血塗れダンジョン攻略

変わる世界

『原初ノ迷宮完成後、１６８時間経過シマしタノで世界融合ヲ再開致シまス.....２４時間程デ完成致しマスノデ、完成マデオ待チ下サイ』

　この日、地球上に住む全ての生き物に謎の声によるアナウンスが鳴り響いた。

　突然のアナウンスに驚き戸惑う人間に追い討ちを掛けるようにこう続いた。

『人類ニハ、スキルヲ、ソノ他ノ生物ニは、スキルト進化のチカラヲ与エマス。獲得ハ融合完了ト同時ニランダムで配布サレマス』

　人間の反応は様々であり、このアナウンスを聞いて沸き立つ者、絶望する者、冗談だと思い込んで聞き流す者、今後について頭を悩ませる者など......

　野生動物は急に頭の中へ響いたアナウンスでパニックになり、世界中で動物の異常行動が確認された。

　ペットや家畜などは野生動物程では無いがプチパニックになり、怪我をした飼い主などがかなりの数居たという。

　そして、それだけでも大混乱な生き物達にトドメを刺すアナウンスが響き渡る。

『最後ニ、ダンジョンニ挑マナクテモ生活ハ変ワラなイナンテ甘く考エテイソウナ愚カ者共に告ゲル。
　元ノ生活ヲ取リ戻シタイと願ウナラダンジョンニ挑め。２４時間後ニハ世界ハ変貌すル。ドコニイヨウガ安全圏トハ思わヌコトダ』

　最初のアナウンスからガラリと雰囲気を変えた口調で話しを続けた謎の声。
　だが人間は急に意識は変えられない。実際に事が起こらないと必死にならないのだ。


　アナウンスを聞き本気で今後に備える者は極小数。

　殆どの者が戸惑いながらもいつも通りに過ごし、少しだけアナウンスに影響された行動を取った。

　政府や政府関係者は半信半疑のまま、よくわからないアナウンスやダンジョンへの対策について会議を始める。未知の事柄なので大した案は出ず、無駄に時間を浪費。

　報道関係者は面白半分でこの一大ニュースに飛び付き、ニュースでは知識人ぶった大人が好き放題言い、緊急特番を組んだり......と、ある意味一番イキイキとしていたり。

　学生や労働者は不安を抱えながらも通学通勤し、職場や学校でこの事について話すだけに留まり、主婦や主夫は半信半疑ながら万が一に備え、この日の買い物で非常食や生活必需品を購入したり。

　過激な思考を持つ者はこの混乱に乗じ、即座にテロ行為を行い更なる混乱を齎した。
　後がない逃亡犯や、生活弱者などはどうせ世界が変わるなら......と藁にもすがる思いで犯罪行為に走った。

　そして......定番といえば定番だが、ネットの掲示板などは、それはそれはもう、途轍もない盛り上がりをみせていた。
　便所の落書きのように妄想を垂れ流す物から真剣に考察する物、それからスキルを得た後に報告する、パーティを組むなどの今後の為の物まで......何度もサーバーが落ちたりとお祭り騒ぎだった。

　その他にもペットの大混乱で怪我をさせられ、恐怖を感じた飼い主がペットを捨てたり痛めつけたり、家畜を処分したり逃がしたりと世界中で様々な事が起きた。



　――こうして各自思い思いの方法で猶予期間である２４時間を大した準備などもせずに過ごし......世界の変革の時を迎えた


　始まりはとても静かな物だった。

『コレニテ世界融合ガ終了シまス』

　ある者は喜びの感情を爆発させ

　ある者は今後を嘆き

　ある者は静かにその時を待ち

　ある者は口元を醜く歪ませた

　十人十色、各々が異なるリアクションをとる中で、終わったと思っていたアナウンスにはまだ続きがあり、無慈悲にも告げられたその内容により、人類が抱いていた歪んだ希望は消え失せ、一気に絶望が加速する事となった。

『ダンジョンノ発現ニヨリ、暫く大キナ揺レガ続キマス。続イテ、発現シタダンジョンニツイテの説明を行イマス』

　そのアナウンスから間髪を入れずに起きる地震。
　ダンジョン内に居る吉持も融合時の揺れを体験しているが、狭く閉鎖されたダンジョンの中でも起こったソレは、状態異常耐性をお詫びとして与えられる程に激しい揺れが続く程のモノである。

　世界中で同時に出現するとなれば、それ相応に規模が大きくなる。

　世界中で高層ビルを筆頭に建物の倒壊が相次ぎ、土砂災害も規模の大小を問わずに多数起こる。
　道路や地面は割れ、陥没し、交通機関は一部を残してほぼ全てが使用不可になった。

　それだけでは終わらず、激しい揺れの中で必死に耐えている人類の耳へ、追い打ちとなるアナウンスが......

『各国ノ主要ナ施設、発電所、電波塔、ダム、エネルギー資源採掘場、観光名所、人工衛星ナドハ、大型ダンジョンニ変化サセテあル。取リ戻シタクバ抗え......』

　ライフラインを人質にとったダンジョン攻略への強要、どっかの命知らずが勝手にやってくれるだろうと思っていた者はここで思惑を打ち砕かれる事となる。
　この宣告の後、十分程掛かって世界の変革による揺れは収まった。

　この揺れ、災害での被害は、世界中どこを見渡しても誰一人亡くならなかった。
　これはダンジョンに挑ませる人を一人でも多く残す為に、事態を引き起こした存在によるサービスであった。
　だが、変革以前から生きる希望を見い出せない者、ダンジョンに挑む程の気力の無い者にとっては、この災害で死んでいた方が幸せだったかもしれない。

　そして、皆が呆然とする中、最後のアナウンスが告げられる。

『全テノ生物ハ、三回ダケステータスト念ジレばステータスヲ確認デキるヨウニシテオイタ、ソノ後ノ確認ハダンジョンで入手デキル“ステータス確認専用アイテム”ヲ使っテ行ウヨウニ。
　ソレト、永続的ニ誰デモ自由ニステータスヲ確認デキル神像を、ダンジョンノ入口ニ設置シタ。
　コノ神像ノ所有権ハ我ニアル。故ニ、占有シテ儲けヨウナドト企ム愚者が現レタ場合ニハ一切の容赦ヲシナイ。コノ事、決シテ忘レル事ナカレ』


　悲鳴と怒号が飛び交う中、変貌した世界は動き出した......