血塗れダンジョン攻略

甘党羊

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ヒヨコ対芋虫

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 記憶にある不死血鳥ことヒヨコさんとは若干の誤差があるが、俺が出した炎魔法は燃え盛る体毛を持ったヒヨコを生み出した。

「なんでコイツが!? って、なんで鳴いた!? 魔法って鳴くの!?」

 かなりシリアスな展開だった筈が、一転してコメディとなってしまう。わけがわからない。

 混乱する匠を置き去りにし、事態は進んでいく――

 放たれた魔法ヒヨコは甲高い鳴き声を発しながら、匠が知るあの頃よりも早く動きワームに向かって真っ直ぐ駆け出す。

『ピィィィィィィッ』
『シャアァァァァァァァッ!!』

 怯み状態から抜け出したワームは直進してくるヒヨコを近付かけまいと酸を飛ばす。初手はレーザーのような太さ、続いて間髪入れずショットガンのように細かくした酸を吐き出した。

『ピィィィィィィッ』

 轟ッ――酸のレーザーを真正面から迎え撃つヒヨコは直撃の寸前に全身から炎を発し、ぶつかった。

 燃え盛るヒヨコの熱量はレーザーをモノともせず打ち破り、続くショットガンは容易く蒸発。ヒヨコはワームへ肉薄し、そのまま嘴をワームの頭部へ突き刺した。

「刺さった」

 あれで目ェ抉られたなぁ......と嫌な記憶が呼び起こされるヒヨコの突っつき攻撃。それがワームの頭部突き刺さるのを見て、何の捻りもない感想を零す。

 ワームは物防に比べて魔防が低いんだろう――と、余りに呆気なくワームに突き刺さったの己の魔法を見て心の平穏を保とうと努力する。これまで通用しなかった事がほぼ無い自信のある物理攻撃が無効化される程の防御力を誇ったワームに簡単に刺さるのは納得いかなかったのだ。

『ギュィィィィィィィィッ!!!』

 熱くて痛かったのだろう。そして最終形態が難なく傷付けられた事にプライドが傷付けられたのだろう。
 怒り心頭な様相のワームはヒヨコを引き剥がす為か潰す為か壁へ己の頭を何度も打ち付ける。何度も、何度も、何度も、何度も......

 だが、物理体では無いヒヨコにダメージは通るはずもなく、リアルに不死鳥とはこういうモノなんだろうという姿を見せつけた。
 叩き付けられ霧散し、即姿形を元に戻すの繰り返し。ワームの頭から出ている出血か体液か知らない液体の量が少しづつ増えている様子なので、突き刺した嘴はそのままにしているのだろう。器用なヤツめ。

「魔法が元からそうなのか、不死鳥の特性なのか......詳しくはさっぱりわかんないけど、俺があの時勝てたのってもしかしなくてもヒヨコが生まれたてだからなんだろうなぁ......」

 不死鳥の特性にゾッとしつつも戦況は進む。置いてけぼり感が否めないが、この戦闘に限っては俺は約立たずなので大人しく見守る。
 次の階層は物理ヨワヨワな敵が出てきてほしいものだ。

『ピィッ!!』

 軽く現実逃避しても変わらず場は進んでいく。
 ヒヨコは一度嘴をワームから離し、距離を取る。このまま脳を破壊するまでつんつくしてればいいのにと思ったのは内緒だ。
 と言うか、俺は追尾性能と悪意と殺意を願ったはずだ。決して意志のようなモノを願ってはいない。にも関わらずヒヨコは自分の意思で戦闘しているように見えるのは気の所為だろうか? 魔法って怖い。

 カウンター主体のワームはこのままだと流石に分が悪いと見たか、先手必勝とばかりにこれまでよりも速い突進でヒヨコに襲い掛かる。突進だけなら俺でも軽々避けられるが、それも想定済みだったのか突進の勢いをそのまま流用した尾の追撃がヒヨコを襲った。

 突進を右にズレて避けたヒヨコはそのままワームに飛び掛かるも尾の一撃を食らってしまう。多分アレは俺でも喰らってしまいジ・エンドだったろう。

『ギィィィィィィィィアァァァァッ!!』

 クリーンヒットしたが気を抜く素振りは見せず、その後もドゴン、ドゴンと何度も尾を叩き付けている。ヒヨコを完全に消火しようとする強い意志を感じる。
 火の粉が舞っている事から、ダメージらしきモノは与えられている気がする。修復も間に合わないようで集まろうとしているのがわかるがその都度霧散しているので難しいようだ。

「流石にアレをもう一度出せる魔力は無い。魔法の効果がいつ切れるかわからない以上はこのまま観戦するのは得策じゃないな......幸い体力は戻ったし場を濁しに行こう......かッ!!」

 静から動へ、滑らかに移行し先程弾かれたナイフの元へ駆け、ナイフを拾いワームの額へ向かい翔んだ。

『ギィッ!?』

 俺の事は完全に意識外だったのか大分焦っているのが見て取れる。コイツ、頭はいいけど所詮モンスターのようだ。マルチタスクというか二つの事に同時に対処出来ないように見えた。
 一体一の戦いに慣れているか、多対一の戦いでも巨大な尾と酸のばら撒きでどうにかしてきた口なんだろう。いくら強くても同格近辺の敵複数との、それもそいつらと命懸けの戦闘経験が無いとは......そんなんわかる訳ないだろ。

