血塗れダンジョン攻略

甘党羊

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胎動

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 あはははははははははははははっ!!
 そうか、そうか......そうですかァッ!!


 普通に生きていようが、死にかけていようが、こんな生まれたてのヒヨコにすら敵意を抱かれてしまうような人生なんですか......

 もういいよ。わかった。どうせ自分はもう間もなく死ぬ。

 死ぬという結果は、どう足掻いても変わらない。だったら......生まれて初めて、せめて人生の最期に一度だけ、理不尽に自分を嫌う存在に抗ってから死んでやるよ!

 この赤いヒヨコには、せめて自分より先に死んでもらいたいっ!!


 自身にとっては運が良く、相手にとっては不幸なポジショニング。
 赤いヒヨコは不幸にも、死にかけの自分が唯一動かせる顔の上に居て、その中でも唯一ダメージを与える事のできる口の真上に居たのが運の尽きだった。


 口を目一杯広げ、口内にヒヨコが入ったのを確認したら閉じる。

 たったそれだけの行動で、ヒヨコは死にかけの人間をただただ貪るだけの捕食者から、被食者へと立場が一変した。


 これまでずっと虐げられてきた憎しみ、理不尽に対する恨み、この世に対する怨み、自分よりも立場が弱い者を作って虐げるクズ共、それを眺めて自身がそうならなかった事に安堵しているゴミ共、底辺のことなど気にも止めずに幸せそうにしている一般人への怒りを、怨嗟全てを、噛むという行為に注ぎ込む。

ㅤ口の中からヒヨコの悲鳴が聞こえるが、それを無視してヒヨコを噛み続ける。

 口を真一文字に結びながら、逃げ場のないヒヨコを咀嚼していく。

 前歯や犬歯が肉の繊維をブチブチと千切る感触、まだ固くなりきってない細い骨を、奥歯で噛み砕き磨り潰す。

 ヒヨコの生暖かい血が、ビクビク動く筋肉や繊維が、そして口内に残る羽毛の感触......全てが気持ち悪いが、そんな事は気にするだけ無駄だと無視をして、口の中で未だに生命活動を停止させていないヒヨコを咀嚼していく。




 ......あれからどれくらい時間が経ったのかわからない。
 自分の身体から力が抜けていく......中々死なないヒヨコだったけど、自分が力尽きる前にようやく抵抗が無くなった。

 不気味なヒヨコもいたモンだね......でもいい、気持ちよかった。初めてした生物への反抗。理不尽に対して抗うのはとても気持ちが良かった。

 生きている間にずっと我慢をしてきた行動を、死の間際になってようやくした自分......こんな気持ちになるのなら、これまでの事にキチンと刃向かっておけばよかった。


 ――最期にいい気分にさせてくれてありがとう。

 感謝の気持ちを込めて、既に動かなくなっている口内に残るヒヨコの残骸を飲み込んだ。


 ふふふっ......。生き物の生命を......いや、生きようと必死な生物から生命を奪い、食す。
 先程までは気持ち悪さしか感じていなかったのに、今ではとても美味しく感じる。不思議だ......
 それにしても清々しい気持ちだ。身体が熱い......まるで自分がだ。
ㅤ最後の食事が美味しくてよかった。


 ......あぁ......今とてもいい気分なのに......眠くなってきちゃった......せっかく人生楽しくなりそうだったのに......死にたくないなぁ......

 せめて......せめて来世は、今より少しでもマシな生を............



『――のレベルが上がりしました』

『スキル―液――の効果により、不――......――吸......』

『――――......――......』


 なにか......聞こえ

ㅤㅤㅤㅤる気がする

ㅤㅤけど......もう何も......



 ◆◆◆◆◆



 ......目が開く。意識を失う前に見た洞窟の天井が目に映った。何をどうなったのか分からないけど、何故か自分は生き永らえてしまったらしい。
 最低でも半身不随だろうに、このままここで餓死するのを待てと言うのか......ッッ!!

 怒りもあり、訳も分からず周囲を見渡すが、自分以外に生物はいないらしい。口の中に残る血の味は......今はとても不快に感じる。

 ......何でまだ生きているのか?いや、生きていのはまだいい......


 何で自分はようになっているのか?

 傷は......何故消え去り、五体満足になっている?  

ㅤ大怪我をしていた事が嘘のように、今の自分はピンピンしている......


 一瞬、その事を喜んでしまった。

 しかし、自分には分不相応な喜びの感情はすぐに霧散する。


 超常的な存在はまだ......自分にこの地獄のような世界で、この嫌われる存在のままで生きろと言うのか?  

ㅤ考えた途端に絶望が押し寄せてくる。

 何故......ここまで自分に苦行を強いてくるのか。こんなのを黙認しているのなら、神なんてモノはいない。きっと神を僭称する悪魔だろう。


「は、ははっ......あっははははははははははっ!!!!




ㅤふざけんなっ!!  なんで死んでない!!   なんで生きていられる!!  死にたくないとは確かに思った!!  けど、この誰からも嫌われる体質のままは嫌なんだよ......!! 
ㅤあぁそうか......そうだよな。死んでなかったのなら、今度こそ死ねばいいんだ」


 起きてすぐ周りを見渡した時に見つけた岩へと向かって歩いていく。そこには先の尖った氷筍のような岩が数本生えている。

 寝起きでダルい体に鞭を打ち、フラフラとしながらだが、しっかりと尖った岩へ標準を合わせて歩いていく。


「一日に三度も死ぬような思いをしたヤツなんて......世界中見渡してもたった一人、自分だけだろう。神なんてモノは存在している筈がない......だけどもし、もしもそんなモノが存在しているのなら、ソイツに自分の......この辛かった生の思い出が届いてくれたら嬉しい......神と崇められるようなヤツを恨みながら死んでいった人達の思いと一緒に届いてほしいな......」


 一番大きい岩に辿り着き、思いっきり振りかぶった頭を岩に叩きつける。そこで彼の意識は途絶えた......


ㅤ尖った岩は彼の頭部を半分程貫き、生命活動を止める。力の抜けた身体は重力に従って倒れていき、その流れで首の骨をへし折った。

ㅤ首の骨による支えを失った頭部は岩から抜け、頭部の損壊した彼の身体は地面に倒れ伏す。


ㅤグジュ......グジュ......


ㅤ地面に倒れ伏して数秒後、死体になったはずの彼の身体が不気味な音が発しだした。

 これが、今後この世界で『血塗ろ不死者』と呼ばれ、人々に恐れられる怪物......その卵が胎動した瞬間であった。
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