それにしても平原が延々と続いていくよぉ......走ってる最中にも特にめぼしい物も見つからなかったし。




 暇すぎるので、今から歩きながらどれだけ感知の距離を拡げられるか試そうと思う。


 歩きながらでも結構余裕で出来るみたいだな。距離は結構伸ばせるっぽいぞ......どれくr......




 頭が破裂するかと思った......
 半径1キロを越えた瞬間に、脳が情報を処理しきれなくなった。


 これは無理だ。無理無理......諦めよう。
 半径500メートルも感知することができれば充分すぎるよね。


 脳のスペックを強化する事が可能ならば、多分かなり距離が伸ばせるとは思う。

 だけど脳のスペックの強化方法なんて、やり方すらわからないし、脳に負荷をかけていくとか怖すぎる。

 ......強化していたら頭がバァンしちゃった☆とかなるのは絶対に嫌だわ。
 無理のない範囲ですこーしずつ伸ばせていけたらいいな。


 そんな恐怖体験がありながらも、探知をし続けて進んでいく。すると前方に集団が感知される。


 視力を強化してそれらを見てみた。
 全員が同じ鎧着ている集団がこちらへ向かって行進中、騎兵もそれなりの数がいる。



 厄介事になりそうなスメルがプンプンするので、あんこを抱きしめてから全力で足を強化して走った。



 一歩踏み出した瞬間、景色が変わった......

 強化の威力がやべぇ......
 あの集団には視認すらされてないだろう。楽に振り切れたんだけれども......俺の勢いが止まらない。



 このまま止まる事ができないと、不幸な事故が起きてしまう可能性が高い。
 覚悟を決めて、全身を強化する。そのまま踏ん張って地面を削りながら止まろう......


 そう覚悟していたんだけど、予想は裏切られてビタっと停止した。地面に足を付けて踏ん張った瞬間にビタ止まり。


 慣性の法則ナメてたわ。内臓がズレる感覚がしてキツかった。

 あんこは無事かな?え......楽しかった?そっかぁ......それはよかったねぇ......


 意図せずかなりの距離を稼げた事だし......今日はもうゆっくりしていいかな?
 お嬢様ごめんなさい。俺、慣れない事をして疲れちゃったんだ......


 ちょっとギュッてさせて......

 ありがとう。あぁ、ふわっふわで気持ちいい......


 しばらくの間、最高の抱き心地を堪能したので気分を持ち直すことができた。


 俺に頼られたのが嬉しかったらしく、すっごいご機嫌になってスリスリとしてくる......鼻血出そうなほど可愛い。

 お礼の気持ちを込めて、お嬢様を抱っこしたままジャーキーを食べさせてあげた。



 めっちゃ幸せな時間だったわ......たまに出る、私を頼って!な感じのお姉さんモードが堪らなくプリティー。


 周囲は少しずつ暗くなってきたし、今日はこのままここで休むことにしよう。



 バスタブを召喚して、溜め込んでいたお湯を解放して湯を張る。
 何をするのか理解したあんこのテンションがあがった。暖かいお湯気に入ってたもんね。


 俺も時間に追われる必要が無くなったので、風呂でゆっくりする時間が好きになったし、この子が気に入った事は沢山させてあげたいと思っている。

 念の為周囲にトラップを設置して、似非露天風呂へ入る。

 俺に洗われる事が特にお気に入りらしく、めっちゃ喜んでいるのがわかる。


 この子が一緒に居てくれるおかげで、毎日がとても楽しい。
 日本では絶対に味わえなかったこの生活と、このゆっくりと過ぎていく時間を大事にしよう。




 楽しんでいるお嬢様をずっと見ていたく思えて、ちょっと長湯をしてしまった。
 ギリギリ逆上せなかったけどフラついている。

 身体を冷まそうと思い、かき氷機を召喚する。あんこに、かき氷機にハマるサイズの氷を出してもらって氷を削っていく。


 何してんの?ってなってる顔に胸が苦しくなる。これが恋ってヤツなのか......?


 出来上がった氷に練乳をかけていく。

 そしてまだ何?何?って顔をしているお嬢様へ、練乳かき氷をスプーンで掬って可愛いお口に入れてあげた。

 めっちゃキラキラした目でこっちを見てくるお嬢様。お気に召したみたいです。

 お嬢様と俺、交互に口に運んでいき無事に完食した。また今度作るからね♪


 そしてシロップだったとしても、フルーツ味の物を掛けるのはなんか嫌だった俺。もう完治の見込みのない末期症状でしょう。


 その後はいつものルーティンを終わらせてから、睡魔が襲ってくるまでまったりした時間を楽しんでから眠りについた。


───────────────────────────────────────


明日も四話投稿いたします。よろしくお願いします。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

いや、自由に生きろって言われても。

SHO
ファンタジー
☆★☆この作品はアルファポリス様より書籍化されます☆★☆ 書籍化にあたってのタイトル、著者名の変更はありません。 異世界召喚に巻き込まれた青年と召喚された張本人の少女。彼等の通った後に残るのは悪人の骸…だけではないかも知れない。巻き込まれた異世界召喚先では自由に生きるつもりだった主人公。だが捨て犬捨て猫を無視出来ない優しさが災い?してホントは関わりたくない厄介事に自ら巻き込まれに行く。敵には一切容赦せず、売られたケンカは全部買う。大事な仲間は必ず守る。無自覚鈍感最強ヤローの冒険譚を見よ! ◎本作のスピンオフ的作品『職業:冒険者。能力:サイキック。前世:日本人。』を並行連載中です。気になった方はこちらも是非!*2017.2.26完結済です。 拙作をお読み頂いた方、お気に入り登録して頂いた皆様、有難う御座います! 2017/3/26本編完結致しました。 2017/6/13より新展開!不定期更新にて連載再開! 2017/12/8第三部完結しました。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!

幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23  女性向けホットランキング1位 2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位  ありがとうございます。 「うわ~ 私を捨てないでー!」 声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・ でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので 「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」 くらいにしか聞こえていないのね? と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~ 誰か拾って~ 私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。 将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。 塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。 私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・  ↑ここ冒頭 けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・ そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。 「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。 だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。 この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。 果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか? さあ! 物語が始まります。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

処理中です...