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第58話 対決 4(1)

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 それからも、ひたすら相手の陣地にボールを投げ合うゲームをやったり、ストラックアウトがまったく当たらなかったり、柔らかいボールでテニスをしたり、戸和さんがやりたがっていたアーチェリーをやったりと熱戦を繰り広げた。
 すずちさチームは1位が0回、アヤナツチームは3位が0回と、一方的な状況になっている。
「私、もうちょっと動けると思ったんだけどなぁ」
 涼夏が疲れた顔で無念そうに首を振った。実際、涼夏は帰宅部の中では一番運動量が多いし、運動神経も悪くない。周りにコイツはダメだろうと思わせて、実は結構すごいというギャップを狙っていたようだが、やっぱりダメだったというのが現実だ。
 それは私も同じで、元運動部の矜持があったが、元々真面目にやっていたわけではなかったし、辞めてからもう3年も経っている。奈都との間についてしまった差は一生縮まりそうにない。
 そろそろいい時間になってきたので、最後に何かもう1ゲームと言うと、戸和さんがバドミントンをやりたがった。今日一日を通して、戸和さんがやるスポーツを決定することが多い。他のメンバーが何でもいいからというのはあるが、Prime Yellowsの中では控えめなのに意外である。
「いいけど、うちにはプロがいるよ?」
 絢音がまるで自分のことのようにそう言うと、豊山さんがおどけるように肩をすくめた。
「どうせもう順位は確定してるし、波香がやりたいのでいいよ。その代わり、2対3ね。退屈だから」
 随分なハンデだが、実際これまで2対2にするために、チームの内の2人が他の人より遊んでいない。本人たちは気にしていないようだが、同じ料金を払ったのに不公平である。
 うちは随分と不利だが、どうせ順位は確定しているし、負けてもいいだろう。気楽にそう考えていたら、涼夏がブンブンとラケットを振りながら、子供のような瞳で言った。
「最後は100点だから頑張るぞ!」
「いや、初耳だし」
 奈都が冷静に突っ込んだが、プライエチームも「逆転の目が出てきた」と喜んでいる。奈都が「まあいいけど」と言いながら、やれやれと首を振った。驕っているので本気で負かそう。
 一応、1位のチームが一番有利になるように、初戦が1位対3位、2戦目が2位対3位、最後に1位対2位ですることになった。連戦になった上、逆転するには少なくともプライエチームには勝たなくてはいけない。
「2位を狙うなら、アヤナツ戦で全力を出すべきじゃないね」
 あくまでルール上そうなっていると話すと、涼夏が「無気力試合だな」と笑った。もちろん、遊びに来てそんなことするはずがない。
 奈都とバドミントンをするのは、1年ぶりくらいだろうか。確か去年、公園で遊んだ気がする。
「十分研究させてもらおう」
 牧島さんが凝視するように目を見開いた。体力を考慮した順番にしたが、情報量では2位のチームが有利かもしれない。
「多けりゃいいってもんじゃないから大丈夫でしょ」
 奈都が気楽にそう言いながら、鋭いサーブを打った。涼夏が辛うじてラケットに当てたが、ネットに当たって相手の点になった。
「やっぱり経験者は違うぞ?」
「そっちにも経験者いるでしょ」
「幽霊部員だったから」
 そんなことはないのだが、絢音のサーブを返しながらそう応じる。奈都のシャトルを涼夏がどうにか食らいついたが、その後奈都にポテンと落とされてまた取られてしまった。
「おお。経験者は動きが違う」
 コート外から感嘆の声が漏れる。私も一応経験者だが、試合に出ていた子との動きの違いは歴然だ。
 10点先取のルールで、8対2から8対5までは追い上げたが、反撃はそこで止まってしまった。さらに、すぐにプライエチームが反対側のコートに入って次の試合を始める。
「無理だー」
 涼夏の嘆きが響き渡るが、戸和さんの打ったシャトルが容赦なく飛んできて、私がなんとか返した。さらに豊山さんが返してきたのも打ち返して1点先取する。
「やばい。野阪さん、経験者みたいな動きだ!」
 牧島さんが大袈裟に声を上げると、奈都が「だからずっとそう言ってる」と呆れたように言った。
 一瞬逆境を乗り越えられそうな空気になったが、疲れ切った涼夏のサーブが入らず、その後も集中的に狙われて負けてしまった。
 コートを出たところでバタリと倒れた涼夏の汗を拭きながら、次の試合を観戦する。プライエチームの作戦は同じで、絢音を集中攻撃するようだが、開始早々、豊山さんのスマッシュを絢音が上手くレシーブし、上がったシャトルを奈都が相手コートに叩き込んで先制点を挙げた。
「やるなぁ」
 豊山さんが真顔で唸る。ドッカリと胡座をかいて座っている涼夏が、「今のいいの?」と聞いてきたので、普通にダメだと答えておいた。ダブルスだろうと、ラリーは1回で返さなくてはならない。
 結局試合は6対10でアヤナツチームが勝ったが、その内の3点を最初の反則プレイで取っていた。もしかして、本当にルールを知らないのかと不安になったが、もちろんそんなことはなかった。
「いやー、清々しいまでに卑怯だった」
 戻ってきた牧島さんが開口一番そう言って、絢音がくすっと笑った。
「誰も何も言わないから、1位のチームには認められたプレイなのかと思ったよ」
「新しいバドミントンだった」
 奈都が満足げに頷く。どのみち真剣にプレイしていてもアヤナツチームが勝っていたのは明白なので、少し遊びに走ったようだ。
 結局、最後のゲームは100点にしたが、順位は変わらず、私たちがアヤナツチームに奢ることになった。あまりにも予想通りすぎる結果だが、意外なことなどそうそう起きないものだ。
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