「......アハハ、まさかお前にそんな弱点があったとはなぁ」

 時間経過でちょっとだけ回復していた分の魔力を使用し、ナイフに炎を纏わせ――ちょっと下がったテンションのまま頭部の傷跡目掛けて振り下ろした。
 この短い間に炎は脅威と刷り込まれたらしく、全力で後ろに飛び退き回避するワーム。今になって思ったが、あのまま酸をぶっかけられていたら俺は負けていた筈なので命拾いした。これは俺も短慮すぎた。

『ジャァァァァァァァッ』

 飛び退いたワームは未だ空中に居る俺に向けて尾を叩き付けようと移動を開始している。本当に鳥頭だな。助かる。

「ここまでとは......ソロで挑んでなきゃもっと楽に対処出来てたなぁ。まぁいいや、おい虫!! お前ェなんか忘れていないか?」

『ギャッ!?』

 言葉は通じていなくともどんな事を言っているのか察したワームは俺から目を切り、ヒヨコが居た場所へ目を移す。

「格下や単体相手なら余裕だろうけど、深手を負わせられる敵を前にしてこうもアホとは......思考能力あっても所詮は芋虫だなァ!!」

 俺もそうの事は言えない自覚はあるけど、コイツよりはまだマシだろう。

『グルァァァァ......『ピィィィィィィ!!』ア゛ァァァッ』

 こう動けばいいなって思ったその通りの動きをしたヒヨコ。その嘴が油断しきっていたワームの胸部に刺さったのを確認し、何となくイケる気がしたのでヒヨコに命令を下す。

「爆ぜろッ!!」

 ――ピィッ

 意思が本当にあれば反抗されるかと思ったが特に無かったようで軽い返事のようなモノをした後、呆気なく刺さった箇所を起点に爆発してくれた。

 空中で爆発に巻き込まれるも、無意識にコントロール出来たのか襲ってきたのは衝撃波のみで爆風は襲ってこないのは助かった。それに、いくら外殻を固められるといっても、中身まで同じように出来なかったようで無事爆発してくれて一安心。
 ワーム戦はかなりの苦戦を強いられたが結果として超強力な攻撃手段を手に入れられた......まぁ良かったと思おう。

『レベルが8上がりました』

 肉片と体液が散らばる中に体勢を整えて降り立つ。さて、急いで出来るだけ飛び散ったモノを回収しなくては。酸もありそうだから落ち着いて回収......その前に――

「っしゃ!!」

 間欠泉のように吹き出す体液を見据え、ガッツポーズを取る。早く回収しに行かないといけないんだろうけど、かなり苦戦したし少しの間喜ぶくらいは許して欲しい。



 ◆◆◆◆◆



「......めっちゃ潤った。途中で突っ込んだ手が溶けたりとアクシデントもあったけど」

 胸から上の部分は細かい肉片になって飛び散ったが、ヤツが死んだ事で圧縮が解かれて大きさが戻り回収が容易になり助かった。
 結構な量が地面に染み込んで無駄になったが、それが些事と言えるくらい残った部分には血が残っていた。

 〆て600リットルとちょっと。ここ最近のアレコレで失った分が利子付きで戻ってきた......よく覚えてないけど、きっと増えたはず。体積のデカいモンスター最高ッッ!!

 魔石は爆発に巻き込まれて吹き飛んだらしく見当たらなかった。高威力すぎたんだろう......残念。
 血を回収し終えた俺は持ち運べるだけの皮を剥ぎ取り、放り投げた荷物や武器を回収。最後に忘れ物が無いのを確認してから奥へ進み扉を開けた――


『......おや? ヒッヒッヒ、いらっしゃい。遅かったじゃないか』

 若干若返ったように見えるババアが流暢な喋りで俺を迎えた。その後ろにはニコニコと微笑む悪魔さんも居た。
 この時、匠は何とも言えない不思議な気持ちを心に覚えた。



 ─────────────────────────────

 吉持ㅤ匠
 半悪魔
 職業:血狂い

 Lv:20→28

 HP:100%
 MP:14%

 物攻:200
 物防:1
 魔攻:110
 魔防:1
 敏捷:170
 幸運:10

 残SP:0→16

 魔法適性:炎

 スキル:
 ステータスチェック
 血液貯蓄ㅤ残611.7L
 不死血鳥
 部分魔化
 血流操作
 簡易鑑定
 状態異常耐性Lv8
 拳闘Lv8
 鈍器(統)Lv5
 上級棒術Lv2
 小剣術Lv7
 空間把握Lv10
 投擲Lv8
 歩法Lv7
 強呪耐性
 病気耐性Lv4
 解体・解剖
 回避Lv9
 溶解耐性Lv6
 洗濯Lv1
 ■■■■■■

 装備:
 魔鉄の金砕棒
 悪魔骨のヌンチャク
 肉食ナイフ
 貫通寸鉄
 夢魔蚕の服一式
 火山鼠革ローブ
 再生獣革のブーツ
 聖銀の手甲
 魔鉱のブレスレット
 剛腕鬼の金棒
 圧縮鋼の短槍
 迷宮鋼の棘針×2
 魔法袋・小
 ババアの加護ㅤ残高220

─────────────────────────────
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